第397話 見つけた場所
何かが通っていったというサヤの目撃情報もあり、みんなで警戒しながら洞窟の奥へと進んでいた。進む直前に纏氷効果が切れたので、氷の小結晶を3個目の使用である。
道中で何体か白いウサギがいて仕留めたけども、残滓ばかりだった。氷砲グマこそ暴走種だったけど他は残滓ばかりだし、誰かが先に来ているのは確実そうだね。
「……あ」
「ヨッシ、どうしたの?」
「私は纏氷を使わないんだから、纏瘴で回数稼ぎをしてようかなって今思ってね?」
「あー! それ、夕方にやっとくんだったー!?」
「……すっかり忘れたかな」
あー、そういや昨日の夜にサヤとヨッシさんとハーレさんが異常回復Ⅰを手に入れる為に回数稼ぎをやってたな。地道に回数を稼ぐ必要があるみたいだから、確かにこまめにやってた方がいいのかもしれない。
「そういやそんなのもあったな」
「アルさんは興味ないのー!?」
「いや、『異常回復Ⅰ』自体には興味はあるし取るつもりだぞ」
「えー! だったらなんでー!?」
「俺は水を昇華にしてから浄化魔法と瘴気魔法の方で取るつもりだからな」
「あ、そっか。それなら私も氷の昇華で同じようにした方が楽?」
「昇華魔法に行けそうならその方が楽だろうな。ミズキの森林の臨時拠点化が解除されてからならやりやすいだろ」
「……そうだね。あそこなら危険性は低いし、私もそうしようかな?」
あ、どうやらヨッシさんも俺が取得した時と同じ条件でやる気っぽいね。そしてアルも元々そのつもりでいた訳だ。まぁ発動後のデメリットはあるけども、予め分かってさえいればどうとでもなる範囲だもんな。
「サヤ、ヨッシが裏切ったよー!?」
「別に裏切ってはないと思うかな……?」
「あぅ!? ヨッシ、魔法で取らずに一緒に地道に取ろうよー!」
「……これは仕方ないね。分かった、一緒に物理で取るよ」
「やったー!」
しょんぼりと項垂れ始めていたハーレさんの様子に負けたのか、ヨッシさんは根負けしたようになっていた。まぁその辺の判断はヨッシさんに任せるとしようか。
「俺は別に何も言われないんだな?」
「アルは時間帯がズレるのもあるから仕方ないだろ。それとも女子高生3人組に割り込んでくるか?」
「……ケイは既に持ってるから、俺だけになるのか。ここは予定通りにしておくわ」
「ま、それが無難だろ。それより、どうせなら水の昇華の時に他の応用スキルの取得でも狙ってみるか?」
「……そういや、どっかで天然の大量の水を操作する必要があるのか。枝の操作じゃその必要はなかったんだがな……」
「微妙な差異もあるにはあるんだな」
根の操作や毒の操作はそのままLv6になれば即座に取得だったみたいだけど、水の操作の時は一度大量の水を実際に操作する必要があったもんな。この辺は属性的な問題か……? まとめでちらっと見た感じだと火、水、土、風、氷、雷の6種類の属性とその他の属性は区分が違うっぽいしね。
そういやそう考えると土の操作って、操作対象によって応用スキルの種類が変わるとかあるのかも? 俺は岩の操作は既に持っているから、砂漠辺りに行って土の操作Lv6で砂を操作すれば砂の操作が手に入る……?
これは多分まとめを見れば情報がありそうだけど、実際にLv6になったら自分で試してみようっと。
そんな風に雑談をしながら進んでいくと、段々と道が狭くなってきた。ここまで狭くなってくると小型化したアルでもぎりぎりか……?
「お、やっぱり割と目前だったか。移動操作制御が手に入ったぞ」
「アル、良かったかな!」
「おー! アルさん、やったね!」
「ま、現時点では特に使い道もないけどな」
「あはは、確かにそうかもね」
水の操作も根の操作も不要になった共生式浮遊滑水移動……もう滑水でもなんでもないけど、移動操作制御の為に根の操作と氷化を使っていて良かったようである。まぁ水の昇華にならなきゃ用途もないけど。
さて改めて周囲を見てみれば、右側の方に更に妙に狭い通路も発見。通れそうなのは俺とハーレさんとヨッシさんの3人か。うーん、サヤとアルを置いていく事になるからこっちはなし。他に道は……左後方に別の通路もあるけど、こっちも狭いな……。
「狭い道があるけど、これは無しだね!」
「確かにこれはみんなでは行けないね」
「……竜なら通れないかな?」
「サヤ、アルが絶対無理だから今回は諦めろー」
「……うん、それもそうだね」
とりあえず今はこれで良いだろう。もしその狭い方に行くとしたらアルがログイン出来ない夕方に改めてって形かな。さて、狭くなってきたとはいえ、どこまで行けるか試してみる? それとも通り過ぎた何かの姿は確認出来てないけど引き返す?
