第67話 水魔法の性質
崖の途中にある突き出た枝やら、しっかりとした岩やらを足場にして、崖上に駆け登ったハーレさんは、少しコケがなく土が剥き出しになっている場所に座り込み何かをやっている。それほど高くないとはいえ、ハーレさんも随分と気軽に登るもんだな。
俺は崖の所々にあるコケを使って移動しましたとも。もちろん移動中の群体化のスキル使用で本日分の融合進化ポイント3は確保した。この崖の上には、なんでか知らないけど土が剥き出しの場所が少しあるんだよな。ここに限らず他の場所でも時々剥き出しの地面はあるし。
「うーん、そのままじゃちょっと硬いなー?」
「ハーレさん、何する気だ?」
「ケイさん、川の水をここに撒いてくれない?」
「別に良いけど、それでどうするんだ?」
<インベントリから小川の水を取り出します>
とりあえず頼まれたままに水を撒く。川の水をただ撒くだけなら水の操作も何もいらない。ただインベントリから取り出せばいいだけだ。それにしても水を吸った土が柔らかくなって泥濘んでいる。まるで雨でも降った後みたいになったけど、これで何を……って、泥濘に躊躇なくハーレさんが突っ込んだー!?
「何してんだ、ハーレさん?」
「ちょっと実験ー! 小石でも出来そうな気はしなくもないんだけど、こっちの方が確実かなって思ってね。泥団子を作って投擲の弾にして、土の操作も同時に狙おうかなって思ってねー!」
「あーそういや累計使用回数で称号がどうとか言ってたっけ。まだ情報収集段階だって言ってたけど……」
「下手すれば無駄になるって事は承知の上だよー。だから『魔力集中』と『自己強化』の訓練と同時にやるの!」
「なるほど。どっちか上手く行けば良いし、もし両方取得出来れば一石二鳥って訳か」
「そういう事! で、そのままだと土の弾が作れないから、ちょっと水で加工しやすくね!」
「よっしゃ、なら俺も……ってコケでどう作れって話だな……」
「ケイさんは水を時々撒いてくれたら良いよー。ある程度数を作ったら、さっきの特訓も再開するからねー!」
そうしてしばらく泥団子作りをする事になった。ハーレさんが確認したところ、どうも土をこうやって加工してしまえば投擲用の弾に分類されて、インベントリにも入れられるらしい。こりゃ、土の中に何かを仕込んでおいて投擲専用の弾が作れそうだな。中に入れるものが思い付かないけども。
「2人で何やってるのかな? 泥遊び……?」
「あ、サヤ! やっほー!」
「まぁゲームだし遊びなのは間違ってないけど、泥遊びって訳じゃないぞ」
いつの間にかログインしてきたサヤが、崖の上で俺とハーレさんが何かやっているのに気付いて上がってきたらしい。サヤも上がってきたなら、今日は崖の上で特訓でいいか。
「うまく行くかは分かんないけど、土の操作の取得狙いで土の弾を作ってるんだ!」
「あ、そういう事なんだ。でもハーレ、全身泥だらけだよ?」
「いーよ、別にゲームだし。後でケイさんに水を被せて洗い流してもらうつもりだしね!」
「いや、初耳なんだけど? 別に良いけどさ」
「でも今日って『魔力集中』と『自己強化』の取得目指すんじゃなかった?」
「もちろんそっちもやるよー! でもちょっと色々あってね。んー説明するより体感する方が早いかな?」
「確かにな。どうせ後からやるんだし、今のうちにサヤも体験するのがいいか」
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 22/23(−1): 魔力値 42/46
<行動値を4消費して『水の操作Lv4』を発動します> 行動値 18/23(−1)
そういう事で、的用の水球を用意した。これは実際に体感したほうが分かりやすいだろう。
「これ、魔法産の水のやつな」
「へー? 見た目は今までの川の水と変わらないね?」
「まぁな。とりあえず熟練度上げしてた時の要領で攻撃してみ?」
「何かありそうだね? とりあえずやってみよっか。『爪撃』!」
普段は邪魔になるので収納しているナイフのような鋭い爪を展開して、いつもの熟練度稼ぎの時のように爪を振り下ろす。いつもはこれで水球は弾けて形を失うが、今回は逆にサヤの爪が弾かれた。
「そっか、魔法だとこうなるんだね。でも、こういうのはどうかな? 『薙ぎ払い』!」
「あっ!?」
「おっ!? サヤ、すっごーい!」
何かに気付いたのか、サヤは爪を収納して、水球を腕全体で薙ぎ払うように攻撃する。サヤの攻撃は水球の内部には到達せずに、僅かに均衡する。そして水球の方が弾き飛ばされた。……サヤはまだ『魔力集中』とか取得してなかったよな? おっと、水球が飛ばされてるから制御、制御っと。ふー元の位置に戻せた。それにしても何が起こったんだ?
