第215話 連携攻撃


「アル! 初っ端から全力で行くぞ!」

「って事は、水流の操作か!」

「おうよ! 全力でぶつかってやれ!」

「相変わらずだな! だが、良いぜ!」


 手の内を調べてもいいんだけど、これはあくまでも共闘イベントの前兆に過ぎないはず。こういうパターンの敵がいるという情報は大事だが、本番での強さの基準には多分ならない。共闘となっている以上、1体だけ時々ポツンと出現するようなものではないはずだ。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 33/43(上限値使用:2): 魔力値 83/86

<行動値20を消費して『水流の操作Lv2』を発動します>  行動値 13/43(上限値使用:2)


 よく考えたら、草原エリアなら乾燥は大丈夫だしコケの乾燥対策は切っても大丈夫な気もする。……アルもヨッシさんとハーレさん用の海水も解除してるし。……まぁいいや、今解除しても行動値が回復する訳でもないしね。


「ちょっと勢いを稼ぐ為に少し長めの距離を流すぞ!」

「おうよ!」

「私も手伝うよー! サヤも手伝って!」

「何をすれば良いのかな!?」

「アルさんから離れないようにサヤが固定して!」

「……なんとなくやりたい事はわかったかな!」


 そのやりとりを経て、みんながアルの上に登っていく。そしてサヤが片腕でハーレさんの触手を掴み、もう片方の腕でアルの木にしがみついていた。あ、なんとなく予想がついた。これなら勢いも増せるか。

 ライオンとハリネズミについては、近寄らせないように水流の操作で一部の水流を突撃させて牽制を加えている。中々上手く避けるけれど、流石に応用スキル相手では避けるのも簡単ではないようだ。


「ケイさん、牽制は私が引き受けるよ。『棘飛ばし』『棘飛ばし』『棘飛ばし』!」

「そうか、ヨッシさん任せた!」

「なら俺はこれだ。『高速遊泳』!」


 こうして強烈な攻撃の為の下準備は着々と進んでいく。俺は円を描くように水流を操作していき、アルはその水流に乗って更にスキルを使いながら加速して泳いでいく。そしてアルの前方に向けて凧のようになっているハーレさんが更なる加速手段を発動させる。


「行くよー! 『傘展開』『ウィンドボール』!」

「これは思ったより勢いあるかな!? 『自己強化』!」

「お、おぉ!? こりゃすげぇな!」


 クラゲのハーレさんが自身の傘の内側にウィンドボールを撃ち込んでいき、推進力を作り出す。Lvが上がって以前より遥かに触手は千切れにくくなっているようだけど、ハーレさん自身ではまだ固定する手段が無いようだ。まぁ巻きつきと風魔法の同時発動は出来ないしね。


 そしてサヤが触手と木を片手ずつで掴み、その役目を果たしている。劇的な程ではないけども、それなりの推進力にはなっていた。サヤはそのままでは少し勢いに耐えきれなかったのか、自己強化で全体的なステータスの底上げをして対応していた。


 これは見た目的には凧みたいな感じだけど、実際の役割は帆だな。その結果もあり、どんどん加速していくアル。ライオンとハリネズミも遠距離から魔法で反撃を繰り広げてくるが、俺が水流の一部で叩き落としたり、ヨッシさんが迎撃に当たっているのでみんな無傷である。


「よし、これくらいで良いだろ。行くぞ、アル!」

「おうよ! 『魔力集中』『頭突き』!」

「逃さないよ。『棘飛ばし』『棘飛ばし』!」


 狙いはライオンへの正面衝突。左右に飛び退こうとするライオンとハリネズミの逃げ場を塞ぐようにヨッシさんが2本ずつ棘を飛ばして、牽制してくれていた。さっきまで1本ずつだったのが2本になったって事は同時に飛ばせる本数って増えるんだね。


「ちっ、ハリネズミが逃げたぞ!」

「ハーレ、追って! 自己強化解除。『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』!」

「うん! 行くよ、サヤ! 『ウィンドボール』!」


 ライオンは俺の水流の直撃を受け、更にアルの強烈な勢いの頭突きの追撃で一気にHPが無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていく。だが、その攻撃の直前でライオンに見切りをつけたハリネズミが一目散に逃走を開始していた。


