第407話 夜の部、開始


 晩飯を食べる為にログアウトして、現実に戻ってきた。いったんの所では、特に新情報はなしだったね。スクショについてもまだみんなの承諾は出ていなかったので、多分それについては晩飯を食った後くらいだろうね。


 さてと、手早く食ってからゲームを再開しよう。それと晴香にも夜からの予定も伝えておかないとな。今日の晩飯は俺が材料を買ってきた酢豚だし……って、部屋の前で固まって何やってんの、晴香? あ、ドアノブ掴もうとして、俺がドアを開けたから手が空を切っただけか。


「あ、兄貴! ご飯出来てるよー!」

「ほいよ。その様子だと呼びに来たってとこか?」

「うん、そうだよ! ちなみに面接は受かりました!」

「お、良かったな。って事は、今週末は?」

「土日とも昼間は無理だけど、夜はやるよー! 昼間は夏休みの為に頑張ってきます!」

「ほいよ。頑張れよ、晴香」

「うん!」


 無事に晴香の短期のアルバイトの予定は決まったみたいだね。まぁ次の土日の昼間は居ないって事にはなるけど、晴香としては夏休みにサヤやヨッシさんに会いに行くのはそれだけ重要な事なんだろうな。

 ふむ、そうなると次の土日の昼間はあんまり遠出は無しだな。多分だけど、サヤとヨッシさんもその辺は合わせたがるだろうしね。まぁ今考えても仕方ないか。


「あ、そうだ。晴香、晩飯食ったら氷狼の出現場所付近に集合になってるからな」

「了解です! サファリ同盟の本隊からは遅れてみんなで出発だね!」

「あ、知ってんのか」

「昼間にラックから大雑把な予定は聞いてたもん!」

「なるほどね」


 晴香とラックさんはリアルで同級生なんだから聞いててもおかしくはないか。っと、そんなにのんびりもしてられないな。アルには多分サヤかヨッシさんが伝えてくれるだろうから、俺がやるべき事は早めに食べ終えて戻る事である。



 ◇ ◇ ◇



 ささっと晩飯を食べ終えて、食器の片付けも終了。晴香は先にログインしていったので、今頃は氷狼の場所に到着している事だろう。

 それにしても母さんは俺がパイナップルを買ってきていたのには驚いてたな。母さん的には買ってこないものと思っていたらしい。まぁパイナップルだけ晴香に進呈したから、喜んで食べてたけども。



 まぁ晩飯の一幕は良いとして、再びやってきたいったんのいるログイン場面! さっきログアウトした時は訂正されないままのバグ情報になってた胴体部分は『文面の修正忘れてたー!? 俺の頭もバグってんのか……?』となっている。そんな事、知らんがな!


「なぁ、いったんの胴体の文面って運営的にどういう扱いなんだ?」

「えっと、それは『親しみやすい運営を目指している』とかそんな感じだね〜」

「……親しみやすい運営?」


 色々と疑問はあるけども、確かに運営の人もちゃんとした人間なんだなっていうのは実感出来るか……? まぁもうちょい変な内容は減らしたほうが……いや、結局いったんがちゃんと説明してくれるし、これはこれでありなのかも?


「あ、そうそう。君が出してたスクリーンショットの承諾申請は全件承諾されたよ〜」

「お、マジか。どれどれ?」

「はい、これ一覧ね〜」


 いったんから承認済みのスクリーンショットの一覧を受け取って内容を確認してみる。あ、映ってるプレイヤーの名前は出ないけど、承諾か非承諾かの総数は出るんだね。

 みんなで氷結草の群生地で撮ったスクショは4人に承諾されたので、無事に外部出力は可能になった。ふむ、後で携帯端末の方に外部出力しておこうかな。


「これ、外部出力はどうやるんだ?」

「ここで出力先を指定してもらえれば出来るよ〜! デフォルトでの出力先はVR機器の本体の保存領域になります〜」

「あ、デフォルトは本体なのか。んじゃ、これ1枚はそれで頼む」

「はいはい〜。そのように処理しておくね〜」


 本体の保存領域はまだ余裕はあったはずだから大丈夫だな。でも結構ゲームで容量を使ってた筈だから、やらなくなったゲームの整理もしとかないとね……。


「はい、外部出力は完了したよ〜」

「いったん、ありがとな。んじゃそろそろ行ってくる」

「楽しんで来てね〜」


 いったんに見送られながら、ゲームの中へと入っていく。さーて、ゲーム再開だ!



 ◇ ◇ ◇



 再びゲームの中へやってきた。さて今日は夜の日だから、すぐに夜目を発動して視界を良くしようっと。何だか賑やかみたいだし、みんなの声も聞こえてきてるからね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 60/60 → 59/59(上限値使用:1)


 よし、これで視界良好。さてと、みんなは……あ、氷狼と戦ってる最中か? 戦っているのはサヤだけみたいだけど、ちょっと距離を取って何かを待っているみたいで様子がいつもとは違う。何やってるんだろ?