「悪いな、俺の大きさで制限がかかって……。それにしても通れそうな通路でも俺はぎりぎりか」
「ま、サイズ的なものは仕方ないって」
「……あ、すまん。空中浮遊の時間切れだ」
「あちゃー、時間切れか……」
どうしても共生進化で呼び出すと上限使用型のスキルは時間制限になるからな。いつもは再発動まで待ったり、俺の水のカーペットで補佐したり、サヤが背負ったりで対応してたけど、狭くなってきた状態ではあまり嬉しくない状況だな。
「サヤ、背負って行けるか?」
「うーん、この狭さだとちょっと自信はないかな……」
「なら俺の水のカーペットでーー」
「……ケイ、ちょっと待った」
「どしたよ、アル?」
「今回は再発動待ちでいい。丁度良いタイミングだから、その特に狭いとこの奥に行ってきたらどうだ?」
「……いいのか?」
「ま、如何にも何かありそうだしな」
確かに何かありそうではあるけど、ここでアルを置いていくっていうのも気は引けるんだよな……。でも再発動までは5分間待つ必要がある。まぁちょっと覗くくらいなら問題ないかな?
「ケイ、私が残ってるから気にしなくていいよ」
「え、サヤもか?」
「だって、ハーレがうずうずしてるしね。本格的な探索だとあれだけど、少しくらいなら待ってるよ」
「うー!? サヤに見抜かれたー!?」
「ケイさん、折角こう言ってくれてるんだし見に行くだけ見に行ってみない?」
「……そうだな。そうするか」
「やったー!」
アルとサヤが気を遣って言ってくれているんだし、ここは素直に好意を受け取っておこう。とはいえ、あまり待たせてもいけないのでサクッと奥の確認をするだけにしとこうっと。
「よし、それじゃヨッシさん、ハーレさん、手早く奥の調査に行くぞ!」
「行くぞー!」
「サヤ、アルさん、少し行ってくるね」
「おう、何かあれば良いな!」
「お土産、待ってるからね!」
「……お土産、あるんだろうか……?」
何が先にあるのか全く不明だから何とも言えないけど、何かお土産になるようなものがあれば確かに嬉しいね。とにかく短時間ではあるけど、サクッと探索してこよう!
「移動速度を重視するから、今回はハーレさんもヨッシさんも水のカーペットに乗ってくれ」
「了解です!」
「了解!」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 58/59(上限値使用:1): 魔力値 191/194
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 55/59(上限値使用:1)
「あれ!? 移動操作制御じゃないのー?」
「今回はぶつけそうな気がするから、安全第一でこっちを採用」
「あ、そういえば今日は何度も移動操作制御で落ちてるもんね」
ぐっ、ヨッシさんは痛いところをついてくるね。でも理由としてはその通りだし、あまり油断をし過ぎないように注意である。もし敵が出てきても攻撃に関しては、ハーレさんとヨッシさんに任せればいい。
そしてハーレさんもヨッシさんも素早く水のカーペットに乗ってきた。それじゃ狭い通路に向けて出発だ!
「それじゃ行ってくる」
「おう、行ってこい!」
「いってらっしゃい!」
サヤとアルは待機に残って、俺ら3人で狭い通路を飛んでいく。俺でかなりぎりぎりなので、通れる種族は割と限られるか。
「あ、ケイさん! 行き止まりー!?」
「ってあんまり進んでないぞ!?」
「これはハズレだったみたい?」
あまりにも進んでいない段階でいきなり突き当たりとか大ハズレかよ! ……いや、でもちょっと何か行き止まりの方がちょっと明るいような気もするぞ……? これは止まらずに行き止まりまで行ってみた方が良さそうかもしれない。
「……とりあえず行き止まりまで行ってみるか」
「何かちょっと変だよね!?」
「……何かありそうだね」
ハーレさんもヨッシさんも違和感を覚えたのか、異議もなかったのでそのまま行き止まりまで進んでいった。そして違和感の正体が判明する。
「あー!? 上に繋がってるんだ!?」
「……結構高いね。それに出口があるみたい」
「……何があるか分からないから、2人とも要警戒で!」
「了解です!」
「了解!」
ほぼ垂直に近い縦穴を水のカーペットで飛んで登っていく。これ、飛ぶ手段を持っていなければ結構厳しい道程だな。壁面はほぼ氷になっていて、出口から入ってくる光を乱反射させているようである。黙々とハーレさんが向きを変えまくっているから、スクショを撮ってるんだろうね。
少しの間、登り続けてようやく出口へと辿り着いた。……途中で敵の襲撃の可能性も考えていたけども、それはどうやら杞憂だったようである。敵の出現に警戒して見上げてばっかだったしなー。
その先にあったのは少し拓けた空間で、どうやら入ってきた洞窟と同じような入り口のようであった。吹雪はいつの間にか収まっていて曇り空のようである。そしてそこにある物は入ってきた入り口とはまるで別物だった。
「え、これってもしかして『氷結草』……?」
「わー!? 沢山生えてるねー!?」
「こりゃ凄いな」
その場所を埋め尽くすように葉や茎まで青白い草花が咲き乱れていた。そうか、こんな経路から行く必要があるから見つかっていなかったのか。これ、すげぇ神秘的な光景だ……。
レナさんは何でも出来そうな人な気もしてたけど、ここには辿り着けなかったって事なのかもしれない。でも、ここまで見事に大量に咲いていたら大々的には取って帰るのは躊躇いが出るね……。
あ、隅の方で氷結草を採集しているっぽい誰かがいる……? っていうか、思いっきり見覚えあるんですけど!?
「……賑やかだと思えば、『ビックリ情報箱』か」
「あー!? ヤドカリの人!」
「あ、以前は情報をありがとうございました。
「……いや、構わない。それにしても妙なところで遭ったものだな」
「十六夜さん、か。桜花さんのとこで会ったよな……?」
あの時は声をかけられるとは思っていなかったから、しっかりと名前を見ていた訳ではない。だけど見覚え自体はある名前だし、ヨッシさんが知っているって事は間違いないだろう。
見た目としても桜花さんのところで見かけた、俺と同じくらいの大きさのヤドカリの殻にヨモギが生えている姿そのものである。
「……人目が無いから別に良いか。あぁ、それは俺だ」
「……何でまたあの時は一言だけ言ってすぐ居なくなったんだよ?」
「……すまんな。オンラインゲームをやっていて言う事でもないが、人付き合いは苦手でな。だが、お前たちやベスタを筆頭に情報の検証を行っている者達には感謝している」
「いやー、それほどでもー!」
「こら、ハーレ。調子に乗らないの!」
調子に乗りかけているハーレさんの相手はヨッシさんに任せておくとして、十六夜さんはこの感じだと交流をあまりしない……というか交流が苦手な人ってところかな?
でも相当な実力はありそうな気はする。今までの情報をまとめると同調共有についての情報の初出は、おそらくこの人だ。
「まぁそれはどういたしましてと言っておくけど、十六夜さんも匿名だけど情報提供してるよな? 例えば同調共有についてとか」
「……あぁ、まぁな。ただ名前を出したくない関係上、半端な情報になってしまっているのはすまない……」
「いやいや、それは気にしなくて良いって! そもそもあれは任意であって強制じゃないんだからさ」
同調共有についてはただ単に情報が先行し過ぎていて、再現の為の条件が満たせられなかっただけの話だしさ。その辺の再現については出来る人がやっていけば良いだけの話だしね。
「……そうだな。もう少し気楽に情報提供をするとしようか」
「どうしても名前を出したくないのなら、誰かに伝えるってのは駄目なのか? 例えば桜花さんとかさ」
「……あいつは信用出来る。それも良いかもしれないな」
「そうそう、桜花さんは信用出来るからさ」
「場合によっては私達でも構わないよ。十六夜さんが良ければだけど」
「おー! それもいいね!」
「……ま、俺らに関しては公開する情報が増えても問題はないか」
そもそも俺はまとめ機能に専用欄すら用意されてるからね。どうも十六夜さんは俺らに対しては、それほど気になってない様子みたいだしそれも良いかもしれないね。もちろん十六夜さん次第ではあるけども。
「……少し考えてみよう。さて、すまないが俺はそろそろ失礼する」
「あ、一つだけ聞いていい?」
「……何だ?」
「少し前に私達の近くを通り抜けて行ったのって十六夜さん?」
「……PTがいるのには気付いていたが、詳しく見ていなかったな。それがお前たちだったのなら、俺で間違いない」
「やっぱりそうだったんだ」
ヨッシさんが確認したところ、サヤが目撃した何かの正体は十六夜さんだったって事なんだな。これで謎は無事解決である。
「……それと、ここはどうやら氷結草の群生地のようだ。……他にも生えている場所は確認はしたが、どこも数は少なかった」
「あ、そうなんだ。他にも生えてはいるんだな」
「……ここについての公表をするかどうかはお前たちに任せる。……また機会があれば会うこともあるだろう」
「おう! その時はよろしくな、十六夜さん!」
「……あぁ」
それだけ言うと十六夜さんは岩を生成してその上に飛び乗り、飛び出していった。ま、どこかでまた会うこともあるだろう。それにしても、ここから外に通じてるみたいだけどどの辺なのか分かるかな?
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