第69話 リベンジ戦に向けて


「とりあえずヨッシさんがまだ魔法を体感してないし、ヨッシさんから再開しようかと思うけどいい?」

「もう少しで泥団子が100個だし、私はそこまで済んでからでいいよー!」

「私もさっきまでしてたからね。少し休憩するから、ヨッシがやっていいよ」

「え、そう? ならお言葉に甘えてやらせてもらおうかな? ケイさん、よろしく」

「おうよ! ってちょい待って、もう少しで行動値も魔力値も全快だから」

「あらま。なんか気勢が削がれるね……」

「悪い悪い。案外さっきの新魔法が消費量が多いもんで」


 誰から特訓するかと相談を始めたら特に問題もなくすんなりとヨッシさんがやる事になった。まぁヨッシさんがまだ魔法の効果を見ていないというのもあるのでこれが良いだろう。

 さてと、特訓再開と行きたいけど、その前に一回行動値と魔力値を全回復させてからだな。それなりに消費してるし、回復するまでは一旦休憩。これは水の操作のLvが上がって消費量が減ってくれるとありがたいところだな。


「よし、全快! それじゃ再開するぞ」

「よし、ケイさん、こい!」


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 22/23(−1): 魔力値 42/46

<行動値を4消費して『水の操作Lv4』を発動します>  行動値 18/23(−1)


「へぇ、これが例の水の的当てなんだね」

「そういやヨッシさんはこれやるのは初めてだっけ?」

「そうだよ。普通の水パターンはやりそびれたかな」

「まぁ単なる熟練度稼ぎも、ログイン時間さえ合えばいつでも出来るぞ?」

「そだね。出来なくなった訳じゃないんだよね。その時はお願いしようかな」


 別に水魔法が使えるようになったからといって今までの川の水の操作が出来なくなった訳じゃないしね。ただのスキルLv上げなら普通の川の水でも魔法の水でもどっちでも良いかもな。

 それにしても、よく考えてみれば色々とタイミング悪くてやる機会もなかったんだな。ハーレさんもそういや今回が初めてって事になるのか。そういや俺もアルの根を避けるパターンをまだ見てないし……。まぁリスポーン位置の指定も可能になったし、前みたいにバラバラって事もあんまりないだろう。


「ま、とりあえず今は『魔力集中』を優先って事で!」

「そだね。えっと『魔力集中』って名前からして、魔力を集中させるイメージでいいかな?」

「そこら辺は俺も分かんないから、手探りでやってみてくれ」


 俺も使ったことが無いのでなんともアドバイスのしようがない。とりあえず試せる事から試してみるしかないだろう。取得そのものが出来るかどうか怪しいのなら別だけど、取得可能という情報は貰ったんだ。何らかのコツさえ誰かが掴めば一気に行けるはず! っていうかコケでも使えないものか……? 『魔力集中』も『自己強化』もポイントでのスキル取得一覧にないんだよなぁ……。


「んーこんな感じかな! 『斬針』!」


 ヨッシさんは刺すのではなく、切る方向で試してみるようだ。刃状になったヨッシさんの針は水球の表面に当たると弾かれることなく……ってあれ!? ……弾かれる事なく水球をバッサリと分断した。おいおいおい……!


「ヨッシさん、まさかの一発成功!?」

「え? これで成功なの?」


 特に弾かないようにするような操作はしてなかったので、失敗ならばサヤやハーレさんの攻撃みたいに弾かれるはず……。つまり、サヤとハーレさんが弾かれた時と同じ条件である。それでこの結果ということは、成功なのだろう。うん、1発取得とは早いわ!


「あ、『魔力集中』の取得メッセージ出てる。やった、成功だ!」

「え!? ヨッシ、もう取得しちゃったの!?」

「いくらなんでも早過ぎないかな……?」


 何度も失敗したサヤと、何度も失敗するのを前提に土の弾をせっせと作っていたハーレさんの2人はちょっと衝撃的だったらしい。うん、俺もびっくりしてるわ。まさか1回目で成功するとは……。

 ベスタの魔法を破壊しろっていうのはこういう事だったのか。水球を両断はされたけど破壊というほどでも……うん、ベスタの具体的な破壊がどういうのかわからんが多分もっと壮絶なモノな気はする。というか多分、ベスタが破壊した魔法って沼ガメの魔法じゃないのか……? 味方プレイヤーのとは少し違う可能性もありそうだけど、まぁいいか。ともかく俺の魔法を意図しない形で乱せれば大丈夫そうだしな。


「ねぇ、ヨッシ。なんかコツとかないかな?」

「そう言われてもね……。あえて言うならなんか生成した毒を『毒針』で使う時の感覚に似てたかも? そっか、この辺のスキルの感覚は本質的に似てるのかも」

「んー? いまいちピンとこないなー? ヨッシの毒針ってどんな風に発動してるの?」

「そっか。2人とも毒は持ってないもんね。えっとね、『毒針』そのものには毒はなくて『麻痺毒生成』とかの生成スキルで作った毒を充填するような感じなんだ」

「んー? 分かるような分からないような……?」


 なるほど、纏わせるのではなく充填させる感覚か。こればっかりは実際使ってみたことが無いとなんとも言えないな。それにしてもそんな仕様になってたんだ。オフライン版だとハチにはそれぞれの毒に対応した毒針スキルがあったけど、オンライン版では毒生成とは切り離したって感じになってるんだな。


