第124話 雨に濡れながら


 ゲームを起動して、まずはログイン場面へとやってきた。さてと今日はたっぷり時間あるし、思いっきりやりますか。

 いつものようにいったんがいるかと思えば、珍しくいったんは居なかった。もしかしてさっきの掲示板での影響だろうか? そしていつもいったんがいる所には代わりに提灯があった。というか居た……?


「なんで提灯……?」

「あ、ごめんなさい。いったんは今メンテナンス中でして、開発補佐用の支援AIである私が変わりに担当なんです」

「あーなるほど」


 提灯の一部が裂けて口のように動いていた。なるほど、開発補佐用のAIは提灯お化けなのか。ここのゲームのAIは妖怪がモチーフなんだな。いや、別に問題はないんだけども。

 いったんがメンテって事はやっぱり掲示板でバグってたあれが原因か。ログイン業務にも支障が出たとは地味に厄介な状態……?


「あ、名乗っていませんでしたね。チョーチと申します」

「よろしく、チョーチさん」

「呼び捨てで良いですよ。まぁ私は数時間だけの臨時ですので会う機会も少ないでしょうが」

「そっか、ならチョーチって呼ぶよ。数時間だけなんだな?」

「えぇ、いったんのメンテナンスが終われば担当は元に戻りますので」


 つまりは突発的ないったんのバグでの対応中に臨時で別の用途のAIをログイン対応へと割り当てた訳か。まぁこっちとしては普通にゲームが出来れば問題ないけど……。


「あー、これ普通にいつも通りにログインして問題なし?」

「はい、問題ありませんよ」

「んじゃそうします」

「はい、いってらっしゃいませ」


 うん、いつものいったんとは違った雰囲気でなんか変な感じではあるけど、問題ないなら別にいいか。



 ◇ ◇ ◇



 ゲーム内は暗かった。まぁ今日は夜の日なので当たり前だけど。何やら上から次々と水滴が落ちてきている。今の天候はゲーム内でもリアルでも雨か。とりあえず夜目を使っとこ。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 37/37 → 36/36(上限値使用:1)


 ないよりは遥かに良いけど、雨だから普段よりも視界は悪いか。お、サヤとヨッシさん発見。ハーレさんもちょうどログインしてきたか。


「……いったんがメンテナンス中だったね」

「あれって何かあったの?」

「あー、あれ掲示板でなんかバグってたぞ?」

「いつもみたいに掲示板で情報漏えいをさせらせそうになったらバグったみたいだった!」

「……AIだけど、なんか可哀想になってくるね」


 流石にあれはなぁ……。かと言って何かできる訳じゃないのでどうしようもない。運営の人に頑張ってもらうしかない。それはともかく今日の予定を決めていこう。


「それにしても結構雨が降ってるかな?」

「だな。まともに降ってる雨って初めてか? この前は小雨だったしさ」

「そうでもないみたい。リアルの方の時間で真夜中とか昼間には結構降ってたりするらしいよ?」

「あーそうなのか。そりゃログインしてない時間だから知らんわ。ヨッシさんは誰かから聞いたのか?」

「私じゃなくてサヤの知り合いなんだけどね?」

「……うん、質問攻めで捕まってた時に助けてくれたクマ友達かな。昨日ヤナギさんのところで声をかけてきた人がいたでしょ?」

「あーあのクマの人か」


 そういや居たな。あの時は結構な大人数がいたからプレイヤー名までは確認出来ていなかったけど、そういう繋がりだったのか。


「そういや他のプレイヤーに魔力集中のコツを教えてたっていうのも、もしかして?」

「うん、その人だよ」

「ただ他のプレイヤーに捕まってただけじゃないんだな」

「……みんなは一目散に逃げてたよね?」

「……まぁ気にすんな?」

「……サヤ、あれくらいは自分で躱さないと」

「そういう時、大型のモンスターは不利だよね!」


 クマは単純に目立つから、他のプレイヤーに見つかりやすいのは仕方ない。なんかサヤにジト目で見られている気もするけど、気のせいだろう。ああいうのは自力でなんとかしてもらったほうが良いしね。うん、決して見捨てた訳ではない。いつでも一緒にいるとは限らないし。


 それにしても雨か。適度に地面が泥濘んでいて、岩やコケの上とかもよく滑りそうだ。うん、俺的には絶好調な環境だな。……もっと本降りの雨になったらどうなるんだろうか?


「ねぇ、今のうちに泥団子作っておいていいかな!? この前、結構使っちゃったんだ!」

「あーそういや、この前のカメレオン相手に役立ってたもんな」

「それなら私も投擲はあるし、作っておこうかな?」

「おー! サヤ、一緒にやろう!」


 確かにこの状況なら俺が水分補給をしなくても泥団子はいくらでも作れそうだ。それにあれは結構便利だったみたいだし、作れる時に作ってもらっておくほうが良いか。サヤも投擲は持ってるから、不意打ち用とかにも泥団子は便利かもしれない。

 よし、それならその間に俺は水魔法と土魔法でも鍛えておこうか。特に水魔法はそろそろLv3になっても良いはず。Lv上げはその後からだな。という事で……。


「ヨッシさん、魔法鍛えたいから付き合ってもらっていい?」

「いいよ。私もそろそろ自己強化も取得したいとこだしね」

「あ、そうか。サヤだけだもんな、魔力集中と自己強化の両方共を取得してたのって」

「あの時は時間もなかったからね。ところで、今日は池作りはいいの?」

「この雨じゃ効率悪いだろうからな……」

「それもそっか。ならサヤとハーレが泥団子を作り終えるまでは特訓だね」


 池作りも出来ない訳ではないだろうけど、おそらく効率は悪いはず。ハーレさんの要望もあるし、雨の間は他の事をするのでも良いだろう。そもそも弾は投擲メインのハーレさんの最重要武器だからな。そっちを最優先。


 行動値に余裕も出てきてるし、ついでに発光も発動してLv上げしておくか。昨日は完全に存在忘れてたし……。これは『常闇の洞窟』に行く時に必要になりそうだからちゃんと上げておかないと。


<行動値上限を2使用して『発光Lv2』を発動します>  行動値 36/36 → 34/34(上限値使用:3)


「あ、丁度いい感じの灯りかな?」

「ケイさん、もっと照らす範囲広げて!」

「ほいよ」


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 31/34(上限値使用:3)

<融合進化ポイントを2獲得しました>


 手動範囲指定で、見える範囲のコケを全てを群体化しておく。すると淡い暖色の灯りが雨の夜を照らしていく。まぁ夜目があるからそこまで暗くはないけど、なんとなく落ち着く色合いだな。発光の範囲は群体化してるコケが全部になると。Lvが上がればもっと明るくなるんだろうな。

 とりあえず毎日取得分の3ポイントまではやっておこう。ポイントが余ってるとはいえ、いつどう使うか分かんないしね。

 


 そんな感じでサヤとハーレさんは泥団子を作り、俺は魔法と発光の強化、ヨッシさんは自己強化の特訓を始めていく事になった。そして約1時間後。


「うん! とりあえず、このくらいあれば充分だね!」

「結構作ったかな?」

「1スタック分だから100個! 散弾投擲に使ったらあっという間だけど、普通の投擲には充分だね!」

「お、そっちは終わりか?」

「一応ね! Lv上げもしなきゃだし!」

「ケイとヨッシの方はどうかな?」

「自己強化は取得は出来たよ!」

「俺も水魔法はLv3、土魔法はLv2になったな。発光もLv3か」

「それならみんな目的達成でいいのかな?」

「いいよー! それじゃ雨も止んで来たし、Lv上げに出発だー!」


 サヤの言うように、みんなのとりあえずの目的は達成したと言えるだろう。雨もほぼ小雨で降ってるかどうか微妙なとこになってきたし、まだ昼までにも時間はある。Lv上げに行くのもちょうどいい感じかな。でもその前に……。


「サヤとハーレさんは水洗いだな。泥だらけだぞ?」

「あ、本当だね。ケイ、水をお願い出来るかな?」

「サヤー! ケイさんに頼まなくても、こっちこっち!」

「ハーレ? 何処行くのかな?」


 そう言ってハーレさんの駆け寄って行ったのは、昨日完成した小さな岩風呂っぽい池。って、まさか!?


「せーの!」

「そこで泥を落とすんかい!?」


 ハーレさんが盛大に水音を立てながら、池の中に飛び込んだ。小さな池とはいえ、小さなリスの体からしたら充分に余裕はある。ただし、本格的に泳ぎたいなら狭いだろうけど……。っていうかそこで洗い落とすなら本格的に池というより風呂に近いよな……。まぁ有効な活用方法なのかもしれないけどさ。あー泥で水が濁っていく……。


「あはは……。ハーレらしいというか何というか」

「……ケイ、私は水をお願い出来るかな? 流石にあそこは狭いよ……」

「……そういう問題なのか?」

「あれを見てたら岩風呂にしか見えなくなったかな……?」

「……確かに」


 水の中でワチャワチャと全身の泥を落としているハーレさんの姿を見ているとそんな気分になってくる。うん、やっぱりちゃんとした池を作ろう。ちゃんと池と言い切れるやつを。あれは何かが違う、何かが……。

 あともっと規模が大きい池を作れば、もしかしたらもっと良い称号が手に入るかもしれない。行動値上限はいくらでも上げておきたいからな!


「よし、とりあえずLv上げに行くか!」

「それは良いんだけど、どこでLv上げするのが良いかな?」

「あーそっか。アルがいないなら競争クエストのエリアはちょいと微妙か」

「調査クエストが経験値が良いって掲示板にあったよ!」

「……もしくは『常闇の洞窟』?」

「……そろそろサヤとハーレさんも苦手生物フィルタで耐えれるかどうかを試しておいた方が良いかもしれないか」

「うっ……遂にその時が来たかな……。うん、私は覚悟を決めるよ」

「……確かにいつまでも避けてはいられないもんね! うん、頑張ってみるよ!」

「よし、その心意気だ!」

「無理なら早めに言ってね? 大丈夫な人でフォローしよう」

「うん、分かったよ!」

「もし駄目そうならお願いね?」

「んじゃLv上げは『常闇の洞窟』で決定って事で!」

「「「おー」」」


 覚悟を決めたは良いけども、まだ不安が一杯なのかいつも程は元気のない声が返ってきた。気持ちは分からない訳ではないけど、少なくも大丈夫かそうでないかの確認はしておかないと困るしな……。どうしても無理なら無理強いするつもりはない。

 とりあえず雨が止んでる内にエンのとこまで移動しますかね。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る