第449話 Lv20の成長体の捜索


<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『グラス平原』に移動しました>


 さてとやってきました、グラス平原! ほう、ここの平原は草原エリアに近い感じで草が多いっぽいね。全体的に芝が広がっているような感じで、所々に背の高い草花もある。

 少し見渡してみれば、ちょっと離れた場所に森というか林も見えるし、何ヶ所か沼地みたいなのもあるし、なだらかな丘になっている場所もあるんだな。流石は平原エリアか。色んなエリアの要素が細々と混ざってるね。


「ところでグラス平原のグラスって、ガラス的なグラス?」

「これは景色を見る限りそれじゃねぇな。草とか芝とかの方だろう」

「あ、LのglassじゃなくてRのgrassかな?」

「あー、そっちの方か」


 英語の綴りが違うだけで意味が全然違うもんな。確かにここは芝が多めだから、そこを命名基準に持ってきたって事なんだろう。……参加してない命名クエストの方が多いんだろうけど、他にどんな選択肢があったのかが少し気になるね。


「あー! アルさんアルさん!」

「どうした、ハーレさん?」

「西の方の林の方に薄っすらとだけど水が見えるよ!」

「お、マジか! なぁ、このエリアでの明確な目的地は決まってないし、そこの水場に行ってもいいか?」

「アル、水流の操作を取るんだな?」

「おう、そのつもりだ」

「そういう事なら賛成かな」

「反対する理由もないよね」

「アルさんの水の昇華を取りに行こー!」

「よし、それじゃ目的地はそっちにするか」


 俺の土の昇華よりアルの水の昇華が先にはなったけども、それはまぁいいか。それにしても意外とアルの水の昇華は早かったね。俺らがログアウトした後に鍛えてたとかかな? まぁそれはいいんども、忘れちゃいけない目的もある。


「あ、でも最大の目的はLv20の成長体だからな! ハーレさん、情報共有板の確認を任せていいか?」

「それなら今日は私がやろうかな。遠くから見つけるのはハーレの方が得意だしね」

「サヤ、良いのー?」

「うん、たまにはね。捕獲にはヨッシが向いてるだろうし、ケイの獲物察知も重要だし、アルは移動に専念してほしいから、情報の確認は私が一番適任だと思うんだ」

「確かにそれもそうだな。それじゃサヤ、任せた!」

「うん、任せてかな!」

「アルは急ぎ過ぎない程度に移動よろしく!」

「見落としても駄目だから、そうなるか」

「私は探しながら、捕獲の待機だね?」

「ヨッシさんはそれで頼む。ハーレさんはここに来るまでの奇襲の方法で探していくぞ」

「了解です! 倒さないように気を付けないとねー!」


 俺とハーレさんが索敵、サヤが情報確認、ヨッシさんが対象を見つけた際の捕獲、アルはいつもの移動という事で役割分担は決定だ。

 俺は再びハーレさんの巣に行き、俺のロブスターの背中の上にハーレさんが乗って準備完了である。サヤはアルの木にもたれかかるようにしながら情報確認を始め、ヨッシさんはアルの木の枝に止まって俺とハーレさんが向いていない方向をチェックしてくれている。


「それじゃ西の林の奥にある水場に出発だ!」

「「「「おー!」」」」


 みんなの気合は充分だ。さて、上手く見つかるかは分からないけどやれる事をやっていこう!




 そして索敵しながら進んで行くとボス戦をしているらしき集団がいた。ここのエリアって共闘イベントの対象エリアだったんだな。まぁ今はそれは関係ないので別にいいや。迂闊に近付いて邪魔しても仕方ないのでボス戦の場所はスルーだね。


 それなりに移動をしながら索敵をしていけば、成長体の敵自体はあっさり見つかるけどもLv20の個体が全然見つからないでいた。見つける度に俺とハーレさんとヨッシさんで分担して識別してみたけども、Lv5〜10の敵が多かったんだよね。

 ……ふむ、初期エリアの近くの方だとそんなに上限Lvに近いのはいないんだな。もっと砂漠エリアに近い方を探した方が良さそうな感じだね。


「この辺の敵はLvが低いな。サクッとアルの水の昇華の取得を終わらせて、もっと先に行くか?」

「あー、その方が良いかもな」

「私もそれに賛成です!」


 アルとハーレさんは賛成みたいだね。サヤは集中しているのか、ちょっと聞こえてない感じか? それにヨッシさんも何かを考え込んでいるね。何か気になる点でもあったかな?


「サヤ、ヨッシさん、何かあるのか?」

「え、あ、ごめん、聞いてなかったかな」

「おーい、しっかりしてくれよ、サヤ」

「あはは、ごめんね。でも、ちょっと情報はあったかな」

「お、どんな情報?」

「とりあえず参加した全PTはグラス平原に入ったって。あまり同じ方向に行かないように分散するように指示があったかな。私達の位置も報告しておいたよ」

「そっか。サヤ、ご苦労さま」

「これくらいはやらないとね。とりあえず西の林には他のPTは行ってないかな」


 普段は情報共有板に書き込む事はないサヤだけど、今日はしっかりやってくれてるようである。まぁこういう情報共有って大事だもんね。でも、まだこれと言った成果は出てないか。


「ねぇ、アルさん、ちょっといい?」

「ん? ヨッシさん、どうした?」

「林に辿り着いてからでいいんだけど、樹液分泌でおびき寄せられない? それか、ハーレが食べ物を投げてみるとか」

「あー、その手があったか。ケイ、どうする?」


 確かに無闇に探しまくる以外にもおびき寄せるという手段もありではあるか。……でも、数を集めるとそれはそれで大変な気もするんだよな……。


「ありといえばありだけど、識別が大変じゃない?」

「あ、そっか。確かにそれは大変そうかも……。そう簡単にはいかないんだね」

「でもやる価値はあるんじゃないかな?」

「やろうよー! みんなで手分けをすれば、何とかなるさー!」


 ふむふむ、まぁ5人で手分けすれば識別自体は可能か。相手は成長体ばっかだし、数が多くても俺らは死ぬ心配もないだろう。あ、そういやLvを見るには識別Lv3が必要だけど、みんなの識別のLvって今いくつだ?


「ちょっと確認。みんなの識別のLvって今いくつ? 敵のLvを見るのに、Lv3は必要だったよな?」

「俺は昨日、Lv3になったぜ」

「私はLv4かな」

「私もLv4! ついさっき上がったー!」

「私はLv3だよ。夕方に上げておいたんだ」

「あ、みんな必要なLvにはなってるんだな」


 どうやら完全に杞憂だったようである。っていうか、よく考えたらアルはともかく、ヨッシさんはさっきまで識別してLvを確認してたんだからそりゃLv3になってるよね!

 うーん、今日は少し不調か? 水の昇華の条件も妙に勘違いしてたしさ……。気にしてても仕方ないから、気分を切り替えていこう。


「みんなが識別出来るならヨッシさんの案で行くか。それでいなければ、集めた敵は昇華魔法で一掃しよう」

「お、そりゃいいな。俺とケイでウォーターフォールの試し撃ちといくか」

「絶対にオーバーキルかな!?」

「サヤもさっき風豹相手にオーバーキルやってたよねー!?」

「確かにやってたね」

「……うっ!? まぁオーバーキルでも問題はないかな!」

「誤魔化したな、サヤ? まぁいいけど、それじゃそういう方向性でいいな?」

「おう、良いぜ!」

「了解です!」

「うん、いいよ」

「分かったかな!」


 さてとみんなの同意を得られた事だし、まずはアルの水の昇華を取得してからだな。その後に林で敵を集めて、その中にLv20の成長体が居ないか確認。いたらヨッシさんに捕獲してもらって、その後はいてもいなくても昇華魔法で殲滅って事で確定だね。


「そういや、平原エリアの場合って荒らすモノの称号ってどうなんの?」

「そういやどうなんだろな?」

「試してみれば良いだけさー!」

「……それもそうか」


 平原を荒らすモノになるのか、林を荒らすモノになるのかが気にはなるけど、これはハーレさんの言う通り試してみるのが早いだろう。予想としては細かくし過ぎると称号数が増えるので、平原を荒らすモノの1つに纏められているってとこだな。まぁ実際どうかは分からないけど。



 そんな風に方針が決まって、少しペースを上げながら索敵をしつつ西の林を目指していく。そして、そう時間もかからない内に目的地に辿り着いた。

 木々の間から小さな湖らしきものは見えているけど……うん、アルのクジラはそのままじゃ微妙に通れなくて、そのままじゃ辿り着けそうにないな。


「アル、俺が浮かそうか?」

「いや、小型化するから問題ない。って事で、サヤは一旦降りてくれ」

「うん、分かったかな」


 サヤ以外はそれほど大きくもないのでクジラを小型化しても問題はないけど、サヤのクマは大きいからアルのクジラを小型化するとバランス悪いもんな。別に乗ろうと思えば乗れない事もないんだろうけど、今はそんな無茶をする場面でもないしね。


「さて、やるか。『根脚移動』『上限発動指示:登録2』!」


 アルがスキルを発動すればクジラが小さくなって行き、牽引式へと切り替わっていく。うん、何だかんだでやっぱりこの牽引式も便利だね。

 そして、あと少しで俺の水のカーペットをアル自身で使えるようになるんだよな。空飛ぶクジラ計画これで更に進展だ! 最終的には水のカーペットなしにはしたいけど、これでかなり自由度が上がる!


 それにしてもハーレさんがなんだかウズウズしてるな。……さてはまた泳ぎたいとかそんな感じだろうか? 問答無用で飛び出して行かなくなった分だけ、ハーレさんも成長してるんだね。まぁ興味があると我慢しきれない雰囲気は隠しきれてないけども。


「ハーレさん、悪いけど我慢してくれな?」

「はっ!? もしかして態度に出てた!?」

「うん、思いっきり出てたかな」

「ハーレ、泳ぐのはまた後でね」

「うー! 昨日、泳いどけば良かったよー!?」

「ま、それはまた機会を作ろうな」


 そういや昨日は大きな湖……ネス湖には行ったけど、ハーレさんは泳いではなかったっけ。ふむ、今度純粋に泳ぎに行く機会でも作ろうかな? ネス湖の小島はちょっと興味もあるし、捕まえ損ねて逃げられたカニも気になるしね。


「さてと、それじゃ時間も勿体無いし、やる事をやっていこうぜ」

「それもそうだな。まずはここの湖を見に行くか」

「どんな湖だろねー!?」

「ミズキの森林にある湖とそんな変わらないんじゃない?」

「私もそんな気はするかな」


 そんな会話をしつつ、木々の間を抜けていく。そしてそこにはそれほど大きくはないけども、湖が存在していた。まぁ見た目としてはごく普通の湖か。ミズキの森林にある湖よりも小さい湖だね。

 水が汚いって訳でもないけど、それほど綺麗って訳でもないか。深さも分からないけど、湖の中を見通せる程の透明度はない。


 でも、水量自体は充分あるから水の昇華を取得するには問題ないだろう。……うん、ここから水の操作を使って流れを作れば良いはず! 今度こそ覚え間違いによる勘違いはしない!


「アル、さっさと水の昇華を取っちまえ!」

「おうよ! 『水の操作』! それからこれでどうだ!」


 アルが水の操作で湖の水を支配して、空中へと持ち上げてぐるぐる水を回して水流を作っていく。そうそう、これこそが正しい水の昇華の取り方だね。


「おっし、水の昇華を手に入れたぞ!」

「アル、やったかな!」

「アルさん、おめでとー!」

「これでアルさんは昇華は2つ目だね」

「これでかなりの強化になったな、アル!」

「おう、みんなありがとな!」


 さてとこれでアルが間違いなくかなり強化された。まぁそれは良いんだけど、さっきからピチピチと何かが跳ねるような音が聞こえてくるのは気のせい……?


「この音、何かな? ……あっ」

「サヤ、どうした? ……あっ」


 湖を覗き込むサヤの様子が気になって、横まで行って同じように覗き込んで見れば一目瞭然であった。なるほど、ピチピチと跳ねるような音はこいつが原因か。


「わっ!? 大きなコイが跳ねてるー!?」

「っていうか、アルさんの操作した水でこの湖の水量って半分くらいなんだ?」

「……どうするのが良いんだ、これ?」


 ハーレさんもヨッシさんもアルも湖を覗き込みながら、そんな会話をしていく。どうやらアルが水を大量に空中に持ち上げた事で、水が無くなった部分にいた60センチくらいのコイが取り残されたようである。

 他にも一般生物の魚とか小さな海老とかも取り残されている。まだ水がある部分には魚影も見えるから、全部を巻き込んだって訳ではなさそうだけど……。


 水が無くなった部分に取り残された黒いカーソルのコイか。この感じだと水中でしか活動出来ないっぽいし、放っておけば勝手に死ぬんじゃないか?

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