<ケイが成長体・暴走種を討伐しました>

<ケイが成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイはLv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:キズナ』に譲渡されます>

<ケイ2ndが成長体・暴走種を討伐しました>

<ケイ2ndが成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『成長体・暴走種の討伐』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


 あ、そういえばライオンは普通の黒の暴走種だったっけ。地味に取れてなかった称号だけどすっかり忘れてた。……スキルの称号取得は取り損ねたけど、気にし過ぎても仕方ないので今回は諦めよう。

 とりあえずハリネズミの始末が先だ。今はハーレさんにサヤがぎりぎりなんとかぶら下がっている状態だ。クラゲの触手の強度は上がってるようだけど、流石にクマだとあまり長くは保ちそうになく、徐々に高度が下がっていく。


「あれ!? 見失ったよ!?」

「ケイ、獲物察知!」

「分かってる!」


 即座に水流の操作を解除して、獲物察知の発動に移る。ここで見失っては意味がないもんな。


<行動値を1消費して『共生指示』を発動します>  行動値 12/43(上限値使用:2)

<『共生指示』にて『半自動制御Lv1:登録枠3』を発動します>『獲物察知Lv3』 再使用時間 6秒


 周辺を見渡せば、サヤから見て右前方の下の方に少し色の薄い黒の矢印を見つけた。草むらの中に隠れているようである。……少しだけ矢印に黒い靄みたいなものが纏わりついているのは区別の為か。


「よし、見つけたぞ! そこから右前方の草むらの中だ!」

「分かった! ハーレ、追い出すから見落とさないで!」

「うん、任せて!」

「それじゃ行くよ! 『強爪撃・土』!」


 ハーレさんの触手を離し、地面に向けて落下していくサヤ。そして落下と同時に地面に向けて強爪撃を叩きつけ、地面が陥没し軽い振動が周囲に発生する。その攻撃に慌てたのかハリネズミが草むらの中から逃げ出すように飛び出してきた。


「ヨッシ、そっちに行ったよ!」

「もう逃さないよ。『棘杭』!」

「これでとどめ! 『爪刃乱舞・土』!」


 一撃一撃が高威力となっているサヤの爪刃乱舞の連撃を受けて、ハリネズミのHPも一気に削れてポリゴンとなって砕け散っていった。纏わりついていた瘴気も同様に消滅していく。うん、サヤは前は重さに振り回されてたけど、まだ万全ではないようだけどそれなりに使いこなしているっぽい。流石、サヤは近接攻撃には強いね。


<ケイはLv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:キズナ』に譲渡されます>

<ケイ2ndがLv12に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>


 あ、意外と経験値が多かった。そうか、コケから見たら格下だけどロブスターから見れば格上だもんな。半減になってもオリジナルの黒の暴走種と残滓の異常個体とのセットならそれなりの経験値になる訳だ。


「よし! 風の操作が手に入ったぞ」

「私は土の操作だね」

「あー!? アルさんもヨッシもいいなー!?」

「それにしても案外呆気なかったな?」

「まぁボスでもなかったしね」

「それもそうだな。異常個体とはいえ、一般の雑魚敵に負けてたら話にならないし」


 ボスならまだしも、同じ進化階位の敵相手に苦戦なんてしてられない。んー癖のあった常闇の洞窟の敵に比べるとLvは同じくらいでもこっちの方が遥かに弱かったね。まぁ俺達の攻撃手段が増えているってのもあるんだろうけどね。


「いやいやいや!? 5対2とはいえ、いくらなんでも一方的過ぎやしないか!? 全員まだ成長体なんだよな!?」

「でも共生進化してるから、実質3人は成長体の上限だよね?」

「……それならまぁ無くはない?」

「プレイヤースキル次第だろ。……とはいえ、あの連携攻撃にはビックリしたけど」

「クジラって陸上でも突撃出来るんだ……」

「いやー、スキルって色んな使い方が出来るもんだな!」


 そして荒野の人達は賑やかに俺達の戦闘を分析しているようである。……ふむ、こういうのでワイワイやれれば楽しいんだろうけど、赤の群集はこれが出来なくなってるんだよな。青の群集は色々とやってそうだよね。まぁこういう所が灰の群集の特色って事で良いんだろうね!

