第300話 共闘イベント、前半終了
沢山の人達が草原でバーベキューを行いながら、あちこちでスキルの熟練度稼ぎをしている様子が見受けられる。俺もその中の1人なんだけどね。とりあえずアルと一緒に特訓中である。
「もうちょっとだと思うんだがな。『根の操作』!」
「ん? 何が?」
<行動値1と魔力値4消費して『電気魔法Lv1:エレクトロクリエイト』を発動します> 行動値 24/56 : 魔力値 114/176
<行動値を4消費して『電気の操作Lv3』を発動します> 行動値 20/56
地面のあちこちから飛び出てくるアルの根を電気で狙い撃っていく。ふむふむ、Lv3まで上げた段階で何度も使っていると何となくコツは掴めたね。電気の球みたいに帯電させて操作するのと、一気に電撃を飛ばすように操作出来るようである。
それにしてもアルが言っているもうちょっとというのは何の事だろう? まだ30分くらいなもんだから他の群集の討伐完了はもう少しかかると思うんだけど。
「いや、根の操作がLv5になってそこそこ経つんだよ。そろそろ昇華になっても良い頃じゃねぇかと思ってな?」
「あー、なるほど」
モグラ叩きの要領でアルの動きまくる根を次々と狙っていく。うーむ、スキルLvの差が出ているのか俺の命中率よりアルの回避率の方が高いな。いっそ、並列制御で電気の操作を同時に……あ、生成を事前にしても微妙に2つ同時発動するには昇華で生成量が増えないと無理か。
もしくは並列制御のLvが上がれば、制御数も増えた筈だからそっちでチャンスありか? うーん、ありはありな気がするけど、並列制御はそう簡単にLvが上がってくれる気はしないね。
「ねぇ、ケイさん」
「ん? ヨッシさんどうした?」
「ダメ元なんだけど、ちょっと塩の精製を試してみない?」
「……塩か。アル、塩ってどう作ればいい?」
「海水を天日干しか、火で煮詰めれば一応出来るとは思うぞ。まぁにがりが出来るから、それがゲーム的にどうなのかが問題だが……。ろ過は出来るのか?」
「あー、にがりはにがりで豆腐を作るのに使うんだよね。ろ過はゲーム的にはどうなるんだろ? やっぱり海水だと不純物が多いかな?」
「ま、その辺は試してみればいいか」
アルとの攻防戦も継続しながら、ヨッシさんの提案を考えてみる。海水は以前に海で水分吸収をしてアイテムとしては持っている。煮詰める為の火もどうとでもなるけども、その為の鍋代わりになる器が……。
「あっ!? シンさん、土の昇華が出来るなら岩の生成も出来るよな!?」
「ん? まぁ出来なくはないけど、何を……あ、石ってか岩を使うのか!」
「そういう事!」
生成した岩を火の操作で熱して、天然の海水を煮詰めていけばいけるんじゃないか? まぁいいや、ダメ元で試してみよう。とりあえず特訓は中断で、塩の精製の実験だ。
「んじゃ、行くぜ。『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「おー!? 大雑把だけど、土台付きの土鍋が出来たー!?」
「へっ! どんなもんよ!」
「シンさん、ナイス!」
そこそこ大きめな岩を鍋状に形成したものが出来上がっていた。形が歪みまくっているのは仕方ないとしても、海水を貯めてと火を起こす場所はちゃんとあるから鍋代わりとしては充分だろう。
というか、これが出来るなら、バーベキュー用の鉄板代わりの石板とか用意出来そうな気もする。まぁシンさんのサボテン焼きの珍光景が見れなくなってもあれだから、本人が気付くまで黙っていようか。
<インベントリから『海水』を取り出します>
そしてその鍋の中に海水を注ぎ込んでいく。とりあえず、アルが作り方を知ってそうだし、これで煮詰めていけば良いだろう。まぁ、ちょっと時間掛かりそうだけどね。
「あー、盛り上がってるところすまんが、塩の精製法ならサファリ同盟の連中が既に確立してたはずだぞ。まだ効率的な精製方法を探ってるからまとめには載せてないとは言ってたが……」
「え、ベスタ、それはマジで!?」
「あぁ、手法としては今やってるのと似たようなもんだ。塩が結晶化し始めた段階で残ってる水分を水の操作で分離すればいいらしいな。リアルで作るよりは手順が少なくてこれだけで良いって事だぞ」
「え、それってありなんだ?」
「まぁゲーム的な処置だろうけどな」
なんだ、既にサファリ同盟の方で判明済みだったのか。アイテム絡みに関しては流石だね。公開していないのはまだ安定量の精製は出来ていないからかな? とはいえ、これで塩が作れるのは確定ってのは嬉しい事である。とりあえず俺らでも作るだけ作っていこうじゃないか!
