第35話 逃げる為の共闘
「PTはどうすればいい? ちょっと今は解散は困るんだけど」
「あー横殴りでいい! どうせ勝てんし、逃げるだけだ!」
「あいよ。それじゃ遠慮なく!」
観戦していた間に行動値は全快している。ついでにデスペナも終わった。さてと、逃げる為って事なら引きつけるだけでいいか。凍らされる可能性もあるけど、水の操作で撹乱といくか!
<インベントリから小川の水を取り出します>
<行動値を4消費して『水の操作Lv3』を発動します> 行動値 11/15(−1)
先ずは初手から牽制に水球を用意する。今の上限操作個数である2分割にしておく。お、氷狼がこっちに気付いたか。
「へぇ? それが情報共有板で木の人が言ってた水の操作ってやつか」
「あ、もしかしてあの時のアドバイスくれたオオカミの人か?」
「なんだ、見てたのか。おう、それは俺だ」
やっぱりあのオオカミの人か! 同じ灰の群集だし、同じエリアにいてもおかしくはない! あの時に発想をくれたから今の使い方を思いついたんだ。こりゃちゃんと逃げられるように手伝って恩返ししておこう。
俺たちが話しているのが気に食わないのか、氷狼の眼光が鋭くなる。息を吸い込むような予備動作が始まり、吹雪の息を吹きかける用意をしている。さっき見学してたからその攻撃の予備動作は確認済みだ!
2つの水球を操り、オオカミの人の前に薄く伸ばした水の壁を2枚作る。よし、長くは持たんだろうけど避けきるだけの時間は作れるだろう。俺はオオカミの人が逃げるまでは氷狼を翻弄してやる。多分ダメージはほぼ通らないだろうけどな。
<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 10/15(−1)
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 9/15(−1)
氷狼の足元には生憎とコケが抉られていて間近には移動できなかったけど、出来るだけ近いところに移動する。さて、実験もしてないのにいきなり実戦投入になるけど、新スキル試してみるか。戦闘状況によってこうも変わるなら取っておいて正解だったな。
<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します> 行動値 8/15(−1)
ただの土の上を侵食するかのように、コケが円状に増殖していく。急に増殖し始めたコケを見て氷狼は攻撃を中断し、少し動きが硬直する。強引に攻撃を中断したからだろう。それにしても思ってたほど増殖速度は早くないけど、Lv1だし仕方ないか。
「へぇ! やるじゃねぇか、コケの人! 水の操作の応用利用も出来てるみたいだしな!」
「お褒めいただきありがとよ!」
そこに短時間で凍りつき役目を終えた水の壁で吹雪の息を凌いだオオカミの人が、氷狼の硬直の隙をついて噛み付こうと飛びかかっていく。だが、氷狼は避ける素振りすら見せなかった。すぐに硬直の解けた氷狼はフワフワとした尻尾を振り回しオオカミの人を吹き飛ばすが、オオカミの人も難なく空中で体勢を立て直し着地する。
おぉ、オオカミの人結構プレイヤースキル高いな。オフライン版で似たような事やった事あるけど、あれって地味に難しいんだよな。オオカミの人の防御に使った水は一旦凍って砕け散ったから流石にもう使えないか。あれで短時間でも氷狼の吹雪の息を防げたのを良しとするかどうかは微妙なところだな。体当たりとかなら、ツチノコと同様にあっさり破られるだろう。
やはり成長体相手だと地力で負け過ぎていてキツいな。相手の対応速度にこっちが追いつけない。やはりこっちも進化してからじゃないとまともに相手になりそうにはないな。それにしても同系統のモンスターだからなのか、オオカミの人は氷狼に舐められている様な雰囲気があるんだよな。油断しても勝てるってか!?
「ちっ、やっぱり全然無理か」
「逃げるんだったんじゃ?」
「いや、折角あそこまでの隙を晒したんだ。狙いたくもなるだろ?」
「あーまぁ確かに」
確かに露骨に攻撃妨害が成功した事で硬直が発生していた。ただ、敵側からの自発的な中断なのでそれほど硬直は長くなかったけれど。増殖とスリップのコンボを狙ってたんだけどな。
「さて、コケの人。逃亡策あるか?」
「あーあるにはあるぞ? 無いのに手伝いには突っ込んでこないって」
「はっ、そりゃそうだ! さっきはそれを狙ってたってとこだろ!」
「オオカミの人、なんとかコケのある所に誘導できないか?」
「それが必要ってんならやるしかねぇよな!」
それだけ言うとオオカミの人は氷狼に飛びかかっていく。鋭い牙で噛み付こうとしてもあっさりと躱され、爪で切り裂こうとすれば尻尾で軽くあしらわれる。戦闘中という事を知らなければ子どもオオカミが親オオカミにじゃれついているように見えなくもない。ただし、オオカミの人の攻撃には殺意が乗りまくっているが。
ん? オオカミの人、後ろ足で地面を抉ってどうするーー。あ、なるほど、そういう事か。誘導を頼んだけど、これでも問題はないか。
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 7/15(−1)
オオカミの人が氷狼に向かって抉った土を蹴り上げる。氷狼は避けもせずに土を被り、そのまま足元に土が落ちていく。避けるまでもない下らない攻撃だと思ったのだろう。
俺の事を警戒してたくせに、それはいくらなんでも油断し過ぎだ。コケのない地面の上にいれば安全だとでも思ったか! その避けなかった土の中には既に俺が群体化していたコケが混じっているんだよ! そして既に俺はその中に移動済みだ!
