第76話 二つ目の群集クエスト


<規定条件を達成しましたので、群集クエストを開始します>


 ヒノノコのリベンジ戦も勝利で終わり、それを起点として新たな群集クエストが始まった。これがおそらくフラムが不動種に進化した時に発生した赤の群集の群集クエストと同種のものだろう。クエストの主題だけは知っているけど、具体的な内容までは知らないから演出を見ておかないと。


 お、いつもの如くグレイの半透明な姿が浮かび上がってきた。ワールドクエストにしろ群集クエストにしろ、長のグレイが直接説明に出てくるんだな。ここら辺の演出は他の群集ではまた違うんだろう。グレイは灰の群集の長だしな。


『やぁ、同胞の諸君。急な連絡で申し訳ない。先程、黒の暴走種となっていたある者が解放され、こちらへ戻ってきた。まずはそれを成した者に礼を言おう』


 ん? そういや黒の暴走種ってプレイヤーと同類の精神生命体で、それが暴走しているって設定だったな。そして討伐すれば解放されるとも言ってた……。つまりはそのある者ってさっき俺らが戦ってたヒノノコの事か!? あ、なんかもう一人出てきた。見た目はグレイとあんまり変わらないな……。


『俺がそのエンだ。どうやら迷惑をかけていたようで悪かったな。だが、一度暴走種となった事で分かった事もある。この地には、俺らとは相性の悪い何かが存在しているぞ』


 いえいえ、あなたには焼き殺されましたからね。当然の報復ですよ。って、それはいいや。まぁそうなんだろうな、ゲーム的に。相性良かったらあんなに暴走種とか発生しないよね。そこら辺も設定はちゃんとある訳だ。

 そのエンの言葉を補足するようにグレイが言葉を続けていく。


『この地に降り立った同胞たちの活動状況を整理し、進化状況を確認したところ、色々な傾向が見えてきた。同胞の中に植物と同化し、不動種へと進化した者も確認できている。それらの情報を精査した結果、不動種には今の我らには必要な要素を持ち合わせている事も分かった』


 ふむふむ。進化の状況は逐次グレイ達にモニタリングされているという設定になるのか。そして今回は不動種に目をつけたって事だな。という事は場合によっては他の種族が起点になるクエストもある? その可能性はありそうだけど、ぶっちゃけやってみないとわからないね。ワールドクエストも群集クエストは1人だけでは発生させられない条件になってるみたいだし、ここら辺は情報共有が必須かな。 


『そこで比較的安全と判断した5箇所に、活動拠点となる不動種として常駐する者を派遣する事が決まった。そしてその役目として先程のエンを送り出す事となる』


 おぉ! もしかして比較的安全って場所がプレイヤーの初期エリアの事か? そしてNPCの不動種が誕生って事か。なるほど、その為のボス討伐か。え、でも5箇所あるのに1人だけ……?


『どうにも俺が暴れていた周辺は暴走種になった者にとって不都合がある場所みたいだな。そこに近づくな、近づけさせるなという強迫観念があったからな』


 おう!? まさか元黒の暴走種が内情を暴露!? 強迫観念があったとは。あそこの陥没した地形ってそれなりに意味があったのか。この演出が終わったら踏破に行かないとなー。


『だからこそ、我らにとってはそこが安全と判断し拠点を用意する事になった。幸いな事に一度暴走種となった者には耐性が生まれるようで、彼は二度と暴走種には成り得ない事も判明済みだ。今回は1箇所のみではあるが、耐性を得た者が戻る事があり次第、残る箇所にも派遣していく予定となっている』


 あー特殊地形って、もしかしてこのNPC不動種を設置する為のエリアか! 地図作成の群集クエストが終わって、不動種の人数さえいれば連続して発生するようになっていると。

 そして一度黒の暴走種になった者は二度と黒の暴走種にならないのか。うん、再発防止策って大事だもんな。それでヒノノコみたいな特殊ボスを倒したら、そのエリアには特殊ボスの中の人が拠点用の不動種として派遣されてくると。ふむふむ、なるほど。確かにこれは演出を見れば理由が分かるな。


『それとだが、妙な黒の暴走種に襲われた植物種の者もいるだろう。どうやら先んじて赤の群集が動き出した事がきっかけで僅かながら意思を取り戻した同胞のようだ。だが、自我が薄く、進化を誘発しろという本能的な義務感で動いているようだ』

『ありゃ進化を進めて行くには有効だが、可能であれば解放してやってくれ』


 あ、俺と混同された黒の暴走種のコケにはそんな事情が……。少しだけでも意識を取り戻して、仲間の進化の為に頑張ってると……。うーむ、黒の暴走種といえど、元々は味方であるって事か。

 いやでもあれって成長体の上の進化階位の未成体って話だろう? どうやって倒せと……? これはこれで別枠のクエストが存在してそうだ。とりあえず、すぐにはどうにもならないので保留だな。


『この計画は、他のエリアへの進出の危険性を考慮しての安全策だ。死亡時に安全地帯へと戻ってこれるようにという意思によって決定された』


 ん? ものすごく気になる事を言ってないか? 死亡時に安全地帯へと戻ってこれる……? え、もしかしてランダムリスポーンとスキルによるリスポーン設定以外のリスポーン場所が選べるようになるのか!?


