第51話 ケイの進化・サヤの進化


 さて進化の順番が来て川へと移動している最中だ。今の進化先は変異進化で『水棲コケ』、転生進化で『ミズゴケ』と『強化ゴケ』の3つある。Lv10で出てきた『強化ゴケ』は単なる強化なので他に選択肢がある以上は除外だし、元々の予定してた『ミズゴケ』かな。『水棲ゴケ』だと行動出来なく……あれ? ちょっと待てよ。水の中でしか生存出来ない進化を陸地ですればどうなる……? 『仲間の呼び声』でも似たような事が出来るけど、注意書きはあっても禁止はされていない。という事は、これは試してみる価値はあるか……?


「なぁ、アル?」

「……またなーんか思いついたような気配がするぞ?」

「確かにこれはそのパターンだね……」

「なんか言い方失礼だな!?」

「ケイさん、次は何をやらかすの?」

「……そういえば、ケイさんって変異進化で進化先が出てたよね?」

「そういやそんな事も言ってたな。でもあれって水の中でしか……って、まさか!?」

「そのまさかだ! ちょっと赤の群集の方の手伝い出来なくなるかもしれないけどやってみて良い?」


 さっき引き受けると言ったのをあっさり覆してしまうのもどうかとも思うけど、これはいつでも狙える進化チャンスではない。ここを逃せばまた同じ条件が整うかさえわからないし、思いついた以上は試してみたい! オフライン版と同じなら適応進化っていう特殊進化が発生するはず! っていうかなんで適応進化の事を忘れてたかな……。あ、単純に森の中で条件満たせると思ってなかったからか。


「あ、手伝いの件なら別に気にしなくて良いぞ? 相手1人だけだし、大人数が必須って訳でもないからな」

「そうか。一回引き受けたのに悪い。ありがとな」

「良いってことよ。こっちの方が面白そうだしな」

「そうだね。こっちは私達でやっておくからケイは進化頑張ってね」

「今度はどんな事になるかなー!?」

「ケイさんのする事って予想外のこと多いしね」


 なんか色々変な感じで期待されている気もするけど、実行する許可は得た。変異進化は死ぬ必要もないので川に行く必要もなくなったし、すぐに実行しよう。進化項目を開いてっと。


<『水棲コケ』へと変異進化します。宜しければ了承を選択してください>


 了承っと。博打にはなるけど、不可能ゲーにはならないようにバランス調整はされてるはず。さて問題はどの程度で適応進化が発生するかだな。こればっかりは試してみないと分からない。


 お、進化が始まった。転生進化とは条件が違うから演出も別物か。俺の周囲に光の膜みたいなものが覆っていって隔絶された空間になった。おーなんかよく分からないけどコケが変化していってる気がする。少しの間のあとに、覆っていた光の膜が砕け散った。なるほど、これが変異進化なのか。


<融合進化ポイント5及び生存進化ポイント5を消費して『コケ』が『水棲コケ』へと進化しました>

<特性に統合され、スキル『淡水適応』は失われます>

<特性:水中特化により、スキル『適応環境外での死滅』を取得しました>


 お、進化完了の通知が出た。『淡水適応』は無くなるのか。まぁ水中向けの種族にはスキルじゃなくて元々持ってる性質だし当然か。それにしてもいかにもデメリットの塊みたいなスキルが手に入ったな。とりあえずステータスでも見てみよう。


【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:水棲コケ

 所属:灰の群集


 レベル 1

 進化階位:成長体・特化適応種

 属性:水

 特性:水中特化


 群体数 535/1000

 魔力値 25/25

 行動値 17/21


 攻撃 5

 防御 11

 俊敏 5

 知識 9

 器用 11

 魔力 13



 ステータスは半分くらいになってLv1になるのか。まぁ一時的に弱体化するのは仕方なーーおい、なんか見知らぬ魔力とか魔力値とかいう項目があるんだけど!? あと属性とか特性とかもある!?


