第457話 次の準備


 強化した瘴気石を利用して、フィールドボスを再発生させるという実験自体はこれで完了だね。まぁ最小限の検証が終わっただけで何パターンかは試してみる必要もあるんだろうけど、それは俺らだけでする必要もないだろう。


「これで1体目の討伐は完了か。ひとまずご苦労と言っておこう」

「だなー。みんな、お疲れさん!」

「お疲れ様でした」

「みんな、お疲れ様かな。砂漠の上は走りにくかったね」

「そういえばサヤの最後の連撃って、途中で1回滑りかけてたよね!?」

「あー、そういや少しバランスを崩してたよな」


 確かにバランスを崩してたけど、すぐに立て直してはいたからね。まぁ足場が砂だって事でサヤ自身が言うように走りにくかったんだろう。俺らは殆ど浮かんでるアルの上から攻撃してたし、紅焔さん達も全員が飛べるから気にしてもいなかった。

 あ、でも今日は木のなっているライルさんはスチームエクスプロージョンの余波でバランスを崩してたっけ。ふむ、砂漠は足場が砂だから足を取られないように要注意ってことか。


「あはは、ハーレとケイに気付かれてたかな」

「まぁなー。足場が悪い場所での戦闘については今後の課題だな」

「そうともさー!」

「……サヤ、竜の大型化を本格的に検討した方がいいんじゃないか?」

「……そうだね、アル。私もそれを考えてたところ」


 確かに足場について一番重要になりそうなのはサヤか。ふむ、竜が完全にクマの乗り物扱いにはなるけど、有効ではありそうだ。大型化や小型化に関しては共生指示で呼び出す方が行動値的には使い勝手もいいしね。


「お、サヤさんの竜も大型化すんのか!?」

「あ、紅焔さん、お疲れ様かな。うん、それを今、検討中かな」

「大型化は迫力増すからお勧めだぜ!」

「紅焔、大型化した際に行動値が足りなくなって困る事が多い事を忘れてないかい?」

「それについては分かってるって、ソラ! あー、やっぱり大型化の変異進化を実行するかなー」

「紅焔、まだ悩んでたんだ?」

「簡単に言ってくれるなよ、カステラ。いずれ大きくするのは確定だけど、今はこのサイズでも楽しみたいんだよ」

「まぁ、そこは紅焔の判断に任せるけどさ」


 へぇ、てっきりすぐにでも大型化したがるかと思ってた紅焔さんが小さいから、条件的にまだ無理なのかと思ったらそうでもないんだな。後々、大型化させるのは確定だから、その分だけ今は小さな状況も楽しんでいるのか。

 まぁ大型化や小型化のスキルは使用コストが大きいとはいえ、大きさ自体は変えれるもんな。悩む気持ちも分からなくはない。


「あー、雑談も良いんだがさっきの検証を纏めていくぞ。見物してた連中も気付いた事があれば言ってくれ!」

「おうよ!」

「気になる事か」

「異常に魔法が強くて、物理攻撃には弱かった印象があるな」

「はーい! いきなりだけど、質問いい?」

「あぁ、ラックか。構わんぞ」


 あ、ラックさんも普通にいるんだね。でも俺のあった事のある灰のサファリ同盟のメンバーは少ないな。ふむ、基本的には雪山を優先してるけど、少数がこっちの応援にも来ている感じか。


「えっとね、情報共有板に上がってたトカゲとコイの捕獲情報では、トカゲが魔法型で、コイが物理型だったよね?」

「あぁ、それか。それに関しては、追加で検証するつもりではあるが推測は出来ている」


 そういえば、確かに魔法特化型に進化するとは思ってなかったな。これは確かに何か条件がありそうだ。ドラゴン自体が魔法寄りに育ちやすいと前に聞いたような気もするし、それもあるんだろうとは思うけども……。

 てか、土属性のトカゲとは聞いていたけども、あのトカゲって魔法型だったんだね。うん、普通に確認しそびれていた。あ、って事は大体の推測はついた。実際に試してみる必要もあるけどね。


