第298話 ボスの殲滅作戦
先程説明されたベスタの作戦はかなりタイミングが厳しいものだ。まぁただ逃げるHPまで削るだけなら全く問題ないけども、転移で逃げる相手を逃さないように倒し切るとなればそうなるか。……ボス戦への参加回数がどう影響してくるか分からないけど、倒せるタイミングで見逃すってのもあれだしね。
「さて、準備を開始するか。『魔力集中』『激突衝頭撃』!」
「俺もだな。『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
アルは先程取ったばかりのチャージの突撃系応用スキルを発動し、クジラの頭から銀光を放ち出す。それと同時にベスタは魔力集中ではなく自己強化で風属性を付与し風を纏っていた。今回の作戦ではベスタの役割は威力よりも速度優先だからな。
「よし、始めるぞ! サヤ!」
「みんな、準備完了かな!? ヨッシ、フォローお願い!」
「うん、任せて。『アイスプリズン』!」
「ヨッシ、ありがと。これなら……うん、捕まえた!」
ヨッシさんが蝶を氷の檻に閉じ込め、動きを封じたところをサヤが捕まえる為に狙いを定めていた。そしてタイミングを見計らってヨッシさんが氷の檻を解除し、サヤが蝶を鷲掴みにする。よし、これでHPの2割を切るのがあと少し。
2割を切った時の逃亡前に確定発動していく方の昇華魔法らしきものをまず潰すのが一手目である。
「準備は良いかな!?」
「あぁ、ケイ、ダイク、ハーレ、いいな!?」
「おうよ!」
「任せとけ!」
「頑張るぞー! 『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』!」
「それじゃ行くよ。『投擲』!」
サヤは俺らの準備が完了したのを確認して、蝶を俺らに向かって投げ放つ。それと同時にハーレさんは、アルの木の巣から威力重視の土属性付与の投擲の準備をしていく。さてここからは少しのミスも許されない。誰かがミスすれば即座に失敗だ。
「ハーレ、撃ち抜け! ケイ、ダイク!」
「ケイさん、タイミング間違うなよ」
「ダイクさんこそ!」
「行くよー! 『強投擲・土』!」
そしてハーレさんの投げ放った魔法産の小石が、蝶の羽を穿っていく。よし、これでHPの2割は削れた。それに伴い、周囲の残り少なくなった瘴気が蝶の元へと吸い寄せられていく。
発動そのものの妨害は瘴気に弾かれて難しいという事なので、瘴気の昇華魔法っぽいものの発動直後にそれ以上の威力で相殺どころか押し潰す算段だ。
上空へと瘴気の塊が浮かび上がっていき、脈打つ様に変化が始まる。……よし、ここだ!
「ダイクさん!」
「分かってる! 『アクアクリエイト』!」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 52/53(上限値使用:2): 魔力値 173/176
<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/176
蝶の発動した魔法で瘴気が滝の様に叩きつけられていたが、それを上回る威力の俺らの水の滝で掻き消していく。規模を見た感じでは俺の単独発動よりも規模は大きいので通常のプレイヤーよりは魔力値は多いんだろうけど、強化された俺ら2人での昇華魔法に比べると遥かに劣るらしい。
作戦会議で距離を離しておいてよかった。ダメージが無くてもこの威力に巻き込まれると大変そうだしね。
「紅焔、ソラ! 盛大なのをお見舞いしろ!」
「おっし、ソラやるぜ! 『ファイアクリエイト』!」
「ちょっと前に試し撃ちしたのをもう実戦投入とは思わなかったね。『ウィンドクリエイト』!」
そして火の昇華と風の昇華による昇華魔法が発動していく。うっわ、巨大な炎の竜巻が出来てるよ。まだウォーターフォールも発動中だけど、昇華魔法の2連発ってのは壮観だな。炎の竜巻に焼かれている蝶は既にHPは2割を切っているが魔法の使用中かつ、断続的に攻撃を受けている状態では転移は出来ないようである。
まぁそれはベスタが他のボスで推測していたので、狙い通りではあるけどね。推測通りに行ってくれてなによりだ。
「アルマース、準備は良いか?」
「チャージはもうすぐ完了だが、折角だ。威力を増してやろうじゃねぇか」
「ふっ、何か手があるんだな? それなら任せるぞ。ハーレ!」
「用意できてるよー!」
「よし、それでいい。『増殖』『群体同化』!」
ベスタはハーレさんの用意した小石にコケを増殖させていく。まぁ数は1個だけども、用途としてはそれで充分である。あ、ウォーターフォールの効果が切れた。『高原を荒らすモノ』を既に持ってなければ取れてただろうね。
「ベスタ! そろそろファイアストームが切れるぞ」
「よし、アルマース、俺が動いている間に用意を済ませとけ。ハーレ!」
「はいさー! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『狙撃・風』」
「『コケ渡り』!」
どうやら火と風の昇華魔法の名前はファイアストームと言うらしい。やっぱりお互いの長所を伸ばす組み合わせの方が威力が高いっぽいな。とんでもない威力の昇華魔法を受け続けている蝶は転移で逃げる事も出来ず、HPはもう1割を切っている。
そしてベスタは蝶の近くへと投げられたコケ付きの小石から姿を表していく。うーん、やっぱりあのコケ渡りって良いな。……俺には使えないのかな? あれは融合進化特有のスキルっぽい気もするから無理そうだとは思うけど。
「ケイ、水流を頼むぜ」
「え、でも魔力値はもうないぞ?」
「おいおい、折角のレモンを忘れんなよ」
「あ、そういやその手があった!」
<インベントリから『レモン』を取り出します>
言われて思い出したけどアルが新たに生成出来るようになったレモンがあったな。水流の操作にはそれほど魔力値は必要ないから、回復量10のレモンでいいや。回復の為にレモンを齧って……酸っぱ!? いや、レモンなんだから当たり前なんだけどね。
支配進化のおかげでロブスターで食べてもコケの魔力値は回復した。これで水流の操作は使える……って急いだ方が良いな。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 51/53(上限値使用:2): 魔力値 7/176
<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』を発動します> 行動値 32/53(上限値使用:2)
水流を作り出し、水のカーペットの上からアルを水流へと流していく。邪魔な水のカーペットは上空にでも置いておこう。
既にアルの頭部も眩い銀光を放ち続けているから、もうすぐチャージも完了だろう。そろそろファイアストームの効果も切れそうだけど、なんとか間に合ったな。
「大詰めだ! 『爪刃双閃舞』!」
「行くよー! 『狙撃・風』『狙撃・風』『狙撃・風』『狙撃・風』『狙撃・風』!」
効果の切れたファイアストームから逃れて、蝶は即座に転移に移ろうとするがそんな隙を与えるようなベスタではない。自己強化と風属性付与によって移動速度を上げたベスタは連撃の応用スキルで1撃ごとに軽く吹き飛ばしながら、ハーレさんの投げた石を足場に次々と連撃を加えていた。
次々と決まっていく連撃によりベスタの爪の銀光の輝きがどんどん強くなり、1撃辺りの威力も増していっている。投げられた石から石へと飛び移るとはベスタも無茶な事をするね。
この感じだと、ベスタの真正面に向ける感じでアルを流していくのがいいな。元々はアルの頭部にベスタが蝶を叩きつける予定だったけどその辺は微調整しないとね。……それにしても水流の操作はLv4に上がった事で流れの緩急の調整がしやすくなっている。
「最後は任せるぞ、ケイ、アルマース!」
「おう、任されたぜ!」
「行っけー!」
ベスタの最後の1撃で吹き飛ばされた蝶は、水流の勢いに乗ったアルの頭突きによってそのHPの全てが無くなってポリゴンとなって消えていく。おっ、なんとか削りきれたか。
<ケイがLv7に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ケイ2ndがLv7に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ワールドクエスト《地の底にいるモノ》のボスを1体撃破しました> 22/30
よし、これでこの蝶の撃破は終了。ボスの討伐に伴い、薄れていたハイルング高原の瘴気が完全に霧散して消えていった。どうやらこれでここのエリアの戦いは終わったようである。
それにしても雑魚の討伐数が上限に行った後では、自身の所属するPTの戦っていない瘴気強化種の討伐報酬は無かった。ふむ、大幅な進化ポイントの大量獲得はとりあえず終了か。その代わり経験値は今回のは多かったね。
「みんな、お疲れ様かな」
「ハーレ、よくやったね」
「えっへん! ヨッシに褒められたー!」
俺らのPTの女性陣は戦果にはしゃいでいた。まぁみんな頑張ってたもんな。
「いやー! 見事な連携だったね!」
「つっても俺はアクアクリエイト使っただけだぜ?」
「俺もファイアクリエイトを使っただけだな」
「僕もウィンドクリエイトだけだね」
「いーの、いーの! まだ誰でも使える訳じゃないんだしね」
「まぁ、それもそうか」
「それにしても昇華魔法はおっかない威力だねー!」
「あー、多分魔力値が増えまくってるからだな」
「ケイさんの情報のおかげだな」
「でも、これって正直ボス戦とかじゃないと使い道ないよね。僕は通常戦闘で使う気にはなれないんだけど」
「「あー、確かに」」
「そういやソラさんって対人戦はしないんだったっけ? それじゃ特に使い道が減りそうだねー!」
「まぁ良いけどね。まだ並列制御での単独発動も試してないしさ」
「そういやそれも確認しておかないといけないな」
レナさんや紅焔さん達は昇華魔法についての話をしている。まぁ確かにあの威力は凄まじ過ぎるから気楽には使えないね。
「アルマース、最後のあれはいい案だったな」
「ま、今はまだケイの水流の操作があってこそだがな」
「それで、ケイが食ってたのは新発見の魔力値回復のアイテムか?」
「おう、そうだぞ! 滅茶苦茶酸っぱかったけどな!」
「……何を食ったんだ?」
「レモン」
「そりゃそのまま食ったら酸っぱいな」
「……何か良い方法知らない?」
「個別設定が出来ないから一律オフになるが、味覚機能を切るしかないだろう」
「えー!? アル、何とかならないか?」
「ふむ……。ちょっと手段を考えてみるか……」
「おっ! 期待しとくぞー!」
レモンは便利ではあったけど、流石に丸かじりは酸っぱ過ぎたからね。何か手段があるのなら是非とも改良方法を探ってもらいたいとこである。
「リーダー含め、主力陣がボスを仕留めきったぞー!」
「いやー、やっぱりうちの主力勢は動きがおかしい」
「あの連携、少しでもミスったら終わりだよな」
「いやいや、スキル的には使えるようになるはずだから練習していこうぜ」
「そだなー。『ビックリ情報箱』は流石に真似出来んけど、プレイヤースキルなら頑張ればある程度の水準まではいけるだろうし」
「確かにねー! みんなで頑張っていこうー!」
「「「「おー!」」」」
「この一体感いいなー」
「うん、やっぱり移籍してきて良かったね」
「まぁなー。でも赤の群集も立て直し頑張ってるみたいだよな」
「うーん、移籍はしたし戻る気もないけど、たまには遊びに行ってみる?」
「それも良いかもな。もうちょい立て直ってからにしたいけど」
「そりゃそうだ」
そして灰の群集のみんなも、移籍組の人達もそれぞれに思うところがあるらしい。まぁ前向きな内容だし、良い傾向なんだろうね。
「さて、俺は次のボスを倒しに行くがどうする?」
ベスタはまだまだ戦いに行くようである。まぁ今日は時間はたっぷりあるんだし、俺はこのまま戦いに行っても良いけどもみんなはどうだろう? 周囲を見回してみれば、みんな頷いていて行く気満々のようである。
「よし、ベスタ! その案乗った!」
「そうこなくちゃな。目標は午前に全撃破だ!」
「無茶言うなー。でも他にも動いてるだろうし、やってやれない事もないか」
「みんなー! 大暴れしにいくよー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」
最後に掛け声はレナさんに持っていかれたけども、ボス戦は終わらせてしまうのには賛成だ。今は10時を少し過ぎた頃。あと2時間くらいでどれだけ倒せるか分からないけど、頑張るぞー!
【ステータス】
名前:ケイ
種族:支配ゴケ
所属:灰の群集
レベル 6 → 7
進化階位:未成体・支配種
属性:水、土
特性:複合適応、支配
群体数 150/4750 → 150/4900
魔力値 7/176 → 7/178
行動値 32/55 → 32/56
攻撃 60 → 62
防御 83 → 86
俊敏 64 → 66
知識 117 → 122
器用 122 → 128
魔力 163 → 170
名前:ケイ2nd(ログイン不可)
種族:傀儡ロブスター
所属:灰の群集
レベル 6 → 7
進化階位:未成体・傀儡種
属性:なし
特性:打撃、堅牢、傀儡
HP 4268/4750 → 4268/4950
魔力値 82/82 → 82/83
行動値 43/43 → 43/44
攻撃 134 → 141
防御 127 → 134
俊敏 100 → 106
知識 50 → 52
器用 50 → 52
魔力 26 → 27
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