第214話 草原に到着
さてと情報収集も終えたので、草原へ向かってーー
「おい、ケイ? 水流の操作の攻撃方法は? 移動方法は俺とシンさんで説明したけどよ」
「あ、忘れてた!?」
「え、それなら実況の説明と共に今書き込んだけど。高圧水流ので良いんだよな?」
「……シンさん、サンキュ」
どうも伝え忘れもあった様だけどシンさんが書き込んでくれていたようだ。……なんか余計な情報まで一緒に書き込まれてしまったみたいだけどね!?
気を取り直して、休憩も終わりにして草原へと移動していこう。さて、どんな感じかな。
<『始まりの荒野・灰の群集エリア4』から『ソヨカゼ草原』に移動しました>
お、ここは命名済みのようで、名前にある通り爽やかなそよ風が吹き抜けていく。エリア切り替えになって目の前に広がる広大な草原を目にすると、あちこちに木が生えているし、全体的には背の低い草が生い茂っていた。全てが草に覆われているという訳ではなくところどころに地面が剥き出しになっている場所もあれば、小さな水場に動物が集まっているのも見える。
一般生物、黒の暴走種、残滓、そしてプレイヤー、ほぼ全てが隠される事なく見渡せていた。おー、ライオンとかウマとかゾウとかキリンとかいかにも草原っぽいのがあちこちにいるな。うん、遠くまで見渡せるのは荒野エリアと同じだけど、草原は荒野と違って地形と生物の色合いが違うので分かりやすい。
「ここは名も無き草原じゃないのかな?」
「あぁ、ここの命名クエストは終わってるからな」
「そうなのか。そういや、アル、調査クエストエリアの命名ってどうなってんの?」
「ん? そういや俺も知らねぇな?」
「なんだ、色々やってるPTでも知らない事もあるんだな」
「調査クエストはやったことないからねー!」
ハーレさんの言うように調査クエストはまだした事もないし、整備クエストもやってないもんな。行っていないエリアも山ほどあるし、何でもかんでも知ってる訳じゃない。競争クエストをやってない人の方が他のエリアには詳しそうだしね。
「まぁ簡単な事だ。一定数以上の調査クエストの終了報告が上がった時点で命名クエストが発生するぜ。ここは100だった筈だ」
「へぇ、回数が条件になってるんだね」
「それって命名クエストが終わったら、調査クエストが受けれなくなるのかな?」
「いや、別にそこは問題ないぞ。調査クエストは個別受注クエストだしな」
「おー!? それなら折角だし調査クエストをやりながら鍛えようよ!?」
「そうだな、そうするか」
折角調査クエストがあるエリアで色々試しながらレベル上げをする予定なんだ。どうせならクエストをやりながらでも良いだろう。
そう考えているとシンさんの動きが止まっていた。どうしたんだろうか?
「おっと、すまん。フレンドコールだ」
「あ、なるほど。どうぞ」
「すまんな。おう、どうした? あ、あそこにいるのがお前か。は? 黒の暴走種と残滓の異常個体で争ってるだと!?」
何やら奇妙な話が聞こえてくる。黒の暴走種と残滓の異常個体が争っているってどういう事? あ、確かに少し先の方に何か争っているような様子が見えるけど、ちょっと遠いな。
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 40/43(上限値使用:2)
望遠の小技でちょっと見てみよう。シマウマとライオンとハリネズミか……? えっと、シマウマがプレイヤーで、ハリネズミがなんか黒い瘴気を纏っているので多分これが残滓の異常個体、それでライオンが黒の暴走種か。……シンさんのフレンドコールの相手はあのシマウマの人かな?
お、残滓のハリネズミがライオンの首筋に飛び乗っていった。そして背中の針がグネグネと動きながらライオンの首筋に突き刺さり、ライオンの動きが止まった……? 何か妙だな。一体何が起きている……?
動きが止まっていたライオンがいきなり復活して、シマウマの人へ襲いかかっていく。お、シマウマの人も上手く避けて逃げ出した。っていうか、こっちに向けて走ってきてるね。
「おい、大丈夫か!? ……おう。あぁ、こっちの状況か? ここの調査クエストをやろうって他のエリアからの面白い奴らが来てるとこだ。おう、見えてるからそっちに向かう」
「何か妙な事になってるみたいだな?」
「ケイさん、ここから見えてたのか。まぁ何か残滓の異常個体が出たらしい」
「色々気になるけど、今はあのシマウマの人が助けを求めてこっちに逃げているって解釈で良い?」
「おう、そうなるな。まぁ、俺らの方で対応するから別に見ててくれても良いぜ」
あ、見ててもいいんだ。まぁ結構な大人数がいるから負ける事もないだろうけど、どうせなら戦ってみたいところ。さてどうしようか。
「ねぇ、スキルをいくつか試してみてもいい?」
「お、ヨッシさん、新スキルか」
「ヨッシ、さっきのやつかな?」
「うん、そうだよ。派生したのと、今までまともに使えてなかったやつ」
「って事なんだけど、シンさん。俺達で殺っちゃっていい?」
「それは別に構わんが、良いのか?」
「良いよ。やる気は充分だしね」
「よーし、やるぞー!」
「私も頑張ろうかな!」
「……みたいだな。なら任せた」
「任されたー!」
なんかハーレさんが返事をしてたけど、まぁ気にする事もないかな。さてと、ヨッシさんの新スキルとやらのお手並み拝見といきますか。もう望遠の小技を使わなくても目視出来る距離まで近付いて来てるしね。
「シンさん、この人達か!?」
「おう、そうだ。森林深部の『ビックリ情報箱』だよ」
「え、あのコケの人のPT!? やった、ラッキー!」
「……それで普通に通じるんだ」
「アレの相手は任せていい感じ? 俺じゃ厳しそう!」
「それは俺らで請け負ったから問題ないぞ」
「それじゃお任せします!」
大声でそういうやり取りを経て、逃げてきていたシマウマの人が荒野の見物人の中へと逃げ込んでいく。そして、それを追いかけるようにライオンとハリネズミが迫ってきていた。
<ケイが成長体・暴走種を発見しました>
<ケイが成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>
<ケイ2ndが成長体・暴走種を発見しました>
<ケイ2ndが成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>
よし、発見報酬が出た! これで間違いなく残滓でないオリジナルの黒の暴走種がいるのは確定。だけど、ハリネズミだけが瘴気に覆われていたのが徐々にライオンにも広がっているのが気になる。
「とりあえず識別しとくぞ!」
「うん、ケイさんお願い!」
一応そうは言ったものの、実際この状況は識別するとどうなるんだ? 黒の暴走種のライオンの識別情報が出るのか、ライオンの首筋に掴まっている残滓のハリネズミの識別情報が出るのかが未知数なんだよな。……なんとなく、この状況は共生進化に近いような気はするんだが。
<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します> 行動値 37/43(上限値使用:2)
『風ライオン』Lv16
種族:黒の暴走種
進化階位:成長体・暴走種
属性:風
特性:俊敏、傀儡(?)
よし、出たのはライオンの方の情報か。成長体でLv16だから結構経験値は良さそうだけど、気になるのは特性にある傀儡だな。……これは推測は出来るけど残滓のハリネズミも識別してみないと詳細が判明しない。
「成長体のLv16、属性は風、特性は俊敏と傀儡(?)だ!」
「傀儡(?)!? 何それ!?」
「……初めて聞いたかな?」
「ハリネズミの方も識別する! って、くそ!?」
「識別を避けたのか……?」
このライオンの動きが地味に変だぞ! ハリネズミの方に意識を向けると露骨に視界に捉えられない様に砂で姿を誤魔化しやがった!? シマウマの人から標的を俺達の方に変えて迫ってくる。
「ハーレ、動きを封じるよ! サヤ、お願い!」
「なんだか投げてばっかりの気もするけど、仕方ないかな! 『投擲』!」
「ヨッシ、投げられてばっかだけど大丈夫!? 『傘展開』『ウィンドクリエイト』『風の操作』!」
最近なんだかよく見るようになったサヤによるウニのヨッシさんの投擲から戦闘が始まった。投げられてライオンに急接近していくヨッシさんを追いかけるようにハーレさんも移動を開始する。ハーレさんのスキルLvも上がってきているのか、速度も上がっているね。
「もうこの程度なら慣れちゃったよ……。『魔力集中』『硬化』『棘飛ばし』!」
そして魔力集中を発動した状態でヨッシさんが棘を1本、ライオンに向けて放っていく。ヨッシさんは硬化を取得したんだな。だけど、その攻撃はあっさりと避けられてしまう。
「『針伸縮』『斬針』『転がる』!」
ヨッシさんは避けられるのも考慮した上での攻撃だったらしい。全部の棘を伸ばし、サヤに投げられた勢いのまま転がっていき、ライオンへと迫っていく。ヨッシさん、ウニでも斬針を取ったんだ。でも刃の向きが縦向きと横向きが混ざっているのは……あ、そういう事か。
縦向きの刃で地面を掘り起こして、回転していく度に横向きの刃で土やら小石やらをライオンに向けて投げ飛ばしていく。目潰し攻撃をしつつ、直接触れても危険な魔力集中ありの無数の刃での突撃をしているんだな。
「……アルなら、ヨッシさんのあれってどう攻略する?」
「……そうだな。まず近距離は厳しそうだから遠距離から魔法で削るしかないだろうが、あれって魔力集中ありだしな。……こっちも魔力集中ありで、強攻撃で一気に潰すとかか? 今はまだないけど、チャージ系のスキル辺りか」
「……俺も大体似たような感想。まぁあの刃を掴んで動きを封じるってのもありだけど、最低でも魔力集中は欲しいよな」
とりあえず、このヨッシさんの攻撃はかなり凶悪であるのは間違いない。サヤの投擲も合わせて遠距離から一気に突撃してくるので、思った以上に厄介だろう。
あ、流石に転がる勢いが無くなってきた。そこを狙って、攻めあぐねていたライオンが一気に距離を詰めていく。
「ハーレ!」
「うん! 『魔力集中』『微毒生成』『連刺突』!」
そのタイミングを狙って、上空で漂っていたハーレさんが微毒を帯びた触手による連続攻撃を放っていく。ライオンも慌てて回避行動に移るが、攻撃を狙う瞬間こそ隙が大きかったのか全部ではないけれど結構な数の攻撃がライオンに当たっていた。……残念ながら微毒は食らってないようだけどね。
「『棘杭』!」
そしてそのハーレさんとライオンとの攻防の間にヨッシさんがライオンの足元へと近付き、その足に棘を突き刺して切り離していく。うっわ、あの棘はライオンの足を貫通して地面まで行ってるよ。HPの減りは少ないので威力よりは拘束に重点を置いているスキルみたいである。……うん、痛みのないゲームでよかった。
「ケイさん、今のうちに識別!」
「おう、任せとけ!」
ヨッシさんが完全に足を物理的に止めさせたので、今がチャンスだな。って、またハリネズミが砂で隠れようとしてやがる!?
「そうはさせないよ! 『ウィンドボール』!」
「ハーレさん、ナイス!」
邪魔な砂をハーレさんが吹き飛ばしてくれたので、これで逃げ場はない。残滓の異常個体の情報を晒して貰おうか!
<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します> 行動値 34/43(上限値使用:2)
『土ハリネズミ』Lv17
種族:黒の暴走種の残滓(?)
進化階位:成長体・暴走種
属性:土
特性:寄生(?)
<黒の暴走種の残滓の異常個体を確認しました。群集の長へと報告します>
なるほどね、この寄生(?)が鍵って訳か! ついでに(?)が付いてるってことは傀儡も寄生もこの異変によるものって訳なんだろうな。
これは敵専用の共生進化の亜種、いや支配進化の亜種なのかもしれない。黒の暴走種はプレイヤーと同種の精神生命体が中にいて暴走している状態で、残滓はその抜け殻。共生進化や支配進化は同じ精神生命体が中身だから成立するけど、敵はそうじゃないって事か。だからこそ、黒の暴走種と残滓の異常個体って組み合わせなんだろうな。
「ハリネズミは成長体の残滓の異常個体でLv17! 属性は土、特性は寄生(?)だ! 多分、共生進化かそこら辺の亜種の進化だと推測!」
「海エリアでのキメラダコの話といい、敵も複合進化を使うってことか!」
「共生進化のプレイヤーと同等の敵としてみた方が良さそうかな?」
「ケイさん、どっちを倒せばいい!? 両方!?」
「場合によっては両方だけど、主体になってるのはハリネズミの方だろうな。そっちを集中して潰すぞ! ここからは総力戦だ!」
「それが良さそう。もう棘杭も抜かれそうだしね」
そのヨッシさんの言葉通りに、ライオンの足を貫いていた棘が抜き放たれる。さて、Lvも高めの共生進化に似た何かの黒の暴走種と残滓の一体化した敵である。幸いなのは成長体であるって事だろう。
さてと、ここからは俺達のPTの総力戦で倒してやろうじゃないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます