第5話 情報交換と実験


 サヤから色々と質問攻めにあった末に、ほぼ全ての情報を吐かされた。とは言っても、元々情報不足もいいとこなので問題ないけども。それはそうとして気になる点が一つある。


「ところで、なんで俺がコケだとか名前がわかったんだ?」

「名前は単純にカーソルに集中すれば見れるけど……。『識別』ってスキルは持ってない?」

「『識別』? あの死にスキル? 持ってないな」

「そうそれ。オフライン版じゃ見たまんまな上に、図鑑埋めにしか使えないやつ」


 オフライン版での『識別』はやりこみ要素をやる上で序盤には必須だが、それ以外にはいらないスキルとされていた。完全上位互換の『看破』というスキルがあった事も大きい。


「どうも仕様が変わってる影響か、結構使えそうな感じだよ? 『識別』がなきゃ、コケがプレイヤーだって気付かなかったもん」

「へぇ、そりゃ興味深い。取得方法は?」

「わかんない。初期スキルだったけど、通常スキルではあったかな? 多分何かの手段で手に入るとは思うけど……」


 オフライン版ではどの種族でも任意に取得できる汎用スキルだったけど、オンライン化の際に調整がされているらしい。野生の勘とかそういう感じのスキルだったりするのか? そうなると動物型モンスター共通の初期スキル……?


「これ、思ってる以上にオフライン版からの変更点多いな! もうちょいプレイヤー集めて情報交換会でもしたいぞ!?」

「確かにね。でもその場合、ケイが一番聞かれると思うよ? 運営のお墨付きの色物種族なんだしさ」

「……そりゃそうだ。どこからどう見ても、変更点の塊だもんな、俺」

「あはは、色々と新要素をこれからも見せてもらうからね」

「そりゃいいけど、サヤも情報寄越せよな。流石に長期的な情報交換は相互にだ」

「それもそうだよね。んー」


 顎に手を当てて考え込むようなサヤ。見た目が普通の人間ならば絵にもなるのかもしれないが見た目はクマだ。シュールな光景だなぁ……。このシュールさが妙な人気の理由の一つらしいけど。

 サヤが考えを纏め終わったのか、ポンと手を打つ。リアルなクマがやるとやはりシュールな光景だ。いや不気味な光景か?


「よし、ならPT組もうか!」

「え、PT機能あったのこのゲーム!?」

「……ホントにヘルプ読んでないんだね。仮にもMMORPGなんだからそれくらいあるよ」

「え、でも貨幣も街もないじゃん、MMORPGなのに」

「うっ、それを言われるとなんとも言えない……。このゲーム、やっぱ変だよね?」

「何を今更なことを。まぁPTがあるならそれもいいな。どうしてもこのコケ、動きがめんどい」

「さっき軽く聞いたけど、どんな風に動くのかかなり気になるね。検証付き合うからPT組もうよ」

「お、人手ゲット! いやクマ手ゲットか? いやそれだとまた別の意味に……」

「しょーもない事言ってないで、はい」


 サヤからPT申請のメッセージが送られてきた。まぁ手伝ってくれるらしいし、元々検証をする予定だったし、問題ないかな。了承しますっと。


<サヤ様の率いるPTが結成されました>


 おーちゃんとPT機能があったぜ。うん、PTメンバーの一覧にあるサヤのHPはちゃんとHPだな。やっぱ、俺の群体数っておかしいよなぁ……?


「そういえばさ、この群体数ってどうやったら減らせるの?」

「さっき説明しただろ? 群体化解除ってスキルでーー」

「いや、そうじゃなくてさ。他のプレイヤーとか一般生物がだよ?」

「……さぁ?」


 言われてみればそうだ。どうやったら倒されるんだ、これ? あれ? ボーナスに選んだ生存進化ポイントって稼げるのか……? 攻撃手段も今のところ滑らせるだけだし増強進化ポイントもきつくねぇ!?

 融合進化ポイントで頑張るしかないのか……? でもあれも群体化で最大値を更新した初回のみのポイントみたいだから、群体数500まで行ったあとからはポイント貰えてないんだよな……。


「潰せば減る? コケって潰しても平気そうだよね? 燃やす? 湿気多くて燃やしにくそうだし、そもそもどうやって火を……? あ、そういえばヘルプには魔法の欄があったね……」

「お! 魔法あんのか! オフライン版じゃ種族固有の能力のみのなんちゃって魔法だったもんな。是非とも使いたい!」

「まだ取得方法も分からないから、絶対に使えるとは言えないけどね」

「クッソ、情報足りないなー」

「ま、できる事からやっていこ?」

「そだな。とりあえず、実験用の一般生物を探さないと」

「それならさっきあっちで見たよ」

「お、まじか!」


 知ってるとなれば話は早い。早速レッツゴー! 


「ケイ、ちょっとストップ!」

「なんだよ、出鼻挫くなよ……」


 せっかく良い気分で出発しようと思ったのに……。


「ごめんね? そのコケの群体化とか群体内移動とかって見せてもらってもいい? 聞いておかないと見失いそう……」

「……それもそうか。この移動方法、特殊すぎるもんなー。んじゃあっちの岩のコケがあるじゃん? あそこまで移動するよ」

「うん、分かった。ちゃんと動きを確認しとくね」


 食い入るように、コケを見つめるクマ。やっぱりシュールなんだよなぁ。まぁそれはいい。群体内移動の実践を見せねばな。客観的にどう見えるのかも気になるしね。よし、行動値は全快で群体数の空きもあるな。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 9/10


 これで岩のコケの群体化に成功。続いて移動だ!


<行動値を1消費して『群体化内移動Lv1』を発動します> 行動値 8/10


 よし、無事に移動完了っと。ってあれ? サヤはなんで前の場所を凝視したままなんだ? なんか不思議そうに首を傾げているな。どうしたんだろ?


「おーい、移動はもう終わったぞ?」

「え!? あ、ホントだ!? カーソルの位置がそっちの岩のコケに変わってる!?」

「ん? なんか妙な事でもあったか?」

「そりゃカーソルが突然消えて、それ以外の見た目の変化は何もなかったもの。瞬間移動でもされたみたいな気分だよ!」

「瞬間移動かー。それ良い表現かもな。条件付きだけど体感的にもそんな感じだよ。てか、客観的に見たらそうなるのか」


 ふむふむ、良い情報が手に入ったぞ。奇襲にもってこいじゃないか! 問題は現状では滑らせる事が出来るだけっていうね。もっと活用法を考えれば、なんか凄いことも出来そうな気はするんだがな。


「ねぇ、このコケのある小さな石には移れる?」

「ん? 多分出来ると思うけど、なんでだ?」

「見失うと困るから、これで持ち運べないかなーって思ってね?」

「そりゃいいな。地味に面倒なんだよ、この移動方法……」

「そりゃ、コケだしねぇ……」

「だよなぁ……。流石は色物種族という事か」


 ほうほう、つまりは小石のコケに移って、サヤに運んで貰うわけだな。うん、楽な移動だね。

 他のモンスターならこんな無駄に手間が多い移動手段はないというのに、歩けないから仕方あるまい! あ、でも植物系モンスターだと序盤は移動が難しかったか。それでもあれもそのうち歩けるようにはなってたしなぁ……。

 コケ、歩けないもんな! 歩く手段も模索してみるべきなのかな? うーむ、わからんぜ。


「それで、とりあえずマップの解放をやらない?」

「なるほど、それだと持ち運ぶ方が見失わなくて済むからいいか。オフライン版だと一定距離の移動で解放だったよな?」

「条件が同じだったらだけどね」


 マップがあれば迷う事もなくなるし(方向音痴の人は除く)取っておいて損はないな。PT機能があるならマップにPTメンバーの表示とかもあるかもしれんし、そうなりゃ流石に見失う事もないだろう。


「よし、それじゃマップ解放を目指しながら一般生物探しの散策と行くか!」

「ま、ケイは持ち運ばれるだけだけどね」

「って事でよろしく!」

「順応性高いなぁ……。まぁ提案したのは私の方だけどさ」


 即座に群体化と群体内移動を使って小石のコケに移動する。そして小石を手に持ったサヤが二足歩行で歩き出す。四本足で走るほうが速いらしいが、それだと小石が持てないのでこうなった。楽ですなー。

 道中で一般生物見つけたら今度こそ、スリップの実験もやっておこう。あれの性能把握はかなり重要だろうしね!


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