「……私なりの解釈なんだけど、『毒針』が注射器で、生成スキルで用意した毒が注射器の中身って感じかな……?」

「サヤ、その例えはピッタリ! まさしくそんな感じ」

「あ、それなら何となくイメージ出来たかも!」

「ふむふむ、そんな感じなんだ」

「ケイさんの毒は違うの?」

「俺のはただ垂れ流してるだけって感じだな。『毒針』の存在が使いやすくしてるんだろうな」

「あ、なるほどね」


 同じ毒使いではあっても、その運用方法は違うらしい。となると俺にも『毒針』に相当するスキルがあれば、核のある場所以外からでも毒攻撃も可能になるのか? よし、これも要検証。ともかく、ヨッシさんが取得してイメージも掴めた事だ。これで多少取得しやすくなるはず!


「予想外に早く取得しちゃったし、サヤかハーレ、交代する?」

「私はまだ泥団子作ってるから、サヤが先にやっていいよー! 晩御飯の時間の関係もあるしね」

「そうさせてもらおうかな? ハーレとケイさんは大体いつも同じ時間帯だしね」

「俺の方は誰でも良いぞ!」


 まぁいつも6時頃に一旦ログアウトするサヤを先にして、7時前にログアウトする俺とハーレさんが後にする方が時間の無駄も少ないかな。その後は大体アルもログインしてるっぽいから、そこからは組み合わせを変えて色々やってみよう。


「あ、その前にケイさん、水の追加お願い!」

「あーもう泥濘んだ部分は使い切ったのか。ちょっと待ってて」


<インベントリから小川の水を取り出します>


 追加の水を出して、また泥濘を作り出す。ハーレさんも結構な量の泥団子を作ってるな。まぁ投擲がメインだからスタック出来る弾は圧迫しない限りは沢山あったほうがいいだろうしな。


「ケイさん、ありがとねー! さて泥団子作り、再開だー!」

「ハーレ、ちょっと楽しんでない?」

「だって、リアルじゃもうこんな事は出来ないしね! ゲームなら気にする必要ないもんね!」

「……良いのかなぁ、それで」


 まぁ現実では出来ない事を楽しむっていうのもゲームの楽しみ方だし良いんじゃないかな。それにただ作業的に黙々とするよりかは楽しみながらやる方が良いしな。どうしてもこういう熟練度上げとかって作業感出てくるから、いかにその過程を楽しめるようにするかも重要だ。


「さてと、サヤ。再開と行きますか!」

「うん。コツは聞いたし、次こそは『魔力集中』を取得するよ!」

「私は次の『自己強化』の方をやってみよっと」


 それぞれの目的を設定し、それに向けて再度特訓を開始する。ツチノコのリベンジにはしっかりと事前準備をしないとな。少なくとも成長体になればソロでも沼ガメというボスを討伐する事は可能な事をベスタが証明してくれている。アルがログインしたらちょっと相談したい案もあるし、一部ではあるけど特訓の成果も出始めている。

 誰かに先を越される可能性も絶対にないとは言えないから、可能であれば今日中に、少なくとも明日にはリベンジ戦に挑戦したい。それまでに出来る事を確実に積み重ねていかないと。


「うーん、やっぱりコツを聞いても難しいかな」

「……サヤの場合だと、逆に『自己強化』を先にやってみる方がいいのか? メインが爪とはいえ、全身使って戦ってる訳だしさ」

「あ、それも有りかもしれないね。ちょっとやってみようかな?」


 しばらく特訓を続けていたが、サヤがちょっと行き詰まりを感じてきたので少し方向性を変えて見る。特性として『強靭』を持つサヤは一点強化より全身強化の方が感覚を掴みやすいかもしれない。まぁ勝手な推測だけど、試す事が無意味とも限らないからな。


「とにかく色々試してみようぜ。あ、そういやヨッシさん、『魔力集中』ってどんな感じの仕様だ?」

「あ、そっか。それも話しておかなーー」

「あー!?」

「ハーレさん、どうした!?」

「ハーレ!?」

「どうしたの!?」


 聞き忘れていた『魔力集中』のスキル仕様を確認しようと思っていたら、急にハーレさんが大声を上げたのでびっくりした。いきなりどうしたんだ? 一体何があった!?


「なんか称号『採集ビギナー』と称号『土を扱うモノ』が手に入っちゃった……?」

「あーそう来たか……」

「焦って損したかな? とりあえずハーレ、おめでとう?」

「何も取得条件は戦闘行為だけじゃないってことかー」


 よく考えなくても俺の水の操作自体が戦闘関係無しに取得したものだ。この可能性は考慮しておくべきだった。まぁ予想外の取得だけど別に損した訳ではないし、むしろ得しているので喜ぶべき事だろう。

 それにしても称号『採集ビギナー』ってのが気になるな。これが例の累計回数が条件の称号って事か? それの取得に土の弾を作っているのが土の操作の取得条件に重なったのか? 確かに土を利用して弾を作っていた訳だし、条件としてはおかしくはないか。

 とにかく、詳細を聞いてみないといけないか。この条件なら『土魔法』も取得してる筈だしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る