第324話 纏瘴と纏浄


 翼竜の弱点の確認の完了や、新たな毒の存在も分かったところでエンの分身体の始末である。とりあえずこの分身体については試せるだけの事はやっていこう。

 纏浄の効果はルストさんが使ったので見たし、纏瘴の使用は直接は見てないけど招き猫さん達が検証済み。どちらも無しは俺らで試したから、エンの分身体を倒す上で何か検証する必要があるものってあったっけ?


「なぁ、ベスタ?」

「なんだ、ケイ?」

「まだ試してない検証内容って何があったっけ?」

「……一応あるにはあるぞ。火や海水がどの程度効くかとか、水分吸収をしても大丈夫かとか、どの状態異常が効果的かとかな」

「……それ、やり始めるときりがないんじゃ?」

「まぁそうなるな。分身体の討伐の検証自体は既に分かっている範囲で充分だ。確認するとしてもLvの変動くらいか。『識別』!」

「何か違いはある?」

「Lv8か。金属塊がある転移地点ではどうやら完全復活でLv上昇のようだな」

「そうなるのか。他のとこのは?」

「途中普通の転移地点の分身体はLvの変動は確認されていない。おそらく金属塊のある場所だけだろう」

「なるほどね、これもクエストの仕様の1つって事か。それでどうする?」

「まぁ放置でもいいが、こいつの復活の段階調査もしたいからな。それに纏瘴も纏浄も24時で効果時間はリセットのはずだ。赤の群集は纏瘴、灰の群集は纏浄で一気に仕留めるぞ」

「ほいよ」


 まぁ纏浄とかもどこかで1回は使っておきたいとこだし、ここで試してみるのも悪くないかもしれないね。それにしても金属塊のある転移地点で再出現するエンの分身体は元の大きさまで成長すればLvが上がるのか。

 下手に倒し過ぎるとLvが上がりすぎて後々苦労しそうだけど、これは成長途中で倒した際の状況も確認する必要がある。Lv10くらいまでは確認に必要かもしれないね。まぁLv10を超えてる人も少ないけど、いないわけじゃないし大丈夫だろ。流石に際限なく上がり続けるって事はないだろうしね。

 今のメンバーでの最高LvはベスタとルストさんのLv15。そういや未成体でLv10を超えるとそのLv帯の敵が少なくなって伸び悩むとかそんな感じの事は掲示板で見たっけ。


「ベスタさん、私ら見学にしとくねー! どう考えても過剰戦力だしさ」

「いやー、リーダーがいると楽で良いな」

「さてと、これで確定情報に出来るだろうから編集作業を手伝っておこうっと。翼竜の攻略方法もだな」

「ベスタさん、中継依頼来てるけど構わないかー?」


 そして招き猫さんを筆頭に俺達の連結PT以外は観戦モードに移行して……いや、元々翼竜の件でみんなそうなってたような……。まぁ電気魔法での麻痺を手伝ったくらいでほぼ俺も見てただけだったけどさ。


「はぁ、この辺に群集の違いを猛烈に感じるな……」

「だよな……。ちょっと前まで赤の群集だとこんな状況になったら野次が飛びまくってたのにな……」

「ルアーさんもライさんも落ち込まないでいいでしょう? 最近はそういう事は少なくなってきたじゃないですか」

「そうだよ! 今から赤の群集をもっと変えていくんだ!」

「……アーサー、成長しましたね」

「始めた当初の迷惑をかけまくってたアーサーがここまで変わるとは……」

「水月、フラム兄!? その話はやめてってば!?」


 何やら灰の群集のこの光景に赤の群集の人達には思う所があるらしい。観戦モードに入っている赤の群集の人達も同意するように頷きまくってるし……。特別変な事をしてる訳でもないのに、この反応ってよっぽど酷い状況だったんだな。


「あの、皆さん? 戦うのではなかったのですか?」

「もうちょっと俺に気を配ってくれても良いんじゃねぇか!? 盾代わりになってるから結構ダメージあるんだぞ!?」

「わー!? ちょっと見ない間にアルさんのクジラがボロボロだー!?」

「アル、大丈夫か?」

「その心配はもう少し早くにしてほしかったところだがな。まぁ耐久性はあるからまだ大丈夫だが、クジラでログイン中だから木からの回復が出来ん!」


 アルが死ぬとは欠片も思っていなかったのであまり気にもしていなかったけれど、クジラの方のHPが半分を切っていた。木の方はほぼHPは満タンなのは、ほぼ全ての攻撃をクジラで受けているからかな? 今更言っても仕方ないし、空を飛ぶ件があったから間違った選択ともいえないけど、アルには支配進化が向いていたのかもしれない。

 それはそうとして回復アイテムはあまり使ってないみたいだし、まだアイテムを使うほど切迫もしていないってとこなんだろう。んー、それでも1個くらいは回復アイテムを使っておいた方がいいんじゃないか?


