第398話 次はどこへ?


 雪山にある洞窟の隠し場所のようなところで、正体不明だった匿名の情報提供者である十六夜さんと会うとは思わなかった。まぁ十六夜さんとはまた何処かで会う機会もあるかもしれないね。


 さてと改めて現状の場所の確認をしていこう。十六夜さんが飛んでいった側の出入り口は切り立った崖になっていて、氷柱や雪で入り口が分かりにくいようになっている。

 そして雪山の山頂以外は見渡せそうな景色であった。見える景色が雪原の森なので、これは山の反対側っぽい?


「……ここ、かなり高い場所だよな。それに山の反対側みたいだ」

「そうみたいだねー! うわー、大絶景だー!」

「あはは、山の中から結構高い位置まで来たんだね」


 雲海が見えるという訳ではないし、山頂まではまだ少しあるだろう。ふむ、少し下を見てみればこの下までは来れそうだけど、そこからだとこの場所は気付きにくそうではあるね。

 それにしてもこんな場所に氷結草の群生地があって、例の匿名での情報提供者に会うことになるとは思わなかった。そして相変わらずハーレさんが細かく位置調整をしているから、この大絶景のスクショを撮っているんだろう。


 さてと、そろそろアルとサヤの待ってるとこまで戻って相談しますかね。氷結草は見つけたけども、この群生した氷の草花を台無しにするのはちょっと気が引ける。


「アル、サヤ、とりあえず戻ったら相談がある!」

「断片的には聞こえてたから内容は予想がつくかな」

「って事だから、サッサと戻ってこい!」 

「ほいよ。行くぞ、ハーレさん、ヨッシさん!」

「あ、ちょっとだけ待って! 少しだけ氷結草を採集するよ!」

「ここまで来て流石に手ぶらは勿体無いもんね」

「あー、まぁ少しくらいなら大丈夫か。そういう事だから、もうちょい時間くれ」

「……仕方ねぇな」

「うん、分かったかな」


 そういう事で水のカーペットから降りたハーレさんが氷結草を何本か掘り起こしている。とりあえずこの場所をどうするかは別としても、サンプルとして氷結草そのものはいくつか持って帰ったほうが良いか。

 んー、可能なのであれば洞窟の下の方で増やせれないものかな? もし増やすのが可能なら、ここは観光スポット化してもいい気がする。


「採集、終わったよ!」

「ハーレ、お疲れさま」

「んじゃ、アルとサヤのとこに戻るか」

「はーい!」

「そだね」


 とりあえずこれからの方針を決める為にも合流しないとね。ハーレさんが水のカーペットの上に戻ってきてから、ここに来るまでの洞窟の縦穴に戻っていく。

 ここはやっぱり狭いから登ってくる時もかなり気を付けて操作はしているけど、全方位を同時に見る事も出来ないから時々飛び出ている岩とか氷柱にどうしても当たってしまうんだよな。水のカーペットは手動にしといて正解だった。


 そうして結構な高さのある縦穴を気を付けながら進んでいく。うーん、いっそのこと落下した方が移動としては楽なのか? 朦朧にはなるだろうけどダメージはないだろうし……。

 そんな風に縦穴の三分の一くらい降りて来たところで妙なものに気付いた。あれ、行きは気付かなかったけど、こんなところになんで……?


「……ケイさん?」

「急に止まってどしたのー!?」

「いや、この辺って壁になんか小さな引っ掻かき傷がないか?」

「え? あ、ホントだー!?」

「……十六夜さんかな?」

「いや十六夜さんは岩の操作で飛んでたし、ちょっと違う気がする。……よく確認しながら降りてみるか」


 氷の壁なのでよく見ないとちょっと分かり辛いけど、良く観察しながら降りていけば降りていく程に引っ掻き傷が深く、多くなっていた。所々には同じような大きさの溶けたような跡もある。

 引っ掻き傷のひとつずつは小さくて、下から見上げると分かり辛く、強引に足場にしようとして上から力を加えた結果のような気もする。これはもしかして……。


「ハーレさん、この傷ってもしかしてリスの足の爪じゃないか……?」

「あ、もしかしてレナさん?」

「ちょっと比べてみるー! あ、ほぼ大きさ一緒だー!」

「やっぱりか。レナさん、壁を蹴飛ばして駆け上がろうとして失敗したな……?」

「そうかも!? 確かレナさんって飛行手段は持ってないよ!」

「レナさんでもここは登り切れなかったんだね」

「むしろ、この高さまで登れているのが凄いけどな……」


 何だかんだでこの縦穴は結構な高さはあったから、飛行手段を持たないのにこの高さまで来ているのは凄まじい。どこか途中で留まれるような場所があったら上まで登り切れたんじゃないか……?

 でもこの感じだと途中で断念した感じだな。そうか、今日レナさんから洞窟に氷柱があるって聞いた時に言っていたあそこってここの事か。


「……おーい、色々と気になる会話が聞こえてるんだが俺らの事を忘れてないか?」

「色々と非常に気になるかな」

「……あ、2人ともごめん……」


 つい見つけてしまったレナさんの壁上りの痕跡に時間を割き過ぎてしまっていた。サヤとアルを待たせてるんだから、急いで戻らないと。

 そういや地味にサヤとアルの声は他にも聞こえてたけど、2人で何かやってたのかな? うーむ、俺らに向けての会話じゃなかったっぽいし、レナさんの痕跡の確認に気を取られてて聞き逃してた。まぁ戻ってから確認すればいいか。




 そして急いでアルとサヤの待っている場所へと戻ってきた。あ、思った以上に時間が経っててもう少しで3個目の小結晶の効果が切れそうである。

 とりあえずもう必要ないからハーレさんとヨッシさんが降りたのを確認してから、俺も降りて水のカーペットは解除。もう少しで操作時間は切れそうだったけど、速度を早くしなけりゃ水の操作の効果時間も相当長くなったもんだね。


「戻ったぞ。待たせてすまん、2人とも!」

「たっだいまー!」

「……ちょっと思った以上に遅くなったね」

「まぁ断片的に会話は聞こえていたし、成果もあったみたいだから別に良いけどな」

「逆に成果があり過ぎた感じかな?」

「まぁそうなるな……」


 氷結草の捜索自体がおまけだったし、流石に氷結草の群生地を見つけるのは想定してなかったもんな。アイテム的には是非とも採集したいけども、景色的には手付かずで置いておきたい気もするのが悩ましいところである。


「……ぶっちゃけ、どうする?」

「そう言われてもな……。俺とサヤは実物は見てないし……」

「はい! サヤとアルさんにお土産です!」

「あ、スクショ! ハーレ、ありがとかな」

「ほう、どれどれ?」


 実態を伝える為にハーレさんがさっき撮ってきたばかりのスクショをサヤとアルに共有して見せているようである。うーん、でもあれは実際に実物を見る方が確実に良いよな。

 あそこは外とも繋がっていたし、そっちから回り込めばアルとサヤが見るのもいけるか。近くまでいけば何とかなる範囲だったし、場所自体も小型化したアルのクジラならなんとかいられるだけのスペースはあった。


「これ、綺麗……。実際に見てみたいかな」

「確かにこりゃすげぇな……」


 アルもサヤもハーレさんの撮ってきたスクショを魅入っている。まぁ現実には氷で出来たような青白い花が氷の洞窟の奥で一面を埋め尽くすように群生しているなんて見れないもんな。これはゲームならではの景色だね。


「ケイはこれを公表するかどうかで悩んでるので良いのかな?」

「なるほど、こりゃ手付かずにしておきたくなるな」

「ま、そういう事だな。とは言っても他の誰かが見つけるのは多分時間の問題だしな……」

「だろうね。飛べる人さえ来ればすぐだし、私達が一番乗りでなかったしね」

「十六夜さんがいたもんねー!」


 少しの差ではあったみたいだけど、先客がいたのは間違いない。それにレナさん辺りが時間が空けば間違いなくリベンジしに来るだろう。……おそらくダイクさんを引き連れて。


「あ、そのヤドカリの十六夜さんがさっきの通り過ぎて行った人で良いのかな?」

「そうともさー! それとかなりの強者のようです!」

「……ケイ、例の匿名での情報提供者みたいな事を聞いてたよな?」

「あぁ、その張本人だってさ」

「……なるほどな」


 この辺は十六夜さん次第ではあるけど、俺らに関わってくる可能性もある話だからちゃんと伝えておかないと。とりあえず、簡単だけどもう少し詳しく洞窟の奥であった事をサヤとアルに説明しておこうっと。



 そして簡単にではあるけど事情を話し終えて、アルとサヤは得心がいったように頷いている。


「よし、事情は分かった。で、氷結草の群生地をこれからどうするかって話だな?」

「まぁな。一応、群生地がこの雪山の俺達が来た方向の反対側に通じてるっぽいのは確認したぞ。ハーレさん、そっちもスクショ撮ってたよな?」

「もちろんさー! はい、どーぞ!」

「……お、ハーレさん、ありがとよ」

「これって雪に覆われた森かな……? 私達の来た高原とはまるで違うね」

「マップの方角的にも南なんだよな。だからほぼ間違いなく山の反対側だ」


 何だかんだで洞窟は少ないながらも分かれ道はあったけど、位置的には結構南の方に来ているようだしね。流石に高度が結構上の方まで来てるとは思ってなかったけども……。


「……これを隠すのは無理だろうな。独占するのも不味いだろう」

「……ですよねー」


 既に十六夜さんは見つけているし、飛行手段を持った大型ではない種族なら見つけるのはそう難しくもない。それに氷結草がアイテムである以上は誰かが取りに来るだろうし、それを止める権利なんてものは俺らにはない。


「それじゃラック達、灰のサファリ同盟に任せよう!」

「ま、それが無難だろうな」

「やっぱりそうなるよなー」


 俺らだけではどうしようもないから、ここはそういうのが得意そうな人達に任せるのが得策か。とりあえず採集した氷結草と採集場所をラックさんに伝えて、その後の処置は任せよう。サファリ系プレイヤーなら、あの光景を無惨に散らすような事はしないはず。


「それで、ケイ? 外からなら私とアルもそこに行けるんだよね?」

「あー、大体の方角は検討ついたから多分な?」

「それじゃ見に行きたいかな! アルもそうだよね?」

「ま、折角そういうのがあるのが分かったなら見に行きたいとこではあるな」


 どうやら思った以上にサヤは氷結草の群生地のスクショが気に入ったようである。まぁ目的はほぼ果たしたようなもんだし、どこかから洞窟を抜けて雪山の外から見に行って今日は終わりくらいでもいいかもね。


「はい! 私も別アングルから見たいです!」

「よし、そういう事なら外から見に行くか」

「あ、でも冷凍蜜柑とかはどうしよっか?」


 そういや冷凍蜜柑とかの凍った果物を作る為に氷と雪の中に埋めたままだった。うーん、勢い余って潰してしまった感もあるし、そのまま放置でも良い気もする。というか、今から回収しにいってもまだ凍っているかどうかはちょっと怪しい気が……。


「それは帰りで良いんじゃねぇか? どっちみちカキ氷を食う為に、高原まで戻るんだろ?」

「そういやそうだな。それじゃ冷凍蜜柑についてはそうするとして……って、洞窟を出るなら戻った時に回収すれば良いだけじゃ……?」

「あ、そういえばそうだね」


 外に出るならここまでの道程を引き返す事になるから、冷凍蜜柑を作ったあの氷柱の採集場所にも戻る事になる。なんだ、余計な心配をする必要はなかったんじゃないか。


「……それについてなんだけどね?」

「どした、サヤ?」

「あはは、さっきそっちから青の群集のキツネの人がやってきてね? そっちの先に出口があるって教えてくれたんだ」

「え、マジで!?」

「おう、マジだぞ。灰の群集の高原の方向はどっちか教えてくれって聞かれたから教えておいた。どうやらあの空飛ぶクジラの目撃情報を聞いて来たらしい」

「あー、あの成熟体のクジラか」


 ふむふむ、まだ俺らが行っていない道の方から他のプレイヤーがやってきてたんだな。あのクジラは雪山の反対側から来たみたいだし、それを追いかけて灰の高原への抜け道としてここを使ったって事か。そしてそのおかげでこの先がどこに繋がっているかも分かったと。

 灰の群集の森林深部には青の群集からは転移で近くには行けないから、陸路を通ってやってきたんだろうね。っていうか、そのキツネの人は青の群集のサファリ系プレイヤーっぽいね。青の群集でも発足したという青のサファリ同盟の人だったりするんだろうか? あ、さっき聞きそびれたアルとサヤの会話の内容はこれ絡みなんだな。


「クジラってまだ高原にいるのー!?」

「さぁな? その辺の情報は仕入れてないから分からん」

「まぁあれに長々と居られたくはないな……」


 そういやあのクジラとかに関しての情報を仕入れたいと思ってたけど、雪山探索でそれどころじゃなかったね。まぁ知ってもどうにか出来る相手ではなさそうだし、無理に焦って情報を仕入れなくてもいいか。


「まぁクジラはいいとして、そっちの先から行った方が近そうではあるんだな?」

「うん、多分だけどね」

「それじゃそっちに行こー! 時間短縮だー!」

「私もそれに賛成」

「俺もそれでいいぜ」

「私もかな」

「よし、それじゃそれで決定だ」


 現在時刻は10時半。30分くらいならズレ込んでも良いとして、残り1時間ってとこか。これから外に出て山頂付近まで行って氷結草の見物をして、そこから冷凍蜜柑を回収に戻って、高原でカキ氷作りか。時間が足りるか微妙なとこだね。

 場合によっては冷凍蜜柑の回収やカキ氷作りは明日へ持ち越しかもしれないな。うーん、早く転移の種が欲しくなってきた。

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