第395話 氷柱の採集


 みんなで手分けして、俺が移動操作制御ではなく普通の水の操作で水のカーペットを作り、サヤとヨッシさんが氷柱を切断して水のカーペットの上に落とし、ハーレさんとアルがそれを回収していくという手順だ。

 俺がやる事はそんなに行動値は要らないけど、少しだけ回復させてからやっていこうっと。


「これなら俺は小さくなってた方がやりやすいな」

「あ、それもそうか」


 そこそこ広めな洞窟っぽいけど、アルのクジラは巨体だもんな。狭い入り口の存在も考えるとどこまでも広いとは限らないし、動きやすくする為にも小型化させておくのが良いだろうね。


「『上限発動指示:登録2』『根脚移動』!」


 そしてアルのクジラは小さくなっていき、牽引式の状態へと変化していった。今までも何度か思ったけど、このサイズ変更って地味に重要だよね。あ、そんな話をしている内にそこそこ行動値も回復してきたね。


「それじゃ氷柱の採集をやっていくぞ!」

「「「「おー!」」」」


 さて準備も完了したし、氷柱の採集開始である。まずは俺が水のカーペットを用意しないと話にならないから、そこからやっていこう。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 36/59(上限値使用:1): 魔力値 191/194

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 33/59(上限値使用:1)


 よし、これで水のカーペットの生成は完了。多分大丈夫だとは思うけども、衝撃を吸収しやすいように反発力は低めでいつもより少し厚めに生成した。元の水量が多いから、少し厚さを増すのは特に問題ない。


「サヤ、ヨッシ、お願いねー!」

「任せてかな! えい!」

「スキルまでは必要なさそうだね。えい!」


 洞窟の天井から伸びている氷柱を竜に乗ったサヤと、頭の上にウニを移動させたヨッシさんが切り落としていく。切り落とされた氷柱は水のカーペットの上に落ちていくけども、衝撃を吸収しているおかげか割れる様子もなく、特に問題はなさそうである。


「それじゃ氷柱の回収だー!」

「だな。『根の操作』!」


 ハーレさんは自分で水のカーペットの上に行って直接拾っていき、アルは根を伸ばして根で氷柱を掴んでいく。ほうほう、掴んだら滑ったりするものかと思ったけど意外とそうでもないみたいだな。

 冷たさを感じる訳でもないから手掴みでも問題はないみたいだし、ハーレさんは次々と氷柱をインベントリに放り込んでいっている。これは予想以上に大量かもしれないね。


「あ、これ大き過ぎるみたい!? サヤ、ヨッシ! 大き過ぎると駄目だから大きさに気を付けてねー!」

「それは分かったけど、ハーレ、目安はどのくらい?」

「んー、1メートルを超えないくらいっぽい!」

「分かったかな!」

「うん、了解」


 へぇ、手当たり次第に大きいのも小さいのも切り落としてたけど、大き過ぎるとインベントリに入らないのか。その辺は夕方に採った竹と一緒なのかもね。大き過ぎるものはインベントリに入れられるように、適度に加工が必要と。


「ケイさん、ケイさん!」

「ん? ハーレさん、どした?」


 なんだか妙に長い氷柱をハーレさんが持ってきたけど……あ、これがインベントリには入らないやつか。ということは、加工の要求ってところ?


「それをハサミで切ればいいのか?」

「その通りです!」

「ほいよ」


 氷柱を切るには別にスキルが必要なほどではないみたいだし、普通にハサミで挟めば多分行けるだろ。ハーレさんもそのつもりでいたようで、氷柱の真ん中辺りで切れるように両手で持っていた。

 さて、それじゃハサミで氷柱を挟んで潰すように切る! あ、ちょっと折れるような感じで切れちゃった。……うーん、このハサミは打撃方面に特化してるから鋭利さは微妙だな。


「ちょっと崩れたけど、別に大丈夫さー! 次、お願いします!」

「ほいよ」

「そっちの長いのはハーレさんに任せて、そのまま採集出来るのは俺の方でやっていくぞ」

「アルさん、お願いねー!」

「おう、任せとけ」


 そんな感じで長過ぎた氷柱はハーレさんが俺の元に持ってきて切断していき、それ以外をアルが回収していった。その間にもサヤとヨッシさんは次々と氷柱を切り落としている。……効率はいいんだけど、このペースで行くとちょっと多過ぎません?



 しばらくそんな感じで続けていくと、俺の水のカーペットの上部にあった氷柱は全て切り落とされていた。周囲にはまだまだ氷柱があるとはいえ、ちょっとそこの一角だけ氷柱が存在しない空間になってしまっている。

 多分需要はあるだろうから桜花さんが引き取ってくれるだろうけど、これはちょっとやり過ぎたのでは……?


「なぁ、アル。これって、採り過ぎじゃね?」

「いや、案外そうでもないぞ」

「え、そうなのか?」


 これは意外な返答だな。これだけの量を採ったらインベントリも圧迫しそうな気もするんだけど……。


「ふっふっふ、ケイさん! この氷柱はスタック可能なんだよ!」

「あー、そうきたか」

「そして投擲の弾にも使えそうです!」

「……意味あるのか、それ?」

「石より脆いからダメージは微妙かもしれないです!」

「駄目じゃん!?」


 確かにこの氷柱だと石よりは強度という点では圧倒的に劣るもんな。ふーむ、凍結の状態異常になるとかならまだ分かるけど、その辺はどうなんだろう? 氷結草とやらがあるから、その辺も微妙っぽい気もするんだよな。


「あれじゃないかな? 爬虫類系の種族に効果があるとか……?」

「でもそれって氷魔法で充分じゃない?」

「……それもそうかな」


 サヤが案を出してみていたけども、ヨッシさんの一言であっさりと意見を覆していた。まぁ誰もが氷魔法を持ってる訳じゃないから効果はありそうではあるけど、そこまで劇的な効果は期待出来ない気もする。


「投擲に使えなくもないけど、基本的には加工用のアイテムっぽい感じか」

「ま、そんなとこだろうな。でも、氷柱を投げたら氷の操作を取れるんじゃないか?」

「確かに取れそうだねー! ふっふっふ、まだ同族の命を脅かすモノが残ってるからそれで取ろうかな!?」

「お、そういやハーレさんはまだそれが残ってたか」


 俺はパッと思いつく取得に使えそうな残ってる称号がないんだよな。別にヨッシさんのがあるから無理に取る必要はないけど、取っておいて損という訳でない。んー、空白の称号の利用以外で何か良い称号あったりしないかな?


「ま、とりあえず氷柱の採集はこんなもんでいいだろ」

「一応みんなも持っててねー! はい!」

「ま、一応持っておくだけ持っておくか」

「何があるか分からないしね」

「分かったかな」


 基本的にアルとハーレさんのインベントリの中へと入っていた氷柱もみんなで分けてインベントリに入れていく。

 氷柱はスタック可能になっているからインベントリを圧迫する訳でもないし、みんなが持っていても損をする訳でもないから別に良いか。みんながみんな必ずいつもいるとも限らないしね。よし、とりあえず分配完了っと。


「さて、次はどうする?」

「洞窟から出て山頂を目指すか、このまま洞窟を進むかのどっちかかな?」


 選択肢としてはサヤの提示したその2つってとこだろうね。俺としてはこの神秘的な洞窟を進んでいきたい気もするけど、どこに通じてるかの情報は一切ないんだよな。


「はい! 私は洞窟を進みたいです!」

「私も同じく洞窟で。ここ、雰囲気的に私は好きなんだ」

「あー、ヨッシさんの見た目的にもここは似合ってるもんな」


 毒属性が混ざって黒い模様は混ざっているとはいえ、氷属性で青白いヨッシさんのハチにはピッタリな場所だしね。まぁ今はみんな纏氷を使用中だから、雰囲気としてはみんな馴染んではいるけど。


「俺はどっちでもいいぜ。ケイとサヤはどうだ?」

「私も洞窟が良いかな。個人的には雪は珍しくないんだよね」

「サヤ的にはそうなるのか。んじゃ俺も洞窟って事で!」


 この洞窟がどこに繋がっているのかは気になるし、出てくる敵も気になるところ。山頂からの景色も気にならない訳じゃないけど、希望者の多い方を優先しようじゃないか。


「はっ!? 危機察知に反応あり!」

「ハーレさん、どっちだ!?」


 氷柱の採集に集中していたから正確に確認はしていなかったけど、この洞窟は入り口からすぐのところで2つ方向に分岐していた。真正面と左方面にそれぞれ道が続いている。おそらくこの襲撃はどっちかからの襲撃なんだとは思う。

 一応背後の洞窟へのエリア切り換えも可能性はない訳じゃないけど、ハーレさんの危機察知に任せたほうが良いか。


「真正面の通路!」

「あっ、大きな雪玉!? 『アイスプリズン』! あ、駄目!?」

「いや、ヨッシさん、充分だ!」


 下手な岩よりも大きそうな雪玉が投げられてきたけど、ヨッシさんの氷の檻がバラバラにしてくれた。とはいえ隙間のある氷の檻なので防ぎ切れずに雪が飛んできたけど、まだほんの少し効果時間が残っていた水のカーペットを防御に回した。

 ふー、結構奇襲を仕掛けてくる好戦的な敵も多いもんだな。まぁそうでないのは急いでいる時にはスルーしてるか気付いてないだけだけど……。さて、何が襲ってきたのやら。


<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 そして姿を表したのは真っ白いクマであった。大きさはサヤとそれほど変わらない。ついでに発見報酬って事はまだ誰も倒していない黒の暴走種って事だな。


「白いクマの黒の暴走種か」

「白いクマだと特に意外性はないとこだな」

「クマには負けないかな!」

「ササッと倒して、洞窟を進んでいきたいね」

「白いクマをぶっ倒せー!」


 俺らに襲いかかってきたクマだけども、まぁ色が違うだけでクマ自体は見慣れている。それにさっきの攻撃で何となくこのクマの方向性は見えた気もするからね。それでも一応識別はしておこう。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 29/59(上限値使用:1)


『氷砲グマ』Lv11

 種族:黒の暴走種(豪腕砲撃種)

 進化階位:未成体・暴走種

 属性:氷

 特性:砲撃、強靭、豪腕


 あ、大体予想通りの構成だったけどLvは相手のほうが上なのか。一応属性はあるけど、特性の内容的に氷属性は生存の為に持ってるだけで物理型と判断して良さそうだ。


「『氷砲グマ』でLv11! 属性は氷、特性は砲撃と強靭と豪腕! 多分さっきみたいに雪玉を投げてくるぞ!」

「投擲系のクマって事かな!?」

「間違いなく大型砲撃を持ってるねー!?」

「ケイ、どう動く?」


 大型砲撃で大きな雪玉を投げてくるのはほぼ確定。投擲系という事は近接にはそれほど強くはないだろうから、ここはサヤに一気に攻め込んでもらおう。


「俺とアルとヨッシさんで拘束魔法メインで雪玉を防ぐ! ハーレさんは投擲の種類を変えながら牽制しつつ、サヤが突っ込んでぶっ倒せ!」

「おう!」

「了解!」

「分かったかな! ハーレ、援護お願いね。『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』!」

「了解です! 『魔力集中』『狙撃』『狙撃』『狙撃』!」


 作戦が決まって、サヤは即座に氷砲グマに向かって突っ込んでいく。それを援護するようにハーレさんが氷砲グマの足に向けて、牽制の狙撃を放っていた。


「うー!? 地味に効果が薄いよ!?」

「効果がない訳じゃないから、そのまま続けろ!」

「了解です! 『散弾投擲』!」


 氷砲グマはハーレさんの狙撃を鬱陶しそうにしながら足で蹴飛ばしていく。そして散弾からは逃げるようにして奥へ行ったかと思うと雪の塊を抱え戻ってきた。……その奥に雪でも溜め込んでるのか……?


「『アイスプリズン』! これならなんとか防げそう」

「いや、待て! あれは魔力集中じゃないか?」

「げっ、魔力集中を使ってくるのかよ!?」


 アルの言うように氷砲グマの両腕が青白く光り始めていた。このくらいになってきたら雑魚敵ですら魔力集中を使い始めるのか。


「これは地味に面倒かな!? 『爪刃乱舞・火』!」

「わっ!? 『狙撃』『狙撃』『狙撃』!」


 あ、サヤに向けて小さな雪玉を同時に複数個投げ始めた。これは散弾投擲か!? サヤは上手く叩き落とすというか溶かしているし、ハーレさんもサヤが対処し切れなかったものを撃ち落としている。……完全な投擲系の敵って初めてのような気もするけど、距離を詰めるのが結構難しいな。


「予定変更! 大きな雪玉はヨッシさんの拘束魔法、俺の魔法砲撃で対処! アルはハーレさんと2人で小さな雪玉を対処! サヤは迎撃をみんなに任せて突っ込め!」

「了解!」

「分かったかな!」

「おう!」

「頑張るぞー!」


 とりあえずこれでやってみるしかないな。Lvが上の未成体が相手になってくると、個体差はあるんだろうけど厄介になってきたね。

 でも極端に強過ぎる感じもしないし、正しく対処出来れば負ける気はしない。さて頑張って倒しますか!

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