第426話 フィールドボスと対峙


 俺の作り出した水流に乗って、アルが高速で泳いでいく。シュウさんの風魔法の防御によって、背中にいる俺らにも影響はない。

 それにしてもその辺にいる魚とかが邪魔だな。先行している人達が結構倒していたようで黒の暴走種や瘴気強化種はほぼいないのはありがたいけど、一般生物までは排除していないか。まぁ無理に排除する意味もないからその辺は仕方ない。チャージ中のアルやアーサーに当たっても困るので、一般生物は水流で弾き飛ばしてっと。


 一気に距離を詰めているはずだけども、首長竜はまだか? そろそろチャージも終わりそうな感じだし、出来ればそのまま突っ込みたいんだけども……。


「弥生さん、様子はどう?」

「もう見えてくるはず……あ、見えた!」

「っ!? あれか!」


 弥生さんの言う通りに首長竜の姿が見えてきて、戦闘中のようであった。1人がクワガタで、もう1人がワニか……。生き残っているの2人だけのようである。って、クワガタは甘口辛子さんか!?


「辛子さん、増援に来たから退避して!」


 どうやら弥生さんのフレンドコールの相手は辛子さんだったようである。弥生さんのその言葉を受けて、辛子さんとワニの人が逃げようとしているけどもそう上手く逃してくれないか。あ、ワニの人は青の群集の人っぽいな。


 よし、とにかく首長竜を視認が出来る位置まで来た。ちょっと前に遭遇した時にはあまり詳しく見れていなかったけど、ようやくまともに姿を拝めたな。懐中電灯モドキの照らす範囲はかなり広めにしてダメージにならないように注意して観察してみる。

 これは……甲羅のないカメの首を長くしたような感じか? 色合い的には基本となる薄めの青色に、黒い紋様が浮かび上がっている感じで、大きさ的にはアルのクジラと同等くらい。


 軽く観察はしたけど、かなりのピンチみたいだしあんまり時間はかけられないな。手早く周囲の地形を確認して……岩場で足場は割としっかりしてそうだな。ちょいちょい尖ったような岩もある。これなら地形が利用できそうだね。


「サヤ、水月さん、2人でアーサーを吹っ飛ばせ! アーサー、一番槍は行けるな?」

「うん!」

「分かったかな。水月さん!」

「えぇ、了解しました!」


 俺の意図を理解して、アーサーはアルの頭の銀光に輝く部分の手前まで移動する。それに合わせてサヤがアーサーの右後方に、水月さんがアーサーの左後方に移動した。そして、2人のクマがその腕を振りかぶるように動き出していく。


「「『魔力集中』『薙ぎ払い』!」」

「行け、アーサー!」

「喰らえー!」


 サヤと水月さんに背後から猛烈な勢いで吹き飛ばされていくアーサーが、ワニの人を執拗に狙う首長竜の頭の部分へと直撃していった。

 よし、良い位置に当たった! どうやら朦朧が入って少し沈みかけている。さぁ、次だ!


「弥生さん、ルストさん、予定通りに救出を!」

「行くよ、ルスト! 『自己強化』『移動操作制御』!」

「はい、弥生さん! 『根脚強化』『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」

 

 弥生さんは暗闇に紛れる必要もないんだろうけど、あれは足場にする小石を使う為なんだろう。ルストさんについては俺が教えたのをうまく活用してるっぽいね。さて、救出についてはあの2人に任せておけば問題ないだろう。

 あ、もう朦朧が回復しつつあるのかよ。流石にフィールドボスは回復が早い。改めてこうして見てみると、ほんとにカーソルの上に黒い王冠マークが付いているんだな。だが、朦朧自体は短くても効果があるのならそれでいい。


「ハーレさん、頭を狙え!」

「はーい! これでもくらえー!」


 よし、ハーレさんの爆散投擲も首長竜の頭へと命中してそこそこのダメージになった。HPはさっきのアーサーの攻撃と合わせて1割くらいのダメージだね。元々戦っていた人達が3割くらいは削っていたみたいで、残り6割ちょいってところか。

 でも今回は朦朧が入らなかったのが痛いな。そう簡単に何度もなってはくれないって事か。


「ヨッシさんとマムシさんはタイミングを待っててくれ! 他のみんなは今のうちに湖底に飛び降りろ!」

「了解!」

「へっ、そうこなくっちゃな! 小型化解除!」

「僕はぎりぎりまで付き合おう。その方がやりやすいだろう?」

「助かる、シュウさん!」


 シュウさんはぎりぎりまで継続して風の防壁を展開してくれるようである。他のみんなは即座にアルから飛び降りていき、それぞれに臨戦態勢へと移っていった。みんな、動きがスムーズで助かる。


 俺の水流に首長竜を飲み込ませたら折角の勢いでの威力が軽減しそうなので、首長竜のスレスレの所で流れの方向を上へと変えておく。

 ふっふっふ、直前のハーレさんの攻撃が効果があったのか、標的はハーレさんになってるっぽいね。これは好都合だ。ハーレさんも一応は飛び降りて行ったからな。


「余所見してていいのかよ? アル、突っ込むぞ!」

「おうよ!」


 そして現状可能な限りの勢いをつけたアルのチャージを終えた激突衝頭撃が首長竜の胴体へと直撃して、そのままの勢いで吹っ飛んでいった。あ、ちょっと飛ばし過ぎたかも……。


「どこへ行くんだい? 『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」

「シュウさん、ナイス! ヨッシさん、マムシさん、今!」

「了解! 神経毒で『ポイズンクリエイト』『猛毒の操作』!」

「行くぜ! 『神経毒生成』『猛毒牙』!」


 シュウさんがアルの強烈な頭突きによって後ろへ吹き飛ぶのを阻止していた。この風魔法は本来は逸らすのが正しい使い方なんだろうけど、逸し方が上手いようで上の方に浮かび上がらせるようになっている。

 そして首長竜にヨッシさんが用意した神経毒の毒弾が着弾し、元の大きさに戻ったマムシさんが猛毒の牙を突き立てていく。あ、ヨッシさんの毒は不発で、マムシさんの毒が決まったみたいだね。暴れ始めていた首長竜の動きが鈍って沈んでいっている。


「へっ、このまま締め上げてやるぜ。『自己強化』『強束縛』!」


 攻撃を終えたヨッシさんと、防御役を終えたシュウさんはアルの上から降りていき、マムシさんは追撃とばかりに首長竜へと巻き付いていた。流石に相手が大き過ぎるようで、首長竜の長い首を締め付けるだけではあったけども効果は充分のようである。

 うーん、大蛇が巻き付いているというのは分かるんだけど、見た目が曲がる丸太が巻き付いているという妙な光景になっているのがなんともシュールだね。


 って、そんな事を考えてる場合じゃない。俺の水流は流れを変えたから、水流から出てしまったし衝突した反動でかなり勢いは落ちたとはいえ、まだ結構な勢いだ。しがみついてないと落ちそう……。


「アル、旋回して勢いを落とせ! 弥生さん、ルストさん、そっちはどうだ!?」

「おうよ! 『旋回』!」

「こっちは救出完了したよ!」

「こちらもです!」


 流石に救出の状況まで視認している余裕がなかったけど、弥生さんもルストさんもしっかりと救出してくれていたらしい。まぁその辺は心配していなかったけどさ。

 俺は俺でアルの木の根にしがみつきながら、上の方に変えた水流の流れを更に変えていく。狙いは首長竜を上から湖底に向けて押し潰す事! 良い具合に尖った岩もあるし、あれを使うか。


「みんな、そこの尖った岩から離れろ!」

「分かったかな! みんな、散らばって攻撃準備だよ!」

「えぇ、分かりました!」

「……うん、一斉攻撃をやる!」


 みんなが適度に散らばって、影響を受けない立ち位置へと移動していく。さて、水流の操作の残り時間を一気に使う気で行くか。上昇させている水流を下降する水流へと流れを変えて、首長竜へと向けて一気に流れを最大まで早くする。


「マムシさん、退避!」

「おっと、こりゃすげぇな!? 巻き込まれるとダメージはなくても酷そうだな!?」

「これでもくらえ、首長竜!」


 首長竜に巻き付いて動きを制限していたマムシさんも拘束をやめて退避していき、そこに俺の全力での水流が襲いかかっていく。そして湖底にあった大きな尖った岩に首長竜が突き刺さって……いなかった。というか、岩のほうが崩れ去ってしまっている。

 ちっ、意外と硬いのか、こいつ!? いや、違う。首長竜の体表が岩みたいに変化しているからこれは自己強化と土属性の操作属性付与か!? HPは丁度半分って事は……もしかして行動パターンの変化? ……まぁここまでの行動パターンは知らないけどさ。


 そして崩れた岩の上で神経毒によってまともに身動きが取れなくなっている首長竜だけども、近くにあった水草を苦しそうにしながら食べていた。その瞬間にどうやら毒が解除されたようである。折角神経毒が入ったのに、そんなのありかよ!?


