第448話 ちょっとしたアドバイス


 草原エリアの北端のエリア切り替えのボスの前まで来たけども、先客ありでボス戦の真っ最中であった。まぁこれに関しては周回PTでない限りは順番待ちなので、おとなしく待機だね。


「アル、とりあえずクジラの大きさを今のうちに元のサイズに戻しとこうぜ。多分、この先の……何平原だっけ? そこは樹洞の中じゃない方が良いだろ」

「グラス平原な。まぁそっちの方がいいか」

「よし、それじゃそれで決定。サヤ、ヨッシさん、樹洞から出てきてくれ」

「あ、うん。分かったかな」

「了解」

「ケイさん、私はー!?」

「ハーレさんは巣から索敵をよろしく。俺はアルのクジラの上に移動するから」

「ケイさんのザリ……ロブスターの背中、乗り心地良かったんだけどなー。とりあえず了解です!」

「まー、また機会があればな」


 ハーレさんは意外と俺の背中の上の居心地が良かったようである。まぁ今後、奇襲を狙う時にはあれが良い気はするから、またやる機会もあるだろう。

 そうしている内にサヤとヨッシさんも樹洞から出てきて、草に覆われた地面へと降りている。


「よし、降りたな。小型化と空中浮遊を解除っと」

「ん? なんでアル、空中浮遊まで解除?」

「もう少しで発動時間切れなんだよ。待つ必要があるなら、その間に切って再発動までの時間ロスを減らしておこうと思ってな」

「あー、なるほど」


 このボス戦の待ち時間も無駄にはしないという事だね。確かに苦戦気味で風豹のHPもまだ半分はあるから、再発動までの時間はかかりそうではある。って、ボス戦をやってる人達、こっちに余所見してるんじゃないよ!?


「おい、シマウマの人! 右に避けろ!」

「え、あっ!? うっわ、危ねー!?」


 思いっきり狙われていたシマウマの人が間一髪で風豹の噛みつき攻撃を回避していた。ふー、ヒヤッとしたね。……必要があったとはいえ、もう少し目に付きにくい距離を保ってやるべきだったか……。


「なんかちょっと集中を乱したみたいですまん!」

「あ、いえ、大丈夫です!」

「そうか! ボス討伐、頑張れ!」

「はい!」



 人参の人から元気よく返事がきたね。折角だし、ちょっと見物しておこうかな。ふむふむ、4人共動きは悪くはないけども風豹の素早い動きに対応が遅れているって感じか。

 この感じだと、足止め役が1人は欲しいけど、全員近接っぽいね。でも頼まれないのに、勝手に口出しするのは無しだしな。


「……そうは言っても、俺らじゃまだこれは厳しくない?」

「……そうだよね。見た感じ、かなり強そうな人達だけどアドバイス貰う?」

「待たせすぎるのも悪いし、その方がいい……? でも図々しくない?」

「初対面の人にアドバイスを下さいっていうのもなぁ……」


 ん? 何やら風豹から距離を取りつつ相談しているね。まぁ内容は聞こえて来てるんだけども……。へぇ、話に聞いている青の群集で聞き出そうとする連中と違って、遠慮なしになんでも聞き出そうってつもりはないのか。ふむ、そういう事なら別に問題ないかな?


「みんな、アドバイスしてもいい?」

「普通に灰の群集みたいだし、いいと思うぞ」

「私も賛成かな」

「私もー!」

「私も同じく」

「よし、それじゃちょっと手助けしてあげようか」


 まぁ直接手を出さずに自力で倒せるようにアドバイスをする感じだけどね。ここで俺らが直接手を出しても問題はあまりないけど、それは望まなさそうではあるもんな。


「おーい、さっき邪魔したお詫びでアドバイスしようか?」

「え、良いんですか!?」

「おう、良いぞ」

「それじゃお願いします! 良いよね、みんな?」


 人参の人のその言葉に他の3人が頷いている。どうやらこの様子だと人参の人がリーダーっぽいね。さてと、とりあえず手の内を聞いてみるか。


「よし、それじゃあLv3の魔法を使える奴はいるか?」

「ごめんなさい、まだLv3になってる人はいないんです」

「……まだ覚えてないか。それなら魔力集中と自己強化は?」

「あ、それならみんな覚えてます! でもどっちがどう有効なのかとか使いどころがいまいち分からなくて……」


 ふむふむ、魔力集中と自己強化はあるんだな。それにこうやって会話しながらでも回避はしてるからプレイヤースキル自体は低くはないか。ただまだ不慣れで手間取ってるだけっぽい。


「そうなると……ヒョウの人、自己強化を発動して被弾覚悟で抑え込むのは出来るか? 自己強化は全体的に強化されるから、あの風豹にも対抗出来るはず」

「俺っすか!? やってみます!」

「よし、それじゃ他の3人はそれに合わせて魔力集中を使って一気に攻め立てろ。立て直す隙を与えずに仕留めきれ!」

「「「はい!」」」


 さてと動き自体は良いから、風豹の動きさえ抑えてしまえば問題はないだろう。群集拠点種の近くにいるボスならそう簡単には行かないけど、そうでないエリア移動の妨害ボスならこれで充分のはず。HP自体は半分くらいは削れてるしね。


「それじゃやってみるぜ! 『自己強化』『体当たり』! おぉ、まともに当たった!」

「油断しないで、抑え込んで!」

「はっ!? これならどうだ! 『強牙』!」


 体当たりが風豹をちゃんと捉えた事でヒョウの人に一瞬の気の緩みはあったけども、人参の人が即座に嗜めていく。そしてヒョウの人が風豹の首筋に噛みつき、引き倒すようにして抑え込んでいた。ふむふむ、ここまでは良い感じだね。


「行くよ、みんな! 『魔力集中』『突撃』!」

「うん! 『魔力集中』『連刺突』!」

「おう! 『魔力集中』『蹴り』!」


 そこからは人参の人が腹部に突撃し、ハリネズミの人は連続で突きを繰り出していき、シマウマの人は風豹の頭を蹴飛ばして朦朧を入れていた。そこで朦朧が入った事で4人揃って、攻撃を次々と繰り広げていく。

 そして行動値も尽きかけて通常攻撃が増え出した頃に、風豹のHPは全てなくなりポリゴンとなって砕け散っていった。ふー、とりあえずはうまく倒せたみたいだね。ん? 4人共が俺らの方を向いてきたね。


「アドバイス、ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」

「これくらいなら、どうってことないって」


 実際、手持ちにあるスキルの扱い方を教えただけだしね。それにしても聞いてた感じじゃまともにダメージを与えるのに手間取ってたっぽいけど、先行したPTはここの通過はどうしたんだろ?


「ところでちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」

「私達に分かる事ならなんでも聞いてください!」

「あーうん。俺らの前に何PTか、ここを通った筈なんだけど、その辺はどうしたんだ? 見た感じ、弱らせるのに結構時間かかってたよな?」

「あ、はい! それなら2PTの人が通り過ぎて行きましたけど、素通りしていきました!」

「あー、なるほど、そういう事か」


 なるほど、聞いてみれば単純な話ではあるんだな。先行したPTのメンバーには、風豹を未討伐の人は居なかった訳だ。そして素通りが出来るから、自分たちの事を優先したのか。


「あ、どちらのPTの方も手伝おうかって言ってはくれましたよ! 私達がそれを拒んだだけで! でも皆さんは討伐が必要なんですよね?」

「まぁそうなるな」


 ふむふむ、別に先行したPTの人達が薄情だとかそういう訳じゃなかったんだね。まぁ俺らも素通り出来る状態で、自分達で戦いたいというのであれば素通りしてただろう。

 そうか、何だかんだで俺らに気を遣って何とかしようとしたんだね。よし、そういう事なもうちょい手解きをしといてあげるか。これから先に有望そうなPTだしね。


「アル、再発動まであとどのくらい?」

「ん? もう間もなくだな」

「……あんまり時間もないか。少しだけ魔力集中と自己強化の使いどころを説明しようかと思うけど、必要か?」

「え、良いんですか!?」

「まぁちょっとだけだけどな」

「それでも良いです! お願いします!」

「「「お願いします!」」」


 この新規の人達のPTは随分素直だね。……こういうのに偽装して青の群集でジェイさん達に反発している連中は情報を盗んでるのか……。全く嫌になる話だね。

 ……嫌な可能性を思い付いたけど、流石にこの4人組が青の群集からのスパイって事はないよな……? うーん、でもこの程度の情報は盗んでも仕方ないか。何でもかんでも疑えば良いってもんでもないしなー。それに他の群集に移籍して盗むのならまとめがあるしね。


 よし、盗まれた時は盗まれた時に考えるとしよう。この場合は疑心暗鬼になり過ぎるのも良くないからね。……もしかしたら疑心暗鬼に陥らせて、情報交換の分断を……ってそれは流石に考え過ぎか。


「よし、それじゃ簡単に説明するぞ。まず魔力集中だけど、これは完全に攻撃の強化向けのスキルだな。基本的に火力が欲しい時に使うといい」

「「「「はい!」」」」

「それで自己強化は、攻撃も強化されるけど防御や移動速度とか全面的に強化するスキルだ。相手の攻撃が厳しい時の防御強化とか、移動速度を上げたい時とか、さっきヒョウの人がしたみたいに全身の強化が必要な時に使うといいぞ」

「確かにさっきは速度も上がったし、抑え込みやすかった!」

「そういう違いなんだね。自己強化もちゃんと使い道あるんだ」

「自己強化は魔力集中の劣化版かと思ってた……」

「まとめの情報を見るだけじゃなくて、実際に試してみるのも大事なんですね」

「そういう事だな。実際に使ってみないとどういう効果かは実感しにくいから、どんどん使っていくべきだぞ」


 俺だっていつも効果の推測はするけども、実際にどうなるかはやってみるまで正確なところはわからないしね。時々予想外の方向から称号やスキルも手に入るもんな。


「まぁ、群集のまとめ情報に色々載ってるから参考にしながら頑張れ!」

「「「「はい!」」」」


 よしよし、素直にアドバイスを受け取ってくれると嬉しいもんだな。何となく雰囲気的には年下っぽい気もするし、中学生くらいの同級生でのPTとかかな? まぁリアルの詮索はあんまり良くないから、その辺はあんまり考えないでおこうっと。


「ケイ、もう出発は出来るぞ。……まぁボスがまだだが」

「あ、復活したよー!」

「風豹はどうする? 誰か1人で倒す?」

「誰かやりたい人、いる?」

「私がやってもいいかな? ちょっと手本を見せてあげたい気分なんだ」

「おー! サヤ、気前いいねー!」

「サヤ、頑張って」

「それじゃサヤに任せた!」

「うん、任されたかな!」


 そしてサヤが竜に乗ってアルのクジラの背から降りてきて、復活したばかりの風豹に対峙していく。まぁ成長体のLvの低いボスだし、楽勝だろうね。


「慣れればこれくらいは出来るようになるからね。『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」


 魔力集中と風属性を付与して緑のオーラを纏った爪になっているサヤが一気に距離を詰めていく。あー、これは全力でやる気かな? オーバーキルになりそうな予感はするけど、まぁ別に良いか。


「え、何だ、あれ?」

「あれが属性を付与出来るってスキル?」

「やっぱり見るのも大事だな」

「そうみたいですね」


「これが今の私の最速攻撃かな! 『爪刃双閃舞・風』!」


 そして風属性を帯びて銀光を放ち、攻撃速度が上がっている凄まじい速さの爪撃で風豹を切り刻んでいく。……うわ、あっという間に銀光が強くなっていって即座にHPが消し飛んだ。しかもポリゴンとなって砕け散る前に連撃を全部当てていたよ。

 そっか、HPが無くなってポリゴンとなって砕け散る僅かな間でも攻撃判定は有効なんだね。あんまり意味も感じないけども……。


<ケイが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndが成長体・瘴気強化種を討伐しました>

<成長体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<『進化の軌跡・風の欠片』を2個獲得しました>


 とりあえず討伐報酬はゲット。サヤ以外は何もしてないけどね。そういや識別をしてなかったけど……まぁいいか。瞬殺出来て、出現場所が固定されてる敵については気にしなくてもいいや。


「うわ、瞬殺!?」

「今の、すっごいね!」

「すげぇ格好良かった!」

「わぁ! あんなに苦戦したのが瞬殺する事が出来るようになるんですね!」


 サヤの一方的過ぎる戦いを見て、4人はテンションが上がっているようである。サヤの近接のプレイヤースキルは相当高いけど、風豹の瞬殺については誰にでも出来るようになるからね。


「少しコツはいるけど、威力としてはあれくらいは出るようになるからね。みんな、育成を頑張ってかな!」

「「「「はい!」」」」


 元気の良い返事だね。さてと、なんだかサヤを目標にする新規の人が4人誕生したような気がしないでもないけど、そこは気にしないでおこう。


「それじゃ俺らはそろそろ行くよ。アル、出発!」

「おうよ! 『上限発動指示:登録1』」


 再使用が可能になって空中に浮かんだアルのクジラにサヤが乗ってくる。他のみんなは乗ったままだから特に問題はない。


「それじゃ育成、頑張れよー!」

「「「「はい! ありがとうございました!」」」」


 そんな風にボスの場所で偶々出会った新規の4人組に見送られながら出発していく。他の検証PTもチラホラとやってき始めているから、あんまりここに長居をするのも邪魔になりそうだ。

 さて、風豹を倒した事でこの先のエリアに進めるようになった。これでLv20の成長体を探すエリアに突入だ!

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