9
「ここで一晩を明かす。いい?」
廃墟の駐車場にクルマを止めたところで、ナナさんはそう宣言した。
みなとワンダーランド。かつて存在した遊園地。その駐車場は、たかだか二年の月日で恐ろしく変貌していた。昼間に見たときもひどかったけど、夜はもっとだった。街灯もなければ、誘導灯も何もない。四方は林で囲われているし、打ち捨てられた正門ゲートは、まるで幽霊屋敷みたく月明かりに照らされている。
「いいですけど。でも、さっきみたいに襲われたりしないですかね……?」
「可能性はある。だから、わたしが見張りに出るわ。安心して」
ナナさんはそう言うと、クルマから降りて、後部座席のドアを開けた。フルフラットになった座席にはいくつも荷物が載せられている。
彼女はそのうちから長方形をしたハードケース――まるでギターケースみたいだ――を取り上げ、それから大きめのボストンバッグを床下収納に押し込めた。
「これで寝れるでしょ? あ、非常用の道具がダッシュボードに全部入ってるから。使ってね。手回し発電のライトとラジオ、それからサバイバルナイフと、非常食の缶詰が何個か」
「わかりました。でも、ナナさんは大丈夫なんですか? こんな真冬に、外で見張りってことですよね……?」
「ナギサ君はやさしいわね。でも、人の心配をする前に自分の心配をすること。あなたはオトリなんだから、ね? だからわたしのことはいいから、今は休んだほうがいいよ。疲れてるでしょ?」
それはたしかだ。
実際、さっきも僕はいつの間にか気を失っていた。もし襲撃者がわざわざ窓をノックするような礼儀を持っていなかったら、僕は一瞬のうちに腕を縛られるか、足を縛られるか、あるいは首を絞められるかして生け捕りにされていただろう。
「それにさ、あいつら言ってたでしょ?」ナナさんが荷物をまとめながら言った。「半グレ集団にも声をかけてたって」
「半グレって?」
「危険な連中。うーん、なんて言ったらいいかな。ヤクザとチンピラを足して二で割ったみたいな連中……ってところかな。要するにね、さっきみたいなチンピラ連中のなかでも抜きんでてヤバい連中を、ヤクザが飼い慣らしてるのよ。ヤクザ連中も暴対法とかで大変でさ。それをすり抜けるための、いわばヤクザの少年兵ってとこなんだけど……言ってる意味、わかる?」
「とにかくヤバい連中ってことですよね?」
「まあ、そういうことだね。だから、危険がこないように見張っておくけど。どうしてもヤバかったら、連絡する。それで何があってもクルマから出ないこと。身をかがめて隠れてること。いい?」
「わかりました。身をかがめて、隠れてます」
「オッケー。それじゃ、ゆっくり休めよ少年」
ナナさんはそう言うと、僕の頭を思い切り撫でた。グリグリとねじ回すみたいに。そして最後には、まるでやっつけみたく上着のポケットに手を突っ込んで、なにやら黒いものを取り出した。
「渡しとくわ。連絡用の無線機。周波数は合わせてある。横のボタンを押すとしゃべれるけど、基本的にそれはしなくていい。とにかく電源だけつけて寝てて。万が一何かあったら連絡するから。それじゃ、お休み」
最後にもう一回、僕の頭を撫でて、ナナさんは無線機を手渡す。
そうして彼女はギターケースみたいなカバンを手に、クルマをあとにした。キーをかけて、僕を車内に閉じこめて。
ナナさんが出ていくと、車内はすっかり静かになった。エンジンの音も、何も聞こえない。外からは風の音が聞こえるだけ。あとは僕が寝袋のなかで動くときの衣擦れの音ぐらいだった。
体を横にすると、自然にまぶたは閉じていった。道の駅で寝ようとしたときと同じ。全身から力が抜けていって、自分の意志に反して思考が途絶えていく。次から次に思ってもみない想像をして、気づけば僕は――
†
クラスメートの誰かがつぶやく。教室のはしっこで本を読んでる僕にも聞こえるように、大きくも小さくもない声で。
「昨日のニュース見たかよ。やっぱり俺の言った通りだったじゃん。畔上のやつ、あいつ事件に巻き込まれて口封じに殺されてさ――」
教室のどこかで、おどけた様子の男子が言った。
だけど、誰もそれに応じない。
教室は、死んだような静けさに満たされている。誰もその状況で言葉を発しようなんて思わない。空気を読んでか、あるいは自分が恥知らずな誰かになりたくなくてか。
