第105話 競争クエストの戦い 前編


 一度カメレオンを解放し、全快してから仕切り直しという事になった。少しルアーの言葉に乗せられた感じはあるけども、そこはいいとしよう。不意打ちではなく真正面から戦ってみたいという気持ちもあるからな。


 そして互いに全快し、戦いが始まる。地形としては平坦、そしてそれなりに木々の間に余裕があるな。森林深部エリアよりは動き回るのに余裕があるけど、赤の群集の森林エリア出身のルアーのPTの方に多少の地の利はあるか。さて、どう動くか……。


「いつものパターンで行くぞ」

「わかりました。では『霧イカ墨』!」

「目くらましか! みんな、対ヒノノコ戦の方法で行くぞ!」

「おう!」

「分かった!」


 相手方はイカが墨を吐いたと思ったら、霧状になって視界を塞がれた。イカ墨って液体じゃねぇのかよ!? 視界を潰してきたことで即座にヒットアンドアウェイの戦法を警戒し、ヒノノコ戦での動きを採用する。すなわちアルを回復の基点としたカウンター狙い。


「まず移動種の木を狙え! 回復要員が一番厄介だ!」

「言われなくても分かっていますよ。『イカパンチ』!」

「そう簡単にやらせる訳がないかな! 『双爪撃』!」

「……そう甘くはありませんか」


 2本の触腕がアルを目掛けて放たれるが、サヤがそれを切り落とす。イカの切り落とされた触腕が新たにニュっと生えてくる。ただしHPが減っていた。……なるほど、イカはHP消費でそういう事が出来るのか。

 イカ墨の霧で視界の悪い中、相手の動きがはっきりとは捉えられない。よくサヤはイカの動きが分かったな? 位置から逆算したのか? ……纏樹の最中では群体化が使えないからコケでの索敵は使えない。1回解除するか、それとも……よし、試してみるか。


<行動値上限を3使用して『暗視』を発動します>  行動値 25/25 → 22/22(上限値使用:7)


 よし、これなら視界良好! 流石は暗視、煙幕とかまで対応してんのか。根本的な見る為の手法が通常時とは違うんだろうな。周囲を見渡すとアルは根下ろし済みでハーレさんも巣で待機済みか。サヤとヨッシさんはカウンターを狙えるように集中している様子。俺は……よし、この煙幕を利用しよう。


 そうして警戒しているうちにチューリップとキツネがアルに向けて忍び寄っている。チューリップが前方から、キツネが背後から。何らかの視界を確保する手段を持っているのか、それともPT会話で誰かが指示を出しているのか、なんにせよ慎重さはあっても狙いそのものには迷いがない。いつものパターンと言っていたから慣れた戦法なんだろうな。まぁ、誰にでも通用する訳じゃないが。


「アル、背後に樹木Lv1。ハーレさんは正面に散弾」

「おうよ! 『リーフカッター』!」

「うん! 『散弾投擲』!」

「なっ、俺らが視えてんのか!?」

「対人戦の初戦でいきなりこれか!」


 PT会話で俺の見た光景から小声で指示を出し、アルとハーレさんが実行に移す。だが、キツネもチューリップも判断が早く、即座に退避される。それでも全く無傷という訳ではなく葉の刃を僅かに受けたキツネと、一部の葉が千切れたチューリップの姿があった。よし、これなら対応出来る。

 慣れた戦法にいきなり対応されて警戒をしているのか、それとも回復でもするのか、イカ、チューリップ、キツネが1ヶ所に集まっていく。なるほど、対人戦は初めてなのか。さっきのリーフカッターで少し煙幕が乱れたかな……? まぁそれは後でいい。今は攻撃の好機!


「ヨッシさん、前方に最大速度で毒魔法」

「了解。『ポイズンボール』!」


 あ、頼んだのはLv1の方のつもりなんだけど、なんか違うのを発動してた。いつの間に毒魔法がLv2に……。まぁ良いか。


「煙幕を逆に利用されましたか!?」

「……ちっ、厄介な真似を。『アクアクリエイト』『水の操作』」

「うへぇ……これ毒か。危ねー」

「……マジか……」

「あー防がれたか。てか俺のいつもの技じゃん……」


 真っ暗な煙幕の中に毒々しい黒っぽい球状の液体が襲いかかり、イカが慌てていた。そしてルアーが水の防壁でキツネとチューリップを守っていた。見えているのはルアーとイカの2人っぽいな。

 それにしてもルアーの使う魔法は俺と同じかよ。うーん、まぁそういう事もあるか。よし、切り替えて次だ、次!


