第515話 新たな強化
とりあえずなんかちょっとズルい勝ち方をした気もするけど、勝利は勝利である! Lv21のワニのフィールドボス、討ち取ったり!
「おわ!? すっげぇ量経験値が入ってきた!?」
「マジだ!? 『灰の暴走種』に増援を頼んだって言ってたけど、ぶっ倒したんだな!」
「ちょ!? 本人達に聞こえてるんだから、その言い方はまずいって!」
「……あっ」
何やら声が聞こえてきたけど、これって殺られて初期エリアに戻ってた人達のPT会話か。ふーん、灰の暴走種ってどういう事なんだろうね……?
「エルクさん、『灰の暴走種』ってどういう事だ?」
「……やっぱり聞こえてたよな……?」
「そりゃまぁな?」
「ですよねー! だから共同体のチャットで連絡してたのに、なんで口に出した!」
「すまん、エルク!」
「すまんで済むか!」
えーと、思いっきりそのPT会話も俺らに筒抜けなんだけど、その辺は良いのか? っていうか、あんまり考えたくはないけど、青の群集で俺らがどう呼ばれているのかがなんとなく分かった……。
「とりあえず事情を聞いてもいいかな?」
「あ、はい」
「もうなんとなく想像は出来てるんだけど、『灰の暴走種』ってどういう事なのかな?」
「……えーと、なんと言いますか……はい、青の群集での皆さんの呼び名です……。なんかすんません……」
「……だってさ、ケイ」
「やっぱりか……。ちなみに言い出したのは、誰か分かる?」
「……えっと、誰だっけ?」
若干、サヤに威圧されて口調が変わりながらも説明してくれたエルクさんではあるが、誰が言い出したのかは知らないみたいだな。……それにしても、やっぱり『灰の暴走種』って俺らの呼び名か。くっそ、それに比べたら『ビックリ情報箱』の方がマシに思えてくる。
「ホホウ、それはジェイさんと斬雨さんの2人の雑談中に生まれた呼び名ですな」
「あ、スリムさんだー!」
急に聞こえてきた覚えのある独特な喋り方の声のする方を向いてみると、近くにあった木に止まっているフクロウの濡れたらスリム……通称、スリムさんの姿がある。そして、『灰の暴走種』の呼び名の発生元について教えてくれた。
「あの2人が元凶かい!」
「……ある意味では納得かな」
「……うん、確かにね」
「納得です!」
「まぁ、あの2人とは盛大に戦ってるしな」
「……だよなー。で、スリムさんはいつの間に?」
「ホホウ、ちょうど今来たところなので。増援に呼ばれて移動の最中に急に不要となったものの、どうなったのかは気になるものでして」
どうやらスリムさんは元々あのワニを倒す為の増援に呼ばれて来たみたいだね。それにしてもジェイさんめ、青の群集で俺らにそんな呼び名を付けるとは……。
「……スリムさん、参考までに聞きたいことがあるんだけど聞いていい?」
「ホホウ、それは内容によりますな。ですが、答えられる範囲でよろしければ構いませんので」
「それじゃ遠慮なく。……ベスタは何て呼ばれてる?」
「ホホウ、ベスタさんの呼び名ですか。それは教えても問題ないですな。青の群集では『灰のボス』と呼ばれておりますよ」
「ベスタは『灰のボス』か……」
やっぱりベスタにも呼ばれ方はあったけど、『灰のボス』ってある意味そのままだな! 俺らにとっても灰の群集のリーダーだし、間違った印象でないのは確実である。
ん? ハーレさんがアルの木の巣から降りていって、スリムさんの止まっている木に登っていってるね。何をする気なんだろう?
