第41話 やらかした事の後始末


 ただいまは言った。次に言わねばならない事はこれだろう。


「この度は本当にお騒がせしました!」

「いや、まぁ俺達は別にいいんだがな……?」

「さっき崖の上で何があったの?」

「あーいや、ぶっちゃけよく分からん」


 何故あんな所に赤の群集のイノシシの人がいたのか皆目検討もつかない。というか理由を聞く以前に倒してしまった。


「えっとね、なんか赤の群集のイノシシの人がいたんだけど、それ以上はわからないまま死んじゃった」

「……ケイ?」

「哀れなイノシシの人だな……。つってもこんなとこになんの用だ?」


 アルの言う事ももっともだ。そしてサヤの責めるような視線が痛い。俺は悪くね……いや、完全に俺が悪いよな……。現段階で他エリアに用があるとすれば、あれか? クジラの人みたいにさ。


「死にに来たとか……?」

「イノシシならそう苦労もしないんじゃねぇか?」

「用件を聞く前だったからどうしようもないよね!」

「……そうだな。とりあえずそっちは保留にしておこう」

「……悪い事をした気はするけど、それしかないよな……」


 正直謝りたいとこではあるんだが、プレイヤー名すら状況が状況だったのでまともに見ていない。群集外交流板という手もあるが、相手が見ているかどうかもわからない状況で今回やらかした事を暴露するのは躊躇いもある。何か本当に用事があるのならまた来るだろうから、その時に謝ろう。


「まぁ赤の群集の人は後回しにするしかないとしてだ」

「……分かってるよ、流石に今回は自分で書き込むって」


 少なくともぶつかりかけた人には謝っておくべきだ。という事でちょっと批判を受ける覚悟で情報共有板を開く。目撃情報が上がっていたのはここらしいから、少なくとも目撃した人はここにいるだろう。



 木    : 【速報】コケの人による謝罪会見 

 クジラ  : ん? コケの人、なんかやったの?

 オオカミ : おい、もしかしてさっきの大岩の滑落騒動って……

 リス   : コケの人が原因だったよ! っていうかコケの人そのものが転がってた!

 ライオン : なんだ、その奇妙な現象は……?

 シカ   : あの急に曲がった変な挙動はプレイヤーが操作してたからか!?

 草花   : 真横を通り過ぎて行った時はヒヤッとした。で、何がどうなったらああなる?

 クジラ  : エリアが違うし、ちょっと見てなかったからさっぱり分からん! 誰か説明プリーズ!

 オオカミ : ちょっと前から森林深部エリアで大きな岩が一般生物を巻き込みながら転がってたんだよ。このエリア、それほど急ではないけど全体的に斜面になってるからな。木の人、詳細を。


 木    : おうよ。コケとランダムリスポーンで離れてたって言ってただろ? んで位置確認してたら猛烈な勢いでコケの位置が動いててな。これ以上の詳細は本人からどうぞ。ぶっちゃけ、俺もよく分かってない。


 コケ   : えー、この度は本当にすみませんでした!!

 クジラ  : おぉ!? コケの人、初登場!?

 シカ   : 即謝罪!? なんて言ったものかな。別に悪気があった訳じゃなさそうだし……。

 草花   : まぁ、そうだね。むしろ何をしたらああいう事が出来るのかが知りたい。

 サル   : なになに? コケの人が初書き込みか!

 クジラ  : あ、別にみんな怒ってた訳ではないんだね? やっほー! コケの人、初めまして!



 緊張しながら書き込んでみたら、思ったほどみんなは怒ってはいなかった。そもそもコケを纏った大岩=俺という認識すらされていなかったようだ。そりゃそうか。まさかあんな事が実行出来るとは思わないもんなぁ。俺も思わなかった。



 コケ   : いや、俺もさ、まさかあんな事になるとは思ってなくて……。ぶつかりそうになった人、本当にすみません!


 草花   : んーまぁ被害はなかったし、わざとじゃないなら問題ないよ!

 シカ   : うちのトカゲが潰されたって言ってたけど、ダメージなかったらしいし問題なし!

 コケ   : げっ!? 潰された人いたの!?

 トカゲ  : 潰された俺、登場! 死んでランダムリスポーンになってたら別だったかもしれんけど、驚いただけだし問題ねーよ! ちょうどイノシシと戦闘中で残滓だからって油断してて危なかったとこだったしな!


 マグロ  : まぁ、午前中のPT丸ごと丸呑み事件に比べたらねぇ?

 クジラ  : ちょっ!? そこでその話が再燃すんの!?

 リス   : え!? それなに!? すっごい気になる!



 潰してしまった人もいたみたいだけど、許してもらえるようで良かった。というかトカゲの人が言ってるのはあの向かってきていたイノシシかな? 残滓のイノシシといい、赤の群集のイノシシといい、妙にイノシシに縁があるね。まぁ単なる偶然だろうし、別にいいか。

 それにしてもPT丸ごと丸呑み事件って何? ハーレさんが食いついてるけど、俺も気になるんだけど! 反応からしてクジラの人絡みの話か?



 シカ   : あー確かにあれに比べたらね。

 オオカミ : あぁ、そういやリスの人は合流してくるって言って、その時はいなかったな。

 サル   : うん、あれは聞いてただけでも酷かった。

 コケ   : 一体何があったんだ?

 クジラ  : コケの人まで興味持った!?

 オオカミ : そこのクジラの人が、海エリアで魚の5人PTを気付かず丸呑みにしてな。

 コケ   : ……え? それ、どうなるんだ?

 オオカミ : まぁダメージもなくて、ちょっとしたら自動転送されてクジラの体外に出られたらしい。だがそもそもの事の発端がクジラの人がボンヤリしてたのが原因で、呼びかけてたのに丸呑みにされたもんだから呑まれたプレイヤーの1人がキレてな。


 クジラの人がプレイヤーを丸呑み、しかも5人のPTをだと!? ……流石にクジラで姿が大きいだけの事はある。っていうか、その状況ならそりゃ怒るわ。


 クジラ  : ちゃんと謝ったし、和解もしたからね!?

 サル   : 一回、強敵討伐の無条件での協力が和解条件だったよね。

 シカ   : あれに比べたら、だんまり決め込んでも殆どの人にはわからないのに即座に謝罪してきたコケの人は全然問題なし。


 トカゲ  : そうだぜ! それでも気になるって言うならなんか情報くれ! それでチャラでいいぜ!


 コケ   : そっか。そう言ってもらえると助かる。ちょうどあれの関係で手に入ったものもあるからその情報でいいか?


 トカゲ  : いいぜ! いいよな?

 オオカミ : 一番の被害者っぽいトカゲの人が良いなら良いんじゃねぇか?

 草花   : 異議なーし!

 シカ   : いいんじゃないかな。

 コケ   : じゃあそういう事にさせてもらうよ。



 よし、これで今回の事は水に流せる。……まだ赤の群集のイノシシの人が残ってるけど、あれは後で考えよう。それにしても、クジラの人何やってんだ。いや、人の事は言えないか。

 とりあえず大岩の動かし方と今回手に入れた称号2つとその取得報酬の情報かな。



 コケ   : とりあえず、あの大岩の動かし方から。まず『水の操作』を使って水を勢いよくぶつけて埋まっている岩を強制的に地面の上に出す。


 サル   : ……いきなり真似出来そうにないんだけど?

 ライオン : まずは最後まで大人しく聞け。細かい事はその後だ。

 サル   : りょーかい。

 コケ   : それで『増殖』っていうコケを増やすスキルで取り出した大岩をコケで覆う。そして、その状態の大岩のコケから発動させた『スリップ』で滑らせて移動開始って感じ。『スリップ』の加減を間違え過ぎて勢いがつき過ぎたのが原因なんだ。


 オオカミ : ふむ、なるほど。要するに、コケ以外でそのまま実践は不可能って訳か。

 草花   : 聞いてる感じだとそうだね。根本的にスキル構成が無理だ、これ。

 ライオン : だが、全く無駄な情報でもない。少なくともそれで動かした岩のダメージ判定はトカゲが無事だという事からコケのものだ。自然物を使った攻撃は有効という訳だな。


 トカゲ  : 地味に潰されたの役に立ってる感じ!?

 リス   : 木の実とか投げてもダメージ判定あるから、それと同系列扱いかな?

 木    : トカゲの人、地味にファインプレーかもな。とにかく詳細は要検証ってとこだな。

 クジラ  : あれ? 木の人もリスの人もコケの人とPTなんじゃ? 

 木    : 細かく聞くのは後回しでこっちを優先したから、まだ殆ど知らねぇんだよ。

 リス   : そうそう! 他にも赤の群集のプレイヤーを轢き殺しちゃったとかもあるし。

 クジラ  : ……え? ……え?

 オオカミ : おいおい、どういう状況だ、それ。

 リス   : 分かんない。いきなり出てきて用件告げる前に轢かれたし。

 木    : それに関してはホントにただの事故だ。後々の処理はこっちで何とかやるから気にしないでくれ。


 赤の群集のイノシシの人に関してはホントに何も分かっていないから、まだ手の打ちようがないんだけどな。


「アル、赤の群集に関してはそれで良いのか?」

「そもそもの情報がないんだから、どうしようもねぇだろ。一応、群集外交流板も見てるがそれっぽい奴もいないからな。もう一度あっちから来ないとなんも出来ないって」

「そうなるよね。なんの用だったんだろう?」

「用があったならまた来るって! その時には分かるんじゃないかな?」

「それもそうだね。とりあえずケイが思ってたより穏便に済んで良かったのかな?」

「確かにな。冷静に考えたら、あの大岩とケイを結び付けれるのってPT組んでて位置情報の分かる俺らくらいだったんだよな……。ちょっと焦りすぎたわ」


 言葉の通り、アルは冷静さを欠いていたのだろう。俺も知らぬ存ぜぬが通じる可能性が高い事をさっき言われるまで完全に失念していた。どの種族に何人いるかなんて公表されていないし、ケイ=コケという情報も公開していない。だけど、素直に謝ったのは正解だったのだろう。


「あ、そういや称号も2つ程手に入ってるんだけどこれも公表しようかな」

「今更称号の情報を隠しても意味ないしな。ところでどんな内容だ?」

「ほう! ケイさん、また新称号かー!」

「ちょい待って、詳細出すから」


 えーと、取得した称号一覧はステータスのとこだっけ? あ、一番下か。称号の一覧見た事なかったから一瞬分からなかった。


【称号】


『植物達の救世主』『水を扱うモノ』『幼生体・暴走種の討伐』『成長体・暴走種の発見』

『森を荒らすモノ』『岩を扱うモノ』



 こうやって見るとそこそこ称号も手に入ったもんだな。『植物達の救世主』と『森を荒らすモノ』の称号が両立してるのは変な気分だけどさ。そういや『岩を扱うモノ』でなんかスキルも手に入ってたな。そっちも確認しておこう。スキルの一覧表示っと。


【スキル】


《固有スキル》

『群体化Lv2』『群体内移動Lv2』『群体化解除Lv2』


《通常スキル》

『水分吸収Lv1』『スリップLv2』『光合成Lv1』『毒生成Lv1』『水の操作Lv4』『増殖Lv1』『識別Lv1』


《応用スキル》

『岩の操作Lv1』


《特殊スキル》

『変異率上昇』『一発芸・滑り』『視覚延長Ⅰ』『淡水適応Lv1』『夜目』『行動値増加Ⅰ』



 こう見ると結構スキルも増えたもん……あれ? ちょっと待て、なにか見覚えの無い項目が増えてない!? なんだ《応用スキル》って!?

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