「これでトドメかな! 『共生指示:登録2』!」


 そのサヤの声と共にクマの手に巻き付いた竜の口から放たれた電気の弾が氷狼に直撃して、HPが全てなくなりポリゴンとなって砕け散っていった。これは魔法砲撃を使ったサヤの魔法の特訓かな?


「あ、ケイさんが来たよー!」

「お、ようやくか」

「ケイさん、待ってたよ」

「ちょうどいいタイミングだったかな?」

「ちょうど倒したとこだし、そうなるな」

「おっす、お待たせ。あれ、桜花さんもいるのか?」


 ふと見てみればアルの木の枝に止まっている桜花さんの2ndのメジロがいた。桜花さんがここにいるってのはどういう事なんだろう?


「おう! 夕方はちょっとリアル用事があって対応出来なくて悪かったな、ケイさん。氷柱とかについてはアルマースさんから受け取ってるからな!」

「あ、そうなんだ」


 夕方に桜花さんが居なかったのはリアルの都合って事なら仕方ないね。必ずいつでも居る訳じゃないんだし、そういう事もたまにはあるさ。で、今ここに桜花さんがいる理由は……あ、もしかして誰かが出張取引を頼んだのかな?


「桜花さん、もしかして出張取引?」

「おう、正解だ。俺もちょっとこの先のハイルング高原に用があるんだよ」

「ほう、ハイルング高原か。え、でもこっちから桜花さんって来たよな?」

「ボス戦の周回の方で、減り気味の回復アイテム補充の出張依頼だぜ。まぁ通れるのは1stの桜だけで、こっちのメジロじゃまだここの通過が出来てなくてな?」

「そこで退屈してた私達が倒す事になったんだよね」

「あー、なるほどね」


 まだ桜花さんの2ndの方では通過出来る状態では無かったらしい。多分未成体に進化している桜花さんのメジロでも今はもう雑魚の氷狼は倒せなくはないだろうけど、戦闘に拘りのない桜花さんはサヤ達に任せた訳か。

 そしてただ倒すだけでは簡単過ぎるから、魔法砲撃の特訓も兼ねて動く標的を用意して竜の電気魔法を使ってたってところなんだろう。


「でも、流石に進化階位が違うと苦手な魔法でも当たれば楽勝かな」

「当たれば……だけどね?」

「ヨッシ、あれは一応外してはないからね!?」

「尻尾に掠っただけは微妙じゃない? あの後、魔法砲撃を使ったもんね」

「サヤ、あれは外れに近いよー!」

「うっ!? 私には魔法砲撃は必須かな……?」

「頑張れ、サヤ!」

「……うん、頑張る」


 やっぱりサヤは近接には強いけど、まだ魔法系の狙いは万全とはいかないか。まぁそういう人の為の魔法砲撃なんだろうし、有効活用していけばいいだろう。

 サヤはクマでログインしてるけど竜の方で魔法砲撃を使ったみたいだし、上限発動指示から魔法砲撃を呼び出せるように登録を変えたんだろうね。


「んじゃ、俺は出張取引に行ってくるぜ! ケイさん達も湖の調査、頑張れよ!」

「おう! 桜花さんも頑張れよ!」

「桜花さん、またねー!」


 そして氷狼の討伐が終わった事でハイルング高原へと通れるようになった桜花さんの2ndが飛び去っていった。うん、相変わらず商人プレイの人として桜花さんは頼もしいね。


 さて、これで全員揃った筈なんだけど、さっきからアルが妙に静かだな? 情報共有板で書き込みをしてるか、まとめ情報でも見てるのか?


「おーい、アル? 何やってんの?」

「いや、まとめでかなり興味深い内容を見つけてな? どうやら例の成熟体の敵はかなり重要なスキルが手に入るみたいだぞ」

「あー、行動値増加Ⅱの事か」

「知ってたのか、ケイ!?」


 知ってたというか、その一連の流れを情報共有板を経由してとはいえリアルタイムで見てたしね。風雷コンビが見つけたんだよね、その情報。


「え!? 行動値増加Ⅱが手に入るのかな!?」

「アルさん、ケイさん、その情報は詳しくお願いします!」

「確かに行動値は重要だもんね」


 女性陣の方も思いっきり食いついてきた。まぁ気持ちは分かるし、俺も取りたいからね。今日これからすぐにとはいかないけども、どこかで取得は狙いたいもんな。とりあえず知ってる範囲の事を話していきますか。


「夕方……サヤとヨッシさんがログアウトした後の事なんだけどな。情報共有板を見てたら風雷コンビが成熟体の巨大な空飛ぶカメに挑むっていう事があってさ」

「え、そんな事があったんだ?」

「そう、あったんだよ。で、近場にいた他のヒョウの人が戦況の報告をしてくれてな。それで結局風雷コンビは負けたんだけど、その際に称号とスキルが手に入ったって感じ」

「おー!? 風雷コンビ、凄いねー!」

「それは俺も思った」


 実際に成熟体がどの程度の強さなのか戦ってみないと分からないけども、それに挑んでそれなりの時間を生き抜いたのは十分凄い事である。いや、次に機会があれば俺もやってやるけどさ。


「なるほど、そういう経緯か。ケイ、その後の情報は知ってるか?」

「いや、7時目前だったから時間切れでこれ以上は知らないけど。え、もしかして再現情報が出た?」

「あぁ、ベスタがやったっぽいぞ。確定条件がいくつか上がっている」

「マジか!?」


 流石はベスタと言ったところだね。2時間も経ってない筈なのに、もう再現情報が上がっているとは……。再現にかけては灰の群集の行動力は凄まじいものがあるよね。


「称号『格上に抗うモノ』の取得条件は、確定条件が5分以上死なずに生き残る事、人数は1人でも可能。不確定条件が連結して通常のPTの6人以上でやる場合は可能か不明、プレイヤーはおそらく未成体以上から、敵はプレイヤーより上の進化階位である事ってなってるな。PTでやる場合は全員が条件を満たす必要がありそうだとよ」

「あー、大体は予測通りか。まぁPTなら難易度は下がりそうだし、そんなとこか」


 まぁ連結PTの人数だと多過ぎるってのはあるから、PT6人までが条件ってところな気はするね。風雷コンビはPTを組んでただろうし、ソロでないと無理という訳ではないんだろう。


「はい!」

「どうした、ハーレさん?」


 いきなり元気よく手を上げてどうしたんだろうか? 特に何か問題になるような事……って、あー!? のんびり話し込んでる場合じゃない!?


「ハーレさんの言いたい事は分かった! アル、それ以上の詳細は後だ。まずは移動するぞ!」

「……そういやそうだな。すまん、脱線させちまった」

「とにかく出発準備かな!」

「そだね。詳しくは移動しながら話そうよ」

「そうともさー! みんな、挑む気になってるよねー!」

「んなもん、当たり前だな。取らない理由がない!」


 俺のその言葉に同意するように、アルもサヤもヨッシさんも頷いている。勿論、言い出したハーレさんもである。行動値は戦闘において相当重要な要素だから、多少の無茶をしてでも取らないと。

 だけど、今は出発が先だ。アルは木でログインしているけども、ここは大急ぎの移動方法を使っていくか。


「アル、悪いけどクジラに切り替えて貰えるか?」

「……あれだな? よし、分かった」

「ケイさん、アルさん、待った! まずはハイルング高原に移動してからにしない?」

「あ、それもそうだな。ここでそのままのクジラだと狭いか」

「……ヨッシさんの言う通りだな。ちょっと焦り過ぎたか」

「急ぐのは良いけど、焦るのは無しだよー!」

「そりゃそうだ」


 ちょっとハーレさんが言うと説得力が薄くなる気もするけど、言ってること自体はもっともだ。急がば回れという言葉もあるしね。


「とりあえずハイルング高原に移動してから、アルはクジラに切り替えな!」

「おうよ」

「それじゃ移動開始!」

「「「「おー!」」」」


 まずはハイルング高原に移動してから、高速移動の準備をしないとね。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ハイルング高原』に移動しました>


 そしてエリアを切り替えて、夜のハイルング高原へと移動していく。夜中ではあるけども、瘴気がなくなっているから清々しいものである。そして夜空に広がる星も見事なものだ。


「それじゃクジラに切り替えてくる」

「おう、早めによろしく!」

「分かってるわ!」


 そう言いながらアルが一旦ログアウトしていった。木のままでも高速移動は不可能ではないんだけど、クジラの高速遊泳とか自己強化が欲しいんだよね。その方がより早く辿り着く。


「星空が綺麗だねー!」

「でも実際に知ってる星座はないかな?」

「それは地球が舞台じゃないんだから仕方ないでしょ」

「うん、それもそうだね」


 まぁこの惑星が地球って設定は無かったはずだもんな。その割には地球にいる生物が基準ではあるけど、その辺はゲーム的な都合なんだろうね。

 そんな風に星空を眺めてアルを待っていれば、そう時間もかからずにアルがクジラで戻ってきた。よし、これで準備は完了。


「待たせた!」

「いや、そんなに待ってないから問題なし。さて、赤のサファリ同盟と灰のサファリ同盟に追いつくつもりで行くぞ!」

「「「「おー!」」」」


 みんなは気合十分である。さーて、先に出発している赤のサファリ同盟と灰のサファリ同盟の集団を追いかけよう。大人数だろうから、俺らよりは移動速度は遅いはず。

 一応気合を入れるために言ってみたものの、実際に追いつけるかはやってみないとわからない。でもやるまでだ!

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