「サヤ、『薙ぎ払い』とかいつの間に? っていうか、今何したんだ?」
「斬撃が効かない相手用に一応『振り回し』も強化してて派生で『薙ぎ払い』も取得してたんだ。あと、その水魔法、その状態だと便利とも不便とも言えないかもね。弾き返される方向と水の中に入るのに反発力もあるから、方向とタイミングさえ掴めばそんな感じになるかな」
「マジか……。よし、ならばもう一回やってみるか! 今度は置いとくだけじゃなくて操作するぞ!」
「いいよ! 『魔力集中』も『自己強化』も必要だろうからね」
いや、まさかタイミング次第で弾かれる性質を利用して水球そのものを弾き返すとはね。ベスタも凄いとは思ったけど、サヤもプレイヤースキル高いな。まぁ水魔法には通用しても他の魔法にも同様に通じるとは限らないから、やっぱり『魔力集中』と『自己強化』は物理アタッカーには必須なのだろう。
ベスタが言ったのは「魔法を破壊しろ」だったし、『魔力集中』を使えば魔法を破壊できるのだろう。具体的にどんな風になるかまでは教えてくれなかったけど、そこまで聞くのは甘えすぎだしな。
「サヤ、一回解除するから再発動してから操作期間切れまでの一本勝負って事でどうだ?」
「いいね、受けて立つよ!」
「おー勝負だね! でもどうやったら勝ち負けが決まるのかな?」
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 17/23(−1): 魔力値 38/46
<行動値を4消費して『水の操作Lv4』を発動します> 行動値 13/23(−1)
水魔法の再発動完了! まずは慣らしも兼ねて水球は1つだ。まずは小手調べ、正面からの直球だ! ちっ、あっさりと横に弾かれたか。単調な攻撃ではサヤの技は抜けれないな。だが分裂させるのはまだ早い。もう一回、真正面から突撃……。
「単調なのは効かないよ! って、あれ!?」
「同じ手で行くわけないだろ!」
サヤの腕による『薙ぎ払い』を避けるように、水球の形状を変形させて凹ませる。当然、サヤの技は空振りとなる。ただし、凹ませた形状に変化させた事で、多少制御が甘くなる。こういう急激な変形にはまだLvが足りていないみたいだな。凹ませた以上は、次にやるのは元に戻すことだ。水球の表面に反発力があるならばこれだけでも攻撃となる筈だ。
空振ったサヤの腕に向けて、凹んだ水球を元の形に一気に戻す。勢いもあったおかげか、見事にサヤの腕を弾き、バランスを崩させる事に成功する。よしよし、これは結構ありだな。この反発力は色々と活用法がありそうだぞ。
「あー、これは私の負けだね。ケイ、ギブアップー!」
「ほいよ。こりゃ本格的に使ってみたら、今までの水の操作とは別物だな」
「みたいだねー! それにしてもサヤもケイさんも凄かったよ!」
「ありがと、ハーレ」
「ま、まだまだ検証も必要そうだけどな。多分、火魔法とかだと同じ感覚にはならないだろうし」
「そうだね。火に攻撃を弾かれるっていうのはちょっと想像付かないかも」
それぞれの魔法にも特徴があるだろうから、そこら辺も考えていかないとな。ま、水魔法はタイミングを合わせれば『魔力集中』で魔法破壊をしなくても弾き飛ばせる事もあるという情報は貴重だな。そんな事をする黒の暴走種がいるのかさえ分からないが。
「とにかく、『魔力集中』の取得を頑張ろうかな。取得してから、戦況に応じて使い分けてもいいしね」
「そだな。そんじゃ特訓していくかー!」
「「おー!」」
「なんかみんな楽しそうでいいなぁ……」
「あ、ヨッシさん。こんにちは」
「こんにちは、ケイさん」
「ヨッシ、思ったより遅かったね?」
「やっほー! ヨッシ、ちょっと元気ない?」
「ちょっとした野暮用があったからね。それに私だけまだ『魔力制御Ⅰ』取れてないし……」
「そっか、『斬針』でポイント使い過ぎたって言ってたもんね」
「うー、進化直前に思いっきりポイント使うんじゃなかったー! ……仕方ないからポイント稼ぎに行ってくるよ」
何処かしょんぼりしながら、ヨッシさんが出発していく。そういや『斬針』は必要ポイント多かったって言ってたし、それが原因だったのか。まぁポイントが足りなくて『魔力制御Ⅰ』を取得出来ていない以上はポイント稼ぐしかないけど、流石になんか一人でというのも可哀想になってくる。
「あー、私の事は気にせずに、やってて良いよ。毎日ポイントと、ちょっと未発見の黒の暴走種でも仕留めて必要数のポイント稼いで戻ってくるから」
「そっか。あ、ヨッシ! だったらこれ持っていって!」
「あ、果物。ハーレ、ありがとね。それじゃちょっと行ってくる!」
ソロ狩り用に回復アイテムの果物を渡したのだろう。回復アイテムの有無は大きいだろうし、それで死ににくくはなる筈だしな。ヨッシさんとしてもちょっと無計画にポイントを使い過ぎた事の補填に付き合わせて特訓の時間を減らしたくもないんだろうな。
ポイントの使用は計画的にという事だね。特に進化前には……。
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