だからその恥知らずな男子一人を最後に、誰も口を開かなかった。ただ教室じゅうに「やっぱりあの子は殺されたんだ」という事実が共有されただけ。そしてこの事実は、瞬く間に学校じゅうに伝播していくだろう。口から口へ、人から人へ。
やがてマヤを知らない人ですら、その死を嘆きはじめる。マヤのことなんて何も知らないのに。マヤがどんな子で、何に苦しんでいて、どうして音楽に興味を持って、どうして人と接するのが苦手で、どうして数式と楽譜ばかり見ていて、どうしていつもハグレモノにされてきたのか……。
そんなこと何も知らないし、興味もなかったくせに。とつぜん我が物顔をしてマヤを悲劇のヒロインに仕立て上げるんだろう。そして身勝手な正義感に怒りの火を燃やすんだろう。
そう考えると、僕は憎らしくてたまらなくなってきた。
だから僕は、席から立ち上がった。
静寂のなか。壁掛け時計の秒針が刻む六〇BPMだけが響く空間に、僕はイスを『ガラガラッ!』と引きずる音を付け加えた。
一瞬、みんなが僕を見た。どうしたんだこいつ? みたいな目つきで。そういえばこいつ畔上のカレシじゃなかった? みたいな目つきで。
僕はその目をすべて無視して、教室を出た。
同じタイミングで担任の佐藤先生が入ってきたけど、僕はそれも無視した。
「おい、三上! おまえこれから全校集会だぞ? どこ行くんだ?」
「トイレです」
僕はいちおうそうつぶやいたけれど、でも小声だったから先生には聞こえなかっただろう。聞かせるつもりもなかったけど。
廊下に続く引き戸を開けて、教室を出る。だけど僕の目に飛び込んできたのは、見慣れた廊下ではなかった。
僕ら三年四組の教室は、三年生のなかでは一番はじっこだ。三階の一番北側。ちょうど東校舎に続く渡り廊下のすぐそばになっている。
だけどこのとき僕が見たのは、雑木林だった。それも人が手入れしたような木立じゃなくて、野放図にあちこちへ枝葉が飛び出した、手つかず自然だ。まるでそいつは、その緑色の大口で僕を飲み込もうとしているみたいだった。
「なんで、こんな雑木林に――」
疑いを持ったけれど、でもすぐに僕は林の中に入っていった。理由は一つだ。マヤを探すため。彼女は死んでなんかいない。
木々をかき分けて、僕は道を探す。でも、現れるのは暗闇ばかり。しばらくのあいだ歩き続けたけど、何も出てこない。
そうして諦めかけたころ。ようやく光が見え始めた。文字通りの光だ。木立の合間から差し込む一条の輝き。僕はそれを見つけると、急ぎ足で駆け寄った。木々をなぎ倒し、光に向かって走った。
だけどたどり着いたとき、僕は『行かなければよかった』としか思えなかった。
木立の向こう。光が射し込む先にあったのは、希望でもなんでもなかった。
そこにあったのは、渇ききった噴水。花瓶のようなオブジェだけが残された、不自然な溜め池。そしてその周囲に投げ捨てられた二つの遺体。
一人は、男だった。水を吸ってブクブクになっていたけれど、スーツ姿ということだけはわかる。
そしてもう一人は、セーラー服にオレンジ色のダッフルコートを着た少女で。それは……
――マヤだ。
――マヤが、死んでる。
――嘘だ。
――嘘だ。
――嘘だ。
でも、現実は『嘘じゃない』とかたる。
死体の横に一人の女が立っていた。首もとにキツネの毛皮を巻き付けて、香水の匂いを振り乱す女性が。栗色の髪をふわりと浮かび上がらせて、女は僕を見つめた。大きなヒョウ柄のサングラス越しに。その瞳は、僕をあざ笑っていた。
「あらあら、見ちゃったんだ」と言わんばかりに。
「それじゃあキミも殺さないと」と言わんばかりに。
そして女は、コートのポケットに手を入れて、何かを――
†
女が銃を取り出そうとした。
その瞬間に僕は目が覚めた。そしてこれが現実ではなく、夢だったと気づいた。たちのわるい悪夢だったのだと。
僕は重い頭をもたげ、髪をかこうとしたけれど。でも、両腕は寝袋の中。そして窓の外を見れば、牡丹雪がボトボトと落ちていくのが見えた。
この季節になるといつも不思議に思う。こうして雪が降り積もるときほど外はしんとしているのだ。本当に、まるで何も起きてないみたいに。そうして雪は突然あらわれて、僕らが知っていた道や街並みを真っ白く消し去ってしまう。
そしていまこのときも、車内は静まりかえっていた。聞こえるのは、僕が発する衣擦れの音と呼吸音だけ。それ以外は何もない。ナナさんの気配もまったくなかった。
――今何時だろう。ナナさんはまだ外なのか……?