「ねぇねぇ、スリムさん! 青の群集って、呼び名をつけるのが流行ってるの!?」
「ホホウ、そうですね。ある意味では流行ってはいるのでしょうか?」
「そうなんだー!? それじゃ赤の群集とかはどうなってるかとか聞いてもいいー!?」
「ホホウ、そうですな。少しくらいなら構いませんか。赤のサファリ同盟の弥生さんであれば『赤の狂猫』ですし、シュウさんは『猫の主』ですな。ただ、この辺りは昨日の一件で廃止しようと検討中ですぞ」
「あ、確かにそれはその方がいいかもね!」
うん、思いっきり普通に雑談し始めたよ。……ま、少しくらいなら別に良いか。どうやら俺らの連結中のPTで殺られてた人達が戻ってきたみたいだしね。先頭にいるのは移動種の松の木の人みたいだね。その後に続いてオオカミと、カンガルーと、ダチョウと、サルか。あ、この人達もエルクさん達と同じ共同体『ブルークリスタル』のメンバーなんだね。
物理の近接が先に殺られて全滅の危機だったんだから、この人達は全員近接系って事か。ふむ、木の近接系はルストさん以外には初めて見たかもしれない。
「おう、救援してくれて助かったぜ! 『灰の暴走種』……じゃなくて『ビックリ情報箱』!」
「あ、ちょっと待った、新月。そっちの呼び名も好きじゃないらしい」
「え、そうなのか、エルク? えーと、それじゃ……あ、共同体になってんのか。……『グリーズ・リベルテ』か。ありがとな、『グリーズ・リベルテ』の人達!」
「どういたしまして。ま、俺らも経験値を大量に貰ったからな」
「ははっ! 確かにさっきの量はとんでもねぇわな! 倒す寸前にこのエリアまで戻ってこれて良かったぜ」
松の木の人……新月さんがお礼を言ってくれたけど、まぁ俺らにも相当な得はあったしね。HPが半分も減っている状態から、ほぼハメ殺しで大量の経験値を獲得出来たんだからな。
そういや死んでPTが散らばった状態での経験値の入手判定ってどうなってんだっけ? 同じPT内ならある程度の距離までは普通に経験値は入るのは知ってるけど、こういう壊滅状態の時にどうなるのかは知らない気がする。……聞いてる感じでは戦闘で死んだ後でも同じエリアまで戻ってくれば経験値は手に入るっぽい? うん、この辺は知ってるふりをしておいて後で確認しとこ。
「ホホウ、それでは『ブルークリスタル』の皆さん、一度戻ります。ジェイさんが色々と確認したいとの事ですので」
「おう、分かった! それじゃまた何か機会があればよろしくな!」
「ほいよ、エルクさん。また機会があればな!」
いつの間にやらスリムさんはジェイさんと連絡を取っていたようで、一度引き上げるようである。まぁフィールドボスの検証中に色々とミスった様子でもあるし、その辺の情報も含めて検証していくってところかな?
<エルク様のPTとの連結を解除しました>
<新月様のPTとの連結を解除しました>
PTの連結も解除して挨拶も済ませ、青の群集の面々は陸路で青の群集の森林深部へと戻っていった。帰還の実を使わずに帰っているのは、戻る道中でも探索をする為かな? さっきここまで来てたルートとはちょっと違う方向に向かってるしね。
「さてと、俺らは俺らで探索を再開していきますか!」
「あ、ケイ。ちょっとそれは待ってかな」
「……えー?」
気合を入れ直して探索を再開しようとしたら、サヤから思いっきりストップをかけられてしまった。……何か問題でもあったのか?
