第254話 昇華を持つ草花の人
そして軽く活動方針を伝えてから、サヤとヨッシさんは1度ログアウトする事になった。まぁこれはいつもの事なので、特に問題はない。空中でログアウトするとログインする時に大変そうなので、地上に降りてからだけどね。
「それじゃ私とヨッシは1度ログアウトかな。また後でね」
「紅焔さん、ソラさん、またね」
「おうよ! お互い共闘イベント頑張ろうぜ!」
「僕も今回は頑張るからね。時間が合えばまた一緒にやろう」
ソラさんも戦闘が嫌いな訳でも苦手な訳でもなく、自分で対人戦をするのが好きではないだけで共闘イベントには乗り気のようである。まぁ紅焔さん達のPTは青の群集と共闘するつもりみたいだしね。……青の群集とも共闘はしてみたい気持ちもあるから、色々と考えないとな。
そしてサヤとヨッシさんはログアウトしていった。さてと俺らも晩飯までの間にやる事をやっておこうか。
「さてとエンのとこまで戻るか」
「帰還の実を使う!?」
「いや、飛べるならそれほど時間もかからないし飛んでけば良いんじゃね?」
「そうだね。僕もそれが良いと思うよ」
「なら、飛んで戻るか」
おっと、その前にまとめ機能の俺用の欄に水のカーペットの作り方を書いておこう。最低限、昇華させた水魔法Lv1は必須だけど、コツは魔法産の水は普通の水に似てはいるけど微妙に違う性質であるという点だな。反発力が重要っと。
「それじゃ戻るぞー!」
「「「おー!」」」
何故か紅焔さんとソラさんも俺の水のカーペットの上に乗ってるけど、まぁいいや。定員オーバーでもないし、問題ない。……そもそもこれは何人までなら大丈夫なんだろうか? 種族によって変わりそうだし、検証は厳しい内容だな。
<『ハイルング高原』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
とりあえず、森林深部へと戻ってきた。氷狼のところでは一段落がついたのか順番待ちはなくなっているようだ。特にこれと言ってすべき事もないので、ここは素通りでいいだろう。草花の人と待ち合わせしてる訳だしね。
ササッと木々の上を飛んでいき、エンの所へと急いでいく。途中で桜花さんのいる場所のすぐ近くを通ったけど、何やら人が集まっていたね。早くも馴染んできているみたいで良かったもんだ。
そういえば草花の人は俺の事を知ってるって言ってたけど、俺は知らないんだよな。どっかで会ってたりするのか? どんな人なんだろう?
「そういや紅焔さんとソラさんは、水の昇華を持ってる草花の人って知ってる?」
「いやいや、ケイさん。紅焔が放火した際に消火してくれたんだから知らない訳がないだろう?」
「……というか、あの時のケイさんの津波に流された1人だぞ?」
「あ、そういやそうなるのか」
「そういう事。ま、多分会えば分かるだろ」
よく考えてみれば消火しにきてくれたんだから紅焔さん達が知らない訳がないし、草花の人もあの場に居たんだから俺の名前知ってて当然か。んー、あの時にいた草花の人……。えーと、覚えがあるのがタンポポ、チューリップ、大根、バラ……他にもいた気はするけど、全部は覚えてないや。
何だかんだ考えながら移動しているうちに、エンの場所に到着である。共闘イベントの野良PT募集中ってのが多いな。赤の群集へ遠征を考えているPTもチラホラいるっぽいね。個人レベルでは群集の初期エリア同士の行き来はあった訳だし、その辺の伝手とかかな。
さてこの中から例の草花の人と合流する必要があるわけだけど、まぁ紅焔さん達が知ってて、向こうも俺を知ってるなら合流には問題ないか。
「おーい、こっちこっち!」
「おー!? 大根だ!?」
「お、大根の人が当りだったか」
呼ばれた方を向いてみれば、そこには仁王立ちしている根が途中から二股に分かれた大根がいた。この大根の人が俺と同じ水の昇華持ちの草花の人か。
「よっ、コケの人! 紅焔とソラさんも一緒なのか」
「まぁな。ちょっと微妙な空き時間ってとこだし、水同士の昇華魔法ってのも見てみたかったもんでな」
「そうそう。まぁ、ダイクはあまり時間はないんだろう? 早めに実験しないかい?」
「あー、とりあえずまともに自己紹介してなかったし、自己紹介だけはさせてくれ。俺は大根のダイクだ。よろしくな、ケイさん」
「よろしく、ダイクさん」
大根のダイクさんか。覚えやすい名前だし、ちゃんと覚えておこう。……そういやオンライン版の草花系の種族ってどういう進化経路なんだろうか? 確かオフライン版だと幼生体だと種類が決まってなくて、成長体からズラッと選択肢が増えていたよな。
その中から花系か、毒草系か、蔦系か、野菜系に分かれてたんだよな。野菜系のところで学術的な分類じゃなくて、食用かそうでないかで分類されていたのにツッコまれまくってたのを覚えている。まぁぶっちゃけそっちの方が身近で分かりやすくてありがたいけど。
「ダイクさんって、草花の野菜系の進化先で合ってる?」
「おう、合ってるぞ! 今は未成体で魔法根菜種の泥魔大根だな!」
「なるほどね」
「おー! 焼き魚に大根おろしが欲しくなるね! じゅるり……」
「やめんかい!」
「あぅ!?」
「ははっ、相変わらず見てる分には面白いPTだな」
野菜にも好き嫌いがないハーレさんが獲物を狙う様にダイクさんを見始めたのでハサミで頭に1撃入れておく。まぁダメージはないけど、俺が止めとかないとな。今はヨッシさんも居ないし。
どことなく薄っすらと水色っぽいのは水属性もあるんだろうな。まぁ水の操作を昇華まで行ってればそうもなるか。……っていうかその言い方だと、結構前から知られてた?
