第414話 参加者が集まって


 この目の前に広がる大きな湖の探索は、4つのグループに分けるという事である。1つ目が湖の周囲の湖畔の探索を行うグループ。2つ目が湖の表層や湖面の方を探索するグループ。3つ目が点在する小島と少数ながら目撃情報のあるドラゴンを捜索するグループ。最後が本命の湖底を基点に湖の中を捜索し、首長竜を探すグループ。

 今日は臨時メンバーの翡翠さんもいるから、みんなから意見を聞いてどこに参加するか決めていこう。


「で、行くのはどこにする?」

「そりゃ元々首長竜って話だったんだから……って、翡翠さんか」

「アル、そういう事だ。それで翡翠さんは希望ある?」

「……私はどこでもいい。……ううん、言い方間違えた。私は臨時メンバーだけど、みんなとならどこへでも行きたい」

「そっか、了解」


 そう言いながら翡翠さんはヨッシさんに引っ付いていった。サヤやハーレさんとも仲良くなっていたけど、一番ヨッシさんに懐いているのは変わらないようである。

 それにしても翡翠さんは方針は俺らに合わせるつもりみたいだね。どこに行きたいという希望ではなく、誰と行きたいかという問題のようである。まぁいつものザックさん達が今日は居なくて、翡翠さんとしては暇だったんだろうな。


 そういう事なら、これから行く場所はいつものメンバーで決めていこう。って言っても、ほぼ決まってるようなもんだけどね。


「翡翠さんはこう言ってるけど、みんなはどうする?」

「そういう事なら首長竜を探しに行こうー!」

「表層もありな気もするけど、ここはやっぱり湖底かな?」

「そだね、私も湖底で賛成。ここまでの道程は分かったし湖面で遊ぶのは今度やる?」

「ヨッシ、それいいね! アルさんに引っ張ってもらって、水上スキーをやろー!」

「お、良いぜ。やろうじゃねぇか」

「それは別に良いけど、とりあえず今日の分な? アルはどうだ?」

「ん? あぁ、答えた気になってたな。おう、湖底の方でいいぞ」


 アルの高速遊泳と根の操作を組み合わせて引っ張って水上スキーみたいに遊ぶのもありだとは思うけど、今これからそれをすれば流石に怒られるだろう。やるなら個人的にやってきてだね。

 とりあえずみんなの意見は出揃ったし、首長竜の捜索をメインにやる湖底の探索グループで決定だな。


「んじゃ湖底に決定な!」

「おうよ。それじゃ、弥生さんのところに……おい、ケイ」

「ん? どした?」

「人が多くて、色々とぶつかりそうなんだが……」

「あー、木の人には当たりそうか」


 今はアルのクジラの背に乗ったままだけど、低空飛行にはなってるからそのまま移動すると間違いなくぶつかるね。牽引式に切り替えても場所を取るのは間違いないから、ここは上から行くのが正解か。


「よし、アル、上から飛んでいこう」

「おう、任せたぞ!」


 こういう時は空を飛ぶのに限る! 確実に当たらない高さを求めるのなら俺の水のカーペットもまだ必須だしね。地上と比べるとかなりスペースには余裕があるからねー。空飛ぶクジラ計画は初めこそ難易度は高かったけども、かなり実用性は増してきているもんな。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 59/59 → 57/57(上限値使用:3)


 水のカーペットをアルのクジラの下に生成し、持ち上げて浮かび上がらせていく。昨日は散々落ちまくったけど、デメリットは充分把握した。

 まぁだからといって、確実性のある対応策は思いついてはいないけどね。不意に落ちた際には無事に不時着させるか、落ちる前に通常発動で水のカーペットを作って対応だな。失敗からは学ばないとね!


「あー!? 他にも飛び始めたクジラがいるよー!?」

「え、マジか!?」

「……あれは、青の群集というか青のサファリ同盟か?」

「3人はいるみたいかな?」

「……やるな、青の群集!」


 青のサファリ同盟っぽい集団の人達の中からは、アルと違って何かと共生している風ではないけども水のカーペットに乗った状態で空中に浮かび上がってくるクジラが3人いるようである。

 くっ、この青のサファリ同盟か普通の青の群集かは分からないけど、俺らの手段は真似られてしまったか。という事は少なくとも水の昇華持ちが3人はいる可能性を考えておかないと。


「ねぇ、他にも巨大なタコがいない?」

「え、ヨッシ、どこ!?」

「ほら、あっち。月のある方」

「あ、ほんとだー!?」

「あれって擬態と空中浮遊持ちか?」

「……分かりにくいけど、あれは多分擬態。……でももっと気になる事もある」

「……もっと気になる事? えーと、なんだろ?」


 大きさは擬態のせいかハッキリとは分からないけど、かなり大きそうなタコであるのは間違いなさそうだ。そりゃ散々見せてきたんだから、空飛ぶクジラの育成計画が俺らとシアンさん達だけな訳もないよな。徘徊している成熟体もいるわけだし……ってもしかしてその1種か!?

 いや、よく見たら違うっぽい。なるほど、翡翠さんが気になる事ってのはこれか。そりゃ、これは確かに気になるな。プレイヤーの所属群集を示すカーソルの色が白であるということは、つまり……。


「……群集に無所属の人か」

「みたいだな。例の人以外にも未所属はいるのか」

「これはびっくりかな……」

「でも、どうしたんだろねー!? 群集に所属してない人って、何か問題ある人か、人付き合いが苦手な人だと思ってたよ!?」

「……そうだね。こんな大人数の集まっているところに来るのは変な感じがするね」

「……警戒した方がいい?」


 周囲の人達も無所属のプレイヤーが擬態した状態で上空から現れた事に警戒している。赤の群集の騒動の時のウィルさん以外の無所属プレイヤーとの遭遇は初めて? いや、無所属になった後のウィルさんにはまだ遭ってないから、完全に無所属のプレイヤーとの遭遇はこれが初めてになるのか。……移籍については除外で。


 ん? もっとよく見てみればタコの触手に抱えられた人がいるっぽい? あれ……思いっきり見覚えがあるんだけど……。


「……ほら、やっぱり無茶苦茶警戒されてるじゃん。だから、おいら嫌だったんだけど……」

「あはは、ごめんねー! でも送ってくれて助かったよー!」

「まぁ色々借りもあるから良いけど……」

「それなら灰の群集においでよー! 気さくな人も多いし、楽しいよ?」

「……考えとく」

「良い返事を期待してるねー!」

「……それじゃまた」


 そんな会話が僅かに聞こえて来たけども、どうやら特に何か問題があるって感じではないっぽいね? そして、上空のタコから飛び降りてきたリスの姿があった。タコの人は擬態したまま、何か推力になるスキルを使ったのか、あっという間にどこにいるのか分からないように消えていく。……うん、どういう人なのか謎なまま去っていった。


 そして言わずと知れたレナさんが盛大に湖に落ちたかと思えば、湖の上を駆けて湖畔までやってくる。うわー、自己強化を使ったみたいだけどやろうと思えば水の上って走れるのか。相変わらずレナさんは無茶な事を平然とやるね。


「遅れたけども、『渡りリス』のレナ、到着しました!」

「あ、やっぱりレナさんだったんだ! え、頼んでたのは終わったの?」

「うん、経路の確認と実物は確認してきたよ。……ラック、報告する内容はあるけど、細かい話はまた後でね」

「なになに、レナさん、その発言は気になるねー!?」

「ごめんね、弥生さん。他の群集にも情報を伝えるかは、灰のサファリ同盟で検討してからねー」

「へぇ、場合によってはなんだ? ふーん、どんな内容か気になるね?」

「弥生、そこまで。過度な情報詮索は僕ら自身が禁じているから、それを僕らがしたら駄目だよ」

「それもそうだね。シュウさん、止めてくれてありがと」


 ちょっと獲物を狩るような雰囲気に変わりかけていた弥生さんだったけど、シュウさんの一言でその雰囲気は霧散した。……なるほど、これが弥生さんの旦那であるシュウさんの力か。なんとなくだけど、弥生さんのストッパーがシュウさんっていう形なのかもしれない。


 それにしてもレナさんが居ないとは思ってたけど、この感じだと氷結草の群生地の確認に行っていたのか……? でも、飛行手段は……知り合いは山ほど居そうだしどうとでもなるか。ダイクさん辺りかな?

 それで確認が終了したから、さっきの無所属のタコの人にここまでの送迎を頼んだって感じかな? ダイクさんは……あ、フレンドリストを見てみたらログインしてないっぽい。ふむ、飛行を頼んだのは他の人だったのかな? ……もしくはレナさんなら自力で手段を編み出していても不思議でもないか。


「……それにしても、相変わらずレナさんはぶっ飛んだ登場の仕方をするよな」

「レナさんだしねー!」

「あはは、その一言だけで納得出来ちゃうかな」

「確かにな」

「まぁレナさんが無茶なのはいつもの事だしね」

「……いつもの事なの?」

「うん、いつもの事」

「……そうなんだ」


 翡翠さんはどうやらレナさんの無茶苦茶っぷりはあまり知らないみたいだね。まぁ誰もが知ってる筈もないし、そういう事もあるだろう。

 あ、そうしている間にベスタがレナさんに近付いていってた。普通にベスタも参加してたようだけど、どうしたんだろうか?


「レナ、遅れて来るのは構わないがもう少し大人しく登場しろ。グループ分けをしてたのが中断になってるじゃねぇか」

「およ? それは皆様、失礼しましたー!?」

「そういう事だから、お前らも決めたグループに分かれていけ! 遅れれば遅れるほど、探索する時間がなくなるぞ!」


 おぉ、こういう時はとてつもなく頼りになるベスタである。そのベスタの言葉を聞いた、この場に集まっている人達は目的のグループへの移動を開始していく。

 レナさんの登場に思わず集まってきていたラックさんと弥生さんも、集合場所に決めた位置に戻っていた。ふむ、リーダーの資質はベスタが一番上だな、これは。


「さて仕切り直して、移動していくか」

「「「「「おー!」」」」」


 俺らの目的のグループは湖底の探索グループだから、弥生さんが指揮を取ってるところだね。そっちの方へ空中から浮かんでいこうっと。

 青のサファリ同盟っぽい3人のクジラは湖の表層のようで、違うグループみたいだな。ちょっと話してみたかった気もするけど、目的のグループが違うのならば仕方ないか。


 そして弥生さんが指揮をする湖底探索グループの集合場所へとやってきた。ここにはシュウさんとルストさんがいるんだな。

 とりあえず挨拶をする為にアルの高度も下げて、背からみんな降りていく。ふむふむ、それなりに人数は集まってるっぽいね。


「お、やっぱりケイさん達はこっちに来たねー!」

「弥生さん、今日はよろしくねー!」

「うん、よろしくねー!」


 弥生さんとハーレさんの挨拶に続いてみんなで挨拶をしていく。弥生さん達がいるのは心強い話だね。他に誰か知ってる人はっと……。

 あ、いつの間にか姿が見えなくなっていたフラムとアーサーと水月さんもこっちに来てた。今回はサファリ同盟が主催側だから、フラム達はどちらかというと裏方なのかもね。


「さてと、それじゃ俺は中継の方に行きますか」

「フラム、お願いしますよ」

「フラム兄、ファイト!」

「おうよ!」

「あ、そういやフラムは中継するって言ってたっけ」

「おう、そうだぜ! ルストさんの視界で中継する予定だからな!」

「えぇ、そうなっているのですよ! まだここには来れないという方もいますからね!」

「ルストさん、近い近い近い!」

「おや、これは失礼しました」


 妙にテンションが上がっているルストさんが、急に距離を詰めてきた。毎度の事ではあるけど、この急激な距離の詰め方は止めてくれないものか……。


 そうして少し待っていると大体のグループ分けは終了したようである。俺らのグループで知っているのは赤のサファリ同盟の弥生さん、シュウさん、ルストさん、アーサー、水月さんだね。赤の群集では知らない人ばかり。

 灰のサファリ同盟はチラホラ会った事はある人はいるけど、人数は少なめ。レナさんは今回はラックさん達の方に行っているようである。オオカミ組は湖畔の方みたいだね。

 青のサファリ同盟には根本的に知り合いがいないけども、見知った人を2人発見した。シャコの三日月さんと、フクロウの濡れたらスリムさんである。そもそも青のサファリ同盟って誰がいるのか知らないしね。


「ホホウ、これはこれは数日ぶりですな」

「今日はよろしくな」

「こちらこそよろしくな、三日月さん、スリムさん」


 そういやフクロウが水の中で活動すると見た目はどうなるんだろ? うーん、気になるところだね。そんな事を考えている内にみんなも挨拶を済ませていた。


 今回は紅焔さん達はドラゴンの方に行ったし、どうやらベスタもそっちに行ったようである。それぞれ希望があるから、違う所になる事もあるよな。


「おっしゃ! 青のサファリ同盟、初の大型捜索だ。頑張るぞー!」

「「「「おー!」」」」

「ホホウ、皆さん気合が入っておりますね」

「ま、色々とゴタゴタもあったからな」

「スリムも三日月も、何を他人事みたいに言ってんだよ!? 昨日メンバー入りしたろ?」

「いやまぁそりゃそうなんだがな? ……興味が全く無いって訳じゃないが、サファリ系プレイヤーって訳でもないんだがな」

「ホホウ、私もですのでまだ違和感が拭えませんな」

「全く無関心でなければ良いって事よ!」


 知らない人も結構いるけども、どうやらスリムさんと三日月さんは青のサファリ同盟のメンバーになったようである。ふむふむ、ここにいるだけでも樫の木、ウマ、ヤギなどなど……お、ワニとかホタルもいるね。

 湖底に来ている青のサファリ同盟で指揮を取っているのはワニの人か。青のサファリ同盟のリーダーであるトンボのジークさんとは別に指揮をする人もいるんだね。当然といえば当然か。

 スリムさんと三日月さんが青のサファリ同盟っていうのも意外だったけど、漏れ聞こえてくる感じでは結構緩いっぽいね。まぁ、それはそれぞれの群集の特徴ってところだな。


 参加メンバーが揃ってきたのを見計らって弥生さんが動き出したみたいだし、そろそろ湖への突入も近いだろう。まぁその前に注意事項とかはありそうだけど。

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