「とりあえず蜜柑投げるからアルさん、口開けてー!」

「いえ、回復でしたら私が。『果実生成』『枝の操作』!」

「わっ!? 食べてないのに蜜柑が当たっただけで回復したー!?」

「あんがとよ、ルストさん!」


 ルストさんが蜜柑を生成し、それを枝を操ってしならせ投石機のような感じで蜜柑をアルのクジラにぶつけていた。そして蜜柑が潰れて飛び散るが、それを浴びたアルのクジラのHPが急速に回復していく。

 回復量は3割ちょっとってところか? 消費行動値が多いスキルとはいえ、思った以上の回復量である。


「ルストさん、回復量は多いんだな?」

「えぇ、私は純粋な蜜柑の木ですからね。レモンの生成は出来ませんが、その分だけ回復量は上ですよ」

「あ、なるほど。そういう事か」


 そういや桜花さんが純粋な蜜柑の方が柑橘で色々作れるのより上質とかそんな感じの事を言ってたっけ。ふむふむ、進化の方向性によって随分と変わるというのがアルとルストさんを見ていると実感するね。


「……よし、いつまでものんびりしてられねぇな。行くぞ、赤の群集! 『纏属進化・纏瘴』!」

「おっしゃ、頑張るぜ! 『纏属進化・纏瘴』!」

「コケのアニキ、俺も頑張るよ! 『纏属進化・纏瘴』!」

「そうですね。まだ後編も先があるでしょうし、やるべき事をしましょうか。『纏属進化・纏瘴』!」

「ははっ、面白くなってきた! 『纏属進化・纏瘴』!」

「やれやれ、ようやくですか。さて私もと言いたいのですが、まだデメリットの3時間が経過していないのでここはお任せしましょう」


 ルストさん以外の赤の群集のみんなが纏瘴を行い、それぞれに禍々しい瘴気を纏っていく。ルストさんって纏浄を使ったの6時前だから、もう3時間は……あ、もしかして使った開始時間から3時間じゃなくて効果が切れてから3時間なのか!?

 それならルストさんが纏瘴が使えるようになるのは10時頃……? これって、地味に重要情報な気がするね。


「俺らも行くぞ! 『纏属進化・纏浄』!」

「「「「『纏属進化・纏浄』!」」」」


<『浄化の輝晶』を使用して、纏属進化を行います>

<『支配ゴケ』から『支配ゴケ・纏浄』へと纏属進化しました>

<『傀儡ロブスター』から『傀儡ロブスター・纏浄』へと纏属進化しました>

<『浄化制御』『浄化の光』が一時スキルとして付与されます>


 ベスタの掛け声に合わせて俺らも纏属進化を行っていく。あ、この纏属進化だと問答無用でコケもロブスターも両方共に進化するのか。身体の内側から暖かな光が溢れ出すようにして進化完了である。

 みんなを見た感じでは共生進化でも両方共に纏浄になっているみたいだね。やっぱり纏属進化ではあっても今までのものとは別物のようである。


「長期戦にはするな! 灰の群集で邪魔な根は引き受ける! 赤の群集は一気に本体から切り離せ! 『浄化制御』!」


 そしてベスタの爪が浄化の光を放ち出す。そういや魔力集中の浄化専用版みたいな事を言ってたね。俺も発動しておこうっと。


<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『浄化制御Lv1』を発動します>  行動値 56/56 → 55/55(上限値使用:2): 魔力値 178/180 :効果時間 10分


 おぉ、思った以上に力強い浄化の光を感じるね。……そして、エンの分身体の根が思いっきり狙ってきている。ルストさんが纏浄を使った時にも思ったけど、狙いが思いっきり露骨に変わるんだな。

 ってか、思いっきり根が迫ってきてるし!? まだ本体から切り離されていないからダメージは与えられない。ここは回避一択だな。


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 52/55(上限値使用:2)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『増殖Lv3』が『増殖Lv4』になりました>

<行動値を3消費して『スリップLv3』を発動します>  行動値 49/55(上限値使用:2)

<纏浄のデメリットが発動します>


 うおっと、とりあえず根を滑らせての回避は成功。こうなるというのは分かってたけど、魔力値とコケの群体数とロブスターのHPが減った……。すぐに影響が出る範囲ではないけど、コケの群体数についてはロブスターの体表以上は増やせないから気を付けないと。

 いや、核がロブスターから離れられないだけだから、群体数を増やすだけなら別に大丈夫か? ふむ、試すにしても常闇の洞窟内ではちょっと微妙だな。


「水月、ライ、一気に攻めるぞ! 『大型化』『瘴気制御』『斬化ヒレ』『連閃・瘴』!」

「分かりました! 『瘴気制御』『爪刃乱舞・瘴』!」

「俺、物理は微妙なんだけどな。ま、やるだけやろうっと。『並列制御』『ポイズンボム』『毒の操作』!」


 纏瘴で被弾率を下げて、俺らが纏浄で攻撃をひきつけている間に根を素通りして赤の群集のみんなが攻勢へと転じていく。禍々しい瘴気を纏った連撃によりあっという間に分身体は本体から切り離されて、ただの瘴気強化種へと変化していった。

 よし、初めから応用スキルを叩き込めば問題なしか。ここから灰の群集も攻め時だ!


「一気に畳み掛けろ! 『爪刃乱舞・浄』!」

「分かったかな! 『浄化制御』『爪刃乱舞・浄』!」

「ふっふっふ! 仕留めてみせるのさ! 『浄化制御』『アースクリエイト』『散弾投擲・浄』!」


 そしてベスタとサヤが浄化の光を纏った爪での連撃で、俺達を執拗に狙ってくる根を断ち切っていく。それによって出来た突破口を目掛けてハーレさんの散弾が炸裂した。おー、流石はダメージ増強の効果があるだけはあるね。結構な威力でHPは3割は減っている。残りHPは7割だ。


「アーサー、準備をしてください! 『重爪斬・瘴』!」

「水月、分かった! 『重突衝撃・瘴』!」


 さて、水月さんとアーサーがチャージを開始したので、俺もやりますか。それにしても禍々しい銀光というのも変な感じだね。

 まぁ、それはいいとしてとりあえずアルの背中に跳び乗ってっと。アルがクジラでログイン中ならこれだろう!


「アル、突進準備!」

「おうよ! 『激突衝頭撃・浄』!」


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 48/55(上限値使用:2): 魔力値 156/180

<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 29/55(上限値使用:2)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を20消費して『殴打重衝撃Lv1・浄』は並列発動の待機になります>  行動値 9/55(上限値使用:2)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>

<纏浄のデメリットが発生します>


<『殴打重衝撃Lv1・浄』のチャージを開始します>


 生成した水流を周囲で循環させて、勢いを増していく。ある程度の広さはあるとはいえ、アルを水流に流しながら勢いを付けるには流石に狭いから最後の勢いをつけるだけが目的だ。っていうか、デメリットでのHP減少とかって行動値が増えたら減少する量も増えてない!?

 現時点で応用スキルのチャージに入ったのが、俺、アル、アーサー、水月さんである。アーサーも銀光を纏っているので応用スキルで間違いないはずだ。おそらく俺がログアウトしている間にでも取得したのだろう。


「てめぇの相手はこっちだ!」

「邪魔はさせないかな!」

「回復は任せください。『果実生成』『枝の操作』!」


 そしてサヤとベスタの2人が通常攻撃で浄化のデメリットによってHPを削りながらも、時間を稼いでいく。そこにルストさんからの蜜柑による回復も行われていた。

 へぇ、潰れた蜜柑の粒や果汁が届く範囲なら複数人を同時に回復出来るんだ。少し回復量は落ちるみたいだけど、これは便利そうだね。


「ヨッシ、毒の拘束魔法をお願いかな!」

「了解! 麻痺と腐食でいくよ。『並列制御』『猛毒の操作』『ポイズンプリズン』!」


 おぉ、猛毒の操作でもそういう真似が出来るのか。ヨッシさんの麻痺毒と腐食毒の複合毒による毒の球へと分身体が閉じ込められて、操作もされているので逃げるのも難しくなっている。うわ、植物系には腐食毒の効果は高いけど、複合毒にした事で麻痺毒の行動阻害まで入るのか。ヨッシさんの毒はとんでもなく恐ろしい事になってるね。


「……流石にボスではないとしても、イベントの敵はそう甘くないみたい……?」


 凄まじい事にはなっていたけれど、割と早い段階で効果は切れていた。ふむ、これはヨッシさんくらいの状態異常特化で初めて毒が入る感じか。


「いえ、ヨッシさん。充分です!」

「行くぞー!」


 だが、それだけで充分であったようだ。チャージを終えた水月さんの斬撃を受けた後に、アーサーの突撃を受けていく。HPは残り4割ちょっと。特攻ダメージのない纏瘴だとそんなもんか。

 さて、いくら不動種が硬いとはいえこの次の攻撃には耐えられるかな? 耐えられると面倒ではあるなー。


<『殴打重衝撃Lv1・浄』のチャージが完了しました>


 よし、チャージ完了だ。あとは攻撃を叩き込むだけである。水流を操り、アルを押し出すように調整していく。


「アル、行くぞ!」

「おうよ!」


 そしてアルを水流で押し流し、エンの分身体へと突撃していった。あ、意外としぶといな、こいつ。


「ちっ、ほんの少し残りやがったか!?」

「任せとけって!」


 即座に自分の水流へと飛び込んで、アルを迂回してエンの分身体へと直撃コースに設定していく。さぁ、これでとどめだ!


「無駄に硬いんだよ、不動種ってのは!」


<ケイがLv9に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndがLv9に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 そしてエンの分身体に水流の勢いを乗せたハサミを叩き込むと、HPを全て削り取りポリゴンとなって砕け散っていった。それと同時にHPも群体数も魔力値もごっそりと減っている。まぁそういう仕様だから仕方ないか。

 ついでに経験値は意外と多かった。ふむ、途中でそれなりに倒してはいたし翼竜も経験値は悪くなかった。でも1回目の時より明らかに多いし、ちょっとエンの分身体は経験値が少し変な気もする。これは何かある?


「うっわ!? 討伐早!?」

「招き猫、俺達の時ってどのくらいかかった?」

「えーと、20分弱くらいだったかな?」

「でも前より硬くなってなかった?」

「あ、それは思った。復活する度に強くなるやつか?」

「それでも5分もかかってなかったよな? 流石リーダーに、『ビックリ情報箱のPT』だ」

「赤の群集の人も強かったよね? 意外と侮れないかも……」

「灰の群集、強いなぁ……」

「そういやライさんは?」

「あれ? そういやどこ行った?」

「強いのに擬態メインだからどこにいるのか分かんないだよな、あの人」

「……好き勝手言ってるのはどいつだー!?」

「うわっ!? びっくりした!?」

「……いや、実際やることなかったけどな。フラムの奴も特に何もしてねぇし」

「……あれは仕方ないんじゃね?」


 どうやら招き猫さん達は倒せたと言っても、今の戦闘よりは時間がかかっていたようである。まぁ無駄に硬かったから……ちょっと待って、エンの分身体って1回倒したけど今回よりは楽だったような? 

 これは意外とLv上昇による強化幅が大きいのかもしれない。可能なのであれば完全に復活させる前の成長段階で仕留めておいたほうが良いのかもね。それでLvが上がらないのであればだけど……。



【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:支配ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 8 → 9

 進化階位:未成体・支配種

 属性:水、土

 特性:複合適応、支配


 群体数 82/5050 → 82/5200

 魔力値 103/180 → 103/182

 行動値 9/57 → 9/58


 攻撃 64 → 66

 防御 89 → 92

 俊敏 68 → 70

 知識 127 → 132

 器用 134 → 140

 魔力 177 → 184



 名前:ケイ2nd(ログイン不可)

 種族:傀儡ロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 8 → 9

 進化階位:未成体・傀儡種

 属性:なし

 特性:打撃、堅牢、傀儡


 HP 2854/5150 → 2854/5350

 魔力値 84/84 → 84/85

 行動値 45/45 → 45/46


 攻撃 148 → 155

 防御 141 → 148

 俊敏 112 → 118

 知識 54 → 56

 器用 54 → 56

 魔力 28 → 29

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