 気まぐれで選んだ灰の群集だけど、ここにして良かった。


 さてと予定外の戦闘はあったものの、試したかった平地でのアルの移動方法やハーレさんの飛びたいという要望も一応は達成っていう事でいいんだろな? 調査クエストも気にはなるけど、先に残ってる目的の事をやってしまおうか。

 その前に確認しておく事がいくつかある。……紅焔さんと同じ事をするかもしれないけど、先に了承をもらっておけば大丈夫だよね?


「……まぁ色々と思うところはあるが、強い人の強さを実感したぜ。とりあえず片付いたし、調査クエストの受けれる場所に案内すればいいか?」

「あー、それは後で」

「あれ? ケイ、行かないのかな?」

「ここに来た目的を忘れちゃいけないぞ」

「アルが平坦なとこに行きたいっていうのと、ハーレが飛びたいのと、経験値と熟練度稼ぎだよね?」


 ん? あれ、俺の火の操作の取得計画が抜けている……? あ、そういや明確にここでやるとは言ってないような気もしないでもない!?


「……ごめん、俺の言い忘れかもしれん。火の操作の取得をするつもりだった」

「あ、そっか! 水流の操作とか停電で有耶無耶になったままかな!?」

「そういやそうだったね。なら、それを先にやる?」

「俺は良いぜ。……だが、それなら先に了承を取っておく必要もあるな。シンさん、それに他の荒野の人達に相談だ!」


 お、大体俺が考えてた事をアルが察してくれたようである。事前準備は大事だもんな。まぁ炎の操作の派生からの取得を狙う訳じゃないから、そこまで大事にはならないと思うけど。


「……なんか火の操作がどうとか聞こえたが、森林深部であったっていう火を起こした『プロメテウス』ってサルの人の再現でもやるのか?」

「あれ? サルの人って『聖火の人』じゃなかったっけ?」

「俺はどっちも聞いたぞ?」

「どっちも渾名って話じゃなかった?」

「そういやそう呼ばれるのも嫌がってるみたいなのは聞いたな」

「こっちでも火種が手に入るならありがたいかも」

「多少燃やし過ぎても問題ないぞー!」

「別に燃えてもそんなに困らないしね?」

「……まぁ荒野エリアの意見としてはこんな感じだ。やるなら歓迎だし、問題は特にないな」


 サルの人、確かカインさんだっけ。なんか渾名が付いてるみたいだけど、正直『ビックリ情報箱』よりもそっちの渾名の方が羨ましいんだけど!? サルの人のその渾名、俺のと交換してくれないかな!?


「ケイ、とりあえず問題はなさそうだぞ」

「……そうみたいだな」

「……ケイ、何を拗ねてるのかな?」

「拗ねてないぞ!?」

「あ、ケイさん! 渾名をーー」

「ハーレさん、それ以上言えばゲーム機をーー」

「はい! なんでもないです!」

「ケイ、気持ちは分からんでもないが、ちょっと大人げないぞ?」

「分かってるよ!?」


 しょうもない八つ当たりなのは自覚してますさ。渾名がプロメテウスとか聖火の人って格好いい気もするけどな。ビックリ情報箱よりは遥かに良いと思うんだ。……よし、これ以上気にするのはやめておこう。

 さてと、うまく行くかはやってみないと分からないけど、気を取り直して火の操作の取得を目指そうか!



【ステータス】


 名前:ケイ2nd

 種族:殴りロブスター

 所属:灰の群集

 

 レベル 11 → 12

 進化階位:成長体・殴打種

 属性:なし

 特性:打撃、堅牢


 HP 2900/2900 → 2900/3050

 魔力値 20/20 → 20/21

 行動値 31/31 → 31/32


 攻撃 53 → 57

 防御 51 → 55

 俊敏 39 → 42

 知識 24 → 26

 器用 24 → 26

 魔力 13 → 14

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