第62話 思わぬ情報


「おーい、水月! ちょっと話が……あっ」


 一発芸の取得の暴露をされながら、灰の群集エリアに向けて川を上っていく。その途中で川の方から声が聞こえて来た。思いっきり間違われてる気もするけど。


「あ、悪い。クマ違いだった。って、あんたら灰の群集の人か」

「別に気にしなくて良いよ。水月さんとはさっきまでいたしね」

「って事は、水月んとこが進化協力を頼んでた人達か?」

「今はそこから帰還中ってところだね」


 サヤを水月さんと見間違えたのは川から頭を出している川魚。その赤いカーソルが指し示すのは赤の群集のプレイヤーという事だ。そういや、水月さんが魚のプレイヤーも居るって言ってたな。

 あ、なんか川から這い出してきてヒレを脚代わりにして歩いている。なるほど、この人は既に地上へ適応済みの川魚の人か。こりゃ何度も陸地に身投げして適応進化を頑張ったと見た!


 そして川魚の人は、大した距離ではないのですぐに近くまでやってきた。ふむふむ、歩く魚を見るとやっぱり進化が始まってきたら色々と変わるもんだな。


「つーことは、あの迷惑坊主の性根を叩き直したコケのアニキってのも居るのか」

「ぶふっ!?」


 思わぬ所からコケのアニキ発言に思わず変な声が出た。ちょっと待て、一体なぜその呼び名が見知らぬ人から出てくる!?

 川魚の人が俺もいるコケへと目線を移し、こちらを見てくる。うん、この人はちゃんと俺を認識しているな。まぁ元々知ってたっぽいが。


「お、そっちのコケがコケのアニキか。俺はルアーってんだ、よろしくな!」

「……俺はケイだ。ってかコケのアニキはやめてくれ……」

「あーやっぱり不本意な呼ばれ方か。そんじゃ俺の方でみんなにそう伝えとくわな」

「マジで!? 頼みます、ルアーさん!」

「なんでそんな事になってるんだ?」

「ルアーって呼び捨てでいいぜ。そんでそっちは移動種の蜜柑の人か。いやなに、ちょっと前に情報共有板と群集内交流板であの迷惑坊主が謝ってたからよ。その中でコケのアニキって言ってただけさ」


 アーサーはそっちでもちゃんと謝罪はしたのか。うん、それは良しとしよう。でも、いやもうアーサーがコケのアニキ呼びするのは許容範囲内だけど、流石にそれを赤の群集に広めるのは勘弁して!? 


「まぁ俺は赤の群集の代表って訳でもねぇが、色々迷惑してたから解決してくれた事には礼は言っとくぜ。あんがとな」

「別に俺はそんな大層な事はしてないぞ?」

「ケイさん、こういう時は素直に受け取っておくのがいいよ」

「そだねー! 過程はどうあれ、終息させたのはケイさんなんだし!」

「それもそうだな。どういたしましてって事で」

「おう、それで良いってもんよ! まぁ放っておいてもアカウント凍結なりの相応の対処はあっただろうが、そういうのよりは円満解決の方が後味は良いからな。それで迷惑坊主の嘆願も含めて、お礼代わりに情報を渡そうって事になっててだな」

「へぇ、アーサーがそんな事を?」

「え!? 良いの!? どんな情報!?」

「ほう、内容次第だが太っ腹な対応だな」


 そりゃまぁ強制排除よりは本人が反省して行動を改める方が気分はいいか。まぁ排除しろって人もいるだろうけど、そこは人それぞれだろう。

 強制排除でしか解決出来ない事もあるだろうけど、俺は極力そうならない方が良い。本人が無自覚だったなら尚更だ。ただし、自覚ありでわざとマナー違反やってる奴は排除賛成だ。あれはどうにもならん。


 それにしても人って良くも悪くも変われば一気に変わるもんだな。変わらない奴は何やっても変わらないけどさ。それで一体どんな情報教えてもらえるのだろうか?

 

「まぁ全部が全部教えられる訳じゃないが、群集クエストについてだ。こっちでさっき新しく始まったのは知ってるだろ?」

「知ってるけど、え、マジでその情報で良いのか!? 反対の人っていなかったの!?」

「まぁな。反対の奴も居たには居たが、どうやらあんたらも発生そのものに一枚噛んでるみたいだし、今回限りは良いだろうって事になった」


 やっぱり反対の人がいない訳でもなかったらしい。どういうやり取りだったかは分からないけど、最終的には教えてくれるという結論になった訳だ。……それにしてもフラムを不動種に薦めたのがきっかけとはなぁ。何がどうかかわってくるか分かんないもんだな。これが風が吹けば桶屋が儲かるとかそういう事なんだろうな。


「確定ではないが、確度の高そうな発生条件は2つ。特殊地形の妨害をするボスの撃破と不動種への進化が数名出ることだと思われる」

「……こっちじゃそのボス倒されたのか?」

「あーこの森林エリアじゃなくて、海エリアの方で1体倒されたんだけどな。そいつが条件だって理由はクエストが始まれば分かる」


 そういえば、各エリアに意味深な地形があるって掲示板で見た気がする。それぞれに奇襲を受けるとも書いてたか? ともかく、赤の群集の海エリアのボスの一体が倒された訳だ。俺達で言えば多分あのツチノコがそれに該当するんだと思う。ますますツチノコの討伐の重要度が上がってないか?

 それにしてもクエストが始まれば分かると来たか。そりゃ気になるね。


「悪いが、言えるのはここまでだ。というかこれ以上はまだ分かってないんでな。群集クエストの内容そのものは自分たちで確かめてくれ」

「いや充分だ。ありがとよ」

「なに、そもそもこっちからのお礼だ。気にする事はねぇよ。それじゃこれ以上足止めするのもなんだし、この辺にしとくわ!」

「おう、ルアー、情報ありがとうな!」

「ありがとねー!」


 そうしてルアーは川へと戻って行った。思わぬ形で新しい群集クエストの新情報が手に入ったな。不動種が何人か必要なら情報共有板で協力者を集める必要があるし、特殊地形のボス攻略も必須か。5つある灰の群集の初期エリアのどれを倒してもいいんだろうか?

 いや、理由はなんであれ、あのツチノコは絶対に仕留める! それだけは確定事項だ!


「思わぬ所で思わぬ情報が手に入ったな」

「そだねー! これは色々と大変だー!」

「確か拠点の作成って言ってたよね? 不動種はなんとなく分かるんだけど、なんでボスの討伐も条件なんだろうね?」

「クエスト発生させたら分かるんじゃない?」

「とにかくあのツチノコは絶対に仕留めるぞ!」

「「「「おー!」」」」


 よし、これで気合は入り直した! 後は進化して出来る事の増えた内容の把握と、多少のスキルLv上げだな。全体的にスキルLvがあんまり上がってないから強化しておかないと。何はともあれまずは帰ろう。


「さて、とにかくさっさと帰るぞ」

「なぁアル、移動任せて情報共有板の方で書き込んでていいか?」

「あー、そうか。そういう手もあるか。なら任せるわ」

「私もやってていいー? 色々情報気になるし!」

「おう、いいぜ!」

「ありがと! じゃあ、ケイさんは私の巣の中ね!」

「あ、そのほうがいいか」


 小石に移り、ハーレさんに抱えられ巣の中へと持ち運ばれていく。ここなら簡単には落ちないだろう。

 それでは移動はアル任せでさっき得た情報の公開と行こう。あと情報収集も。こう考えるとアルって完全に移動拠点だな。これで俺とサヤのリスポーン位置も設定出来れば完璧なんだが、俺はともかくサヤの方は出来るかどうかがかなり怪しいんだよな。とりあえず明日、リスポーン位置の再設定が可能になったら試してみるか。


「私は大きさ的にどうやっても無理だよね……」

「おいおい、サヤまで乗る気か? 他にも歩いてる奴がいないと俺がなんか寂しくなって来るんだが?」

「それもそっか……」

「サヤには私が乗っててあげるよ」

「そういう問題なのかな?」

「そういう問題。はい、サクサク歩く!」


 ヨッシさんはサヤの頭の上に乗り、蜜柑のアルとクマのサヤが並んで進んでいく。移動は任せてこっちはこっちでやるべき事をやろう。とりあえず情報共有板開いてっと。今はどんな話題になってるかな?



 オオカミ : おい、一体何が起きてやがる!? 悪いが場所の区別がつかんから自己申告してくれ!

 木4   : こちら森林エリア。植物系ばっかり狙うクマの黒の暴走種が出現している!

 海藻2  : 海エリアでも同様だよ! こっちはウニの黒の暴走種!

 木6   : こっちは草原エリアだ。どういう事だ? 進化した俺には襲いかかって来ないぞ?

 木5   : 同じく草原エリア。特にまだ何もなし。

 木    : 森林深部エリアだな。それにしても一体何がどうやって攻撃してきたんだ? 俺は何かに表面が覆われたと思ったら一気にHP無くなって死んだぞ?


 木3   : 同じく深部。俺も訳も分からずに殺られた。でも結果的には進化出来た! 地味に困ってたんだよ!


 木4   : なにかに覆われて? 正体見てないのか?

 木3   : 残念ながらさっぱり……。

 木    : 俺もだ。何が起きたのかがさっぱりわからねぇ。


 何だこれ? 木の人の書き込みが多いし、なんか騒動が起きてるのか? っていうか同じ種族の人が沢山いたら数字付くのか。初めて知った。そして、海藻とか居るんだ。海エリアも行ってみたいな。

 そしてそれぞれのエリアで植物系のプレイヤーを狙って襲ってくる黒の暴走種が出現していると……。森林深部だけ正体不明ってちょっと怖いな。


 オオカミ : ちっ、もしかしてそういう事か? 木の人達、殺られた人はLvと他の群集エリアとの距離を教えてくれ!


 木    : ……なんでそんな事? でもオオカミの人が言うなら……。俺は殺られてLv10で遠い所だ。進化は悩み中だったからランダムリスポーンを選んだよ。


 木4   : ……ん? 俺も状況は同じだな? 違いは移動種に進化したことくらいか。

 木6   : 俺は襲われてない。エリア切り替え近いから赤の群集の人に進化手伝ってもらった。

 リス   : 何これ? どういう状況?

 オオカミ : お、リスの人か。今、そっちの木の人いるか?

 リス   : いるけど今はちょっと手が離せないよ? 何があったの?

 トカゲ  : 植物系ばっかり狙ってる黒の暴走種が出たんだと。同じPTならなんか知らない?


 リス   : ごめん、ちょっと赤の群集まで遠征してたから、分かんない。

 オオカミ : そういやリスの人達のPTはエリア切り替え付近だったな。

 木3   : 俺はLv10でエリア切り替えからは遠かった!


 進化しても表記はそのままリスなんだ。なるほど、こういう仕様という訳か。っていうかざっと情報見た限り、なんとなく傾向が掴めたぞ。


 コケ   : これって、エリア切り替えから遠くて他の群集の協力を得にくい人で進化可能になった人が狙われてないか?


 オオカミ : コケの人も来たか。ちょっと前のあれはなんだったんだよ? ……ってそれは後でいい。その推測には俺も同感だ。


 コケ   : あーあれは後で説明するよ。色々重要そうな情報を持ってきたんだけど、この状況だとどうしたものか?


 トカゲ  : お、コケの人、ちょっとぶり! ちなみにどんな情報よ?

 オオカミ : あートカゲの人も遭遇したのか。まぁそれは後回しだ。どうするかは情報の内容次第だな。


 コケ   : なら、簡潔に。赤の群集の方で『拠点の作成』って群集クエストの発生と、確定じゃないけど発生条件って思われる情報を貰って来た!


 オオカミ ︙ 相当重要な情報じゃねぇか!? おい、どうやって手に入れた!?

 ライオン : オオカミの人よ、少し落ち着くといい。

 トカゲ  : とりあえず、コケの人、詳細プリーズ!

 コケ   : 多分、さっきの騒動とは無関係じゃないかも。発生条件は特殊地形のボスの撃破と複数名が不動種へ進化する事だとさ。


 オオカミ : なるほど、そういう事か。木の連中を襲ってるのは不動種を増やす為の進化誘発用の黒の暴走種か! きっかけは他の群集での『拠点の作成』の群集クエストの発生ってとこか!


 草花   : どうやってその情報、手に入れたんだろう?

 


 俺も疑問に思っていた問題。他の群集エリアとの切り替えが遠い場所にいる木の人達の進化が難しいという問題は離れた場所には専門で狙ってくる黒の暴走種が現れるという形で解消されるらしい。

 まぁ進化するかランダムリスポーンかは選択できるみたいだな。問答無用の攻撃ではあっても強制進化ではないみたい。

 距離によって手段が変わってくるとは凝った真似をしてくれるな!

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