そして氷狼は俺を見失った事にやっと気付き、警戒態勢に移る。ふふふ、既に遅い!
<インベントリから小川の水を取り出します>
<行動値を4消費して『水の操作Lv3』を発動します> 行動値 3/15(−1)
<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します> 行動値 2/15(−1)
そして水の操作で2つの水球を作り氷狼の意表をつく。頭部を狙うが屈み込めば避けれるような位置に調整し、2つの水球を移動させる。これはフェイントだ。当たっても外してもどっちでも良い。2つの水球に意識を取られた氷狼は足元で増殖するコケには気付いていない。今だ、水球突撃!
氷狼の頭部を左右から挟み込むように襲いかかる水球に、氷狼はその強さをもって回避という選択肢は取らなかった。片方は自ら噛みつき、もう片方は尻尾で撃ち落とす。まぁ、そんな事はどうでもいい。足元がお留守だぜ!
「オオカミの人、逃げるぞ!」
<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します> 行動値 1/15(−1)
氷狼の足元に増殖させたコケからスリップを発動させる。水球に注意が逸れて、オオカミの人には油断しきっているんだ。舐めてかかっていた事、後悔すればいい! まぁゲームの敵モンスターが後悔する訳もないけどな。
そして目論見通り、足元に注意を向けていなかった氷狼は転けこそしなかったが大きくバランスを崩した。あの辺りを確実に転ばせたいならもっとスリップのLv上げが必要かもな。って考えてる場合じゃない。一気に逃げないと!
<行動値を1消費して『一発芸・滑り』を発動します> 行動値 0/15(−1)
既に走り出していたオオカミの人と並走するように『一発芸・滑り』で移動する。登録し直した事で移動距離が伸びたのだ。逃亡にも使いやすい!
『一発芸・滑り』の登録スキルを使い切るまで移動したところで動きを止める。というかもう行動値がないので止まるしかなかった。俺が止まったのに気付いたオオカミの人も足を止めていた。追いかけてくる気配がないのでどうやら氷狼からは逃げ切れたようである。
周囲は広葉樹の多い森の中へと戻っている。やはりエリアの端に向かえば、先のエリアの環境が混ざってくるのだろう。
「追ってきてはねぇみてぇだな。一定距離以上は移動しない位置固定のボスってとこか」
「はぁ、最後の逃げるとこで行動値がぎりぎりだったから焦った……」
「成長体相手にあんだけやれりゃ充分だろ。コケの人が来る前にいた連中、あっさり死んだくらいだしな。期待外れ過ぎたぜ」
「ん? あの人達、フレンドとかじゃないのか?」
「あー狼のボスがいるから挑みに行こうってオオカミのプレイヤーが呼びかけ合ってっつー話だ。本当は1人で挑むつもりだったんだが、半ば無理やり付き合わされたんだよ。そんで結果は見ての通りだ」
「そうなのか」
というかオオカミの人は1人で挑むつもりだったのか。いや結果的に俺が参戦するまで1人みたいなもんだったけど。
「ホントはあのままリスポーンでも良かったんだが、そこに気になる奴が現れたもんだから巻き込んでやったって事よ!」
「なるほどな。まぁオオカミの人には1個借りもあったからこれくらいはいいよ。水の操作の指摘、役に立ったからな、ありがとうな?」
「はん! あんなもん借りだとか思ってんじゃねぇよ。お前の引っ張ってきた情報、どんだけ重要なのあったと思ってんだ?」
「あーその辺はアル……木の人に任せてるからな」
情報共有板で知ったならプレイヤー名より種族名の方が分かりやすいだろう。オオカミの人もそれで通じているようだ。
「あーあいつか。コケの人が情報を山ほど持ってくるから退屈しないとか言ってたな。まぁさっきの見れば納得だがよ」
「そんな事言ってたのか。なぁ、折角だしオオカミの人も一緒に来ないか? 今、俺はPT連中と逸れてんだけど戻る予定なんだけど」
「あー折角だが遠慮しとくわ。ソロプレイの方が性に合っててな。フレ登録くらいなら構わんが」
「じゃあ、それで」
「そういや自己紹介してなかったな。オオカミのベスタだ」
「そういやそうだった。俺はコケのケイだ」
こうしてはぐれた先で出会ったオオカミの人とフレンドになった。ソロプレイが良いオオカミって一匹狼だよな。まぁプレイスタイルは人それぞれだし、口出しする事でもないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます