第293話 一般生物の使い方
唐突に現れたのは風雷コンビとトリカブトのザックさんPT一行である。何やら一般生物の大きめのウナギっぽいものを持ってきたようだけど、これって食べるのか……?
「……ヨッシ、久しぶり!」
「翡翠さん、久しぶりだね。最近どう?」
「……うん、楽しい!」
「そっか、それは良かったね」
そして翡翠さんは相変わらずのヨッシさんへの懐きっぷりである。まぁヨッシさんはお姉さんって感じの雰囲気もあるから……って弟がいるって話だったし、普通に姉か。あとはハーレさんの影響もだろうな。
「ねぇ、ヨッシ!?」
「……ウナギは捌いた事は無いから無理だからね?」
「まだ何も言ってないのに却下されたー!?」
「いやいや、ハーレ。これは食べないでよ?」
「一般生物なんだから食べても良いはずさー!」
「いやいや、用途があるからアイテム化せずに運んできて貰ったんだからね!?」
「うぅ!? ウナギが食べたいです!」
「ハーレ、いい加減にしなさい」
「あぅ!? ヨッシに怒られた……」
食べ物が関わると相変わらずだな、ハーレさん。……少し前までウナギは絶滅危惧種になってたらしいけど、完全な養殖に成功するようになってからは安定供給されて普通に食べられるんだからそこまで拘らなくてもいいのに。
まぁ普段の様子からしたらハーレさんは『それはそれ、これはこれ』とか言いそうではあるけど、このゲーム内だと普通の調理は大変そうだよね。
「結局のところ、ラックさん。このでかいウナギって何?」
「えっとね、ちょっと離れたエリアの湖にいるデンキウナギだよ。新しく作った池で育てようかと思ってね」
「デンキウナギって、あの発電するってやつ?」
「そう、それ。近くにいる時に刺激を与えると結構な電撃があるんだってさ。池で育てておいたら便利じゃないかと思ってね」
「それを使えば称号取得での電気の操作の取得が出来るそうだからな。なぁ、ヒョウの」
「そうらしいぜ。って事で、俺らが生け捕りに行ってきたって訳だ。なぁ、ライオンの」
「……風雷コンビが護衛兼移動役で、運搬役が俺だったんだぜ……」
なるほど、天然の電気はどこにあるのかと思っていたらこういう形になっているのか。どういう流れでそうなったかはわからないけど、おそらくは雷に拘りを持つ風雷コンビに桜花さんが話を持っていったのだろう。
そして張り切っていた風雷コンビに振り回され、ザックさんは疲れ果てているんだな。ザックさん、ご苦労さま。
「まぁ捕獲までも中々苦労しましたけどね」
「……ヨッシ、私も頑張った!」
「……あえてLv1で発動させた麻痺胞子と麻痺毒がなければ無理であった」
「あー、一般生物だもんな」
「そっか、そのまま攻撃したらあっさり死ぬんだね」
「ケイさんくらいの水の操作の精度がありゃ、簡単だったんだがな……」
「ケイのは簡単には真似出来そうにないかな?」
「そういう事ですね。それでも頼まれた事は達成しましたよ」
一般生物を捕まえるというのにも色々と苦労があったらしい。あえて毒性を弱めてっていうのも手段としてはありなんだね。一応覚えておこうっと。
「では電気持ちを増やせるように頼んだぞ」
「任せたぜ! んじゃ、共闘イベントに戻るか。ライオンの!」
「おう、そうだな。ヒョウの!」
そして風雷コンビは登場時と同様に勢いよく駆けて、立ち去っていった。あのコンビの目的は電気持ちを増やす事か。まぁその辺に拘りがあるみたいだもんな。
さて風雷コンビは立ち去って行ったのは別に良い。とりあえずこのデンキウナギをいつまでも俺の水球に入れておく訳にもいかないんだろうけども……。
「このデンキウナギはどうすればいい?」
「あ、そうだった、そうだった! そっちに新しく出来てる池があるでしょ? その左端の池に入れてもらって良いかな?」
「なるほど、この為の新しい池か」
現時点で5つある池の1つはこのデンキウナギの保管場所って事か。1つは泥落とし用の風呂扱いは変わらないようだけど、新たに増えているのはそれなりに目的があるらしい。この感じだと大きな池の方は水草の栽培用って事かな。
とにかく指定された池にデンキウナギを入れていく。既に水は用意されていたので、池の真上から落とすだけで問題なかった。まぁゲームだから水質とか水温は大丈夫かな?
「これ、逃げたりしないのかな?」
「いやー、そうなったらそうなった時かな? 本当は逃げないように網か何かで覆いたいんだけどね。ログイン中ならうちの不動種の根の操作でどうにかなるんだけどさー」
「あー、ログアウト中だと駄目なのか」
「それなら岩か何かで蓋でもしてみたらどうだ?」
「わっ!? 桜花さん、もう商談は良いの?」
「おうよ! アルさんの採集で余剰が出た時に蜜柑とレモンを貰えることになったぜ」
「地味に魚とか肉の回復アイテムも増えたもんね!?」
「代わりに欲しいアイテムがあった際に俺達を優先して融通してもらう事になったから、何か必要になれば言えよ」
「お、アル、ナイスだ!」
アルと桜花さんは色々話し込んでいたけども、そういう形で落ち着いたんだな。インベントリも無限ではないし、回復アイテムはアルの生成分とちょいちょいヨッシさんが隙間の時間で追加で魚や肉を焼いてくれているので余裕はある。
雑魚敵だとそれほど使う事もないし、対人戦じゃ使っている隙を狙われるので下手に食べる訳にもいかないから、意外と回復アイテムは減らないんだよね。無駄にならないのならそれも良いだろう。
「了解です! それじゃ早速、投擲用の弾で変わったのが手に入ったら欲しいです!」
「よし、任せとけ!」
「ハーレ、それなら泥団子も桜花さん経由で提供にしといてもいい? 結構泥団子を使いたいって要望があるから大量に用意してるけど、色々やってたら置ききれなくなってきてさー。他の不動種の人にも頼んでるとこなんだけどね」
「少なくなった時に補充出来ればどっちでもいいよー!」
「それならそうさせてもらうよー。桜花さん、それで良いかな?」
「俺は問題ねぇぜ。品が増えるのはありがてぇしな」
まぁアイテム補充の場所が1ヶ所に集まるのなら悪い話でもないか。灰のサファリ同盟は色々手広くやってるみたいだし、委託できるものは委託したほうが管理も楽なのかもしれないね。何だかんだで灰のサファリ同盟と桜花さんとは色々と関わり合いになる事が多そうだ。
さてとここに来た用事も終わったし、この後の桜花さんとアルを会わせるという予定も予想外の形で片付いた。そろそろ日付が変わってゲーム内の朝日が上りそうだし、どうしようかな。……少しそこのデンキウナギが気になってはいるんだよな。
「みんな、この後どうする? 今日は終わりにしとくか?」
「はい! ウナギが食べたいです!」
「ハーレ、それは却下ね」
まだ諦めていなかったか、ハーレさんめ。まぁデンキウナギがいるって事は普通のウナギもいそうではあるけど、見つけない方が良い気もする。おそらくヨッシさんが苦労する事になりそうだ。
「ヨッシ! 一緒に電気の操作、取ろう?」
「え、それは良いけど、取れるのに使える称号って何かあったかな?」
「あーそれなんだけど、みんな『同族の命を脅かすモノ』は持ってる?」
「あ、持ってないね。そっか、その手があったんだ」
そういえばまだ意外とそれが残っていた。……俺もコケでは取っているけどロブスターの方が残ってた。折角だし、俺も電気の操作を取らせてもらおうかな?
えーと、ロブスターの場合の一般生物だとやっぱりロブスターか? ……待てよ、元々は水砲ザリガニがきっかけで選択肢に出たロブスターだし、もしかしたらザリガニでもいける? 試してみる価値はあるな。
「ラックさん、どっかに一般生物のザリガニがいる場所とか知らないか?」
「えっと、ザリガニだね。……確かミズキの森林の湖にいたはずかな? あ、ミズキの近くじゃなくてマップの端にある水深の浅い、半覚醒のいたとこね」
「あー、あそこにいるんだ。ちょっと捕まえてきて試してみるか」
一般生物のザリガニもいるというなら、折角のチャンスだし狙っていこうかな。……サヤのクマは厳しそうな気はするけど、ハーレさんとヨッシさんも電気の操作は取れそうな感じがする。うん、灰のサファリ同盟も凄い便利な方法を見つけてくれたもんだね。
「ゴホン! ラックさん、初心者支援の側面もありますが、手伝った報酬として私達に試させて貰えるという話でしたよね?」
「あ、そうだったね。思った以上に早かったけど、準備はしてるよー! 取りたいのはザックさんと、タケさんと、翡翠さんだったよね? イッシーさんは取らなくて良いの?」
「……あぁ、既に持っているからな」
「あ、そういう事ね。えーと、ちょっと取ってくるから待っててね」
そう言うとラックさんは崖の横の不動種を上って、崖の上へと走って行った。あ、もしかしてザックさんの一般生物って毒草になるのか? そしてすぐにラックさんが土付きの草花を浮かせながら、崖の上から降りてきた。
「はい、ザックさんはこれを使ってね。タケさんはそこに生えてるキノコをどうぞー。翡翠さんはこの近くにハチの巣があるから取りに行こうかー!」
「おうよ!」
「わかりました」
「……同じハチのヨッシなら一緒に取れる!」
「そうだね。折角だし、取っていこうかな?」
ヨッシさんはすぐにでも電気の操作が取れそうである。それにしてもこの近くのハチの巣といえば、なんか覚えがあるよね。前にサヤが仕留めてきていたような……?
「あ、もしかしてあのハチの巣かな」
「サヤさん知っているのですか?」
「あはは、そりゃケイさん達の特訓場だった場所だしね。知ってて当たり前かー。ま、ちょっと取ってくるね!」
そうしてラックさんは森の中へと駆けていった。……どうやって一般生物のハチを捕まえるんだろ?
「ケイはこれからザリガニを取りに行くか?」
「あー、それでもいいけど正直ちょっと眠くなってきた」
「私も少し疲れたね。ボス戦で集中しすぎたかな?」
「まぁサヤもケイさんもあれだけ暴れたらね」
休憩を入れながらとはいえ、数時間は雑魚戦とボス戦を繰り返してたからね。それに夕方の赤の群集の後始末の件もあったし、多少疲れても仕方ない。電気の操作は取りたいけども、ここで育成していくのであれば、日を改めてザリガニを持ってきてやればいいだろう。
「私はまだまだ元気さー!」
「俺もまだ行けるな」
「アルさん、久々に一緒に色々彷徨くー!?」
「お、いいな。ケイ、その辺は大丈夫か?」
「明日は休みだから問題なし。休日なら寝坊もしないしな」
「その通りさー!」
いつもの事ではあるけども、休日なら前日にどれだけ夜更かししてもしっかり起きるんだから凄いもんだ。
「そういやケイさん達って明日はどうすんの?」
「ん? 進度見ながら、ボス戦参加の予定だぞ」
「おっ! それなら俺達と同じだな!」
「ザックさん達もか。まぁ、共闘イベント参加してたらそうなるよな」
「まぁそうでしょうね」
「……ヨッシ! もし同じ場所なら一緒に戦おうね!」
「うん、そうしようね」
まぁ具体的な明日の行動はログインした時の進捗次第になるからね。その辺は明日みんな揃ってからという事で。
そうして雑談している内にハチを2匹、水の中に閉じ込めた状態でラックさんが戻ってきた。……え、それやったら死ぬんじゃ……? あ、違う。風船みたいに膜にしているだけで中は空洞っぽい。
「ただいまー! ヨッシさんの分も取ってきたよ!」
「あ、わざわざありがとね」
「いえいえ、どういたしまして。それじゃ、各自同系統の一般生物を確保してくださいな」
「……うん、分かった」
「これは羽根を掴めば良いみたいだね」
翡翠さんもヨッシさんも、水の風船の中に入ってそれぞれに一般生物のハチを確保していく。ザックさんは根で毒草を掴んでいるし、タケさんは共生しているカニでキノコを掴んでいる。みんな準備万端なようだね。
さて、ここから一般生物を弱らせる必要があるからそれぞれ放り込んでいくんだろうね。
「さぁ、準備は良いね? レッツ、ダイビングー!」
「え、飛び込むのかな!?」
「みんな未成体だから、大丈夫、大丈夫! 弱らせた一般生物を回収して回復させるにもそっちの方が楽なのさ」
その後、みんな渋々ながら飛び込んでいき、一般生物を弱らせた後に回収してハチにはハチミツを、毒草とキノコには水分を与えて回復させていった。無事、マッチポンプの完遂と電気の操作の取得完了である。
俺もザリガニを掴んだまま、これをやるのか。……うん、動物系だとマッチポンプの取得って地味に残酷な光景だね!?
そして少し挨拶をした後、俺とサヤとヨッシさんは今日は終了である。明日一緒にやるという事は決めてはいるけども、待ち合わせ時間までは設定していない。まぁ遅くても10時までには集まろうという程度だね。
さてと今晩の間にどれだけ進むか分からないけど、明日も共闘イベント頑張るぞー!
◇ ◇ ◇
そしていつものように、いったんの場所へとやってきた。今回の胴体の内容は『ちょっと想定より早い討伐速度だなぁ……』とのこと。へぇ、運営が想定しているより進度は早いのか。
「お疲れ様〜」
「おうよ。色々と落ち着いたみたいだな?」
「おかげさまでね〜」
「何か連絡事項ってある?」
「今は特にないかな〜。あ、いつもの様にスクリーンショットの承諾をお願いします〜」
「ほいよ。って多いな!?」
一覧を貰ってみれば、いつもの数倍はある枚数になっていた。……これは大体が青の群集での一戦のスクショか。あ、水流の操作でみんなを流してるのを全体的に収めてるのがあるね。これは貰いっと。
あとはジェイさんと昇華魔法を使った時のがあるな。……流れ弾を受けつつもしっかりと撮っている迫力がある一枚があったのでこれも貰っておこう。
後は微妙だけど、まぁ共闘イベント中は全部許可のつもりだから、そういう処理にしてもらおう。
「この二枚、貰うよ。後は全部許可で」
「はいはい〜。共闘イベント中は太っ腹だね〜」
「ま、それが運営の望むとこだろ?」
「さぁ、どうだろうね〜?」
まぁいったんは恍けるよな。でも、他の群集の人と昇華魔法を使う事が条件の称号があるんだし、そういう事なのだろう。ま、完全に手の内を見せ切らない程度にちゃんと共闘していこうじゃないか。
「それじゃ今日はこの辺で!」
「はいはい〜。またのお越しをお待ちしております〜」
これにて本日は終了! さてと風呂入って、色々片付けて寝ようっと。明日は前半戦を終わらせるつもりで頑張るぞー!
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