第182話 雑魚となった初期のボス


「えっと、ここかな?」

「クラゲがいるから、ここで間違いなさそう」

「到着だー!」


 アルに乗って少し移動してナギの海原への切り替え地点へと辿りつく。海水の壁があればアルが泳いだ時の影響もなく平穏に移動してこれた。コケ式滑水移動よりもこっちの方が操作は楽だね。あっちほど正確な操作は必要ないし。

 ついでにここまで来る間にも残滓や一般生物も仕留めてきたのでLv6に上がっていた。各種進化ポイントも1ずつゲット。


 さてと辿り着いた場所を眺めてみれば少し浅めにはなっていた。基本的に西側が浅めって事なのでその影響だろう。この辺はカラフルな海藻や小魚もちらほらと見えて、先程までいた岩場よりも見た目が少し華やかである。

 海藻が少なく砂地の広間みたいになっている場所に青白く光って1メートルは超えていそうなクラゲが漂っていた。ハーレさんのクラゲと形状はあまり変わらないけど、大きさがかなり違って壮観である。セリアさんの言ってた通り、ボス戦をしているPTはいなさそうだ。


「このクラゲ、大きいね!?」

「アル、このサイズくらいまでならなんとか丸呑みいけるんじゃないか?」

「進化階位が違えば全然ダメージの通り方が違うの分かって言ってるよな、ケイ!?」

「まぁ言ってみただけ。アルの口の中からモゾモゾと暴れながら触手が出てきそうだよな……」

「マジでそうなりそうだからやらねぇぞ……」

「……自分で言っておいてなんだけど、あんま見たくない光景だからそれでいいよ」

「……なら言うなよ」


 何となく思った事を言ってみただけだけど、まぁアルが殺られる姿しか想像出来ないし無理にやる必要もない。あんまり見てみたい光景って訳でもないし。


 少し距離が離れた場所からクラゲの様子を伺ってみたけど、やっぱり戦闘中の他のPTの気配はなし。クラゲから少しズレた所から進んでみても、無限ループになっていて先へは進めない。……マップを見ながらじゃないと進んでる気になって無限ループになっているのに気付かないのは流石だな。まぁこの辺は元々分かっていた仕様なので問題なし。


「よし、確認終わり! ハーレさん任せた!」

「任されたよ! 『魔力集中』『アースクリエイト』『狙撃』!」


 海水の壁を少し空けてハーレさんの攻撃が可能なように調整する。まだ少し距離があったので投擲ではなく狙撃を選んだようだ。そしてハーレさんに投げられた魔法産の小石がクラゲの触手を数本を千切り取った。HPも一気に2割ほど減っている。


「あー!? 狙い外した!? それに思ったよりダメージが出ないよ!?」

「ハーレ、一応相手はボスだからね?」

「海ってこともあるんじゃないかな? アルの巣のボーナスも無いんだし」

「ぐぬぬ! 一撃で仕留める予定が!?」

「いや、流石に一撃はな……? そういや、クラゲのレベルっていくつ?」

「私の識別じゃまだLvは見えないよ!?」

「あ、そっか」


 そういや俺とサヤ以外は今日看破の取得のために識別を取ったばかりだった。まだ相手のLvを見るまでは不可能か。さて、クラゲも臨戦態勢に入ったみたいだし、サクッと倒そう。……ハーレさんが。


「わっ!? 千切れた触手が新しく生えたよ!?」

「……少し大きさが小さくなってないかな?」

「ハーレ、なんか心当たりない?」

「ないよ! 千切れても放置してれば勝手に治るけどあんなに早くないよ?」

「あれじゃねぇ? 赤の群集のイカの人が使ってたHP消費での欠損回復」

「あ、そういえばそういうのもあったかな」


 ルアーのPTと戦った時にそういう事もあったっけ。イカの人の触手をサヤが切り飛ばして、HPを消費して回復してた事。なるほど、そういう系統のスキル持ちって訳か。よく見ればHPも微減少しているようである。物理的に削っていけばHPも削れるんだな。

 あ、なんかクラゲの傘の部分が点滅し始めた。これは閃光の事前動作!?


「アル、急旋回!」

「おう、分かってる! 『旋回』!」

「とうっ!」

「あ、ハーレが!」

「ハーレ!?」

「穴が開いたままだったか!?」


 しかし気付いた時には既に遅くハーレさんはアルの背中の上から投げ出されていた。そしてアルの急旋回は止まらず閃光を避けるために向きを変えていく。その直後に先程まで向いていた位置は閃光によって強烈な光に覆い尽くされた。咄嗟にみんなが顔を背けたので閃光の回避は成功。ヨッシさんのウニはどこから見えてるのかよくわからないけど、多分俺のコケと同じようなもんだろう。


 後はハーレさんだけど、まぁ未成体だしボスとはいえ低レベルの成長体の攻撃で即死はまず無いだろうから大丈夫か。ハーレさん以外だとヤバかったかもしれないけど。っていうか少し慌てたけど、落ちたというよりは自分から飛び込んでいったような……?


「『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」


 そして埋め尽くされた光の中からハーレさんの攻撃する声が聞こえてくる。あ、やっぱり狙って自分から距離を縮めたのか。すぐに閃光も収まったので、視線をクラゲとハーレさんの方に戻してみる。そこにあったのは傘部分は穴だらけで触手の大半は千切れている満身創痍のクラゲの姿。もうHPは2割くらいである。


「あー!? 今ので仕留めきるつもりだったのに、まだHP残ってる!?」


 そしてハーレさんは、その結果に満足していなかったようで追撃を加える為に泳いでいく。……未成体になってから泳ぐのも早くなった気がする。やっぱり進化すると色々底上げされるっぽいよな。


「元々分かってたけど、単独でも楽勝か」

「まぁ未成体に進化して、成長体に進化したてで勝てるボスに負ける訳ないな」

「むしろ負けた方が問題あるかな?」

「それはそうだね。これが終われば私の番か」


「みんな、トドメ行くよー! 『アースクリエイト』『投擲』!」


 そしてその一撃はクラゲのかなり近くから放たれる。傘の部分を狙ったその投擲によりクラゲの身体に大穴が空き、HPが尽きてポリゴンとなり砕け散っていった。未成体の圧倒的暴力により、ボスが雑魚の様に倒されたね。


<ケイがLv7に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>

<『進化の軌跡・光の欠片』を1個獲得しました>


 お、レベル上がったね。もうちょい上がるかと期待したけど、それは流石に無理か。ほぼ何もせずにこの経験値なんだから良しとしよう。あと少しでLv8になるってとこだけどそれは仕方ない。あと、進化の軌跡もゲットである。


「ヨッシ、交代ねー!」

「うん。ハーレ、おつかれ」


<ハーレ様がPTから脱退しました>


「ヨッシさん、ハーレさん、さっきの場所まで迎えに行くほうが良いか?」

「ん? あ、それは大丈夫。ちょっと良い案あるからね」

「ヨッシ、何かあるの!?」

「まぁね。すぐ行くから、ハーレはクラゲでログインしたらその場で待ってて」

「うん、分かったよ!」


 アルが迎えに行こうかと提案したものの、どうやらハーレさんを連れてくる秘策がヨッシさんにはあるらしい。未成体と幼生体だから、よほどの大きさの差がなければ大丈夫だろう。ここはヨッシさんに任せようか。


「ケイさん、アルさん、サヤは適当にその辺で時間潰してて。そんなに時間はかからないと思うし」

「おうよ」

「うん、待ってるね」

「おう、適当に待っとくわ」


 そしてヨッシさんとハーレさんはキャラを切り替えにログアウトしていった。2人ともどちらも同じ地点にキャラがいるので、移動手段さえちゃんとあれば問題はないだろう。


「さてと、何しとく?」

「あー、小型化の取得をやっちまっていいか?」

「おう、良いぞ!」

「そういやアルにはそれがあったね。何処か嵌まれそうなちょうどいい場所ないかな?」

「ちょっと周辺を探索してみるか」


 イルカではなくクジラのままで行くと予定は変えたけども、一応小型化も試すとも言ってたしね。少しの待ち時間だし、丁度いいタイミングだろう。後はちょうど良く嵌まれるような大きさの岩場の隙間とかがあれば……。

 少しだけ南に行ったところに岩場地帯があったのでそこでウロウロと泳ぎ回っていく。手分けしようかとも思ったけど、その場にアルがいなければ意味がないのでアルの背中に乗ったままで周辺を見渡していく役目をしていた。


「アル、そっちの左の方の岩場はどうだ?」

「お、ここか。……絶妙に通れるか通れないかの幅だが……って、普通に通り抜けられたぞ!?」

「んー、何処でもうまく行くわけじゃないのかな? あ、あっちの右下の方は?」

「……こっちは逆に入れもしねぇな」

「なかなかちょうどいい場所はないもんだね」


 そしてアルが嵌まれる場所を探して、しばらくウロウロしていると遂に見つけた。なんか岩場の下の方に洞窟のように穴が空いていた。……ただし普通に見える範囲で行き止まりになっている。魚の巣穴とかに良さそうではあるけど、それにしては少し大きめな気がする。


「アル、あそこだ! 正面右側のなんか洞窟っぽくなってるとこ!」

「また妙なとこに妙な感じの穴が空いてるな、おい。……すまん、サヤ、ケイ一旦降りてくれ」

「あ、これだと俺らが邪魔か」

「そうなるね。すぐ降りるよ」


 洞窟の中に身体を突っ込ませるから、俺らが乗ってたら邪魔になるもんな。っていうことで即座にアルから降りる。


「んじゃ、やってみるか」


 降りたのを確認するとアルは頭から洞窟の中に突っ込み、そして身動きが取れなくなった。お、これは成功か!?


「あ、これ本気で身動き取れねぇ!? あれ!? 即座に称号取得じゃねぇの!?」

「……そういや具体的な時間って聞いてなかったっけ。一定時間嵌まる事が条件かもな」

「……アル、既に嵌った以上は取得まで我慢するしかないんじゃないかな?」

「くっそ、もうちょい詳細をちゃんと聞いとくんだった!」


 それから少し経った頃にヨッシさんとハーレさんがハチとクラゲで戻ってきた。統率のハチ3匹でハーレさんのクラゲの傘が広がらないように押さえて、ヨッシさん自身にはハーレさんの触手を巻き付けて引っ張ってきていた。

 そのまま引っ張るとパラシュートみたいになって減速させそうだから、統率のハチで押さえてるのか。大雑把な指示だけらしいけど複数ハチを同時に扱えるからこその手段だな。なんというか統率のハチが水っぽいけど、これは海水製か?


「……アルさんは何をやってるの?」

「ヨッシ、あれだよ! 小型化!」

「あ、そういえば嵌まる必要があるって話だったね。え、それでアルさんはこの状態?」

「……あと少しの筈なんだ」

「そろそろ嵌ってから5分くらいかな?」

「結構かかるんだね?」

「よし、称号取得が来た! 『小型化』!」

「おー!? 一回りくらい小さくなったね!?」


 どうやら『嵌まるモノ』の取得条件は嵌ってから5分経つ事のようだ。まぁ何も分からず嵌まるよりかは良かったんじゃないかな? 逆に大型化ってどうやって取るんだろう? 届きそうで届かない所で5分間くらい全身を伸ばし続けてみるとかそんな感じかな? ……時間がある時に試してみようっと。


「アルの小型化も取れたし、もう1回クラゲのとこ行くか!」

「そうだね。アル、行けそう?」

「あぁ、問題ねぇよ」

「それじゃ改めて出発だー!」

「あ、その前にケイさんPT申請お願いね」

「おっと、そうだった」


<ヨッシ様がPTに加入しました>


 ヨッシさんのハチをPTに加入させて、あとはさっきまでに比べれば小振りの6メートルくらいになったアルの背中にみんな乗っていく。


<行動値を4消費して『海水の操作Lv3』を発動します>  行動値 12/16


 それで海水の操作で壁を作れば準備完了!


「アルさん、出発ー!」

「おうよ!」


 そして再びクラゲを殲滅する為に移動を開始していく。その移動の中で多少の変化はあった。


「アル、こっちの方が小回りしやすいんじゃないか?」

「確かにな。だが、ちょっと力強さが落ちてる感じか。速度も少し落ちてるな」

「一長一短って感じなのかな?」

「そんな感じだな。まぁ扱いが苦手だと思うやつは小型化の方が良さそうではあるか」

「アルさんはどうするの!?」

「……そうだな。あのパワーを捨てるのは惜しいから、必要な時だけ小型化でイルカへの進化は見送りにするか」

「あ、そういやイルカへの進化は出たのか?」

「あーまだ詳細は見れてないが、進化欄が光ってるから多分出てるな。おっと、もう着くぞ」

「さて、私の番だね。閃光も使わせずに倒しちゃおうっと」

「あー!? ヨッシ、ズルいんだ!?」

「ハーレが先に自分で行ったんじゃない?」

「うー! そうだけど!?」

「ハーレ、少しは慌てずに落ち着く事も覚えなさい。そうじゃないと損する事もあるからね」

「……はーい」


 なんとも本当に同い年なのかよくわからない会話を繰り広げているハーレさんとヨッシさんだけど、まぁ仲がいいからこそのやり取りだろう。それにしてもやはりヨッシさんはハーレさんの扱いが上手いな。