「サヤ、どうしたのー!?」
「お、サヤはLv16になってんな?」
「あ、ホントだね。えっと、サヤ以外はみんなLv15?」
「そう言われるとサヤだけLv16か」
「うん、ぎりぎりLv16に届いたってとこかな」
ふむふむ、確かにさっきのボス戦で思った以上の大量の経験値で俺もLv16までの必要な経験値は6割くらいは溜まっている。ちょっとした時間のズレの際での戦闘の差で少しは経験値のズレはあるので、サヤが一番経験値を稼いでいたという事か。
「それでサヤ、ストップかけた理由は……?」
「あー!? もしかしてLv16で、共生進化の強化スキルが出たのー!?」
「うん、ハーレ、それが正解かな」
「そういえば、そんなのもあるって話はあったね」
「あー、そういや前にルストさんがLv16で単独進化向けの『孤高強化Ⅰ』とか手に入れたって言ってたな。それにケイも支配進化が強化されて『同調』になったもんな」
「……そういやそうだった」
うん、それぞれの進化先に固有の強化スキルがあるという話だけは聞いていたっけ。自分達で確認するつもりでいたから内容は確認してなかったけど、サヤがそのスキルを手に入れる段階に到達したんだな。
そりゃ重要な情報だし、ストップもかけるよね。俺以外はみんな共生進化なんだから、共生進化の強化スキルの内容はかなり重要である。
「サヤ、それでどんなスキルなの?」
「えっとね、称号『共生を続けるモノ』とスキル『簡略指示』ってなってるかな」
「……『簡略指示』ってどういうこった?」
「えっと、キャラのLvの半分までのスキル数を上限に、事前にスキルを登録しておくと、普通のスキル発動と同じ感覚で共生相手のスキルを発動出来る様になるみたいかな?」
「それって、俺の『同調共有』の数量制限版じゃね!?」
「うん、そうみたいかな」
おー、マジでか!? 共生進化で共生指示の枠数は3個で使い勝手は微妙な気はしてたけど、ここで大幅に強化が入るんだな!
あ、でもキャラのLvの半分までが登録上限数ならなんでも自由に使えるって程ではないか。うん、そういう面では圧倒的に支配進化の同調の方が自由度は高いな。
「サヤ、ちょっと質問だ」
「アル、なにかな?」
「上限使用型のスキルの扱いはどうなってる?」
「えっと……うん、普通にスキルを使う際と同じ扱いになるみたい」
「……って事は、木の方からクジラの小型化を『簡略指示』で使おうと思えば、木の行動値を使う事になる訳か」
「あ、そういう事になるのかな?」
「それなら今まで通り上限発動指示から呼び出した方が得な気がします!」
「そうだね。その方が時間制限はあっても行動値の余裕は出るから、使い分けた方がいいかも?」
「あー、スキルによっては使い分けた方が良いのか」
これは俺の支配進化とはまた別の使い方が出来そうではあるね。これまで使っていた共生指示で呼び出す半自動制御のLvは上がりにくいみたいで枠数は増やしにくいみたいだし、これで呼び出せる登録枠数は大幅に増えるんだな。『簡略指示』が手に入るLv16の時点なら登録枠数は8枠となり、それだけの数のスキルを共生指示とは別に使えるようになる訳だ。
俺が気になるのは魔法の登録仕様か。俺の同調共有なら魔法は登録してしまえばどのLvの魔法も発動は可能である。でも半自動制御を共生指示で呼び出す場合はどのLvの魔法かも限定されていた。どっちの仕様になっているかで魔法の自由度の幅がかなり変わるぞ。
「サヤ、魔法の登録ってどうなってる?」
「お、確かにそれは気になるな。どのLvの魔法も使えるようになるなら戦術の幅が広がるぞ」
「確かにそだねー!」
「うん、それは同感。……でも魔力値の消費はどうなるんだろ?」
「えっと、クマだけだとちょっと分からないかな? 一度竜に切り替えて、実際に使ってみるね」
「ほいよ」
そうしてサヤがクマから竜に切り替える為にログアウトをしていった。この辺の仕様はアルの言ったように今後の戦い方に大きく影響するからな。サヤのクマから竜の電気魔法や風魔法が自由に選択して発動出来るなら、かなりの戦力アップである。
まぁその辺の仕様はどのプレイヤーも一緒だから警戒する必要も増えるって事でもあるけどね。お、サヤが竜でログインし直してきた。
「またすぐに切り替えるけど、一旦ただいまかな」
「サヤ、おかえりー!」
「まずは魔法の登録だね」
「とりあえず風魔法と電気魔法と土魔法を登録してみるね。……うん、個別のLvでの登録は出来ないから、これは多分魔法の登録で全部のLvの発動はいけそうかな?」
「お、そりゃ朗報だ」
「サヤ、次は試し撃ちだな」
「うん、そのつもりかな。また切り替えてくるね」
そしてサヤはクマに戻す為に再びログアウトをしていった。俺の『同調共有』での登録でもそうだけど、この事前の登録が地味に面倒なんだよな。まぁ頻繁にやる事でもないし、便利にはなるから文句を言うほどでもないけどね。
「またただいまかな。早速試してみていい?」
「もちろんさー!」
「ま、俺らも気になる内容だしな」
「ケイさん以外は、みんな取得する事になるもんね」
「……俺だけ仲間外れか」
「今更分かりきってる事で落ち込むなよ。それにケイ、成熟体からは俺も支配進化だから心配すんな」
「……それもそうか」
今は俺だけが支配進化を選んで1人だけ違う状態になってるけど、いつまでもそれが続く訳じゃないんだ。アルは次の成熟体で支配進化の予定だし、ヨッシさんは合成進化の予定だもんな。
今だけなんだから、違いは気にしないでおこう。っていうか、本格的に落ち込むなら違う進化を選ぶなって話だしね。ここで落ち込むのは筋違いだし、自分勝手過ぎるよな。
「ケイも復活したし、試しにやってみるね。『簡略指示:エレクトロボール』! あ、省略コマンドもあるんだ。『略:エレクトロプリズン』! 『略:アースバレット』! 『略:ウィンドボール』!」
お、狙いはそんなに良くはないけども、サヤが魔法を連発してる! それに物理特化のサヤのクマが発動した魔法にしては威力が高めだし、竜の方のステータスが参照されてるっぽいな。ふむ、これは共生進化の大幅な強化になりそうだ。
そして『簡略指示』で発動する場合は『簡略指示』か『略』の発声が必要なのか。ふむ、この辺が支配進化よりは融通が効かない要素の1つみたいだね。
「おー!? 色々と発動出来てるねー!」
「みたいだね。サヤ、魔力値の消費はどう?」
「……それはちょっと悪い情報かな。使ってるのはクマの魔力値だから、消費が厳しいね」
「……なるほどな。威力は今のを見た感じ、スキルを持ってる方のステータスが元になるっぽいけど、使う魔力値は操作中のキャラからになる分だけ消費が厳しいのか」
「あー、そこにデメリットを設定してきたか……」
でも、流石にそのデメリットは仕方ないか。共生指示が消える訳じゃないようだし、威力が欲しくて魔力値の消費を抑えたいならそっちでもいいんだしね。要は状況に応じて使い分けていけば良いだけだ。
「魔力値の消費にさえ気をつければ、これは便利そうかな。それに魔法だけじゃなくて、タツノオトシゴの時の名残りのスキルも活用出来るかも」
「あー、タツノオトシゴの尾で攻撃するのもあったもんな。その辺も使っていくのか?」
「一応色々試してみてからにはなるけど、それも可能性としてはありそうかな」
「ま、色々実験あるのみか」
サヤは前にタツノオトシゴを鞭代わりみたいにしてたりもしたから、そういう使い方も復活する可能性も出てきたね。うん、これは応用の仕方が楽しみになってきた。
「よし、それじゃアルと、ヨッシさんと、ハーレさんもLv16を目指して頑張るか!」
「「「「おー!」」」」
アルはクジラから木の魔法を使うとか、ヨッシさんは殆ど使われていないウニの攻撃を使ったりとか、ハーレさんは取得を目指す事に決めた風の昇華とか、そういう面を考えてみると非常に有用な共生進化の強化内容である。
さて、俺自身には影響はないけどもPTとしての地力を上げるチャンスだ。まずはみんなLv16に到達して、『簡略指示』の取得を目指していこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます