第19話 情報共有板と1日の終わり
「なんで教える前に取得してんだよ、ケイさんよ……」
「いや、そんな事言われてもどうしろと!?」
アルは木なので表情は無いが、あれば恨みがましい表情をしているような気がする。いや、ホントそんなこと言われても頼まれた事をやっただけだぞ!?
「やべぇ、とっておきのつもりの情報のアドバンテージが無くなった……」
「あーもう報酬とか別にいいさ。ある意味では称号取得出来たのが報酬みたいなもんだしな」
「そうか。そう言ってもらえると助かるわ!」
俺の一言で一気にアルに元気が戻った。はい、またもやアルの一本釣り! まぁ何度もする気はないけど、今回は収穫もあるし別に良いだろう。新実装の称号が2つにスキルが1つとか水やりの報酬としては充分すぎる。
「でも一応アルの称号は聞かせてもらうぞ?」
「そりゃもちろんだ。俺が手に入れたのは称号『同族の命を脅かすモノ』だな。増強進化ポイントが3貰えたわ」
「木が植物を枯らす寸前まで弱らせたからか。取得条件わかりやすいな」
「だろ? だから応用出来るかと思ってたんだが、まさかその情報を教える前に取得しちまうとは思わなかったぜ……」
アルとしても予定外ではあったのだろう。俺もまさか聞く前にその情報源を手に入れるとは思わなかった。それにしても俺の手に入れた称号とアルの称号を合わせて考えたら、称号+各種進化ポイントかスキルが獲得報酬か。
「なんか思ったよりは簡単に称号は手に入りそうだよな?」
「だからこそ、あえて伏せて先に取っておきたいんじゃねぇか! 情報共有板でも称号の情報は出てないんだぜ!?」
「あぁ、なるほど。みんな称号の情報は伏せておきたい訳か」
何やらアルが熱弁している。下手なLv上げより場合によっては称号の方が意外と良いものが手に入るかもしれないし、情報を伏せてる人も多いのだろう。俺だって『一発芸・滑り』の情報は伏せてもらっているしな。誰かがポロッと存在を漏らすまでは情報共有板には称号の情報は出てこないかも。
「で、ケイの称号ってのはどんなのだったんだよ? 教えてくれるよな? な!?」
「……なんか一気に遠慮がなくなってきたな?」
「ケイが相手だとその必要性もない気がしてきたからな!」
「おい!?」
結構失礼な事を言ってないか? いや、心の中でアルの一本釣りとか思ってる俺も俺か。お互い様って奴だな。毎回情報交換のやり取りで報酬だの何だの言うよりはこっちの方がいい。
「ま、そっちの方が気楽でいいか」
「そういうこった! つーことでお互いに情報は隠し事なしと行こうじゃねぇか!」
「はいはいっと。俺が取得したのは称号『植物達の救世主』と称号『水を扱うモノ』の2つだな」
「2つ!? 同時取得とかもあんのか!」
「ちなみに『植物達の救世主』で融合進化ポイント3、『水を扱うモノ』でスキル『水の操作』が貰えたぞ」
「スキル取得まであんのか!?」
なんか驚きまくってるな。まぁ完全にアルが持ってた称号の情報より上を行ってるもんな。そりゃ驚きもするか。俺もこの一気に取得は驚いたしな。
「あー情報共有板で称号の情報が出てこない理由に納得したわ。スキルまであるならそりゃ気軽にはバラさんわな……」
「そういや情報共有板って言えば、攻撃スキルの取得方法を探ってくれるってのはどうなった?」
「あーあれか。悪い、その手の情報はみんな出し渋ってるみたいだ。称号の情報みたいにな」
「ちっ、それは仕方ないか。俺も人の事言えないしな」
「いっそ、俺らの方から称号の情報を流すか? 少しは話に乗ってくる奴いると思うぜ?」
「そうしてみるか。一回じっくりと情報共有板も見ときたいしな」
アルはずっと表示したままらしい情報共有板の画面を俺も開き、初めてまともに内容に目を通す事になる。
VRが主流となっても大多数が一気に交流する場合はチャット形式か掲示板形式が便利なんだよなー。そういや軽く炎上中とか聞いたけど、どうなってんだろうか
木 : 新情報を手に入れたぜ!
クジラ : お、木の人がまた新情報か! 今度はなんだ?
オオカミ : コケとかいう変な新情報に続いてどんな情報だ?
クジラ : 変な新情報とか言うなよ。運営から色物種族認定って地味に嫌なんだぞ!
木 : いや、フレのコケの人、ノリノリで楽しんでるぜ?
クジラ : え、マジで!? 俺もちょっとクジラを全力で楽しんでみようかな……?
キツネ : クジラとか頑張ったら、空とか飛べんじゃねぇの? そういうモチーフ結構あるじゃん。
クジラ : あ!? そうか、そういう可能性もあるのか!
キツネ : 気付いてなかったんかい!?
クジラ : いや、色物種族認定に凹んでた。うん、やる気が出てきたぞ! キツネの人、ありがとう!
キツネ : いやいや、頑張ってくれ。エリア5はクジラの人の動きも重要そうだしな。
名前はキャラ名じゃなくて種族名になってるのか。それにしてもクジラの人、凹んでたんだ。同じ色物種族の認定仲間として早めに覗いておけば良かったか? そしてキツネの人、グッジョブ! 炎上はもうとっくに収まってるようだな。対応策も出されたしそんなもんか。それにしても……。
「アル、思いっきり話が脱線してるぞ」
「まぁよくある事だ。ケイは書き込まねぇの?」
「俺は基本的に読み専だしなー」
「ケイはそういうタイプか。しゃーねぇ、俺が代行しとくわ」
「お、助かるね」
「いいってことよ。んじゃ称号の事、書き込むぜ」
「おうよ!」
木 : とりあえず新情報な。なんと、称号というものを発見した!
キツネ : なん……だと……? 木の人、それを言ってしまうのか!?
リス : ただいまー! ってなになに? 称号ってどんなの?
オオカミ : お、リスの人お帰り。分断されたのはどうにかなりそうか?
リス : うん、友達と話が纏まったよー。明日配布されるアイテム使って合流予定!
トカゲ : キツネ、こそこそ何か隠してると思ったら貴様、何を隠してる!?
シカ : こらこら落ち着け。でもその言い方は気になるね?
キツネ : ヤバ!? 失言したか!?
トカゲ : あ、キツネめ、逃げやがった!? おいこら待て!
シカ : あーウチの2人が迷惑かけてすみません。ちょっと2人共止まれ!
オオカミ : ……なんだったんだ、あいつら? とりあえずリスの人、おめでとさん。
リス : ありがとー。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなりそうで良かった。他の分断された人達もなんとかなればいいけどね。
オオカミ : 多分、大体は大丈夫だろ。森と海とかで分断さえなければだが……。
クジラ : そんな人は俺と一緒にやろう! 海は海で楽しそうだぜ!
ライオン : クジラの人、なんかフッ切れたか? コケの人のおかげという事か。
リスの人はエリア分断を食らってた人っぽいな。なるほど、色々と分断された人がいてこうして会話してたのか。シカとキツネとトカゲの組み合わせってマップ埋めしてた時に遭遇した俺に気付かなかった3匹組か? これ、キツネの人は確実に称号の情報持ってるだろ。
というか意外と俺の話題がよく出ているな。うん、普段から書き込まないタイプだけど、余計書き込みにくいね。
リス : ねぇねぇ、木の人。称号について教えてよ? かなり気になるんだけど!
木 : 教えるのは良いんだが、こっちも欲しい情報があってな? 誰か知ってたら教えてくれよな?
オオカミ : 教えてもらうんだから、知ってる物だったら教えるぜ。
リス : 私もだね。それくらいは当然!
木 : サンキュー! コケの人の要望でな、植物系での攻撃スキルの取得方法が知りたいそうだ。称号情報は俺とコケの連名情報なんでそこのとこ宜しく。
オオカミ : なるほど、コケも一応植物だしな。序盤は攻撃手段に乏しいってことか。
クジラ : え、コケの人も称号を手に入れたって事か!? すまん、俺は何も情報は持ってない……。
木 : 知ってたらでいいぜ。とりあえず称号情報な。俺が手に入れたのは『同族の命を脅かすモノ』って称号だ。近くの植物弱らせてたら手に入った。ちなみに増強進化ポイント3が貰えたぞ。
ライオン : ほう、ポイントが貰えるのは魅力的だな。
リス : 同族ってことは自分の種族系統の一般生物を弱らせたら良いのかな?
オオカミ : なるほど、意外と条件は厳しくなさそうだな? って事はキツネのヤツみたいに情報隠し持ってるのがいる訳か。まぁそれが悪いとは言わんけど。
木 : それで、コケの手に入れた称号は『植物達の救世主』と『水を扱うモノ』との事だ。融合進化ポイント3と『水の操作』ってスキルを手に入れたそうだ。
クジラ : コケの人、称号2つも手に入れてんの!? すっげぇ!?
オオカミ : コケの人って水分吸収してインベントリに入れられるとか言ってたよな? 攻撃スキルって訳じゃないかもしれんが、その『水の操作』とやらで操れたりはしないのか?
なんだって!? オオカミの人、その発想は無かったわ。というかろくに確認すらしてなかったわ。よし、その案は採用。後で実験しよう。てか、俺の情報ってそこそこ広まってるんだな。アルがずっと書き込みながら情報収集してた成果って事か。良く話題になるおかげでスムーズに話が進むことに感謝しておこう。
木 : その可能性は充分あるな。オオカミの人、サンキュー
オオカミ : 木の人こそ情報助かるぜ。ところでコケの人の称号の取得条件はわかるか?
木 : あ、すまん。書き忘れてたわ。俺が周辺の植物を弱らせるのをやり過ぎて全滅させかけたのをフレのコケに水やりと光合成で回復を頼んだんだよ。そしたらそうなった。
ライオン : それはマッチポンプではないのか?
木 : あー意図してなかったとはいえ、結果的にはそうなるのか……。
オオカミ : 良いんじゃねぇの? とりあえず簡単な傾向は見えてきた。
リス : ほうほう、どんな感じの傾向?
オオカミ : どれも一般生物や元々あるものに関与して取得に至っている。クエストの受注みたいなのは無いみたいだが、実質クエスト扱いなんじゃないか?
リス : そっか! 一般生物を倒す以外にも色々やってみろって事なんだね!
木 : ま、推察は任すわ。直接攻撃手段とはまだ言えないけど、足掛かりは見つかったしな。
なるほどね。情報共有板はこんな感じなのか。それなりに役に立ったな。
「よし、参考になった。アルもサンキューな!」
「これくらいならいつでもやってやりますぜ。って夕暮れになってきたってことはもう少しで日付が変わるのか」
「あ、ホントだ。もうこんな時間か」
このゲームは24時間で昼と夜が入れ替わるようになっている。切り替え時刻は0時であり、夕日が出てきたという事は夜の11時を過ぎたころである。そして明日は丸一日夜へと変わるのだ。明後日には昼間に戻る。天気はランダムで決まるらしい。
「俺はそろそろ落ちるけど、ケイはどうするよ?」
「眠くなってきたし、俺も落ちるわ。『水の操作』は明日試そう」
「そうか。それじゃまた明日、時間合えばな!」
「おう、またな!」
アルと別れの挨拶をしてログアウトを選択すると、ログイン画面へ戻される。もちろんそこにはいったんがいた。
強制ログアウトでない限りは一度ここを経由するらしい。
「あ、お疲れ様〜。今日はもう終わりかな?」
「そのつもりだよ」
「公式サイトからお知らせがあるから確認しておいてね〜」
「おう、わかった」
「初日からプレイしてくれてありがとね。またログインしてくるのを待ってるよー!」
そんないったんの声を最後に、ゲームは終了し現実へと戻ってきた。さてと風呂入ってから寝るとするか。
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