『それではこれより計画を実行に移す。エンよ、任せたぞ』

『おう、任せとけ。他の連中も協力頼むぜ』


 おうともさ! って、うわ!? 特殊地形の陥没した所から、デカい木が一気に生えてきた。そっか、これがこのエリアでの拠点という訳か! この辺は少し中央よりは北側寄りではあるけど、それなりに何処からでもだいたい距離は同じくらいの位置だしね。それにしてもデカい木だな。


『ほう、これが俺達には触れされたくなかったものだな。【大地の脈動】とその自浄場所って事か。って、暴走種の原因はまさか……。それに【大地の脈動】の中に【瘴気】が溢れかえってやがるな。ここは未開の惑星じゃなかったのか……?』


 エンが何か言ってるけど、【大地の脈動】とか【瘴気】って何さ!? いや、まぁ字面的に想像はつくけども。そうか、ここは自浄作用のある場所なのか。そりゃ自浄されたくない黒の暴走種は近付きたくないし、誰にも利用されないように近づけさせないようにする訳だ。……それにしても未開の惑星ではないって、もしかして何かいる? それとも既に滅んだ何かがいたとか……。うーん、これだけじゃさっぱりだな。


『……どうやら追って調査が必要なようだな。ともかく今は拠点となる不動種を強化する事が優先だ』

『グレイ、どうも【大地の脈動】を通じて、黒の暴走種の撃破時に力が流れ込んでくるみたいだぞ』

『そうか。ならば、我が同胞たちよ。拠点となる不動種に力を集める為にも黒の暴走種をこれまで以上に解放せよ!』


<群集クエスト《拠点の作成・灰の群集》が開始されました>

<特殊な不動種となる『群集拠点種』にリスポーン位置の設定が可能になりました>

<それに伴い、どこで死亡しても設定した『群集拠点種』にリスポーンが可能となりました>

<【大地の脈動】が解放されました>

<【大地の脈動】により、黒の暴走種を撃破する事で設定した『群集拠点種』が強化されます>

<『群集拠点種』は各初期エリアの特殊地形のボスを討伐する事で各エリアに設置されます>

<規定の条件を達成しましたので『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に『群集拠点種』が設置されました>



 あ、演出終わったな。なんか続きのありそうな演出だったけど、とりあえずはここまでか。これは確実に続きの群集クエストが存在するね。それにしても『群集拠点種』と来たか。今まで通り黒の暴走種を倒せば勝手に強化されていく訳だ。確かにこれだとフラムが言ってたように能動的にする事はないという理由も分かるな。いつも通り、敵を倒せば良いだけだし。


「わー! やったね、これ!」

「うん、これは灰の群集だと私達が1番乗りだよね」

「ランダムリスポーンから解放されるのはありがたいな。この感じだと、灰の群集エリアなら5箇所とも登録は出来そうだな」

「そこまで行くのが大変そうだけどね」

「ヨッシ、そこは多分強化したらワープ出来るようになるんだよ!」

「あ、だから強化していくのかな?」


 色々と推測したい事はあるし、色々話しておきたい。だけども、今この時しか出来ない事がある!


「とにかく、一番乗りに行くぞー! 目指せ、『群集拠点種』のエン!」

「それもそうだね! いやっほー!」

「よし、行こう!」

「折角倒したんだし、これくらいは役得だよね」

「よっしゃ、行くぞ! みんな乗れー!」

「……私は自分で走るね!」

「……なんかすまん」

「……うん、気にしなくていいよ」


 アルが勢いで言ったものの、乗れないサヤがしょんぼりしていた。うん、これが終わったらアルの変異進化に期待しような?

 とにかく初回討伐したんだから、一番乗りしても何があるって訳でもないだろうけど、記念に行っときたいもんな!


「とにかく出発!」

「「「「おー!」」」」


 アルに乗った俺とヨッシさんとハーレさん、そして横で並走しているサヤ。ヒノノコが最後に崩して作っていった陥没した特殊地形のその中へと続く道を進んでいく。この先はプレイヤーはまだ誰も行っていない。そこに待ち受けているのは誕生したばかりの『群集拠点種』の木のエン。

 あとはそこを踏破して、ベスタと氷狼を倒して、西側の桜の木も倒せば地図作成の群集クエストはこのエリア分はクリアだぜ!


 何はともあれ、まずはヒノノコ討伐の記念に『群集拠点種』を見に行こう!

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