第39話 やる事は変わらない


 色々と他プレイヤーの動きも分かってきた。PT構成、スキル構成組み合わせとしてツチノコには対応出来ているから後は仕留めるだけの強さが必要になってくる。つまり進化を目指すという目標は何も変わらない。


「誰かに仕留められないうちに早く進化してリベンジに行かないとな」

「おうともさ! ケイさん、こっちはみんな大体Lv8前後になってきたよ!」

「げっ、マジか!?」

「ケイは今いくつ?」

「今は6だな。くっそ、水の補給場所さえあればなぁ……」


 サヤにもいつの間にかLvは抜かれていた。時々戦闘中っぽい声も聞こえていたし、『樹液分泌』を使っていたと言っていたからアルに群がる一般生物の虫を倒していたんだろうな。サヤの攻撃力なら普通の虫なら瞬殺だろうしな。足止め要員がいれば『黒の暴走種』の虫が複数来ても幼生体ならなんとかなるかもしれない。現状のメンバーだと控えた方が良いのは確実だが。


 そして俺の現状の戦闘手段だとインベントリ内の水への依存度が高い。毒だと仕留め切るには時間がかかり過ぎるし安定もしない。なんとかこの差を埋める手段を考えないと。


 あ、それはそうとしてまた話題が逸れて本題を忘れかけてる。情報共有板で話題が逸れてるのにツッコミを入れてたのに自分がやってたら世話ないぜ。気を付けねば。


「アル、そういやマップの埋めのランキングの話はまだ途中だぞ」

「あーそういやそうだったな。あれはな、単純に初動の動き出しと種族の差が出てる」

「……というと?」

「地形を無視出来る飛べる種族と、ケイみたいな特殊移動を持った人が単独で悪路をショートカットして順路を飛ばした埋め方をしたのが大きいみたいだぜ? どうしてもPTとか普通の歩きだと埋めたエリアの重複が多くて、人数で均等割されてるっぽいんだよ」

「って事はクエスト始まって即座に動き出して、急斜面を突っ切ってマップの端から埋めたのが大正解だったって事か?」

「まぁそういうことになるな」

「へぇ! ケイさん、そんな風にマップ埋めしてたんだ!」

「おうよ! まさかランキングに入ってるとは思わなかったけど」


 だけどランキング入りの大体の理由がこれで分かった。初動の判断が正しかったのと『一発芸・滑り』での移動の行動値の節約が上手く行っていた訳だ。それにしてもぶっちぎり1位のベスタは凄いな。マップの埋まっていない所をひたすら疾走してたんだろうか?


「だけど、それだと種族差が大きいよね? イベントとしてどうなんだろう?」

「その為の特殊地形と、ボス討伐なんじゃないか?」

「そう考えてるやつも多いみたいで、マップ埋めは諦めてLv上げとボスの発見に集中してる奴も増えてるな」

「ボスの討伐貢献度が大きいのかな?」

「ますますツチノコは私達で倒さないとね! ツチノコ倒せば、ケイさんとヨッシの2人は報酬貰えるんじゃないかな!?」


 ツチノコがそのボスと確定した訳ではないが、可能性は高い。4体の内1体を倒せば貢献度は高いのは間違いない。そしてあの陥没した場所が特殊地形なのだとすれば、うまく行けばそちらの貢献度も取れるかもしれない。

 元々ツチノコはリベンジで絶対に倒すつもりだったけど、倒したい理由も増えたな。折角ゲームやってるんだ。イベントも楽しんでやらないと!


「色々理由は増えたけど、結局やる事は変わらないな」

「そうだね。まずはLv10、そして進化だね」


 それにはまず合流しないとな。ソロじゃまだ色々と条件が揃ってないとキツい。最低でも安定した水の確保が必須である。攻撃に消費アイテム必須とかキッツいなぁ……。進化したら解消されるかな?


 えーと今持ってるアイテムは小川の水、樹液、鹿の肉と革か。なんか出来ないもんかな? ……ん? アルが一般生物の虫を群がらせられたし、樹液は残滓のカブトムシにも有効だった。残滓は岩に勢いさえあれば倒せるし……。あれとあれを組み合わせてやれば……? もしかしていけるか!?

 アルはまだ死なれたら困るけど、今俺が死ぬのは特にこれと言って問題ないしな。死んでランダムリスポーンでも運次第だけど、場合によっては早く着く事にもなるし。

 よし、良い手段思いついた。うまくハマれば、一気に経験値ゲット出来るかも!


「ふふふ、良い事思いついたぜ」

「お、ケイさん! 何か悪巧み!?」

「うまく行けば、経験値ウハウハ。失敗すれば最悪またランダムリスポーンだな!」

「大博打だね? ケイ、迷惑かけるプレイしたら駄目だよ?」

「わかってるって! そんじゃちょっとやってくる!」

「なんとなーく、嫌な予感がするんだが?」

「うん、私も……」

「そうかな? 私はすっごい面白いことしてくると思うけどな!」


 全部丸聞こえなんだけど、そんなに無茶する気はないっての! まぁ時間的に今夜はこれをやれば時間切れだろうし、夜の日じゃないと効果が薄いだろうし、さっさと準備を始めよう。



 とりあえず思いついた手段を実行するのに適している場所を探そう。探すのは岩場があって、コケもあって、虫が集まりそうな場所。お、割とすぐに良さそうな場所を発見! ちょっとしたの前に、崖から落ちてきた岩みたいなのが固まってる所がある。行動値の全快を待ってここで実行しよう。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します>  行動値 15/16(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 14/16(−1)


 さて移動しましたのは崖の前の大きな岩の前。選んだ岩は大体直径1メートル前後ってところか。流石に真ん丸とはいかないけど比較的丸めのヤツを選んだ。デコボコし過ぎてると失敗しそうだからな。それにしてもちょうど良さそうな岩があったけど、これはもしかしてゲーム的にも想定されてる手段なのか?

 まぁ考えても答えは出ないし、地面に半分埋まった状態だと作戦には使えないのでちょっと手を入れよう。具体的には土の中から完全に出す!


<インベントリから小川の水を取り出します>

<行動値を4消費して『水の操作Lv4』を発動します>  行動値 10/16(−1)


 そして使うのは水の操作。一般生物の鹿の足を一撃でへし折る程度の威力はある。Lvも上がったからもうちょい威力あるか? まぁいいや。とりあえず吹き飛ばし過ぎて転がさない範囲で土から出すのが狙いだしな。強過ぎても弱過ぎても駄目だから慎重に。岩の横から抉りこむように水をぶつける!

 お、ちょっと土から浮いた!? あ、でもすぐ戻ったな。ちょっと威力足らずか? よし、もう一撃! お、ちゃんと出てきたな。上手い具合に平坦な位置に丸めの大岩が用意出来た。これで第一段階完了っと。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します>  行動値 9/16(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 8/16(−1)


 次の準備の為に岩に付いてるコケに移動。この岩にはコケは少なかったけど、今は移れるだけのコケがあれば充分だ。そして次に第二段階の仕上げだ!


<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 7/16(−1)


 増殖でコケを増やしていく。あ、1回じゃ大岩を全部覆いきるには足りないか。


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 6/16(−1)

<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 5/16(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 4/16(−1)

<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 3/16(−1)


 岩の表面のコケを移動しつつ、増殖の起点を変えて大岩をコケで覆い尽くすことに成功した。さっき水の操作で表面に水分もあったから順調に増殖出来たな。これで第二段階終了。ちょっと行動値が少なくなったので回復待ちだな。少し回復し次第、第三段階へ移る!


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 6/16(−1)

<インベントリから樹液を取り出します>

<インベントリから樹液を取り出します>

<インベントリから樹液を取り出します>


 さて第三段階開始。まぁ罠を仕掛けるだけなんだけどね。コケで覆った大岩の転がって行きそうな場所に直線状に虫が集まるように餌になる樹液を撒いていく。さて、これでどれだけ一般生物の虫や黒の暴走種の残滓が集まるかによるんだよな。とりあえずこれで準備は完了。後は待つだけだ。


 しばらく待っていると、樹液に虫が集まりだした。よしよし、カーソルは緑だから一般生物の虫ばっかりだな。『黒の暴走種』が多く来すぎても困るけど、もうしばらく待とう。数は多いほうが良い。


 更にしばらく待っていると、数の集まりが悪くなってきた。まだ『黒の暴走種』は現れていないと。まぁこの辺りが潮時だな。そろそろ最終段階の実行をしよう。


<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します>  行動値 15/16(−1)


 地面に接しているコケから虫の群がっている方に転がるようにスリップを発動させる。……あれ? グラッと少しは動いたけど、予定通りに転がっていかないな? 回数を増やしてみるか。


<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します>  行動値 14/16(−1)

<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します>  行動値 13/16(−1)


 これでもだめとなると、スリップのLv不足か。折角いい案だと思ったのに肝心の最後がLv不足とか……。えぇい! やけくそにもう一発!


<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します>  行動値 12/16(−1)>

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『スリップLv1』が『スリップLv2』になりました>


 おぉ! この土壇場でLvアップとは気が利くな! よっしゃ、この際だ、ありったけのスリップを発動してしまえ!


<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 10/16(−1)

<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 8/16(−1)

<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 6/16(−1)

<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 4/16(−1)

<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 2/16(−1)

<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 0/16(−1)


 よし、これで岩が転がり……って、ちょ!? 勢いつき過ぎ!? げ、黒のカーソルのクワガタがいつの間にか来てる。『識別』は、行動値尽きてるから無理っと。いかん、調子に乗って行動値尽きるまでスリップ連発するんじゃなかった!


 スリップLv2の6連発で勢いがつき過ぎた大岩は止められない。予想以上にLvアップの恩恵は大きかったようだ。確実に6発はいらなかった。スリップLv2の威力を確認してからやるんだった……。

 あっさりと樹液に群がっていた虫たちを潰し、『黒の暴走種』のクワガタへとコケを纏った岩が襲いかかる。僅かな抵抗を見せるが勢いづいた大岩には敵わない。一度目の衝突で大岩の進行方向へと弾き飛ばされ、その後大岩に押し潰されて事切れた。


<ケイがLv7に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>

<幼生体・暴走種を撃破しました>

<幼生体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 あ、あのクワガタは発見はされてた未討伐の『黒の暴走種』の幼生体だったんだ。ボーナスポイントうまいね。うん、大岩を転がして虫を押し潰せ大作戦そのものは成功だな。問題はどうやってこの大岩止めようか……? すごい勢いで転がっていってるんだけど、どうしよう?

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る