「アル、前方に思いっきり樹木Lv1。ハーレさん、アルが煙幕を吹き飛ばしたら取っておきで狙い撃て」

「おうよ! 『リーフカッター』!」

「オッケー! 『魔力集中』『アースクリエイト』!」


 アルのリーフカッターが煙幕をかき乱し、ハーレさんの投擲の狙いをつけやすくする。あ、魔力集中って真っ暗な煙幕の中だと薄っすらと光って見えるのか。ハーレさんの腕が光ってるのが見えるね。


「ちっ、お前ら散開しろ! それはマズいやつだ!」

「やっべ、逃げろ!」

「あれは危険そうですね」


 そんなハーレさんの様子を見て、即座に相手は散開して狙いを定められないように動き回っている。あれの威力は一度もまだ見せてないのに察しがいいな。あれは俺らの中でも上位を争う威力だし、その判断自体は間違いじゃない。よし、今のうちに……。


「ちょいサヤ、ヨッシさん、作戦をやるぞ」

「……どんな内容かな?」

「何をすればいい?」


 小声で作戦会議を手早く済ます。ハーレさんの取っておきは撹乱用でこっちが本命。とはいえ折角だし、ハーレさんの取っておきでも1人くらい戦闘不能にしておきたい。

 それにしてもルアー他のメンバーも判断が早い。即座にバラバラになって行動を散らして、狙いを定めにくくしている。流石にこの状況だと狙いの指示が出しにくい。これは煙幕の対策用に風魔法が欲しくなってくるな。いや、イカ墨が煙幕になるなんて思わないしさ? ……そういやカメレオンはどこ行った……? って、いつの間にあんなとこに!?


「アル! 枝にカメレオンがいるぞ!」

「ちっ、いつの間に!?」

「もう遅い! 『伸縮舌』!」


 投擲体勢に入ったハーレさんを気付かない内にカメレオンが狙っていた。いつの間にかアルによじ登って、煙幕で隠れた上に保護色で擬態までしていたようだ。攻撃に移る瞬間に擬態用のスキルが解除になったのか、攻撃の直前に位置がわかったけど気付くのが遅れた。俺じゃ対処が間に合わない!


「アルさん、任せた!」

「っ! おう、任された! ハチ1号、突撃!」

「んな!? 何処から出てきた、このハチ!?」

「あーもう、びっくりしたなー! 『投擲』!」


 そしてそのハーレさんのピンチに対してヨッシさんが咄嗟に統率下のハチの指揮権をアルに渡し、アルがヨッシさんの巣からハチを呼び出す。そしてハーレさんを狙うカメレオンの舌にハチを割り込ませて、盾とした。予想外の横槍にカメレオンの動作が鈍ったところをハーレさんが狙い撃つ。

 強烈なハーレさんの一撃を受けたカメレオンはアルから落ちて吹き飛ばされていく。よし、倒せこそしなかったけど、カメレオンのHPがごっそりと削れたな。ヒヤッとしたけど、よくやった! 


「よし、今だ。ヨッシさん、毒魔法!」

「了解。『ポイズンボール』!」

「……またか。『アクアクリエイト』『水の操作』」

「やっぱり防がれるよね」

「さっきも不発だったのに通じる訳がないだろう」

「……そこまで甘くはないか」


 まぁその通りだけどな。別に狙いはそこじゃないし、俺らの作戦に気付いてないなら問題ない。


「……もう煙幕はいい。解除だ」

「効果も薄いようですしね。分かりました」

「お? もう目くらましは終わりか?」

「見えてる相手にやっても無意味だろうが……。そもそも相手の司令塔をこっちが見失うんじゃ意味ねぇよ」


 いやまぁ、そりゃ堂々といる訳ないじゃんか。いつものコケの方が隠れやすいけど、纏樹状態でもコソコソとそこらの木の死角に隠れながら覗き見て、みんなに指示出してたし。俺がやってたのは相手とやってた事は同じ事。見えてるのはルアーとイカの人だけっぽいからどっちかが指示を出していたんだろう。

 同じように俺も敵と味方の位置関係を把握して、みんなに攻撃方向の指定を出せばあの通り。仕留める側と思って狙いを定めている時こそ一番の狙いどころだな。


 まぁそれでもカメレオンの奇襲は見抜けなかったからやっぱり手強いな。あそこはアルとヨッシさんの即時判断がナイスだ!


 イカ墨の煙幕が解除され、視界は戻ってきた。……そういや暗視と夜目って同時発動出来たんだな? うん、新発見。もしかして併用したから煙幕でも見れたとか? まぁこの辺の検証は後でいいか。


<『暗視』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 22/22 → 22/25(上限値使用:4)


 煙幕が無くなったなら暗視はいらないから、とりあえず解除しておこう。必要になればその時にまた使えばいい。さてと敵の位置はバラバラになっていて、視界も良好。サヤの作戦はどうなったかな?


「……ん? あれ、クマどこ行ーー」

「おい! 後ろだ!」

「遅いよ! 『魔力集中』『爪連撃』!」

「この!?」

「やめろ、引け!」


 サヤの連撃を受けたチューリップが千切れ飛び、一気にHPが無くなった。ハーレさんの散弾も食らっていたし、不意のサヤの連撃には耐えきれなかったようである。HPが低そうな相手を狙ったっていうのもあるけどな。あ、ここから更に追撃しようと思ってたのにルアーの元に残り3人が集まっていった。これはちょっと仕切り直しかな。


「どういう事だ? いつ見失った!?」

「それは秘密かな?」


 先程伝えた作戦は、簡単に言ってしまえば撹乱中のドサクサに紛れてサヤが敵に忍び寄って一気に仕留める事。アルとハーレさんという上からの脅威に注意を逸らさせて、ヨッシさんの毒魔法の影に隠れて一気にサヤが敵のすぐ近くに移動する、そういう作戦。完全に隠れきれる訳じゃないけど、隠れる木も周りに大量にあるしな。

 カメレオンの奇襲にはヒヤッとはしたけども、対処出来たし実に良い仕事をしてくれた。お陰で完全にこっちへの注意が散漫になってたからな。お陰で毒魔法での目くらましにもうまく引っかかってくれたものだ。


「……どうも甘く見すぎてたらしいな。まさか煙幕を逆手に取られるとはな……」

「回復役が先に殺られたのも厳しいかもしれませんね……」

「あのケイってコケの人を先に仕留めたほうがいいんじゃねぇか?」

「いや、全員の判断が早い。油断は一切無しだ」

「……あのリスの攻撃、半端ないぞ。ただの投擲じゃなくて、なんかダメージボーナスがありそうだ」

「……移動種のボーナスか……? ますます厄介じゃねぇか」


 なんか色々悩ましげに対策を考えているようだけど、あのヒノノコの速度の奇襲に比べたら見えてる分だけ楽なんだよ。見えなきゃその場合は纏樹を解除して、コケの索敵に切り替えるだけだし。……いつまでも喋ってるのを待ってる場合でもないな。

 ハーレさんの取っておきは魔力値的に連発は出来ないから回復するまでは温存だけど、そんな事を知ってる訳じゃないから警戒はしてくるだろう。さて、どう仕掛けるか。


「……仕方ねぇ、あれを使う。どうせあっちも使ってるんだ」

「居るかもしれないボス戦用に温存しておきたかったですね……」

「その前に倒されてたら意味ないっての」

「流石に個数の都合もあるからルアーさんだけしか使えないけどな」

「それじゃ行くぜ。『纏属進化・纏風』!」


 ルアーがどうやら纏属進化を行ったらしい。緑色の膜に覆われて卵型になっていく魚のルアー。個数の都合とか聞こえてたから、これは『進化の輝石』の方の纏属進化か!?


「進化中とか待ってられるか! 今のうちに総攻撃だ!」

「ケイさん! そこは待たないと駄目だよ!」

「……え?」

「お約束ってやつだな。進化中やパワーアップ中は待つもんだろ?」

「……それは物語の中の話じゃないの……?」

「いえ、やはりここは待つべきでしょう」

「そうだぜ。無粋な真似すんなよな?」


 あれー!? いやそういう『いや、攻撃しろよ!』とか言いたくなるパワーアップのシーンとか見たことあるけど、実際にゲームの最中にも待たなきゃ駄目なのか!? これ、隙だらけといえば隙だらけだぞ!? まさか敵にも味方にも諌められるとは思わなかった……。


「あー待たせたな……。うん、なんかすまんな、ケイ……」

「うん……まぁそれほど時間はかかってないから良いけどさ……」

「ケイ、気にしなくて良いからね?」

「ケイさん、どんまい」

「……なんか悪いな」


 なんか申し訳なさそうなルアーとカメレオンの人。俺のPTメンバーでは味方はサヤとヨッシさんだった。全員が全員同じ考えって訳じゃない事が分かったから気にしない事にしよう。

 ……うん、お前ら進化は待つものって言ったな? 覚えとけよ、その言葉。これから先で後悔しても知らないからな!

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