「……もしかして、意外と前から俺の事知ってた?」
「あぁ、まぁな。大岩騒動の時だっけか。俺の真横を通り過ぎて行ったからな。あの時は誰かは分からなかったけど、まぁその後からはコケの人の話はあちこちで聞いてたから、知ってたぞ」
「あの時からかー!? あの時はすみませんでしたー!」
「特に気にしてねぇから別に良いぞ。むしろあの後から土の操作と水の操作を手に入れて鍛えたのが昇華に至った訳だしな」
そうか、あの時の事がきっかけで水の昇華まで行ったのか。泥魔大根って言ってたし、ダイクさんは魔法特化系の進化みたいだね。何がきっかけになるかは分からないもんだ。
「あー、そんなに前でもないはずだけどなんか懐かしいな。俺はあの時、轢かれたぞ?」
「え、紅焔って轢かれたのかい?」
「あ、やべ!? 今のPTには内緒にしてたんだった!?」
「これはライルとカステラにも教えてあげないとだね。今日の2人のログインが俄然楽しみになってきたよ」
「完全に口を滑らせたー!?」
「……紅焔さん、なんかすまん」
「……紅焔、俺も何か悪かったよ」
……轢いたのは俺だから、どことなく罪悪感が出てくる。あの時は許してもらったけど、こういう風になってくると流石に何も感じないって事はない。……なんかごめんよ、紅焔さん。
「そこで謝られてもなー!? ソラ、内緒にしといてくれ!?」
「えー、別にいいじゃないか。悪い事をした訳でもあるまいし」
「気分的な問題だ!」
「ふー、仕方ないね。今回は聞かなかった事にしてあげよう」
「そ、そうか? それならありがたいが……」
「ねー! 時間あんまりないんだよね!?」
ちょっとした混乱状態に、珍しい事もあるようでハーレさんが割って入る。……ここは全くの無関係のほうが割って入りやすいので助かったぞ。
「あ、それもそうだった。よし、早速試してみるか!」
「……その前に場所移動じゃないかい? 流石にここではやらないよね?」
「あっ……」
「もちろんそのつもり……ケイさん、ここでやる気だったのか!?」
「い、いや、ちゃんと他のとこに行ってやるって!」
「ケイさん、怪しいなー!?」
「それはいいから、どこでやるか決めようぜ!?」
「こうやって意図せず荒らす環境が出来ていくのか。ふむふむ、なるほどな」
何を納得したんだ、ダイクさん!? 場所の事がすっかり抜け落ちていた以上、否定しきれないのがなんとも……。単独でウォーターフォールを発動した時のイメージ的には問題なさそうだったから、つい失念を……。威力の大幅増強の可能性が高いんだから、群集拠点種の目の前で試すのはアウトに決まっている。
「えっと、滝が発生するって話だったよね!?」
「おう、そうなるな」
「はい! それならどこかの崖上から発動するのを希望します!」
「……ハーレさん、スクショが目当て?」
「もちろんさー!」
「相変わらずブレないな……。……どっか良い場所を知らないか?」
「確かミズキの森林の西部の丘陵エリアの一部が崖になってた覚えはあるね」
「あー、あそこか。飛べないとかなり遠回りが必要だったよな。エリアの端だから影響も少ないか」
「それじゃそこで決定だー!」
「よし、ならそれで。まずはミズキの森林へ移動か」
「あ、その前にダイクさん、これを」
「お、PT申請か。サンキュー」
<ダイク様がPTに加入しました>
とりあえず目的地は決まったので、サクサクと移動していこう。もう何だかんだで6時を過ぎてから20分は経ったのでのんびりもしていられない。
幸いエンの前にいるのでミズキの森林への移動は即座に可能である。時間も限られているから、急がないとね。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>
そしてすぐに転移してミズキの森林へとやってきた。……若干薄暗いのは瘴気の影響だろうか? まぁいいや。その辺はアルと合流してからの夜に試せば良いだけだ。
「ダイクさん、乗ってくれ。一気に飛ばしていくから」
「いや、ここは遠慮しておく」
「え、何でだよ?」
「折角コツを書いてくれたんだ。自分で試させてくれ」
「あ、そういう理由か!」
「えーと、反発力を強く意識して沈まないようにするんだよな。『アクアクリエイト』『水の操作』! よし、これで……お、マジで乗れた! こりゃ便利そうだな」
「おー、お見事!」
流石に水の操作も慣れきっている様でスムーズな生成で俺の水のカーペットを真似していた。うん、これなら問題ないだろう。これで水のカーペットの使用仲間が増えた!
