第50話 ヨッシの進化・ハーレの進化
一応、軽くハーレさんと水球回避の対戦風の熟練度稼ぎをしながら時間を潰していたらヨッシさんが戻ってきた。ログインするなりヨッシさんは警戒するように周囲を見回している。
「……ねぇ、どうなったの?」
「保護者が来て、片付けてくれたぞ」
「はぁー、もういないんだね。よかったー」
「ヨッシも戻ってきたし、7時近いから私もご飯食べてくるね!」
「あ、俺もだな」
「うん、分かった。いってらっしゃい」
という事で、一旦晩飯の為にログアウトだ。戻ってきたらアルもログインしてれば良いんだが。
そしていったんのいる例の場所へとやってくる。胴体部分の文字は『マナーには注意しましょう!』と書いてある。おいおい、なんてタイムリーな文章なんだよ!
「この時間だとご飯休憩かな〜?」
「まぁそんなとこ。ところで、そこに書いてあるやつなんだけど」
「あ、これ? やっぱりどうしてもマナー違反のプレイヤーって排除しきれなくてさ。一応こうやって呼びかけてはいるんだけど、効果が薄いんだよね」
「まぁあの手の連中って無自覚なのも多いからなぁ……」
あのイノシシは間違いなく無自覚のやつだろう。だからこそ厄介なんだが。
「あんまり酷ければGMコール使ってね? それに関してはAIじゃ舐められるからってことでGMが行くことになってるから」
「あ、そうなってるんだ。まぁその時は頼むわ」
「それじゃご飯、いってらっしゃい〜!」
「おう」
そして食事の為にログアウトして、さっさと食べて再ログインする。と言いたいけども、流石にそれだけって訳にはいかないので、食事の後片付けと風呂掃除と風呂の用意くらいはやっておく。妹の晴香はさっさと自室に戻っていたけどな。
◇ ◇ ◇
そして再びゲームの中へ。そこにはもうみんな勢揃いしていた。そしてなんだがアルは元気が無さそうな様子である。
「なんかすまんな。どうも迷惑かける事態になってたみたいで……」
「アルが悪い訳じゃないから気にすんな。あの手の身勝手な奴ってどんなゲームにでも一定数いるからな」
「もう過ぎた事だし、アルが気にする必要はないからね?」
「そうだよ! あんな失礼なイノシシとかどうでもいいから、進化をやっていこうよ!」
「だね。せっかくみんな進化Lvまで到達したんだしね」
「それもそうだな」
凹んでいたアルの励ましはこれで良いだろう。アルも予測出来なかった事態に責任を追求したところで意味なんかないしな。そんな事より、進化だよ、進化! このゲームの醍醐味の1つ!
「んで、誰から進化する?」
「あ、その前にまだリスポーン位置の設定してないから、先にやらせてくれ」
「私もだね! アルさん、言ってた通りに巣を作ってもいいかな?」
「おうよ! どんとこい!」
「ありがとー! それじゃ行くね、『巣作り』!」
ハーレさんが『巣作り』を発動したら、アルの枝の間に巣が出来ていた。ヨッシさんの巣と同じで破壊不能となっている。さて、これでヨッシさんが巣を作った時と同じような事になるのだろうか?
「称号『小動物系モンスターの住処』と『住処の護り:リス』か。ヨッシさんのと同じ仕様っぽいな」
「おーやったね!」
「ま、戦力が持てるのは有り難いしな。さてとリスポーン設定もしますかね。『株分け』っと」
アルの植わっているすぐ隣に小さな木が生えてきた。これがアルのリスポーン位置って事になるのだろう。やっぱり種族毎に名前が違うだけの同系統のスキルが用意されていたという訳だ。
「よっしゃ、これでみんな準備完了だ!」
「そういや説明まだだったけど、植物系の死に方にちょっと仕様変更が入っててな。幼生体では根を完全に地面に露出は不可能みたいなんだよ」
「だからアルは赤の群集の人と交渉してたの?」
「まぁそういう事だ。他の群集と協力しろって事だろうな」
「多量モンスターの呼び寄せは?」
「あれは『黒の暴走種』の存在を考えたら、必要以上に死にまくることになりそうだからな……。他に手段があるんなら、ちょっと試す気は起きない」
「確かになぁ」
やっぱりオンライン向けにバランス調整が入っているらしい。一応不可能ではなさそうな点はソロ向けの対応といった所か。こういう形で他の群集と交流を持たせようという仕様って感じがする。同じ群集だとダメージが通らないから、動けない植物系は他の群集の誰かに頼るのが早い訳だ。この辺りはオンラインだからこそ出来る事って感じだ。オフライン版じゃやりようがないもんな。
「それでだ。なんか変なのが勝手に来てたみたいだけど、あれは放置して構わないっていうか放置してくれっていうのが相手方の意向なんだけど、みんな手伝って貰えないか?」
「まぁ赤の群集の人に手伝ってもらう方が早いなら、手伝うのはいいよ」
「向こうもアルさんの進化を手伝ってくれるんだよね!?」
「あぁ、それも確約済みだ。ケイとハーレさんは会ったんだろ? 水月ってクマの人だ。ちなみに成長体らしい」
「わぁ! 私と同じクマなんだね! もう進化済みなんだ!」
「ケイさんが言ってた保護者かな」
「あーそういやそう言ったっけ? まともそうな人だったぞ」
「あの人なら心配いらないと思うよ! イノシシは論外だけど!」
ハーレさんも手厳しい。まぁ同感だけど。あの水月さんならば問題もないだろう。相手の木の人もアルが大丈夫だと判断しているからこそ、こうやって頼んでいるんだろうしな。
「なら、引き受けるって事でいいんじゃないかな?」
「「「異議なし!」」」
「みんな、助かる! それじゃ同意が得られたって連絡しとくな」
イノシシの件を除けばそもそも問題のある話でもないので、懸案事項が解消されたのなら断る理由もない。アルの進化の目処もたった事だし、転生進化用のダメージ要員のモンスターでも確保しに行きますか。動物系は軽く一撃入れてから後はされるがままのダメージ受けてれば良いだけだから楽だな。サヤがちょっと相手を選ばないと時間がかかるかもしれないけども。
俺は魚に食われてくればそれでいい。もしくはツチノコだけど、あいつと次に対峙するのは仕留める時だけだから却下だ!
「あ、なんか迷惑かけたお詫びを兼ねて、水月さんが俺以外も希望があれば倒してくれるって言ってるけどどうする?」
「え、マジで?」
「私は手間が掛かりそうだから頼もうかな?」
「んー私は自力でいいや」
「私も遠慮しとく! 必須じゃないしね!」
「俺はそもそも無理だしな」
サヤは手間がかかる可能性を考慮して話を受けて、ヨッシさんとハーレさんは自力でとなった。一見親切のようだけど、進化済みの水月さんにも利益はある。昨日イノシシを事故で轢いた事で判明したけど、他の群集のプレイヤーからも経験値が貰えるから水月さんが進化済みなら良い経験値稼ぎになるだろうし。
「それじゃサヤは頼むって事で良いな?」
「うん、いいよ」
「すぐこっちに向かうってさ。相手方はこっちが終わってからで良いって」
「それじゃ私か、ハーレか、ケイさんからだね」
「ケイさんが一番手っ取り早く済むんじゃない?」
「それもそうだな。ちょっと川に行って食われてくるよ」
敵を探して連れてくる必要のあるヨッシさんとハーレさんは敵の位置次第だけど、俺は目的の位置は決まっている。確かにそれが一番早いだろう。
「ってすぐそこに残滓が居たぞ?」
「え、見つけるの早!?」
「それなら進化するの待たせちゃったし、ヨッシからどうぞ!」
出発してすぐの所に、黒の暴走種の残滓のキツネがいた。グッドタイミングだ、キツネよ。
「それじゃ一番乗り行くね!」
気合を入れてキツネに突っ込んで行くヨッシさん。しかしゲームの仕様上で仕方ないとはいえ、これからやるのは殺される為の戦闘である。ヨッシさんはキツネに一撃入れてから、無防備に一方的に攻撃を食らいどんどんHPが減っていく。そしてそれを見守る俺たち。うーむ、なんだろう、この微妙な居心地の悪さは……。オフライン版じゃ気にならなかったけど、オンライン版だと気になるな……。
次の進化からは個別に自由に進化していった方が良いのかもしれない。あ、とうとうヨッシさんのHPが尽きて息絶えた。ポリゴンになって消えていく。
「よし、進化完了!」
「うわ、びっくりした!? そこから出てくるのか!」
アルの枝にある巣から進化したヨッシさんが現れ、アルが驚いていた。どうやら転生進化するとリスポーン位置から出てくるらしい。
ヨッシさんは一回り大きくなり、黄色と黒の縞模様でより鋭くなった針を持つハチになっている。PTメンバーの表記を見ればLv1になり『成長体・強化統率種』となっていた。無事進化は成功したようだ。
「『ハチ』から『女王バチ』に進化! 進化でスキル増えるみたいだし、ポイントで取得出来るスキルの種類も増えてるね」
「へぇ、そうなんだ。こりゃ進化したらやる事も色々増えそうだな!」
「ヨッシ、おめでと! さて次は私の番だね!」
そしてキツネがいるうちにハーレさんもキツネに木の実を投げつける。後はヨッシさんと同じ流れである。息絶えたハーレさんもヨッシさんと同様にアルに作った巣から進化して現れる。
大きさはさほど変わらないが、全体的に雰囲気が引き締まったような気がする。ハーレさんの表記は『成長体・投擲種』となっていた。
「『リス』から『投げリス』になったよー!」
「成長体って一口に言っても、〜種って種類分けがあるんだな? こりゃ興味深い!」
「オフライン版じゃ一律で成長体だったもんね」
「色々種類がありそうだよねー! あとで纏めて情報共有板で情報流そうよ!」
「おうともよ! ほれ、次はケイの番だぞ!」
とうとう俺の進化の番がやってきた。キツネには倒されようがないしもう用事もないので、サヤがサクッと仕留め済み。さてと川まで行ってきますか。
「んじゃちょいと行ってくる!」
「いってらっしゃい!」
「おう、待ってるぞ」
「ケイさんは何種になるんだろうね!」
「ケイさん、いってら〜」
進化の為とはいえ見送られながら川へ食べられに行くというのも変な気分だな。
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