 そしてヨッシさんの戦闘が始まった。さて、どんな戦いになるものか。


「それじゃ一気に行こう! 『氷化』『同族統率・氷』! ハチ1〜3号、滅多刺し! 『斬針』!」


 いつの間にか統率のハチが今度は氷属性で生成される。統率のハチが弱る気配がないのは本体であるヨッシさんが適応状態だからだろう。この統率のハチは倒されれば再び出すのに10分必要だと聞いたけど、自発的な解除にはその制約はないようである。

 クラゲは次々と統率のハチに刺されて凍結の状態異常になり、そして本体のヨッシさんが触手を傘をとどんどん切り刻んでいく。


 統率のハチ3体で凍結の状態異常で動きをほぼ完封し、ヨッシさんが斬りまくってクラゲはバラバラになっていく。近接で攻撃を行った為、ハーレさんの遠距離攻撃ほど海水の影響は無かったようだ。まぁ陸地の時よりはちょっと動きが鈍かった気はするけど、成長体相手にはそれで充分だったみたいである。

 そしてHPを全て失ったクラゲはポリゴンとなって砕け散っていった。何も出来なかったクラゲに少しだけ同情はするけど、ゲームの初期のボスなんて強くなってくればこんなもんだよね。


<ケイがLv9に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 あ、今度はLv2上がったぞ。1回目のクラゲの経験値はぎりぎりLvが上がるかどうかまで行ってたから、その分だろうね。あと進化までLv1。でも時間的には今日はこの辺までか。


「惜しいな、もうちょいでLv10だったんだが……」

「時間も時間だし、これは明日かな?」

「えー!? ここまで来たらLv10までやろうよ!?」

「明日が休日ならいいけど、明日は平日だから駄目。ケイさんがせっかく没収を食い止めてくれたのに、また寝坊して没収されるよ?」

「そういや次やったら1週間没収なんだった!?」

「俺も巻き添え食らって同じ条件なんだから、大人しくログアウトしとけな?」

「……はーい」


 とりあえず学生組の俺たちはここで本日は終了。多分アルはあと1時間くらいはやるつもりだとは思うけど、どうだろうか?


「俺は今日のうちに進化まで済ましとくか。ケイたちは明日も夕方からやるんだろ?」

「まぁそのつもりだな」

「なら、明日の夜には全員成長体の状態で集まれるのを目標って事でいいだろ」

「うん、そだね! 明日頑張ればいいんだよね!」

「その為にもハーレはとにかく寝坊しないように!」

「ハーレ、頑張ってね」

「そういやヨッシさんってサヤの家に泊まってるんだっけ?」

「うん、そうだよ。今夜も泊まっていって、そのまま学校に一緒に行く予定」

「なるほどね」


 そのまま同じ学校へと登校するんだな。俺にはそういう友達はリアルには居ないからちょっと羨ましくはあったりするかも……。まぁ気にしても仕方ないか。


「それじゃまた明日って事で!」


 それぞれ別れの挨拶をして、アル以外はログアウトしていった。


 いったんからは特に連絡事項もなかったので、サクッとログイン場面も終わらせて現実へと戻ってきた。今日は1日中やってたんだよな。あんまり精神的な疲労感はないけど、自覚もない時もあるから風呂入ってさっさと寝てしまおうか。

 さてと明日は明日で色々やらないとな。早く共生進化まで辿り着きたいところだね。



 【ステータス】


 名前:ケイ2nd

 種族:ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 5 → 9

 進化階位:幼生体


 HP 980/980 →980/1460

 行動値 10/14 → 14/18


 攻撃 12 → 20

 防御 12 → 20

 俊敏 11 → 19

 知識 5 → 9

 器用 5 → 9

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