「みんな、ステータス確認したか!?」

「あ、ケイ、ちゃんと進化出来てるね」

「俺とサヤは進化まだだぞ? それでなんかあったのか?」

「ケイさん、なんでステータス? あっ、これって!」

「……なるほどね。いつ魔法がって思ってたけど、成長体から開放って事なのかな。そっか、だからあのスキルが……」


 既に進化したヨッシさんとハーレさんは俺が言いたい事をステータスを見てすぐに把握していた。そりゃこの項目って気になるよな! 


「ヨッシ、あのスキルって?」

「新しくポイントで取得可能なスキルに『魔力制御Ⅰ』ってのがあったんだ。必要なポイント数が多いし、他にも色々スキルが気になっててステータスはまだ見てなくてよく分からなかったけど」

「あった、これか!」


『魔力制御Ⅰ』

 精神生命体の本来持っている魔力の一部が制御可能になる。


 取得ポイントは増強進化ポイント15、融合進化ポイント15、生存進化ポイント15って必要量多いな!? しかもこれだけじゃ魔法が使えるかどうかがよくわからない。他に何か別のスキルも必要なのか?


<適応環境外の為、群体の一部が枯れました> 317/1600


 あ、やっぱりデメリットの塊の『適応環境外での死滅』の影響が来たな!? まぁこうなるのは分かっていてやった事だし問題ないな。

 うーん、この『魔力制御Ⅰ』は気になるな。あんまりポイントは無駄遣いしてないし、思い切って取ってみようか。この必要ポイントの多さからして全く使えないゴミスキルって事はないだろう。


<適応環境外の為、群体の一部が枯れました> 217/1600


「あーまだ進化してないからなんとも言えないんだが、もしかして魔法関係のスキルか?」

「ステータスに魔力値と魔力って項目が増えててな」

「それで取得出来るスキルに『魔力制御Ⅰ』ってのが増えてるね。必要ポイントも多いけど」

「その2つが無関係とは思えないね?」

「確かにな。ヘルプに魔法の項目がある以上どこかで取得出来る筈だしな」


 ごもっともで。単純に火魔法とか水魔法とかの取得がないのが何かありそうだ。よし、決めた。取ってみよう!


「アル、ちょっと俺、この『魔力制御Ⅰ』とやら取ってみるわ!」

「あー取るのは良いけど、ちょっと待った方が良くないか?」

「え、なんで?」


<適応環境外の為、群体が全滅しました>

<生存進化ポイントを5獲得しました>

<リスポーンを実行しますか? 『群体分離』場所へ / ランダムリスポーン>


 あ、全滅した。まぁ元々こうなる予定だったんだし、気にする必要もないか。ランダムリスポーンを選択っと。


「ケイ、全滅したね?」

「おう。とりあえずランダムリスポーンするわ」

「予想以上に早いな。待てって理由はそれだ。『魔力制御Ⅰ』の必要ポイント数は多いんだろ? 適応進化にポイント必要で足らなくなっても困るだろうから後回しにしとけ」

「そっか。ポイントが必要かどうかもまだ分かんないんだった。アル、忠告サンキュ!」


 確かに今の状況でポイント不足で適応進化が不可能となれば悲惨だ。ここは大人しく我慢しよう。さーて、何回死ねば特殊進化が発生するのかな? 出来れば1時間以内くらいだと助かるけどな。


 さてランダムリスポーンした場所は、パッと見じゃ鬱蒼とした森だし見分けつかんわ! ここ、どの辺だ? えーと、マップを表示しようっと。


<環境適応外の為、群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? 『群体分離』場所へ / ランダムリスポーン>


「あ、今度は群体数が全然ないから段々と減るんじゃなくて即座に全滅……」

「すごい勢いで全滅するね?」

「環境適応外って結構厳しくなってるんだ」


 マップ開く前に死んだぞ、おい。もう先にマップを最大表示で出しておこう。まぁすぐ死ぬから意味なかもしれないけどな。もう一回ランダムリスポーンっと。

 もう進化を実行した以上は適応進化が発生するまでこれを繰り返すしかない。リアルだともっと持ちこたえるだろうけど、これはわざと全滅までをゲーム的に早めているのか? まぁ回数が必要な以上は早いほうがありがたい。


「あ、水月さんだ!」

「お、あの人か。こっちも進化出来そうだから、進化してから情報交換な!」

「おうよ!」

「じゃ、ケイ頑張ってね! あ、はい。私です!」


 PT会話だとPTメンバーの声しか聞こえないから水月さんの発言は分からない。けど、サヤの受け答えからしてサヤの進化からやるのだろう。


「さーて、クマ同士の戦いが始まりました! どう見ますか、解説のアルマースさん?」

「どちらもクマということですが、進化がまだのサヤ選手に対して、相手の水月選手は既に進化済みですからね。これは非常に厳しいでしょう」

「やはり進化の壁は厚いという事ですね! さぁサヤ選手、格上の相手に対してどう対応するのか!」


「……なんで実況風なんだろ?」

「この空気の中でやるの落ち着かないね。え、ホントに戦闘するんですか!?」


 なんかハーレさんとアルの実況が始まった。さぞかしサヤはやりにくいだろうな。そもそも勝負でもないだろうにって、あれ? 意外と水月さんの方がノリノリなのか!? あーこれ見たかった!!



<環境適応外の為、群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? 『群体分離』場所へ / ランダムリスポーン>


「おっと、サヤ選手、躱す、躱す躱すー!」

「素晴らしい攻撃動作の見切りの速さですね。普段から使っている技だということもあるのでしょうが、それでも見事なものです」

「水月選手の連撃を躱しきって、そこから爪を使ってカウンターを狙う! おおっと、直撃したー! いや、不完全ながら防御されている! 水月選手にはそう簡単には攻撃は当たらないー!」

「少しはダメージがあるものかと思いましたが、少しもダメージの気配はありませんね。これが進化階位の地力の差というものですね。ですがプレイヤースキルは両者共に引けをとっていません」

「おーっと、ここで水月選手がサヤ選手の爪の一撃を掻い潜り、噛みつきによる痛恨の一撃を与えたー!」


<環境適応外の為、群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? 『群体分離』場所へ / ランダムリスポーン>


「噛みつきはサヤ選手はあまり使いませんが鋭い一撃ですね。威力は高いものの狙いを定めるのが難しいのですが、水月選手も上手く扱いこなしています。一方のサヤ選手も、よくぞ今の一撃を耐えたものです」

「しかしダメージが深いのか、サヤ選手の動きが鈍い! これは最早ここまでか!? いや、意地があるのか両手の爪で最後の攻撃を放つ! が、しかしサヤ選手の爪は空を切り、水月選手によるカウンターの爪の一撃が決まったー! 勝者、水月選手ー!」

「格上相手によくぞここ迄健闘したと言えるでしょう。サヤ選手に盛大な拍手を!」

「実況はリスことハーレと」

「解説は木ことアルマースでお送りしました」


「……無茶苦茶やりにくかったよ」

「サヤ、どんまい。あの2人、ノリ出すと止まらないしね。まさか水月さんまでとは思わなかったけど……」

「その状況、直接見たかった……」


 実況中に何度か死んだけど、もう作業的にリスポーンを選択するだけだった。というかまさかアルとハーレさんが実況し始めるとは思わなかった。まぁ過程はともあれ、サヤもなんとか進化出来たようだ。サヤは『成長体・特化強化種』となっている。何に特化したんだろうか?


「サヤはどんな進化したんだ?」

「えっと、私は『クマ』から『長爪グマ』になったよ。爪による攻撃特化型だってさ」

「へぇ、やっぱり色々あるんだな」


 同じクマの水月さんとの比較も気になるけど、流石にそれを聞くのもな。見た目は大してサヤと変わらなかったけど、あれで進化済みだったって事だからサヤとは別種の進化先なのだろう。


<環境適応外の為、群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? 『群体分離』場所へ / ランダムリスポーン>


 はい、また死んだ。さて、まだまだ死ななきゃ駄目そうだな。

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