第160話 海水の中へ
「……なんか盛大に予定が狂った気もするけど、今度こそ海水の中へ行くぞ!」
「そだね! 陸で無駄に纏海の時間を消費してる場合じゃないもんね!」
「ぐっ、とにかく出発!」
「おー!」
「アルさん、掴まらせてね?」
「おう。……そういやアンコウはいないな?」
「海水の中にいるのかな?」
「行けば分かるよ! せーの!」
「あ、ハーレ!? 1人で先に行っちゃ駄目かな!?」
「それじゃ行きますか」
「だね。海中でうまく自力で移動出来たらいいけど」
ハーレさんが先陣を切り、みんなが海水の地下湖へと突入していく。少しずつ深くなっていき、やがて一番大きなアルも全部が海中へと入っていった。さてと俺も小石移動をしながら突入と行きますか。『海中適応』は常時発動だからそのまま突っ込めばいいだろう。
そして警戒しながらも海中に入っていけば、そこは真っ暗で先の見通せない海水に沈んだ洞窟の姿が見えてくる。いや、見通せないので見えてくるとは言い難いか。
「ケイさん、ここもっと暗いよ!?」
「水中じゃ洞窟内よりも更に暗い……というよりは灯りが届きにくい感じか。俺が先行しても大丈夫か?」
「あぁ、こっちはハーレさんの巣の石も光ってるから多少は大丈夫だ」
「なら俺が先頭に行くわ」
「おう。任せたぞ」
「水中なのに普通に会話出来るし、結構普通に動けるんだね?」
「……うん、そうだね。普通に飛べるよ」
水の抵抗はあって少し動きは鈍るけど、それでも劇的に行動が阻害されるという事はない。時間制限ありの纏海ではあるが、結構な優れ物のようである。コケとしては弱点である海水でも弱っていく様子もない。サヤやハーレさんやヨッシさんの動物系も窒息せずに普通に動けているので便利だな。
オフライン版だと動物系って水中に長時間居ると窒息っていう状態異常になるからな。……今は纏海のおかげで大丈夫なだけで、オンライン版でもその手の状態異常は変わらない気はする。そういう意味ではアクアプリズンは窒息の状態異常を引き起こすから、地味に凶悪な拘束魔法か。
「よし、それじゃハーレさんの巣のとこの石と俺自身が先行で灯りは2つ体制だな」
「そだね! 割と前からそうだったけど、ここは特にそれが重要そうだね!」
「ヨッシさんとハーレさんは、アルにしがみついて背後や上部の警戒してくれるか?」
「そっか。周りが全部海水だと前からだけとは限らないしね」
「うん、分かったよー!」
「サヤとアルは俺と前方警戒よろしく!」
「確かにそれが良さそうかな? うん、分かったよ」
「俺とサヤは前を見ずに移動って訳にはいかんからな。妥当なとこか」
背後から襲ってくるのは陸地でも同じだけど、ここは今まで1度も進出したことのない未知のエリアだ。……オフライン版でも海の中へ行く事はあるにはあったけど、陸地での生物ではあまりにも効率が悪いから基本的に海は海のキャラで楽しむ物だった。まぁ縛りプレイの一環で海エリアを陸地生物でクリアするというのもあったけど、あれは海への適応進化があってこそである。あまりオフライン版の情報はあてにせず、警戒態勢で進むのが良いだろう。
そして少しだけ移動していくと直ぐに何やら灯りが見えてきた。……これは光源持ちの敵か、もしくは他のプレイヤーか……? そういや火魔法はここの光源には使えそうにないな。あ、それもあってこっちのルートは人気がないのか。
「ケイ、なんか前から光が近付いて来てるぞ」
「プレイヤーか、黒の暴走種か、どっちだろうな。ちょっと確認してみるか」
<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 36/37(上限値使用:8) : 魔力値 82/86
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 33/37(上限値使用:8)
<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します> 行動値 29/37(上限値使用:8)
はい、これで即席の使い捨て灯りの出来上がり。移動しながら行動値や魔力値が回復するのも、同時にスキルが発動出来るのもなんて素晴らしい事か! ……こう考えるとコケって操作の癖が強いな。
とりあえず即席の3つ目の灯りを先に見えている灯りの方へ近づけていく。そしてそこに浮かび上がってくる姿は、以前見た事のある姿だった。見た目はそのまんまチョウチンアンコウで、頭に光る突起が着いている。……出たか、以前俺を殺した最後の1匹。
「あー!? アンコウだ!」
「カーソルが黒って事は敵確定だな」
「初めての水中戦かな」
俺をバクバクと食ったりして殺ってくれた忌まわしき連中。闇コウモリ、闇ゴケ、光灯アンコウの内2体までは別個体かもしれないが撃破した。……まぁゲームなんだから別個体でも同じでいいって事で。残す所は目の前にいるアンコウのみ! ハーレさんとヨッシさんも敵の出現に合わせて、移動してくる。ハーレさんは巣の中、ヨッシさんはサヤの隣である。
海中戦での慣らしも兼ねてサクッと仕留めてしまおう。っと、その前に識別しないと。前回見た時の情報は今の識別情報に劣るしね。
<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します> 行動値 26/37(上限値使用:8)
『光灯アンコウ』Lv18
種族:黒の暴走種
進化階位:成長体・暴走種
属性:光、海
特性:陸地適応、深海適応
属性は見た目通りで、特性が陸地適応と深海適応ってある意味凄くないか……。深海も陸地も大丈夫な魚ってとんでもないな。あ、即席の灯りのコケを石ごと食いに行こうとしている。……こいつ、食欲優先の行動パターンか……? 食われても問題はないけど、あっさり食べられるのも気に入らないからとりあえず小石を顔面にぶつけとくか。よし、狙い通りに顔面に直撃!
「あ、怒ったか……?」
「食べる所を邪魔されたらそりゃ怒るよ! 『投擲』!」
「俺のおかずを時々横取りするヤツが言う事か!?」
「……ハーレ、流石にそれはやめよう? 『氷化』『同族統率・氷』! ハチ1号、2号『刺針』!」
「私もそう思うよ。海水内なら単発の方が良さそうかな? 『強爪撃』!」
食い意地の張っているハーレさんが食事の邪魔をされるのを怒る理由は分からない訳じゃないが、それでもおかずを強奪しててその言い方はどうなのだろうか。
そしてその会話の間に放たれた未成体の2人の攻撃をアンコウはまともに受けていた。ただの投擲だけでHPは1割減り、氷のハチがアンコウを針で何度も刺して氷結の状態異常と共にどんどんHPを削っていく。そっか、ヨッシさんの同族統率のハチって1段階下の進化階位になるから、今は成長体相当のハチになるんだな。
どんどんとハチ2匹によって状態異常と滅多刺しによりHPが削られていき、そこにサヤの1撃が振り下ろされる。
「んー、まだ1撃の威力は低いかな? やっぱり熟練度稼ぎが必要だね」
「成長体相手で状態異常が効く相手なら、ハチ1号と2号でハメ殺し出来そう? 毒も持たせられるかな?」
「ちょっと未成体に進化するの早まった気がする!? 手応えがないよ!?」
まだアンコウはHPは半分は残っているけど、もはやまともに相手にされていない。そうか、陸地にも深海にも適応してても氷には適応してないんだな。かつての強敵も未成体が2人もいればただの雑魚でしかないらしい。
「なぁ、ケイ」
「どした、アル?」
「これ、敵に関しては楽勝じゃね?」
「……俺もそう思ってたとこだ」
ベスタが確認した範囲ではほぼ成長体ばかりという話。俺達自身で体験した限りでもこの中にいる未成体はこちらから攻撃を仕掛けない限り何もしてこない。で、Lv18の成長体相手ならこの状態となれば楽勝だろうな。
「これならどうだろ? 『麻痺毒生成』『同族統率・毒』! 行けハチ3号『刺針』! あ、やっぱりだ」
「お! ヨッシ、そんな事も出来るんだ!?」
今度は氷ではなく毒々しい色のハチが飛んでいく。そして、アンコウに針を突き刺したものの特に変化はない。あ、凍結の状態異常が切れたアンコウが動き出してハチ3号を食ったな。……食われると一気に消滅か。そしてついでに氷製のハチも食おうとして、逆に刺されてまた凍結になっている。
「纏属進化の時とは少し性質が違うっぽいね。同族統率を使う前に使ったスキルの属性を引き継いで生成されるみたい。でも本体が属性を持っているものに限られるみたいかな。『並列制御』を取れば、もしかしたら氷と毒の両方で生成出来るかも?」
「おー! 良いね!」
「でもヨッシ、毒の効きは悪いみたいかな?」
「氷が弱点だったって感じみたい。3号は食べられちゃったか」
そしてアンコウは、ヨッシさんの実験台になっている様子。ヨッシさんの統率ハチは氷製にも毒製にもなるのか。ヨッシさんの攻撃が地味に恐ろしい事になってるな。ただ無条件に状態異常が効きまくっている訳じゃなさそうだ。
まぁ何でもかんでも麻痺毒やら凍結が効きすぎてもゲームバランスがおかしくなるから、効きやすい相手と効きにくい相手がいるんだろう。……この辺りは看破のLvが上がれば分かるようになるかもしれないね。
そうしてヨッシさんのスキルの実験台にされて、遂には事切れたアンコウはポリゴンとなって砕け散っていった。少しリベンジをとか思ってたけど、ここまで呆気なく倒されたのを見るとなんかどうでも良くなったよ。ゲームの敵に言うのも変だけど、ご愁傷さまです。
<成長体・暴走種を討伐しました>
<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>
<Lv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:エン』に譲渡されます>
<『進化の軌跡・光の欠片』を1個獲得しました>
<『進化の軌跡・海の欠片』を1個獲得しました>
「普通に海中の黒の暴走種って進化の軌跡を落とすんだ!?」
「ハーレの方には取得出たの? 私にはないけど」
「あ、私は出たよ」
「俺は無しだな。……何体か倒してみる必要はありそうだが、確率高めで落ちるのかもな」
「まぁ必須アイテムだしな。で、ついでに光の欠片の方も落ちたぞ」
「おー!? そういやベスタさんが普通の黒の暴走種でも進化の軌跡を落とすって言ってたもんね!」
「確率は低いとも言ってたけどな」
まぁ確率が低いとはいえ、落ちる物は落ちるという事だ。とはいえ、今は纏海の使用中。同時に別属性の纏属進化は不可能なようで使用は不可能になっている。纏光ってどんなもんかは気になる……。
「でも、海中だと多分だけど火魔法使えないよね? その代わりの可能性もあるんじゃないかな?」
「あ、それもそうか。っていうか、これって海エリア側の人用か?」
「そっか! 海エリアの人には海の欠片とか要らないもんね!」
「……確かにその可能性は充分あるな。っていうかその辺、全然海エリアの人に確認してなかったな」
まぁその辺を確認するのは後からだな。とりあえず今は先に進んでいこう。海の欠片は手に入りやすい事が分かったとはいえ、海の小結晶の方はまだよく分からないんだ。節約していく方がいいだろう。
「とりあえず先に進もう。制限時間が勿体無い」
「それもそうだね! 海中洞窟の本格探索の開始だね!」
「警戒範囲はさっきの割り振りで良いのかな?」
「それでいいと思うぞ。よっぽど無茶な奇襲でない限りはそれで対処出来るだろうしな」
「そうだね。思った以上に統率のハチが便利だったし」
「殆ど陸地での動きと変わらないもんね!」
「纏海は便利かな。少しだけ抵抗は感じるけど」
「ま、その辺は仕方ないだろ」
そんな雑談を繰り広げながら、俺はアンコウの姿を確認する為に即席で作った灯りをそのまま自分の前に先行させて灯りを確保する。その後ろをサヤ、アルの順番で並び、そしてアルの枝にヨッシさんとハーレさんが待機して、背後の警戒をしながら進んでいく。
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