第303話 共闘イベント、後編開始
<『始まりの荒野・灰の群集エリア4』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
アルの昇華に気を取られて時間がぎりぎりになってしまったので、大慌てである。……まぁ時間短縮で荒野の群集拠点種までの帰還の実を使ってからここに転移してきただけなんだけど。森林深部へ直通の帰還の実は温存である。
周囲を見渡してみれば、大量の人が集まっていた。まぁみんな大きさがバラバラなので、動く邪魔になったり、視界の妨げになってたりはしないんだけどね。
邪魔になる場合はむしろ巨大なアルのクジラとかの場合だね。まぁ今はクジラは小型化中で共生式浮遊滑水移動の状態だから問題はない。
「10分前か。何とか少しの余裕はあるな」
「みんな、話し込んでたけど何してたのー!?」
「アルとケイが全力で操作系の対戦をやっててね? それでーー」
「白熱して忘れてたんだー!?」
「ハーレさん、最後まで聞こうか」
「あれ、違った!?」
流石にそれでミスはしていない。……いや、時間を忘れてたのは間違いないんだけども、理由が違うからね。ここはあそこで説明を始めたアルが悪いと主張させていただきたい。
「あー、俺の根の操作から昇華の称号が出たんだよ」
「おー!? じゃあ、枝の操作だね! 果物系だと回復性能だったよね!?」
「え、ハーレさん知ってるのか?」
「今朝のボス戦終了後の回復をしてる時に見たよー! 偶々通りがかった赤の群集の蜜柑の人が回復して行ってくれたのさー!」
「……マジか」
「あれは只者じゃないと見たね!」
聞いている限りでは赤の群集に昇華持ちの蜜柑の人が居たようだ。……通りがかった時に回復していったという事は、ボス戦には参加してなかったって事か? ただ単にボス戦に間に合わなかっただけか、もしくは少しボス戦の様子に興味を示した強いサファリ系の人か、果たしてどっちなのだろう。
<14時になりましたので、共闘イベント『瘴気との邂逅』の後半部となるワールドクエスト《この地で共に》を開催します>
そして雑談しているうちに14時になったようで、共闘イベントの開始のアナウンスが流れ始めた。さて、何かのトラブルで途絶えたのは大丈夫になったのだろうか。
『おい、まだ再接触は無理なのか!?』
『セキ、気持ちは分かるが焦るな』
『……本当ですか!? えぇ、分かりました。こちらで対処します。報告ご苦労さまでした』
『サイアン、報告が上がってきたか?』
『前回よりは微弱にはなっていますが、あのモノを捕捉したとの報告がありました。今回は私の方で繋ぎますよ?』
『あぁ、頼む』
お、後半部あの地下にいる奴と再接触からスタートなのか。休憩期間の間は接触の為に色々と動いていたっていう設定なんだろうね。さて、ここからどう話が動いていくのだろうか。
『……これで繋がりました。聞こえますか?』
[……あぁ、聞こえている]
『いきなり途切れやがって、一体何があったってんだ?』
[……本来の機能から外れる、瘴気を解き放つという無茶をしたせいで反動があっただけだ。……もう我にはガタが来ているしな]
『……どういう事だ? 先程は聞きそびれたが、そもそもお前は何者だ?』
[我か? 我は……この地の大地の脈動に組み込んで作られた【惑星浄化機構】である]
え、声だけで姿が全然見えないと思ったら、作られた存在なのか。……【惑星浄化機構】って事は、もしかして生物じゃない?
『【惑星浄化機構】だぁ!? てめぇ、生物じゃねぇのか!?』
[あぁ、その通りだ。……そなたらの故郷を滅ぼした者達の手によって作られた……な]
『なっ!? てめぇ、奴らの身内か!?』
露骨に怒りを滲ませた声音に変わっていく赤の群集の長のセキ。なるほど、この惑星を滅ぼした奴らが再生させる為に作り上げたのがこの【惑星浄化機構】とやらか。
でもまだ謎だらけだな。滅ぼした癖に再生する為のものを作り出し、結果を待たずに放棄したってことか? そしてその作られた【惑星浄化機構】は創造主である奴らを憎んでいる……?
『セキ、待て』
『そうですね。……あなたの言動は私達の知っている奴らの行為とはまるで違う。むしろ敵意を持っていますね?』
[……奴らは我にとっても敵である。奴らからすれば、我は欠陥品だろう。我を作ったものの試算以下の結果しか得られず、この星の放棄を決め奴らは出ていった。だが、それでも我は……]
『……ここまで再生させたのですね。無理をしてまで』
『……ちっ、胸糞悪い! あの連中、どこでも好き勝手してやがるのか!』
そうか。こいつは放棄された後もただ1人で惑星を再生し続けて、今の状態まで回復させたのか。……この惑星がどのように滅んだかは正確には分からないけれど、瘴気が原因だというのならばあの過去の滅んだ時の記録映像と同じようなものかもしれない。……それをここまで自然豊かに回復させたと。
それにしてもこいつは作られたモノにしては随分と感情豊かだよな。それにこの惑星を大事にしようという意思と、自らの創造主に対しての敵意が凄いものがある。
『おい、お前。名前はなんだ? 【惑星浄化機構】が名前って訳じゃねぇだろう?』
[……あるにはあるが、奴らが付けた名など我には要らぬ]
『……その気持ちは分からなくもねぇな。とにかく、お前は俺らの敵じゃねぇ。それは間違いないな?』
[あぁ、それは間違いない。……先の勘違いでの排除行動は済まなかった]
『こちらも事前調査が不充分だったようなので、深くは追求はしませんが……。先程本来の機能から外れると言っていましたが、そちらは大丈夫なのですか……?』
[……いや、大丈夫ではない。元々ガタは来ていたが、もはや……]
その言葉と同時に、地面が盛大に揺れ出していく。この揺れはただ事じゃなさそうだし、ヤバそうだぞ!? げっ、常闇の洞窟の方から黒い瘴気が漏れ出してきている!?
『ちっ! 今度はなんだ!?』
『……どうやら地下の洞窟に瘴気が溢れ出ているようですね』
『【常闇の洞窟】か。……一体何が起きたか、説明はしてもらえるか?』
[……これは……もはや手遅れだ。……すまぬ。我が早とちりしたせいで……]
『そういう事を聞いているのではない。一体何が起きていて、その解決手段はあるか?』
[……我の瘴気の封印が壊れ、そなたらが【常闇の洞窟】と呼んだ浄化を使い切った跡地に瘴気が溢れ出ている。……今の我にはもはや何も出来ん。そう時間のかからぬうちに我が封じていた莫大な量の瘴気が解放され、この惑星は再び滅ぶだろう……。そなたらはその前に立ち去るがいい]
その言葉を受けて、その場には沈黙が支配していく。3人の群集の長は何かを考え込んでいるようであるが、何か策があるのだろうか。……前半のあれは相当な無茶をしていたんだな。
それにしても再び滅亡の危機って、とんでもない爆弾を抱え込んでいた惑星だったのか。……一体過去に何があったんだろう。……それに俺達に立ち去れと来たか。今回は排除する為ではなく、善意からの申し出のようだ。
『……大地の脈動に組み込まれた【惑星浄化機構】と言いましたよね? この惑星に残っている浄化の力への干渉は可能ですか?』
[……それだけなら何とかなるが、瘴気を抑えられんのではどうにもならん……]
『……グレイ、セキ、少しだけ力を使うのは問題ありませんか?』
『ちっ、ここで放置するって訳にもいかねぇか』
『良いだろう、サイアン。私たちだけでは浄化には干渉しきれないが、既に肉体を得た同胞達の力を借りる』
『えぇ、私もそう提案する予定でした』
[……そなたらは、一体なにを……?]
『浄化に関わっていたのならば知っているだろう。浄化の力は生命の生死の循環によってもたらされるもの。そして瘴気はそれが機能不全に陥り、破滅へと向かう生物の絶望を吸い込み、変質して反転したものだ。この2つはバランスを保つ事で成立している』
『本来なら普通に死ぬのと、新たに生まれる生物ので相殺か浄化が上回るって話だがな。過剰に死に過ぎると悪循環に嵌って滅ぶってのは俺らは身を持って体験したし、後から助けてくれた連中に教わった事だ。まさか浄化と瘴気が反対の性質を持つ対となる存在だとは思わなかったぜ』
『そして今の私達はその枠組みの外にいます。ですが、私達の力を持ちつつ、その枠組みへと戻っていったものであればあるいは……』
[……何をする気なのだ、そなたらは?]
『まぁ単純に言えば、俺らの中で進化の進んだ連中なら浄化の力への干渉は可能なんだよ。俺らがそのまま力を使えば、瘴気は消せるがそれと共に浄化とその循環すら全てを壊すから、抑える必要もあるんだよ』
『……まだ検証中の内容ではありますがね』
え、浄化の力ってそういうのが元になってるんだ? そしてそれが死へと傾き過ぎれば破綻して瘴気が溢れて浄化しきれなくなるのか。そして一度破綻した循環は死が死を呼ぶ連鎖となり、より多くの瘴気が溢れていくと……。
プレイヤーって死んでも新たな肉体を生成して復活だから、一応は生命の循環はしてるんだな。一応っていうか、普通の生物より循環しまくっている……? だからプレイヤーが黒の暴走種や黒の瘴気強化種を倒せば瘴気が消えているのか?
ふむ、どうやら精神生命体だけでは生命としての循環をしていないからすべてを消し去る事は出来ても単独では干渉は不可能。だけど、肉体を得て少し進化して一部でも精神生命体の力を引き出せるようになっているプレイヤー達ならば干渉は可能という事か。
もしかしてエンとかが浄化の実とかを作れるのって、この辺が理由なのかもね。そして浄化の力に干渉出来るから、瘴気への耐性も不完全ながら得る事が出来る……? 逆に瘴気の影響も受ける事になって、それが黒の暴走種という形になるのか。普通の生物なら瘴気に触れれば死ぬっぽいしね。
[そ、そんな事が可能なのか……!?]
『てめぇにはまだ聞く事が山ほどあるんだ。こんなとこでくたばって貰っちゃ困るんだよ!』
『そうですね。ですが、それは片付けてからにしましょうか』
[……そうか。我もそなたらに聞きたいこともあるからな]
『それは解決してからにしろ。まず確認だ。浄化の力を受け渡す事は可能か?』
[……可能だ。だが、誰に受け渡せばいい?]
『今、連絡経路としている群集拠点種に渡してもらえばいい』
[それは駄目だ! あそこは……ぐぅあ!?]
うわっと!? また盛大に揺れたな。げっ、常闇の洞窟から溢れ出てきている瘴気の密度が増してるじゃん。……ここに居て大丈夫なのか? 今までの演出とは別に、エンの方へと瘴気が流れ込んでいっている様な気がする。
心なしか、いつも淡く輝いている周囲の植物の光も弱まっていってるような……?
『ぐっ!? 何だ、これは……!?』
そして目の前にいるエンに異変が起こり始めていた。……常闇の洞窟から禍々しい瘴気が広がっていき、エンを侵食していっている。これって、もしかして……?
『おい、この場にいる奴らは今すぐにここから離れろ! ちっ、すまん!』
幹が徐々に黒く染まっていくのに耐えながら、エンはプレイヤー達を根で薙ぎ払って陥没エリアの上側へと吹き飛ばしていく。これは俺達を逃しているっぽい?
「えっ!? ちょ、待って!?」
「まさか、後編のボスって……」
「群集拠点種がボスなのかー!?」
そして次々とエンに吹き飛ばされていく灰の群集の人達。……この展開は予想していなかったな。これ、もしかして正常化するまで転移が使えないとかそういうやつか!? だからいったんは気に入ってるエリアにいろと言ったのか!
「アル、退避するぞ!」
「……そのほうが良さそうだな」
「これは予想外かな!?」
「早く逃げた方が良さそうだね」
「わー!? 逃げろー!」
即座にアルはクジラを元のサイズに戻して、俺も水のカーペットを生成して上空へと退避していく。吹き飛ばされていくプレイヤーと、自力で逃げていたプレイヤーを含めて見える範囲でエンの近くにはプレイヤーはいなくなっていた。
『……マ……二……アッタ……カ……』
そして禍々しい色合いの巨大な木に変貌したエンの姿と、陥没したエリアには瘴気が充満していっている。エンの言葉も片言に変わっていたし、これはヤバそうだ。
『……これは不味いですね。私の方で再度の接続を確立します』
[……済まぬ。完全に我の封印が崩壊した……]
『……そのようですね。グレイ、セキ、そちらはどうですか』
『どうもクソもあるか! 群集拠点種は全員から連絡が途絶えたぞ!』
『……こちらもだ』
『……やはりですか。こちらもですね』
[……済まぬ……済まぬ……]
一度途絶えて、再度接続されたかと思えば自責の念に駆られたように謝罪の言葉を呟き続けている。……確かにこの状況は確実に悪い方向に向かっているもんな。
『いや、諦めるにはまだ早い。サイアン、これはどの経由での接続だ?』
『奪い合った土地の群集支援種の方ですね。あちらには影響が少なかったようです』
『……やはりか』
『あん? それはこっちも無事だが、それが打開策になるのかよ?』
『あぁ、おそらくな。今の相手は確認出来るか?』
[……あぁ。そこは乱れてこそいたものの、我の機能に直接は繋がってはいないからな……]
『ならば、送り先候補を指定するからそちらへ浄化の力を送れ。……可能であれば持っている瘴気の情報も含めてだ』
[……どうするのだ?]
『浄化と瘴気の力を使う。少し無理はするが一時的な進化で適応させ、溢れ出た瘴気の浄化と群集拠点種の正常化の為の策を練る』
『……無茶な事を考えますね、グレイ』
『だが、それしかなさそうだな。……群集の優先権の制限は解除するんだろうな?』
『一時的には仕方あるまいな』
一時的な進化って事は纏属進化か!? それの浄化と瘴気バージョンが解禁って事になるのかもしれない。後編からはこれが重要っぽい感じか!
『ですが、具体的に何をどうするのですか?』
『封印が崩壊したと言ったな。修復は可能か?』
[自己修復の機能自体はあるが、すぐにとは……]
『あるならば、まずはそれまでの時間を稼ぐ。その後の事も一応だが考えはある』
『……何を考えている、グレイ?』
『後で説明する。今は即座に動くのが先だ』
『……そうですね。何を考えているかは後で聞かせて貰いましょうか』
何かグレイに打開策はあるようだけど、まだ開示はされないらしい。ま、この辺は進んでいけば分かるかな。
『聞いていたな、同胞達よ! 我ら3人と群集支援種で浄化の力の結晶化を行い分配する。……試してみて可能であれば瘴気もだ。ただし、おそらく強引に精神生命体の力を引き出す事になる為、相応の代償が必要となるだろう。また、今作戦も強制するものではない』
今回の影響範囲は結構あるっぽいけど、強制参加ではないんだな。それにしても群集拠点種が瘴気に呑まれるとは思わなかった。……大量の進化ポイントの用途っぽいのも出てきたね。さて、どの程度使うものなのやら。
『最寄の、群集が占拠した地へ向え。そちらをこの事態の対策の拠点とする! それに当たって他の群集の立ち入り制限も一時的に解除する』
<規定条件を達成しましたので、ワールドクエスト《この地で共に》を開始します>
<群集拠点種での転移、帰還の実の使用が一時的に不可能になりました>
<競争クエストエリアの占拠による制限が一時的に解除になりました>
<競争クエストエリアの群集支援種で『瘴気の凝晶』と『浄化の輝晶』の入手が可能になりました>
<共闘戦略板の内容が変更になりました>
さてと、これで後編が始まりか! 色々予想外の展開だったけども、まずはミズキの森林へ行けってことなんだろう。
「とりあえず、ミズキの森林か」
「これ、移動間にあってよかったかな」
「あ、それもそうだね。間に合ってなかったら荒野エリアでやる事になってたんだ」
「そうなるのか。……さて、今回の共闘要素はどうなるんだろうな?」
「群集拠点種の撃破を頼むとかかなー!?」
「それはありえそうかな」
「そだね。まぁやってみないとまだはっきりしないけど」
「とりあえず移動しよう。詳細はそれから考えればいいしな」
そうして共闘イベントの後編が始まった。さて、どういう戦いと結末が待っているんだろう?
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