第423話 湖面の方から


 カマキリをアーサーと翡翠さんが倒した事だし、湖の奥へと進んでいかないとね。雑談しながらでも進んではいたけども、やっぱりこの湖は広いな。

 周囲を確認しながらという事もあるから、移動速度もあまり早くないとはいえそんなに進んでいないんだよね。これは探索を終えるには平日1日の夜だけじゃ厳しいか。


「そろそろ纏水の時間切れだから必要な人は再使用してねー! 特性の種や実の人もそろそろ時間切れだから、気を付けてー!」

「はーい!」


 弥生さんのその指示にハーレさんが元気よく返事をして、他のみんなも頷きながら効果が切れ始めた淡水への適応を再びしていっている。ふーむ、適応の種や実だと効果時間は1時間だし、頻繁に来るようなら情報ポイントで交換するのもありなのかも。まぁ淡水に関しては俺は要らんけど。

 そういやこれで2度目の纏水の再発動になるから、湖に入ってからは1時間程度は経ったんだな。現在時刻を見てみれば10時を少し過ぎた頃である。


「……ここでは水の小結晶が多いのはホントだね」

「お、今回分も確保出来てたか」

「……うん、問題ない。余りが出たから返すね?」

「数に余裕が出来たんだな。そりゃ良かった」

「……うん、ありがと」


 湖に潜る際に翡翠さんに渡した水の小結晶が戻ってきた。ちゃんと現地調達が出来てて良かったよ。予め聞いてはいたし現地調達とも言われていたけど、水の小結晶についてはドロップ率は高いんだな。まぁそれが無ければ溺死の可能性もある訳だし、バランス的にはそんなもんか。

 さてとみんなが適応のし直しも終わったみたいだし、先に進んで行こうかな。



 そうして少し進んでいくと、岩場が増えてきて水草が減り、水没して流木みたいになっている木が散乱している。その近くには急激に水面に向けて崖のような岩場が存在している。


「何か凄い崖があるかな? ケイ、上の方を照らしてくれないかな?」

「ほいよっと」


 サヤの要望に合わせてその水中の崖上部に懐中電灯モドキで照らしてみる。みんなその様子が気になるようで揃って見上げてみてるけども、どこまで続いているのかは分からない。範囲を絞って、光量を上げてもそれは変わらなかった。


「弥生さん、ここに関して何か情報ない?」

「えーと、これはマップの高低差の表示を変える必要がありそうだね。あ、事前調査した時にマップは埋めておいて良かったよ。ここ、小島の1つのすぐ横みたいだね」

「おー!? って事は、この崖の上は小島なんだねー!?」

「そういう事になるね。……え?」

「……弥生? っ!? ケイさん、上に水の防壁を!」

「なぜディーさんが落ちてきているのですか!?」

「っ!? 何があったのか分からんけど、まずいっぽいな!」


 照らしていたから気付いたけども、猛烈な勢いで沈んできているカバのプレイヤーがいるっぽい。っていうか、このカバの人、赤のサファリ同盟の人じゃないか?

 ただ沈んだだけの勢いにしては勢いがありすぎるし、ここら辺は完全に岩場だからそのまま落ちると落下ダメージで死ぬぞ。……狙いは外せないし、ここは魔法砲撃も使おう。


「アル、真下に移動!」

「おうよ!」


 魔法砲撃を使う関係上、受け止めるのなら真下からの方がいい。どうしても魔法砲撃での水の防壁が展開されるのは、始点の延長線上になるからな。斜めからだと変な事になる可能性が出てくる。


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 50/50 → 49/49(上限値使用:12)

<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 44/49(上限値使用:12): 魔力値 181/196


 アルは即座に落ちてくる予測地点に移動してくれた。魔法砲撃で砲撃化にして、右のハサミを視点に設定。望遠の小技も併用して、カバの人を狙っていく。群集が違うけど、ここにいるメンバーで多分受け止めるのに最適なのは俺だろう。


「多少のダメージは勘弁してくれよ!」


 多分聞こえていないだろうけど、これは言っておかないとね。右のハサミを構えて、狙いを定めて水弾を発射! 結構な速度でカバのディーさんに水弾が命中し、それと同時に水の防壁が展開されていく。

 どうやらかなり衝撃も吸収したようで、落下の勢いが止まっていた。ダメージも俺がトドメになるような事もなかったね。


「ケイさん、ありがと! ちょっと話を聞いてくるね!」

「ほいよ。水の防壁も少しずつ降ろしていくけど問題ない?」

「うん。それじゃちょっと行ってくる! 『アースクリエイト』『土の操作』!」


 とりあえず即座に死亡という事だけは防げたからね。そして弥生さんはささっと生成した小石を足場に俺の水の防壁の方へと駆け上がっていく。よく考えたら弥生さんのこの移動手段は基本的には俺が前にやってた小石の上を飛び移っていくのと同じものなんだな。

 そういやこの手法はまとめに上げてなかったから、後で上げておこうかな。プレイヤースキルは必要だろうけど、飛行手段を持ってない人には便利かもしれない。……レナさんとかね。


「っ!? これは不味いね!? ディー、とりあえず応急処置でこれを食べといて」

「……弥生さん。ごめん、助かった」


 少しずつ水の防壁を降ろしていくとそんなに会話が聞こえてきた。やっぱり小島の方で何かあったっぽいな。どうやら回復アイテムで回復させてもまだ問題がある状態のようである。


 水の防壁を俺のハサミの先まで降ろして、ディーさんの姿を確認してみると異常は一目瞭然であった。カバの表面に蔦のようなものが巻き付いていて、脈打つように動いている。

 そしてディーさんのHPも同時に減っていっていた。……これは、蔦にHPを吸収されている?


「……ディー、一体何があったんだい? 君がそんな状態になるとは、予想もしていなかったんだけども……」

「シュウさん、小島にいるドラゴンは樹属性じゃない。あれは草属性を得たフィールドボスのドラゴン……」

「なるほど、そういうこと事かい。……その蔦はそのドラゴンのスキルだね?」

「……そういう事。紅焔さんに焼き払って貰おうと思った瞬間に、尻尾で叩き落とされてさ」


 なるほど、小島の方は小島の方でドラゴンを見つけたんだね。でも本来予想していた樹属性ではなく、草属性って事で不意をつかれたという訳か。

 どうやらこの蔦に絡みつかれていると、継続的にHPを削られていくようである。蔦自体を除去しなければ回復アイテムでは一時しのぎにしかならないんだな。……となれば、やる事は1つか。


「ヨッシさん、溶解毒を猛毒の操作でお願い」

「了解。でも群集が違うから、ダメージがあったらごめんね」

「あ、その手があったね。でもちょっと待った。ディー、一旦PTを抜けてもらっていい?」

「あー、それは問題ないね。紅焔さん、すぐ戻るけど一旦PT抜けるよ。うん、さっきの奴を除去する為。うん、その後すぐ戻る」

「それなら一旦、僕がPTを抜けようか」

「あ、シュウさん、お願い」


 同じ連結PTに入れてしまえばPTメンバーへのダメージはなくなるから、その状況なら誤って殺してしまうという心配もないか。というか、ディーさんは青の群集のクモの人と釣りをしてた気もするけどグループとしては小島の探索グループだったのか。

 さてと現状ではフルの2PTで連結しているから、3PT目の連結は不可能なんだよな。1人ではPTとして扱われないから、この辺は仕方ない仕様だけれども……。


「とりあえずこれでいいね。弥生、お願いするよ」

「俺も準備完了。弥生さん、お願いね」

「急がないとね。……うん、これでよし」


 同じPTでは加入や脱退の表示は出るけど、連結先のPTではその辺の表記はないんだな。まぁメンバー一覧は見れるから、加入や脱退でメンバーが変わったのは分かるけども。

 よし、ディーさんが連結PTに入ったのは確認が出来た。これなら気兼ねなく蔦の除去を実行出来るね。


「ヨッシさん!」

「了解! 溶解毒で『ポイズンクリエイト』からの『猛毒の操作』!」

「お? おぉ!? 蔦が溶けていく!?」


 ヨッシさんにポイントで取ってもらうことになった溶解毒と神経毒だけど、思った以上に早くに出番がやってきたね。生成した猛毒の塊を操作して、ディーさんへとぶち撒けていく。まだ操作のLvが低いみたいで狙いは微妙だけど、まぁ今の状況では問題なかったようだ。

 共に応用スキルである溶解毒と猛毒の操作によって、蔦が原型を残さずにあっという間に消えていった。……うん、初めて見たけどすげぇ威力。そしてヨッシさんは役目を終えた猛毒はすぐに解除していた。


「ありがとう! 助かった!」

「いえいえ、どういたしまして。それでこれからどうするの?」

「ディーさん、自力で戻れますか?」

「あー、それなら大丈夫。弥生さん、水流の操作の使用は?」

「……んー、湖の中が荒れるのは心配してたけど、この際仕方ないね。うん、いいよ」

「弥生さん、サンキュー! それじゃ戻るね。『水流の操作』!」


 そしてディーさんは周囲の水を支配下に置いて水流を作り始めていく。なるほど、水流に乗って湖面まで戻っていくんだな。

 それにしてもカバのディーさんは水流の操作持ちか。湖の水を使っているから昇華になっているのかは分からないけど、赤のサファリ同盟のメンバーって事を考えると昇華持ちの可能性は高そうだよな。


「ディー、油断しないようにね?」

「……シュウさん、もうこんな醜態は晒さないって。あの草属性のドラゴン、絶対にぶっ倒してくる」

「頑張ってくださいね、ディーさん」

「言われなくともね! とにかく色々と助かったし、灰の群集の人達もありがとな!」

「共同での調査なんだし、気にすんな!」

「そう言ってくれると助かる! それじゃまた!」


 そう言ってディーさんは作り出した水流に乗って、湖面へと向かって戻っていった。この感じだと、これから小島の探索グループは激戦かもな。あ、これからじゃなくて既に激戦中なのかも……。

 それにしても草属性のドラゴンがフィールドボスって事はLvにもよるんだろうけど、強いんだろうな。うーん、戦ってみたい気もするけどそれをするとグループ分けした意味もなくなるか……。


「ケイ、ドラゴンと戦ってみたいのかな?」

「あー、まぁな。でも今行くとグループ分けした意味が無くなるし、今日は首長竜と湖底の探索でいいだろ」

「そうともさー! ドラゴンは今度の機会でやろうねー!」

「うん、私もその方針で賛成」

「ま、それが無難だな」

「……私もそれでいい。今は湖の中を楽しみたい」


 どうやらみんなも興味はあるけど、これから小島の探索グループに乱入しようとは欠片も思ってないみたいだね。

 そういやドラゴンといえば岩山の方に土属性のドラゴンがいるって話もあったよな。まぁ、Lv的に厳しそうな気もするからあそこはまだ無理な気もするけど。


「……ケイさん達はフィールドボスとはまだ戦った事はないのですか?」

「え? まだ戦った事はないけど、ルストさん、それがどうかしたのか?」

「……先程の救出のお礼も兼ねてですが、弥生さん構いませんか?」

「ん? あ、あの情報だね。別にいいよー!」


 なんかルストさんが気になる言い方をするね。何かフィールドボスに関する未公開情報とか持ってたりするのかな? ……そういやフィールドボスに関しては掲示板だけで、まとめ機能でちゃんと確認してないな……。

 もしかしたらまとめ機能に載ってるけど俺らが知らないだけの情報かもしれないけど、ここは聞いておこうっと。


「では、簡単に説明しますね。フィールドボスはLvが上がって強くなっていく事はご存知ですか?」

「おう、それは掲示板で見たから知ってるぞ」


 というか、その辺の情報を書き込んでたのはルストさんのような気もしないでもないけど、ここは敢えて触れないようにしておこうか。あの書き込みをルストさんだと断定したところで特に意味もないしなー。


「そうですか。ではそこには載っていない特徴をお伝えしましょうか」

「そんな特徴があるのか?」

「えぇ、あります。基本的にフィールドボスは同じ個体は存在しないんですよ。いえ、正しくは一度倒せば次に出現するフィールドボスは全くの別物になります」

「……はい?」


 え、どういう事? 一回倒したフィールドボスと同じ種族は再出現しないって認識で合ってるのか……? つまり、フィールドボスになっている草属性のドラゴンは誰かが倒したら再戦不可?


「ルスト、説明が足りないよ。正しくは、そのエリアで次に特に強くなった個体が新たなフィールドボスになる……だね」

「あ、もしかして同じ進化経路を辿れば、同じ種族のフィールドボスが生まれる可能性もあるって事?」

「正解だよ、ケイさん。そしてそれを意図的に引き起こす事も可能だね」

「え、マジで?」

「これ以上は流石に言い過ぎだね。後は自分達で確認しておくれ」

「……気にはなるけど、分かった」


 これはかなり重要な情報な気がする。倒す度に種類が変わる仕様のフィールドボスに、それを意図的に引き起こす手段もあるときたか。……やっぱり赤のサファリ同盟の情報は侮れないな。


「あー!? 確認してみたら、普通にまとめに情報あったよー!」

「あったんかい!」

「……灰の群集のみんなは優秀」


 翡翠さんの言うように、灰の群集は優秀なようである。灰の群集の情報も充分過ぎるほど、侮れないものである。さてと、どんな条件なのか気になるし、移動を再開しつつ少し確認してみようかな?


「おいおい、青の群集にはそんな情報はねぇぞ……。まだまだ青の群集は及ばないところが多いって事か……」


 へぇ、青の群集にはこの情報はないんだね。何やら青の群集を纏めようとしているジャックさんやジェイさん達に反発してる人達もいるみたいだし、その辺が邪魔になったりしてるんだろうか?

 

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