「それじゃ出発だ! 方向は?」
「ケイさん! このまま真っ直ぐ西側の端だよ!」
「ほぼ西の端の中央か。敵は無視でいいよな?」
「ま、時間に余裕はないからそうした方が良いだろうね」
「んじゃ行きますか!」
「おー!」
そして紅焔さんとソラさんは自分達で飛び、俺とハーレさんは俺の水のカーペットで、ダイクさんは自分で作った水のカーペットで飛んでいく。何だかんだで未成体と高Lvの水の操作だ。移動速度はかなり早かったのであっという間に辿り着いた。
途中で徘徊していた水砲ザリガニがいたけど、時間の余裕はないので無視。……どうも黒の瘴気強化種になってたみたいだから戦って倒しておきたかった気持ちはあるんだけどね。
「よし、到着! 崖上は一応ミズキの森林のエリアだから上まで飛ぶぞ!」
「私はこっちでスクショの待機をしております!」
「それなら僕もこっちで待ってようかな。ハーレさん1人残すのもあれだろう?」
「おー! ソラさんと一緒だ!」
「それじゃ2手に分かれるか」
そして俺とダイクさんと紅焔さんが飛んで崖上まで移動し、ハーレさんとソラさんが少し距離を取って昇華魔法のスクショの撮影待機に入った。ちなみにこの崖上は結構な高さがあるため飛べば簡単に来れるけど、飛べなければ丘陵エリアに移動してから回り道をしないと辿り着けない場所らしい。
「さて、ケイさん。検証開始だぞ」
「おうよ、ダイクさん!」
「さて、どうなる事やら」
「行くぞ! 『アクアクリエイト』!」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 50/51(上限値使用:2): 魔力値 109/112
<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/112
2つの水魔法が重なり合い、昇華魔法へと変化していく。そして2人分の全魔力値を消費し、巨大な滝が生成されていく。その様子はとてもじゃないが並列制御を使って単独発動した昇華魔法とは同じ魔法とは思えない。地面に叩きつけられる水量がまるで違う。……やっぱり昇華魔法は1人で使う物じゃないな。
「……ケイさん、これは単独発動とは桁違いじゃないか?」
「……みたいだな。威力的には紅焔さんと発動したスチームエクスプロージョンに引けは取らないかも……」
水蒸気爆発と多量の水の叩きつけを比べても、単純に比較は出来ないだろうけど、それでも相当な威力があるのは分かる。これに呑まれれば、無事では済まないのは間違いない。魔力値の消費が半端ないだけの威力は間違いなくあるね。
ただし、これも半覚醒にはそれほど有効ではないんだろうね。ま、その辺は仕方ないか。
「大迫力の滝が撮れたよー!」
「おー、良かったな」
「ケイさん、わざわざ検証に付き合ってもらってありがとな。これはやっぱり切り札にはなるのが再確認できた」
「こっちこそ。どこかで確認しときたかったからな。あ、報告は俺の方で上げとくわ。晩飯食ってからになるけどな」
「お、悪いね。それじゃ、これは良いか?」
「お、フレンド登録か。良いぞ!」
「ありがとよ! そんじゃそろそろ時間やばいから、また会うことがあればな!」
最後は慌ただしくはなったけども、ダイクさんは俺とフレンド登録をした後に慌ててログアウトしていった。もうすぐ7時だし、俺とハーレさんもそろそろログアウトだな。……まぁミズキのとこまでは移動しておこうか。
「さて、俺も飯食って来るかな」
「ん? 紅焔さんもか?」
「まぁ、ライルとカステラがログインする前に食っといた方が良いだろうからな」
「それなら僕もそうしておこうじゃないか」
「それじゃ今日のこのメンバーでの活動は終了だね! 夜からはそれぞれのPTで頑張ろー!」
「だな。それじゃ、またな! ケイさん、ハーレさん!」
「またねー!」
「また都合が合えば一緒にやろうじゃないか!」
「おう! 夜からは互いに共闘イベント頑張ろうな!」
そうして夕方の部は終了となった。まぁ気になってた実験も出来たから有意義だったね。さて、ここからの行動方針は晩飯食った後に、みんな揃ってから相談だな。
ま、その前に晩飯を食うためにログアウト! 今日の晩飯はなんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます