第507話 新たな昇華魔法 前編


 ザリガニとハチを素体に使ったフィールドボスへの進化が進んでいき、覆っていた瘴気の膜が薄れていく。……基本的に普通のザリガニっぽいけど、少し異質なものが混ざったシルエットが薄っすら見えているね。


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『平原の強者を生み出すモノ』を取得しました>

<スキル『風属性強化Ⅰ』を取得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『平原の強者を生み出すモノ』を取得しました>

<スキル『風属性強化Ⅰ』を取得しました>


 お、平原で手に入るのは風属性なのか。うーん、俺としてはあまり使わないので微妙ではあるけど、ハーレさんはそれなりに使ってるし、サヤも速度が欲しい時に使っているからありではあるね。

 さて、こうなってくると火属性や雷属性がどこで手に入るのかが気になってくる。風属性はてっきり草原かと思ったんだけど、草原はもしかして雷属性か……? 火属性は……海底火山はあるみたいだし、普通の火山もどこかにありそう。


「さーて、ボス戦の開始だよー! ケイさんとヨッシさんは新しい昇華魔法を試したいんだよね?」

「あ、うん。そうなるな」

「ん、了解。それじゃ他のみんなは牽制と足止め中心でいくよー! ダイクは防御をお願いね」

「おう、了解だ!」

「ケイ、ヨッシ、試せるだけ試してかな! 魔力値の回復の時間は稼ぐからね」

「レモンも余り気味だから、盛大に使えばいいのさー!」


 今日の夕方はレナさんとダイクさんがフィールドボスの討伐を、俺らは新たな昇華魔法の試し撃ちが目的だもんな。それにハーレさんの言うように、レモンは大量というほどではないけど余り気味なのは間違いない。

 時間もそれ程ない中で何種類か試す必要があるならば使ってしまっても問題ないだろう。それに昇華魔法は消費する魔力値は少なくても威力や規模は落ちる代わりに発動そのものは出来るしね。


 おっと、そうしている内にザリガニメインのフィールドボスの姿が明確に見えてきた。へぇ、ザリガニの背中にハチの羽根が生えて、尻尾部分から鋭い針が見えてるね。これは結構なモンスター的な姿になったもんだ。

 大きさ的には一回り大きくなったくらいか? まぁ現実のザリガニに近いサイズだからそれでも小型ではあるけどね。


「レナさん、昇華魔法だと行動値はあんまり使わないから俺の方で識別するぞ」

「あ、そういやそっか。うん、それじゃ識別はケイさんに任せるね。わたしは撹乱しに行くよ! 『自己強化』!」

「ハーレ、援護をお願いかな。『自己強化』!」

「了解です! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『連投擲・風』!」


 物理メインの3人は、ザリガニの撹乱に向けて行動を開始していく。それじゃ、俺らは俺らでやるべき事をやっていこうか。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 63/70


 さてと、このザリガニはどんな識別内容になってるかな? まぁ黒い王冠マークがついているので、フィールドボスになっているのは確定だね。


『飛翔斬ザリガニ』Lv12

 種族:黒の瘴気強化種(豪傑飛斬合成種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:毒

 特性:豪傑、飛翔、斬撃、刺突、合成


 お、予想通り完全物理型だ。ザリガニに合成されたハチ要素は特性の飛翔と刺突、属性の毒だね。これは迂闊に近付けば物理攻撃と同時に毒も受けそうである。


「豪傑飛斬合成種で、属性は毒、特性は豪傑、飛翔、斬撃、刺突、合成だ!」

「毒ありの物理型だな。レナさん、サヤさん、毒に気を付けろよ!」

「ダイクに言われなくても分かってるさー! 『纏属進化・纏癒』!」

「ケイさんに狙いが行ったよー!」

「行かせないかな! 『アースクリエイト』『操作属性付与』『強斬爪撃』!」


 淡い光の膜に覆われていき、レナさんが纏属進化を始めていく。そしてサヤが俺の方に向かってきた空飛ぶザリガニのハサミに向かって、土属性を付与した事で表面が石に覆われた巨大な爪で弾いていく。あ、表面に毒がついたみたいだけど、サヤが爪を振り払えば毒は飛び散っていた。……草が少し萎れたけども溶けてはいないから、種類としては微毒か毒か?

 サヤが魔力集中ではなく、自己強化で土属性を付与したのは直接毒に触れない為だな。こういう使い方もあったんだ。そうしている内にレナさんの纏属進化も完了しているね。


「お、サヤさんやるねー! ふむふむ、その手段はありだねー!」

「ぶっつけ本番だったけど、意外と大丈夫そうかな?」

「サヤ、多分強力な溶解毒だと防ぎきれるかは分からないから注意してね」

「うん、分かったかな! 『爪刃乱舞』!」

「よーし、それじゃ撹乱していくよ、サヤさん! ハーレさんも支援お願いねー! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『治癒活性』『状態異常抵抗』!」

「了解です! 『連投擲・風!」


 サヤは土属性の付与で全身に石を纏う形で防御を固め、レナさんは毒を受けるのを前提に回復と風属性での速度上昇を優先し、ハーレさんも速度重視の風属性を付与した投擲を次々と放っていく。

 サヤとレナさんは自己強化にしているのはダメージ優先ではないからというのもあるだろう。ハーレさんも攻撃を直撃させないように狙ってるしね。


 さてと、それじゃサヤが爪で空飛ぶザリガニの尻尾に追加されたハチの針の連続突きの対処をしている間に、俺らのやるべき事をやっていこうか。


「さてと、ヨッシさん、まずはどの組み合わせから行く?」

「……そだね。何発も撃つことになるなら威力が強過ぎても困るから、まずは私単独でしか試せない組み合わせで魔力値を減らしていい?」

「あー、それは別にいいぞ。それじゃまずはアイスクリエイトの並列制御での単独発動だな」

「お、そういう組み合わせから行くんだな。まぁ早めに倒し過ぎても試しきれないか」

「そういう事だね。とりあえず1発目、行くよ。『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」


 相手が物理型ということは基本的に魔法には弱めになってるはずだし、全力の昇華魔法を何発も撃ち込んで試し終わる前に倒すのもあれだしね。という事で、まずは氷同士での昇華魔法の実験からである。

 ヨッシさんの生み出した少し大きめの氷の粒がぶつかると同時に、その部分から小さな氷の粒が広がっていく。おぉ、こりゃ神秘的で良い感じだね。太陽光を浴びてキラキラと反射しているしさ。


「あ、これってダイヤモンドダストかな?」

「サヤ、正解。昇華魔法の名前もそのまま『ダイヤモンドダスト』だったよ。えっと、見た感じの効果としてはダメージはそれ程だけど凍傷と凍結効果みたいだね」


 へぇ、アイスクリエイト同士だとこんな風になるんだ。どうやらダメージというより状態異常に寄っている昇華魔法のようである。まぁ凍結の状態異常で移動が大きく鈍り、凍傷の状態異常でHPが目に見えてどんどん減っているので実質のダメージは結構ある気はするけどね。


「おー!? これはスクショを撮るチャンスだね!」

「そだね! 折角だし、効果が切れるまで撮っておこうかー!」

「あ、それなら私も撮っておこうかな?」

「情報ポイントは欲しいし、撮っとくか」

「あはは、みんな積極的だね。私も撮っておこうっと」

「みんなして、スクショを撮るんだな。……俺も撮っとこ」


 ダイクさんが情報ポイントの事も言ってるし、今回の群集クエスト中は積極的にスクショを撮っておくべきだな。という事で俺も1枚撮っておこう。

 すぐに欲しい交換アイテムがあった訳じゃないけど、今回のレナさんの纏癒の使い方とかを見ていると、色々交換出来るだけの情報ポイントは持っておいた方が良い気もしてきた。


「あ、ダイヤモンドダストの効果が切れたかな」

「ヨッシに攻撃の狙いが行ってます! あー!? 魔力集中を発動したよ!?」

「ダイク、防御!」

「おうよ! 『並列制御』『アクアウォール』『アクアウォール』!」


 羽根で羽ばたきながら空飛ぶザリガニは、毒々しい色合いの2つのハサミを開閉させながらヨッシさんへと突っ込んでいくが、ダイクさんの複合魔法であるアクアプロテクションによって防がれていた。

 でも、流石はフィールドボスであるだけの事はある。チョキン、チョキンと軽快な音を鳴らしながら、ザリガニは水の防壁に切り込みを入れていた。……うん、これは破られるのは時間の問題か。まだHPが9割くらいはあるから応用スキルの発動をしてきていないだけマシなのだろう。


「おおう!? 思った以上に耐久値が減ってく!? 今のうちに次をやれ、次!」

「それはそうなんだけど、ちょっとだけ待って。……うん、これで大丈夫!」

「よし、ヨッシさん、次は氷と水で行くぞ」

「了解!」


 大慌てでレモンを齧って魔力値を回復させたヨッシさんと次の昇華魔法発動準備へと移っていく。試してみたことはないけれど仕様的には、規模や威力は小さくなるけども昇華魔法は魔力値が1でもあれば発動は可能なはず。

 レモンで魔力値を少しでも回復させれば、どんな昇華魔法になるかを試すには充分だろう。


「いくよ、ケイさん! 『アイスクリエイト』!」

「ほいよ!」


 次に試すのは水と氷の昇華魔法。さてと、今度はどんな昇華魔法になるかな?


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 69/70 : 魔力値 197/200


 おっと、さっきのヨッシさんの単独でのダイヤモンドダストの発動中に行動値は全快してたか。それは良いとして、俺の生成した水球とヨッシさんの生成した氷の粒が重なり合っていく。


<『昇華魔法:ヘイル・ストーム』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/200


 今度は上空から大きな氷の粒が大量に地面に向かって叩きつけられていく。え、これってもしかしてひょうか!? てか、サヤとレナさんにも直撃しまくってるな。ダメージはないみたいだけど……。


「わー!? あられが降ってきたー!?」

「あー、ハーレさん。これは大きさ的にはあられじゃなくて、ひょうだね」

「確か大きさが基準で大きいのが雹だったよね? それより、これってダメージはないけど鬱陶しいかな!?」

「……あはは、これはダメージはあるみたいだけど、使いどころは要注意だね」

「いや、他の昇華魔法も範囲攻撃だとこんなもんだし、飲み込まれたり、ふっ飛ばされるよりは良いんじゃないか?」

「確かにそこはダイクさんに同意。スチームエクスプロージョンや、デブリスフロウに比べれば位置が変わらないだけマシかもね」

「……それもそっか。ダメージとしては結構効果はあるみたいだしね」


 ヨッシさんの言うように空飛ぶザリガニもサヤ達と同様に多数の雹を受けている。もちろんサヤ達とは違って、思いっきりダメージは入っているね。HPはもう少しで7割を切りそうなくらいか。

 ふむ、魔法寄りではあるとはいえバランス型に近いヨッシさんの単独での昇華魔法より、そんなに沢山は回復していない状態ではあったとはいえ俺と2人で発動した昇華魔法の威力の方が高いか。


「あ、効果が切れたね。ケイさん、次は全快させて一気に削ろうよ」

「それもそうだな。レモン食って魔力値を回復させるから、時間稼ぎは任せた!」

「分かったかな! 『共生指示:登録2』!」

「任せといて! 『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『爪刃乱舞』!」

「それじゃ妨害行くよー! 『連投擲』!」

「よし、防御は俺に任せとけ!」


 サヤは竜で電気の球を空飛ぶザリガニに向けて撃ち出し、その間にレナさんが小石の足場を使いつつ連続蹴りを繰り出していく。そこにハーレさんがザリガニの動きを制限するように連続投擲を行っていた。

 ダイクさんは万が一に備えて、いつでも防御魔法を展開出来るように待機していてくれている。今のうちにさっさとレモンを齧って魔力値を回復させて置かないとね。レモンを取り出して、がぶり!


「やっぱり酸っぱいな……」

「あ、そういやはちみつレモンも増産しとかないとね。後でやっておくよ」

「お、それは助かる!」

「それならケイさんこれー! 数はあるから、遠慮なく使ってー!」

「おっ? これって、報酬の上質なリンゴ……あ、真っ二つになった……」


 ハーレさんが気を利かせてイベントの報酬で手に入った魔力値が大きく回復するリンゴを投げ渡してくれたけど、ハサミで挟んでキャッチしたら、切れ味の良くなったハサミでは真っ二つに切れてしまった。うーん、斬撃の特性は悪くはないんだけど、ロブスターのハサミとの相性はイマイチ良くない……?

 いや、別にリンゴが真っ二つになったからといって使えなくなる訳じゃないし今は問題ないか。とりあえず急いで食べてしまおう。力加減に気をつけて、リンゴを挟んでっと。よし、今度は大丈夫。


「『強爪撃』! えっ!?」

「およ? ザリガニの針が伸びて、刃物化したね?」

「わー!? 応用スキルだよ!?」


 何やら俺とヨッシさんが魔力値を回復させている間に、ザリガニに変化があったようである。おそらくヨッシさんがたまに使う斬針によって刃物となったザリガニの尻尾の先の針が、銀光を放ち始めている。……これは斬撃系の応用スキル……おそらく断刀だろうな。


「ダイク、風の防御魔法の準備! わたしが重脚撃で相殺して威力を削ぐけど、ザリガニは魔力集中だしチャージが多分間に合わないから!」

「よし、残った威力は俺が逸らせば良いんだな。了解だ!」

「それじゃ任せるよ! 『重脚撃』! サヤさん、ザリガニの攻撃に合わせてわたしを投げて!」

「うん、分かったかな!」

「それじゃ私は何とか動きを制限するね! 『連投擲・風』!」


 みんなの連携によって、ザリガニからの攻撃を凌ぐ手段が確立されていく。うん、ハーレさんは当てる事を重視するのではなく、回避する方向を誘導する形で投擲を続けていた。

 本来ならチャージそのものを中断させる方が良いんだろうけど、この連携での迎撃は俺とヨッシさんの魔力値の回復を待つ為のものだ。さてと、急いで回復させて止めの大威力の昇華魔法を叩きつけてやらないとね。


 次の組み合わせは土と氷の昇華魔法である。この組み合わせでどんな昇華魔法になるのかな?

 

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