Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜

加部川ツトシ

第1章 ゲームを始めよう

第1話 オンライン版の発売


「よしあと三十分!」


 俺は今日という日を待ちわびていた。やりたかったVRMMORPGのサービス開始が今日なのだ。サービス開始まであと三十分といったところ。


 家庭用ゲーム機の主流がVRゲームに移り変わってからそれなりに経つ。出始めの頃は仮想現実の情報量の多さや、機器の性能不足、ゲーム開発会社の新技術への不慣れさというのもあり、なかなか普及に時間がかかった。そこに現れた天才が組み上げた数世代分の技術を先取りしたかのような開発用パッケージが公開されてから一気にVRゲーム事情は変化した。

 まずは従来型のオフラインゲームのVR化から始まり、そこに通信技術の革新も加わり、VRゲームのオンライン化も始まり、今やVRMMOは大人気ジャンルとなっている。


 一番人気なのはやはりファンタジーものであるが、中には一風変わった物も出てくる。これはどの時代のゲームでもあることだろう。俺が気に入っているのはその中の変わり種の一品であるMonsters Evolveというオフラインゲームであった。普通はモンスターというのは倒すべき相手であろう。たまにモンスターを手懐けて、モンスター育成とモンスター同士のバトルという作品もありこれはこれで人気ジャンルである。


 そんな中出てきた異色のゲームがMonsters Evolveだ。その名の通り、モンスターを題材にしたゲームであるが、これはモンスターを狩るゲームでもなければ、モンスターを捕まえて育てるゲームでもない。プレイヤー自身がモンスターになりきるゲームなのである。

 舞台となるのはまだ人類と言えるような知的生命体の発生していない未開の惑星。そこに降り立つ自身では肉体を失った精神生命体である主人公。その目的は人類種への進化を促し、その進化した人類種の肉体を得て新たな種族として返り咲く事である。

 その手段はプレイヤーが選択した現地のモンスターに憑依し、幾多の生死を繰り返し種族そのものの進化を繰り返していくというのが主なゲーム内容である。


 そして、何よりの特徴が選択した種族によって全くの別ゲームへと変わり果てることだろう。そもそも選べる種族が有機物であれば全てというとんでもない選択肢の幅があるからだ。種族によってはとんでもない進化を見せるというのが受けた要因だろう。

 そして他のVRゲームと違って、生身の運動神経には左右されないという点が大きかったのかもしれない。動かすアバターの大半がほぼ人型ではないのだ。どちらかというと、操縦とかそういう感じに近い操作感である。そして、ただ勝つことだけがこのゲームのクリア条件でないことが大きい。負けて死に続けることこそ攻略の鍵となる場合すらあるのだ。




 そして、今日そのゲームのオンライン対応版が新作として発売されるのである。その名もMonsters Evolve Onlineである。Onlineが付いただけのそのまんまのタイトルではあるがそれでもオンライン化は嬉しいのだ。このゲームは性質上、陣取りゲームに近いのである。コンピューター相手のオフラインでは攻略のパターン化で割とあっさりと人類種へと到達できてしまう。


 だからこそ、コアなファンからは他ユーザーとの競い合いや、協力が前提となるMMO化が要望されていた。もちろん俺もその一人だ。

 オンライン化にあたり、色々と変更点や追加要素もあるらしいが詳細は伏せられている。自分で見つけろということなのだろう。


「よっしゃ、始めるか!」


 色々考えているうちに、サービス開始時間が訪れた。ヘルメット型のVRゲーム機は既に頭部に装着済み。トイレや水分補給、食事も済ませ済み。これから晩飯まではゲーム三昧の予定である。


「Monsters Evolve Online、起動!」


 その俺の音声に従って、ゲームが起動していく。肉体の五感は切り離され意識はVR空間へと移っていく。そして、周りには特に何もない初期設定用の白い空間へとやってきた。どこからぶら下がっているのか不明だが、少し目線を上げれば丸い球体があった。


「やっほー、ようこそ! Monsters Evolve Onlineへ!」


 そんな言葉と共に球体が突然二つに割れ、その中から紙テープや紙吹雪、そして垂れ幕のような物が出てくる。これ、くす玉か?

 垂れ幕には『祝! サービス開始!』と大きく書かれている。


「運営、なんか遊んでる?」

「あの人達、悪ノリ好きだからね〜」


 その言葉と共に垂れ幕が自力で起き上がってきた……。おい、さっき喋ってたのはこの垂れ幕なのか……? なんで垂れ幕……?


「あぁ、この姿? プレイヤーとの差別化の為さ~! 道具にはなれないからね!」

「あーなるほど。かといって人型っていうのも趣旨に反するって事?」

「お、理解が早くていいね、君! さて、僕の自己紹介をしておくね〜? 僕は管理AIの『いったん』だよ〜。 ネーミングセンスないよね、ここの運営!」

「いや、知らんがな……」


 すっげぇ馴れ馴れしいな、おい。これはあれか? オフライン版の管理AIが淡々とし過ぎてて味気なさすぎるって苦情があったからか? というか『いったん』って、もしかしてこの喋る垂れ幕は一反木綿なのか?


「さてさて、キャラメイクにいこう〜! 君はオフライン版はやった事ある〜?」

「あぁ、あるよ」

「そっか、プレイしてくれてありがとね〜! んじゃオフライン版とオンライン版でのキャラメイクの違いを説明しようかな?」

「そんなに違うのか?」

「そりゃね〜。キャラ枠は初期で一枠で、クエスト進めることで三枠まで増えるよ〜」

「あ、キャラ枠に制限があるんだ。まぁオンラインだし、無制限って訳にもいかないか」

「そうそう。オンラインだからこその制約だね。あと初期のキャラはランダムで決まるよー。二枠目からは条件付きの自由枠になるけど、そこら辺は了承してね〜」

「げっ、初期キャラ選べないのか!?」

「ごめんね〜。ゲームの性質上、オンラインだと種族が偏っちゃうとすぐ終わっちゃいかねないんだよね〜」

「……確かにそりゃそうだ」


 オフライン版は選ぶモンスターによって別ゲームに変わるほどである。楽勝で人類化までいける種族もあれば、非常に難易度の高い種族もある。オンラインならば楽勝な種族を選ぶ人ばかりになればすぐに人類種へと到達できてしまうだろう。それを避ける処置と言うことなのだろう。だがそれだけでは不満もあるだろうという事でキャラ枠は三枠用意されたという事か。


「あと〜今回はプレイヤーの勢力が三つ用意されてるから、キャラメイク終わったら好きなとこに所属してね〜。オフライン版と違ってどの種族が人類種に到達するかじゃなくて、どの勢力が一番先に人類種に到達するかが目的だからね〜」

「種族別じゃなくて、勢力別の競い合いって事か。結構、仕様変わってるな」

「他にも色々変わってるけど、それは自分で見つけていってね〜。じゃあ、キャラメイク始めようか〜」


 その言葉と共に、既に高速で回転中のルーレットが現れた。カジノとかのルーレットではなく、こう大きな丸い板を回すだけみたいなヤツ。え、ランダムでってこう決めるの? 一覧すら見せてくれないの?


「好きなタイミングでストップって言ってね〜」

「ちょい待ち、少しくらい何があるかくらい見せてもらえないのか?」

「それはダメ〜。色々と有用な情報が多いから、見せられないことになってます〜。ルーレット止まっても当たったとこ以外は黒塗りだからね〜」

「なら、なんでルーレットにした!?」

「そんな事、僕に言われてもな〜。苦情ならこっちに宜しく〜!」

「……おいおい」


 そう言っていったんは運営のサポート用アドレスを伝えてきた。おい、管理AIがこんなのでいいのか!? 


「早くストップって言ってくれないかな〜。手動で回してるから地味に疲れるんだよ〜」

「色々とツッコミたいけど、いいや。それじゃストップ」

「はい、ストップね〜。さて何になったかな〜? お〜これはまた……」

「おい、早く見せろよ。何になったんだ?」


 止まったルーレットをすぐに隠されてしまい、内容がわからない。この演出、苦情入れてやろうか……


「君の初期種族は『コケ』になったよ〜」

「はい!?」


 オフライン版では存在しなかったその種族を聞き、思わず呆然とする。植物系のモンスターは確かにあったが、コケって……? あのコケですか……?

 ヤバい、いきなり攻略方法が分からなくなった……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る