「それじゃ始めるよ。『ファイアクリエイト』『火の操作』!」
そしてヨッシさんが火を着けて、海水の煮詰め開始である。さて、上手く行くかな?
そして塩作りを始めてしばらくすれば完成した。何度か岩で作った鍋を生成し直す必要はあったけども、他に土の昇華持ちの人がいたのでそれで移し替える事でなんとかなった。スキルで作った鍋はここが欠点みたいだね。
塩自体もそんなに大量に作れないから効率は悪そうである。しばらく塩は貴重品かもしれないけども、まぁ作れるだけ良しとしよう。……これなら砂漠エリアとかに海水を撒いても塩は作れそうな気もする。
「うん、完成だね」
「にがりがアイテムとしては手に入ったのが意外かな?」
「これで豆腐が食べれるよー!」
「……どうだろ? 出来るのかな?」
「……アイテムとしてあるんだったら出来るんじゃねぇか?」
「ヨッシ、期待しているからね!」
「うーん、1から豆腐を作った事はないんだけどね……?」
豆腐に関してはどうなるか微妙なとこではあるけども、魚の塩焼きとかは食べたいところだね。まぁ後でヨッシさんに試しに作って貰おうか。
そしてその間に他の群集も討伐を頑張っているようでボスも残り1体となっている。あと1体で今の段階は終了だ。
<ワールドクエスト《地の底にいるモノ》のボスが1体撃破されました> 30/30
お、そう考えている内にとうとう最後の1体の討伐が完了した。さて、ここからどうなる? あ、グレイ、セキ、サイアンの姿が現れてきた。それぞれの群集の長が集まっての演出の開始みたいだね。
木やサボテンや大きなコンブの姿も投影されているので、どうやら群集拠点種からの報告を受けているような感じだね。
『同胞達よ、溢れ出ていた瘴気の除去は完了した。協力感謝する』
『グレイ、ヤツの痕跡を補足したぞ。瘴気の流れを辿ったらビンゴだ!』
『よくやった、エン。ようやく補足したぞ』
グレイは横に浮かび上がっているエンからの報告を受け、セキもサイアンもそれぞれの群集の群集拠点種からの報告を受けているようである。ここから何かと再接触っぽい感じかな?
『セキ、サイアン、準備はいいな?』
『はっ! 何を今更言ってんだ!』
『そうですね。ここまで来て後戻りする意味も理由もありません』
『では繋ぐぞ。まずは話し合いへと持っていかねばな』
そしてノイズだらけで、何が映っているのかが分からない場所が映し出されていく。……いや、禍々しい瘴気と浄化の光に似た何かが金属質の何かを照らしている……? でもそこには生物と言えるようなモノの姿はない。
[……あれを全て退けるとは、貴様らは一体何処で何をしてきた!? この地を捨てた時とは別物ではないか!]
『ちっ、まだ何か勘違いしてやがる! いい加減にしろよ、てめぇ!』
『まったく手間をかけさせてくれる……』
『何か誤解があるようなので、我々と対話に応じてはいただけませんか?』
[……何? 対話だと?]
流石にグレイ達のその言葉に、その何かも訝しんでいるようである。とはいえ、疑ったままなのは変わりなく、警戒心や敵対心は薄れてはいない。
ふむ、この感じだとプレイヤーからの接触系のイベントは特にないっぽいね。
『てめぇ、俺らを何処のどいつと間違えてやがるんだ? 瘴気なんてもんは俺らの怨敵だってんだよ!』
[何をふざけた事を! 貴様らが貴様らの創造主を滅ぼしたのが事の始まりであろうが!]
『……だからそれは何の話だ? 創造主なんてもの知りはしない』
[……知らないだと!? ふざけるーー]
うわっ!? な、なんだ!? 思いっきり、地面が揺れたぞ。……っていうか、なんだこれ? 地面が何か強大な力に押し潰されて、軋みを上げているようである。
[……なんの真似だ? 一体何をした!?]
『話も聞かずに喚くのは、いい加減にしてもらおうか』
そしてその問に応えるのはグレイの冷めた声である。……っていうか、地味に怖!? グレイ、ブチ切れてるじゃん。え、さっきの揺れとか大地が軋んでいるのとかってグレイの仕業なのか!?
『グレイ、何やってる!? その力を今使い過ぎればどうなるかわかってんのか!?』
『グレイ、今すぐ力を使うのを止めなさい! そんな規模で力を行使すれば、人の身に戻れなくなりますよ!?』
『そんな事は承知の上だ。我らが同胞の為、私一人が人の身に戻れなくなるだけなら安いものだろう』
グレイを止めようとしているセキとサイアン。……もしかして精神生命体の状態で力を使い過ぎるとデメリットが存在している? それに精神生命体の力の規模って、とんでもなく強いのか……?
そういや魔法って、精神生命体の力を段階的に引き出しているって設定だった気がする。……今のグレイの力が精神生命体の本来持っている十全の力なのかもしれない。
[……なんの話をしている!?]
『ちっ! てめぇがどこの誰と勘違いしてるか知らねぇがな、こっちは故郷を瘴気で滅ぼされて肉体をなくして、新たな故郷と出来そうな星を探してようやく辿り着いたとこなんだよ!』
[……なんだと? ………………続きを聞かせよ]
どうやらようやく話を聞く気になったようである。その言葉を聞くと同時に大地の軋みも無くなっていった。グレイが行使していた力を解除したのであろう。対話を求めるためとはいえ、無茶するね。
『ようやく対話をする気になったようだな。私達がこの地を訪れるのはこれが初めてだ。だが、その勘違いをしている相手に心当たりが無いでもない。……瘴気の塊を巨大な宇宙船から投棄され、私達の故郷は滅ぼされたのだからな』
[な……に……!? では先程の馬鹿げた力はなんだ!?]
『先程グレイが行使した力は私達が肉体を失い、精神のみの生命体へと逃れた時に得たものです。私達を助けてくれた同種の者達が【神の力】と呼んでいましたね』
[……【神の力】だと? この世に神などーー]
『そんなものはいない。いたとしても私はその存在を認めん』
『……グレイ、ここは冷静に』
『らしくねぇぞ、グレイ!』
『……あぁ、それもそうだな』
どうやら先程のグレイの行動はらしくないものであるようだ。うん、今までの感じからしてもあんな風に強行手段に出るキャラだとは思わなかった。だけど、勘違いして話を聞く気がない相手を黙らせるにはあれくらいの事は必要だったのだろう。
[……どうやら我の勘違いだったようだ。だが、それだけ強大な力を持つものがこの地に何をしに来た?]
『再び人の身を得る為だ。次は滅ぶ事のない様にこの力を馴染ませ、引き出せる様にしてからな』
[……なぜだ? それだけの力を得て、それでもなぜ人の身を選ぶ?]
まぁあれだけの力を持っている存在が、わざわざ肉体を手に入れる為にこの星に来た理由は分からないだろう。その経緯を知らなければ……。
『こっちは、なんの下準備も心構えもなく滅ぼされてんだよ。このままで良いって連中はいるにはいるが、そいつらとは完全に道は分かれてるっての』
『……まぁ、それでも同じ目的を持っていても一枚岩とは行きませんでしたけどね』
『根本的にてめぇらとは方針が合わないからな!』
『それはこちらの言葉ですよ』
『……とまぁこんな感じだ』
[……そう……か。それでは争っていたのは、縄張り争いのようなものか……]
『ちっ、あながち間違ってねぇから困る……』
あ、もしかして群集同士の争いってのも警戒されてた要因の一つ!? でも、それは各群集の方針の違い的に仕方ないもんな。……うん、単純に纏められているけども縄張り争いってのが一番近いんだろうね。
[……だがそういう事情ならこの地は勧められん。表面上だけの瘴気の除去は終わっているが、本質的にはただ封じ込めているだけに過ぎん]
『聞きたいのはそこだ。この地には何がいた? そしてお前は何者だ?』
[……それは知らぬ方がいい。奴らと関わりなど持たぬ方が……]
『ちっ! グレイ、例のあれを見せてやれ』
『そうですね……。全くの無関係ならば他の地を探すべきかもしれませんが、もしそうでないならば……』
[……何の事だ?]
『語るより、見せた方が早いだろう。……我らが滅んだ時の記録だ』
そして再び流される過去の凄惨な記録。宇宙船から投下された瘴気により、滅びゆくかつての故郷の星。……少しダイジェスト化されて短縮はされているけども、あんまり見てて気分の良い内容ではないな。
[…………あの愚か者共! ……くっ、これでは我自身も……]
『やはり何か知っているようですね?』
『おい、知ってる事を全部教えろ!』
『セキ、気持ちは分かるが少し落ち着け』
[……どうやら話さぬ訳にはいかなくなったか。お前達には知る権利がーーぐっ!?]
『おい、どうした?』
[……なぜ……我に……も……!? ……す……まぬ……少し……時間を…………]
『おい! 何があった!?』
『……反応が途絶えましたね。どうします?』
『何が起きたかも含めて、再度の接触が必要か……』
『あれ、大丈夫なんだろうな!?』
『分からんが、それしか手はあるまい』
『……そうですね。再び反応を捉え次第、接触を図るしかないでしょう』
<規定条件を達成しましたので、ワールドクエスト《地の底にいるモノ》が完了しました>
<共闘イベント参加ボーナスとして経験値を獲得しました>
<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『瘴気に抗うモノ』を取得しました>
<スキル『瘴気耐性Ⅰ』を取得しました>
<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『瘴気に抗うモノ』を取得しました>
<スキル『瘴気耐性Ⅰ』を取得しました>
あれ、ここまでで前半は終わり? 何か意図していないトラブルが起きたっぽいけど、一体何がどうなった!?
とりあえず次のLvに上がる直前くらいまでの経験値はもらったけど、どうにも中途半端だね。そしてスキル『瘴気耐性Ⅰ』と称号『瘴気に抗うモノ』か。この辺はボス戦への参加報酬とかそんな感じかな?
<共闘イベント『瘴気との邂逅』の前半部のワールドクエスト《地の底にいるモノ》はこれにて終了となります。後半部となるワールドクエスト《この地で共に》の開始は本日14時からの開催となります>
やっぱりこれで前半戦は終了なのか。後半戦は即座に始まるのではなくて、少し時間を空けてから事情説明から開始なんだな。これはボス戦で連戦続きになっているだろうから、少し休憩しろという配慮なのかもしれない。
たまたまではあるんだろうけど、丁度昼飯時だしね。昼飯を食ってから後半戦に向けて準備をしていけという事だね。
「後半戦は14時からか。それじゃ食事休憩にしてから、後半戦に備えようぜ」
「だな。俺らは早めに終わってたから良いけど、赤の群集も青の群集も多分終わったばっかだろうしな」
「それじゃ一旦解散かな?」
「そだね。集合場所はどうする?」
「はい! 森林深部で良いと思います!」
「ま、それでいいか。んじゃ2時までに森林深部に集合! 出来ればエンの近くだけど、人が多そうならフレンドコールで連絡ってことでいいな」
「いいぜ」
「分かったかな」
「うん、了解」
「了解です!」
さぁ14時からは共闘イベントの後半戦の開始だ! どんな内容になるかは分からないけど、頑張っていこう! ま、その前に食事休憩でログアウトだね。
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