「えーと確か、トカゲに+6を食べさせて、コイに+5を食べさせたよね!?」

「あ、もしかして数値が大きい方が主体になって進化するのかな?」

「あぁ、俺はそう推測している。まぁそれに関してはこれから検証していくがな」


 うん、サヤとベスタの推測も俺と同じか。これは食べさせる瘴気石のパターンを変えて、いくつも検証していく必要があるな。


「なるほどねー。それじゃ検証パターンの数も多くなりそうだけど、地道に検証していく必要もありそう」

「まぁそうなるな。それでだが、今は成長体は何体くらい確保出来ている?」

「さっき、その辺で捕まえた魔法型のサソリがいるぞ」

「ケイさんから預かってるイナゴがいるぞー! これは物理だな」

「途中で蹴りまくってくる大根なら確保したぜ」

「魔法っぽいネズミなら捕まえた」


 ベスタが周囲のみんなに問いかけていくと、現時点では4体は確保出来ているみたいだね。まぁ1体は俺らの捕獲してきたイナゴだけど。


「お、そうだ。このイナゴ、返しとくぜ」

「カインさん、サンキュー! あ、サヤ、受け取っておいてくれー」

「あ、分かったかな!」

「サヤさんに渡せばいいんだな。ほいよっと」

「カインさん、ありがとうね」

「いやいや、これくらいどうって事はねぇよ」


 そしてカインさんに預けていたイナゴをサヤが受け取っていた。サヤ以外のみんなはアルの上にいるままだし、カインさんにまた上がってきてもらうのも悪いからね。


「おっしゃ、到着!」


 そんなやり取りをしていれば、砂漠を凄い勢いで駆けてくるオオカミの姿があった。あー、オオカミ組の誰かかと思ったら、ボスの蒼弦さんが直接やってきたのか。

 そして今日のオオカミ組の役割といえば、追加生産の瘴気石の運搬だったはず。という事は、追加生産分を持ってきてくれたのかな?


「お、みんな揃って話し合い中か?」

「蒼弦か。まず1戦目が終わって、その情報の分析中だ」

「リーダー、その言い方だと成功か……?」

「……はぁ、否定するのも面倒になってきたな……。とりあえずフィールドボスの再発生に関しては可能だという事は判明したな」

「お、やったじゃねぇか! それじゃこれらも必要だよな」

「あぁ、そうなるな。内訳はどうなってる?」

「現状なら+6まであれば良いって判断でとりあえず+6を4つほど。後は汚染除去をした+5を6個だな。すぐに使う分はこれくらいあればいいよな? 」

「あぁ、問題ないな。蒼弦が持ってきたのは、極一部だろう?」

「まぁな。ほい、リーダー!」

「確かに預かった」


 蒼弦さんがベスタに追加生産分の瘴気石を渡していく。今頃は、各初期エリアの不動種の人が手分けをして纏浄と纏瘴を駆使しているんだろう。こうやって実際に戦闘を行ってる俺らだけではなく、そういう不動種の人達の活躍も重要なんだね。


「そうだ、リーダー。フィールドボスの再発生が可能で確定したなら、本格的に増産ペースを上げて問題ないか?」

「……そうだな。まだ細かい検証は必要にはなるが、最重要項目は成功だ。それで構わないだろう。あぁ、それと+3や+4辺りもいくつか持ってきてくれ。フィールドボスになるLvも探りたいからな」

「了解だぜ! それじゃ俺はそれを伝えに行ってくるわ! その後、次の生産分を持ってくるぜ!」

「あぁ、任せたぞ」

「おう、任された! おっと、そうだ。言い忘れ!」

「……何かあったか?」

「いんや、ヒノノコでいくつまで強化されるか試してみたいって奴がいてな」

「……ほう? それはそれで検証はするつもりではいたが、やった奴がいたのか。結果はどうなった?」

「定位置のボスで可能なのは+5までだな。それ以上は瘴気石は食わなくなるっぽいぜ」

「そうか。良くやったと伝えておいてくれ」

「いやー、そうしたかったんだけどいつの間にやら消えててな? あのヤドカリの人、強さは確実っぽいけど必要最低限しか喋らない、無口でよく分からん人だった」

「……なるほどな」


 うん、それはどう考えても十六夜さんっぽい! 何やら考え込んでるみたいだけど、ベスタは十六夜さんの事は知ってるんだろうか……?


「まぁそういう事だからな! サクッと戻ってくるわ!」

「……あぁ、頼むぞ」


 そうして蒼弦さんは来た道を思いっきり駆けて、戻っていく。……あ、砂に足を取られて盛大にすっ転んだね。うん、やっぱり砂漠を走る時は足場に要注意か。

 それにしてもベスタはもうリーダーと呼ばれても、否定する頻度が下がってきたね。まぁ誰がどう見てもベスタは灰の群集のリーダーだもんな。


「……今の件は後でいいか。さて、追加の瘴気石も手に入ったから2体目の検証を行うぞ。2連戦はしんどいだろうから、ケイ達のPTと紅焔達のPTは休憩しておけ」

「ほいよっと」

「まぁ戦えなくはないけど、その方が良いよな」


 とりあえず十六夜さんとヒノノコのLv上昇については後回しのようである。まぁこっちはこっちでやる事は多いしね。

 という事で、俺と紅焔さんが代表って感じで返事をしていく。うん、みんなもそれで良いようで頷いている。まぁアルや紅焔さんは魔力値が底をついてるだろうしね。


「次の組み合わせだが、物理型に+6を、魔法型に+5を食わせてみるぞ」

「って事は物理は大根で確定? イナゴはビックリ情報箱の手持ちだよな」

「そうなるねー。魔法はネズミか、サソリだね」

「……どっちにしても、どういう進化をするのかが想像出来ん!」

「興味深くはあるよね、この進化」


 確かに大根とネズミの組み合わせも、大根とサソリの組み合わせも全然想像がつかないね。うーん、どういう風に進化するのか、これは非常に興味深い。


「……大根とサソリでやってみるか」

「決めかねるから、リーダーに任せた!」

「いろんな組み合わせに興味が出てきた。進化だけ見たら次を探しに行こうっと」

「あ、私も行く!」

「成長体の補充も必要か。まぁ進化を見てからだな」

「どんな姿に進化するかな?」

「ま、やってみれば分かるだろ」


 ベスタが半ば適当に決めた感じではあるけど、次の組み合わせについては大根とサソリになったようである。……どんな姿になるのか、全く想像出来ん!

 そして3PTほどが次のフィールドボスの進化が終わり次第、次の検証に使う為のLv20の成長体を探しに行く事を検討中みたいだね。まぁ時間はまだ9時45分くらいだし、まだ数戦は検証が出来るだろう。


「まぁ、どういう姿になるかは見てのお楽しみと行くか。確保したPTは連結して準備をしてくれ」

「おっしゃ、やってやるぜ!」

「やってやろうぜ、プロメテウス!」

「そうだぜ、聖火の人!」

「俺の名前はカインだよ!」

「あはは、カインさん、よろしくね」

「お、普通に呼んでくれる人がいた!」

「私としてはあだ名って羨ましいけどね」

「いやいや、普通にプレイヤー名で良いって! えーと、招き猫さん!」


 何だかこれまでにも何度か聞いた覚えのあるやり取りが聞こえてくるけど、どうやらカインさんのPTと招き猫さんのPTが次の検証戦を行うみたいだね。


 えーと、さっきカインさんをプロメテウスと呼んだイカの人が触手で大根を捕まえていて、招き猫さんのPTメンバーのサイの人がサソリを咥えている。っていうか、どっちも大根は蹴りをいれてるし、サソリは思いっきり尾で刺してるけど全然効いてないな。

 やっぱり進化階位の差は凄まじいね。敵として格上の進化階位の敵を相手にするのはあまりしたくはないけど、自分たちの方が格上なら楽勝にも程がある。


「カイン、受け取れ」

「おっ? 瘴気石か。え、リーダーはやんないのか?」

「……これから検証で連続して数戦はやるのに全部で戦ってられるか。傍から見ながらでも分かる事もあるし、検証の情報のまとめもしていくからな」

「あー、それもそうだよな。んじゃ今回は俺らでやれば良いわけか」

「任せとけ、リーダー! やるぞ、聖火の人!」

「そうだぞ、カイン!」

「しつこい! 俺の名前はプロメ……っておい!? 引っ掛けんなよ!?」

「……いや、今のは自爆だろ?」

「うぐっ!? あーもう、とっととやるぞ!」

「あはは、カインさんも大変だねぇ」

「……そうなんだよ。こいつら、事あるごとにからかってきてさ」


 今のはカインさんの盛大な自爆だよな。まぁカインさんの気持ちも分からなくはないけどもね。そうやって愚痴を言いながらも、大根の前に+6の瘴気石を、サソリの前に+5の瘴気石を置いていく。

 ……サソリはまだ分かるんだけど、大根ってどうやって瘴気石を食べるんだ? また気になる事が増えたね。


「ねぇ、みんな。大根ってどうやって瘴気石を食べると思う?」

「あー、確かに気になるな。葉っぱで包んで吸収するとかか?」

「はい! 根で突き刺して食べると思います!」

「ハーレの想像は食べるのじゃなくて吸収じゃないかな?」

「そうとも言うんだよ、サヤ!」

「ハーレさん、妙な言い訳になってるぞー」

「ケイさん、言葉の綾だから気にしなくてもいいのさー!」

「それならそれでもういいけど、言い訳いらなくね?」

「はっ!? そうだった!」

「……兄妹漫才もいいが、そろそろ始まるぞ」

「「漫才じゃない!」」

「息ぴったりじゃねぇか」


 ぐぬぬ、アルめ! まぁ、ここでしょうもない言い合いをしてても仕方ないか。実際に拘束を解除してもう進化が始まりそうだしね。


「あ、根で瘴気石を突き刺してるかな」

「私の予想が大正解だー!」

「そうみたいだね」

「まぁ根で突き刺す養分吸収ってスキルもあるんだし、そもそも植物だし妥当なとこか」

「あ、そういやそんなスキルもあったっけ」


 アルの木は魔法寄りだから、その辺の物理スキルは使わないもんな。よく考えれば、植物なら根から吸収するのが当たり前……いや、種族によっては口のある植物とかいるから微妙か?

 少なくともオフライン版には食虫植物的なのは、プレイ出来る種族としては選べなかったけど敵としては存在はしてたっけ。オンライン版だとプレイヤーにいる可能性もありそうだ。


 そんな事を考えている内に大根とサソリが引き寄せ合っていき、瘴気の膜に包まれて進化が始まっていく。さーて、どんな進化になるのやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る