第8章 共闘イベントに備えよう

第200話 広がった移動範囲


 雨足の弱まったタイミングで急いで家へと帰ってきた。思ったほど待つこともなかったので、意外と早く帰って来れたのはありがたい。

 今日は特別何かしなくてはならない事もないので、着替えたらすぐにゲームを始めよう。



 そしてやってきました。いつものログイン場面。いつも通りのいったんがいて、その胴体には『ぎゃー!? 大雨で電車止まってんじゃねぇか!?』との事。……うん、どうでもいいわ!


「今日は全国的に雨が強いみたいだね〜。まぁAIの僕には関係ないんだけど〜」

「そりゃそうだ。いったん、なんか連絡事項ある?」

「ん〜、特にこれといってはないかな? あ、スクリーンショットの承諾の件ならそこそこ来てるよ〜」

「あ、それじゃちょっとそれを見せてくれ」

「はい、どうぞ〜」


 一覧をいったんから貰って、軽く流し見をしていく。ふむふむ、昨日の競争クエストでの激戦を撮っているのが結構ある。あ、シャコの人の攻撃を妨害して、俺のハサミが消し飛んだ時の瞬間を撮ったのがある。 ……せっかくだし記念にもらっとこ。

 それにしても地味にズーム撮影とかも出来る様子だ。視界をスクリーンショットにする訳だから、望遠の小技との併用かな。他は荒れ果てた戦場を撮っているのは結構あるけど、構図がイマイチなのが多いので欲しいのは特に無かった。


「この1枚だけくれ。処理はいつも通りで」

「はい、これどうぞ〜」


 よしよし、自分から積極的に撮りまくるつもりはないけども、こうやって気に入ったのを貰っておくのは良いかもね。……ん? この認証済みってマークはなんだ?


「このマークはなに?」

「あ、それは外部出力の可能になったスクリーンショットの目印だよ〜。今、君が承諾したからそれは外部出力可能だね〜」


 一緒に写っているシャコの人は見た目が同じだし、そのまま承諾したってことなのか。青の群集は強くなったという印象を広めたいのかもしれない。うん何となく気持ちはわかる。まぁその辺は個人の自由だね。

 さてとログインボーナスをもらう為に先にロブスターでログインして、その後にコケのでログインし直すか。


「いったん、ログインはロブスターで頼む」

「はいよ〜。これ、今日の分のログインボーナスね〜」


 ログインボーナスを受け取って、ロブスターでログインしてすぐにログアウトして、再びコケでログインし直した。地味に面倒だけど、キャラ毎にログインボーナスが設定されているんだから仕方ない。これでもログインボーナスに変わって楽になった方だろうから、文句を言うような事でもないしね。


 とりあえず、ロブスターとコケのそれぞれで増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7をゲットした。



 ◇ ◇ ◇



 コケでログインし直して、ログインボーナスも受け取ったのであれこれとやっていこうかな。今日は昼の日だから明るいね。そして天気も快晴である。

 昨日の夜にエンのとこまで転移してきて、そのまますぐにログアウトしたから気にしていなかったけど、ロブスターでの陸地進出は初めてだ。適応状態になっていれば転移先は水球の中ではないんだな。


 おー、改めて見るとエンのすぐ側にデカい海水の水球があるというのも凄いもんだな。陸地を歩くというのも不思議な気分。陸地スタートの筈なのに陸地を歩くと不思議な気分になる方が不思議なもんだけど。


 あ、海水の水球の中から適応進化するから迷惑かけたらごめんって言ってるダツのプレイヤーがいるね。あ、水球から飛び出して、地面に刺さって弱っていってる。他にも海水の操作で水球移動してくる海のプレイヤーが結構いるようだ。

 他にもライオン、ゾウ、シマウマ、カンガルーなど今まで森林深部で見かける事のなかった種族も増えている様子である。初期エリア同士の移動は活発化してきてるんだな。


 お、なんか電気を纏ったようなライオンの人が凄い勢いで走っていった。いつもヒョウの人と喧嘩してる人か……? いやでも他にもライオンのプレイヤーもいるし、プレイヤー名も知らないから断定は出来ないね。


「お? ケイさん発見!」

「あぁ、ほんとだね。なるほど、ザリガニになったんだ」


 するとすぐ近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は紅焔さんとソラさんだな。声のした方へ振り向いて見れば、そこにはかなり姿の変わった紅焔さんと、少し緑色を帯びた色に変わり一回り大きくなったソラさんがいた。


「おう、紅焔さん、ソラさん、こんにちは! お、ドラゴンになってる!」

「まだ小さいけど、ちゃんとドラゴンになったぜ!」

「すげぇな! ちなみに俺はザリガニじゃなくてロブスターな!」

「あ、ロブスターなのか。って事は海エリアの種族なんだな」

「そういえばアルマースさんがクジラって話だから、納得ではあるよね」

「あー、そういえばそうだったっけ」

「あ、その辺は伝わってるんだ。それにしても小さいけど、ドラゴンって良いな!」

「だろ!?」


 その紅焔さんの姿は、サイズ的には今までのトカゲを少し大きくして、そこにコウモリの翼を生やしたような感じである。体長40センチくらいだろうか。だけど、しっかりとしたドラゴンであるのは間違いない。大きさ的にはまだまだ迫力不足だけど、ドラゴンのミニチュアを見てるみたいでこれはこれでいい!


「あはは、紅焔は自慢げに言ってるけど、合成進化の直後はもっと歪な感じだったんだよね?」

「え、そうなのか?」

「……残念ながらな。まぁなんで合成進化では進化階位が上がらないのかの理由は分かったけど」

「ん? 何かあるのか?」

「組み合わせ次第では合成進化直後に変異進化が発生して、最適化が行われるみたいだよ? まぁ全てで起こる訳でもなさそうだけどね」

「そういう事。合成進化で『翼トカゲ』になってから、変異進化で未成体の『劣火龍』に進化したからな」

「へぇ、そういう風になってるのか」


 なるほど、合成進化で進化階位が上がらないのはそこから別種の進化が更に発生するからなんだな。色々と仕様には理由があるんだね。ともかく、これで紅焔さんは狙っていたドラゴンへの1歩を踏み出せたということだろう。……情報を貰ってばっかりでもあれなので、使うかどうかは分からないけど支配進化の事を教えておこうかな。


「あ、そうそう。進化情報を教えてもらった事だし、こっちもとっておきの進化情報を提供しようじゃないか」

「お、マジか? どんなだ?」

「へぇ、ケイさんがとっておきと言うのは気になるね」

「本当なら大々的に公表しても良いんだけど、共生進化以降の進化情報はまだ早そうだからね。教えても大丈夫そうな人だけになるけど」

「まぁそうなるよな。あ、そうだ。群集内での情報まとめ用の機能は要望が多いから、実装に向けて調整中だとよ。それが実装されてからなら公表しても大丈夫になるだろ」

「お、それは良い情報。え、でもそんな告知は無かったよな?」

「要望出した人への個別回答だな。実装の目処が立てば告知するってさ」

「ほうほう。なるほどね」


 対応中ではあるけど、即座にという訳にはいかないから一般告知はまだって事か。それでも要望を出してきた人には、対応中であるという返答はくれたって事なのだろう。どんな形になるかはわからないけど、便利機能の追加は有り難いね。

 そのまとめ機能でこれまでの情報が整理されたら、進化情報も色々解禁できるかな。まぁ、この辺は実装されてからだろう。


「それで、どんな内容なんだい? 僕はものすごく気になってるよ?」

「あ、そうだな。まずは前提条件としてーー」


 色々と紅焔さん達には情報も教わったりお世話になっているので、支配進化について俺の知っている事を説明していく。紅焔さんもソラさんも興味深そうに聞き入っていた。


「……なるほど、かなりクセの強そうな進化先だな。下手すればただの雑魚だが、扱いきればとんでもなく強くなるか」

「いいね、その進化。紅焔、僕もそれを狙ってみても良いかい?」

「そりゃ別に問題ないが、タカと何を組み合わせる気だ?」

「あぁ、それもそうだね。ケイさんに聞いたからコケというのも安直すぎるし、少し良さそうな種族を探してみようか」

「なら、ライルとカステラが夜にログインするまで適当にぶらつくか」

「よし、それで決まりだね。ケイさんは何か予定あるかい?」

「いや、今のところは別に何もないぞ?」

「ならしばらくの間、一緒にどうだい?」

「良いな、それ。どうよ、ケイさん?」


 おっ、PTのお誘いか。紅焔さんとソラさんなら普通に見知った相手だし、みんなが来るまでは予定は決めてはいない。ここはお誘いに乗るというのもありかな? 


「あ、サヤさん達がログインしたら合流するのも問題ないぜ? 都合が悪けりゃその時点で解散でも良いしよ」

「そうだね。僕もそれで良いかな」

「そういう事なら、一緒に頼むわ!」


 そこまで気を遣ってくれるなら断る理由もない。という事で了承しましたさ!


<紅焔様のPTに加入しました>

 

 そしてPT申請を受け取ったので、PTに加入していく。今日の臨時PTがこれで結成だ。多分、サヤたちもログインしてくれば、何か明確な目的があって紅焔さん達の行動目的と噛み合わない状況でない限りは合流しようという流れになる気はする。


「ケイさんはどこか行きたいとこあるか?」

「そうだな……。あ、紅焔さん達って常闇の洞窟の経路確立に必要ない転移地点って見た事ある?」

「お、あそこか? あるにはあるぜ」

「SFチックな金属があるとこだね」

「そうそれ! ちょっと見てみたかったりする」

「特にこれといって面白いもんでもねぇぞ?」

「いやいや、紅焔。ケイさんと一緒だよ? 何かあるかもしれないんじゃないか?」

「あ、それもそうか」

「……俺の認識って一体どうなってるんだよ?」

「「何が出てくるか分からないビックリ箱」」

「……そういう認識なんだ」


 まさか異口同音で即答されるとは……。まぁ俺自身も色々びっくりする新情報を手に入れる事も結構あるから、否定しきれない気もするけどさ。……無茶やって色々新情報を得てるのって俺だけじゃなくてサヤやアルとかも含まれてる筈なんだけど、俺に集約されてる気がするのは気のせい? まぁ悪評って訳でもないなら別に良いか。


 とりあえず一応の目的地は決定。色々と行ってみたい場所はあるんだけど、その辺はみんなと相談してからにしたいしね。……よし、新しい常闇の洞窟のマップ情報を貰ってくるか。他のエリアへの転移にも必要になってくるしね。


「あ、マップだけ貰ってくる」

「マップ無ければ転移出来ないもんな。貰ってきたら行こうぜ」

「おう!」


 サッと、エンのとこに移動して常闇の洞窟の最新マップ情報を貰っていく。軽く目を通してみれば、それまでの海エリアまでの経路と他のエリアの途中までの経路しか埋まっていなかったマップの踏破済み情報が、一気に数倍に増えた。


 お、全部の初期エリアへの経路が確立されているから、互いの位置関係が大雑把にだけど分かるようになってきてるね。海エリアが北東、草原が北、森林深部が中心から少し西寄り、森林が少し南寄りの西、荒野が南東って感じかな。

 そしてどうやら繋がる経路は1経路のみではなく、正解ルートと言えるのは複数あるみたいだね。……これは運が悪ければ中々うまく経路確立が出来ない場合もあったかもしれない。海流の操作でちょっとしたトラブルがあったとはいえ、海エリアとの経路確立はかなり運が良かったのかもね。


「常闇の洞窟のマップが凄いことになってるな」

「そりゃ、これまでの森林深部だけの情報とは違って灰の群集の全エリアから統合した情報だしな。んじゃ出発するぞ」

「鬼が出るか蛇が出るか、少し楽しみだね」

「……ソラさん、毎回何かあるとも限らないぞ?」

「いやね、正直なとこを言うと共闘イベントとか強化された残滓とかの情報が出てるし、何かあるんじゃないかなって気はしてるんだよ」

「確かにそう言われると何かありそうな気はするな。何もなさ過ぎて人が寄り付いてないから、様子見にも丁度いいか」


 そういうのもあって、見に行きたいという気持ちはあるにはある。まぁただ単に好奇心で行きたいだけというのもあるけども。


「ケイさん、転移地点は森林深部の8番目の場所な」

「えーと、転移地点も増えてる。……8番目か」


 転移地点は一覧で森林、森林深部、草原、荒野、海原で5項目に分かれていて、それぞれに番号が振られている。ついでにマップ情報に記されている転移地点を選択しても転移自体は可能なようだ。えーと、森林深部の8番目は……お、俺達が海エリアへの経路確立に使った場所の南側か。ここを選択すれば転移が可能って訳だな。


「よし、選択問題なし!」

「それじゃ出発って事で!」

「おう!」

「さて、何があるのか楽しみだね」


 何か変化がある事を期待しているソラさんの思った通りの事があればいいけどね。そして転移によって移動を開始した。

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