「え? 解毒されたの?」

「……みたいだな。この辺って解毒が出来る水草があるのか」

「……これは後で要調査だな」


 とりあえず解毒までの間に体勢を立て直して、俺とアルもルストさんの近くの湖底まで移動はした。だけど、マムシさんの神経毒を解毒出来る水草があるのは想定外だったね。とはいえ、応用スキルの毒を解毒が出来るアイテムがそんなに大量にあるとは思えない。

 ぱっと見た感じでも、さっき首長竜が食べたのと同じような水草は見当たらないもんな。まぁじっくり観察してた訳じゃないから絶対とは言えないけど……。ここは再度同じ事があるという想定で動いた方が良いだろうね。


「とりあえず一斉攻撃は中止! 自己強化が切れるまでは各自、回避優先!」

「おや、首を振り回すんだね。近くにいる人は僕の後ろへ。『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」

「シュウさん、ありがとー!」


 そうして弥生さんを筆頭に、シュウさんの展開する風の防壁の後ろへと近場の人は退避していく。そこに襲いかかる首長竜の首による連続の薙ぎ払い攻撃が襲いかかっていた。

 ははっ、解毒された瞬間に元気な事で……。でもシュウさんの風の防壁によってその攻撃は受け流されていく。これならしばらく大丈夫そうだね。


 全体的にみんなはバラけて包囲している状態ではあるけども、今は攻勢に移れる状態ではないな。俺の近くにいるのはルストさんと、助けられた辛子さんと、アルと、ヨッシさんと、マムシさんか。

 攻撃を凌いでいるのがシュウさんと、弥生さんと、ワニの人と、翡翠さん。そしてサヤ、水月さん、アーサーはバラバラの位置にいる。


 ふむ、ここは少しでも情報を仕入れておくか。それと、場合によっては辛子さんとワニの人も戦力に加えよう。


「こんな感じでまた会うとは思ってなかったけど、辛子さん、数日ぶり」

「……だな。とりあえず助かったぜ、ケイさん、それにみんなも」

「良いって事だぜ。で、他のメンバーはどうなったんだ?」

「……他の奴らは全滅だ。強いぞ、あの首長竜は……」

「えぇ、そのようですね。ですが、倒せないという程ではないでしょう?」

「ま、やってみないと分からないけどな。とりあえず辛子さん、分かってる範囲で、特徴を教えてくれないか?」


 ルストさんは倒せると言ってるけど、その可能性を上げるためにも情報は必要だ。ほぼ全滅したとはいえ、3割は削っているんだから何かしらの情報はある筈。


「分かっている範囲では、基本的にあの首長竜は物理型だ。俺らは魔力集中に風属性の付与をされて一気に仕留められた。今は土属性付与の自己強化みたいだが、相当厄介だぞ」

「……なるほどね」


 今は土属性の自己強化だけど、風属性の魔力集中もありの物理型の敵か。あっという間に食い殺されたというのは風属性による移動速度の強化とかの影響なのかもな。

 それにしてもフィールドボスともなると当たり前のように複数属性を使い分けてくるのか。……なんで水中にいる首長竜が風属性を……取得条件的に考えたらそう変な事でもなかったな。


「とりあえずやるだけやってみるしかないな。……その前に識別しておくか」


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 26/49(上限値使用:12)


『劣オオプレシオ』Lv17

 種族:黒の暴走種(豪傑劣恐竜種)

 進化階位:未成体・黒の暴走種

 属性:水、闇

 特性:豪傑、強靭、俊敏


 うおっ、Lv17って高いな。それに思いっきり見たことのない特性があるし、豪傑劣恐竜種って何だよ。風の操作属性付与を使うけど属性としては風属性を持っていなくて、闇属性を持っているから光に弱いんだな。

 それにしても首長竜と呼んではいたけども、正式名称は劣オオプレシオか。大型化の進化を経由してクジラ並みの大きさに進化しているとみて良さそうだね。


「で、特性の豪傑って何?」

「なんだ、ケイさん知らないのか? それがフィールドボスの証の特性だぞ」

「あ、そうなんだ」


 辛子さんがあっさりと特性の豪傑の正体を教えてくれた。なるほど、この特性を得て豪傑種になった敵がフィールドボスとして判定されるという事か。


 さてと分かる範囲での情報は得たし、自己強化中はダメージの通りも悪いから効果が切れるまでは回避に専念しつつ、行動値の回復に当てようか。おっとその前に……。


「よし、辛子さん。ここから一緒に戦う気はある?」

「おう、あるぜ!」

「ほいよっと! 弥生さん、連結PTのリーダー権限をくれ!」

「意図は分かったけど、ケイさん、それはこっちでやっとくよー!」

「あ、ケイさん。俺じゃなくてもう1人の方がリーダーなんだよ」

「あー、なるほどね」


 PTの連結は各PTのリーダー同士でやる必要があるし、連結済みの今は弥生さんに最上位のリーダー権限があるから一時的に借りてから辛子さんを連結PTに入れようと思ったんだけどね……。辛子さんじゃなくて、ワニの人がリーダーなら弥生さんの方でやってもらう方が確実ですよねー。


 そしてシュウさんが攻撃を凌いでいる間に、壊滅したPTの方を再編成して辛子さんとワニの人も連結PTメンバーに加わった。他の死亡したメンバーはランダムリスポーンで離れた位置にいるか、拠点へと帰っていたようなのでその辺の再編成はスムーズだったようである。


 さて、なんとかこの劣オオプレシオを……何か長くて面倒くさいから首長竜でいいや。とにかくこの首長竜を倒してしまわないとね!

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