外はまだ暗く、陽が射し込んでくる様子もない。分厚い雲と雑木林とがあらゆる光の侵入を禁じている。
――寝よう。いまは寝ないと。それで、しっかり休んでマヤを捜さないと。
そう思って、僕はまぶたを閉じようとした。
そのときだった。
ジムニーのドアが大きな音を立てて開いた。前方、運転席側のドアだ。カギが外れた音に、それから何かモノをあさる音もする。敵? いや、違う。きっとナナさんだ。だって、ナナさんは僕を守ると言ってたし……。
目を開いて確かめてもよかった。だけど、僕はなぜかそんな気になれなくて。目をつぶって、寝たふりをしなきゃと思って。僕は寝息のように息をし、眠ったように瞳を閉じた。でも意識は覚醒しかけていた。耳は、鼻は、そして肌は、その感覚を尖らせている。
吐息まじりに鼻から息を吸い込む。においに集中すると、それが寝袋と同じにおいだとわかった。甘く刺激的な、アルコールみたいなにおい。ナナさんのにおいだった。
「よいしょっと。この雪なら襲撃は難しいけど……。でも、あの女ならやりかねないかな。備えあればなんとやらっと!」
ナナさんはつぶやき、モノをあさっている。それからしばらくして、運転席のドアを閉めた。どうやらお目当てのモノは見つけたらしい。
だけど、ナナさんはそれで戻らなかった。
彼女は、次に後部座席のドアを開けた。そこにいるのは言うまでもなく僕だった。開くとすぐに冷気が僕の顔を包んだ。それからナナさんのにおいがもっとはっきり感じられた。そしてこんな暗闇だというのに、まぶた越しにも光が射すのが感じられた。きっと雪が光を反射したのだと思う。
「……寝てるよね。うん、そうね」
ナナさんは、まるで確かめるみたいにつぶやいた。そして、彼女は僕のほうにぐっと体を押し寄せてきた。ちょうど彼女の陰になったし、においや衣擦れの音でもそれがわかった。
すぐにナナさんは、僕の横に寝そべるみたいな形になった。たぶん上半身だけだと思うけど、その髪のにおいだとか、体温だとかが目の前に感じられた。目に見えないけど、確かにそこに彼女がいるんだとわかった。視覚がないぶん妙にドキドキした。
「ごめんね、こんなことに巻き込んで。本当はキミも、マヤさんも関係ないことなのに。これは、わたしが果たすべき仕事だったのに。本当なら、あそこでわたしが標的もろともあの女を殺してたらすべて済んでたのに……」
――殺してたら?
そのフレーズが、半覚醒の脳でリフレインする。だけど処理しきれずに、夢の片隅へと追いやられてしまう。
「本当にごめんね。でも、わたしの復讐のために、子供たちを同じ道に引きずりこむなんて。そんなことしたくないから。キミをわたしと同じ道になんて行かせたくないから。だから、約束してね。マヤさんになにがあっても、どんな結末が待っていたとしても、ぜったいにわたしと同じ道はたどらないって。マヤさんの
それから僕は、頬になにか冷たいモノを感じた。それから耳に温かいモノも。それは冷え切ったナナさんの頬であり、そして彼女の吐息だった。
「ごめん、仕事に戻るわ。いまは休んでね」
すり寄せた頬を離し、ナナさんは僕を抱き留めていた腕もふりほどいた。そして後部座席のドアを閉めて、またどこかに行ってしまった。
ナナさんが出て行ってしばらく。僕は目を再び開けた。そしてハッキリした意識のなかで、自らに問うた。
――コロシってなんだ?
刑事がそんなカンタンに人を殺すなんて、そんなの映画だけじゃないのか?
――復讐ってなんだ? 呪いってなんだ?
同じ道をたどらせたくないって、ナナさんの追ってる事件って、本当はなんなんだ?
「ナナさんは、いったい何者なんだ……?」
気づけば僕は、クルマの天井に向かってそうつぶやいていた。
*
僕がふだん目を覚ますとき。それはアラームが鳴ったときで、母が怒鳴り上げるときではない。誰かに呼ばれて起きるなんてこと、僕の人生にはほとんどなかった。あるとすれば、居眠りを注意する先生ぐらいなもので。優しく体を揺すられるなんて経験は、僕にはない。
〈起きて。目を覚まして〉
だからその声に僕は驚いた。
耳元からするのは、若い女性の声。何度も僕に「起きて」とささやいている。
僕はしばらく目覚めと二度寝の狭間にいた。だけど、あるときその声が誰か気づいて、ハッとして、目が覚めた。
その声の主はナナさんで、そしてそれは耳元の無線機から聞こえていた。真っ黒い古ぼけたスピーカーから、ガラガラの声が響いている。
〈起きてナギサくん。でも、頭は伏せたまま。隠れてて。いいわね? これで三回目だけど……聞こえてるわよね?〉
僕は応答するみたいに、無線機のボタンを押した。何のボタンかはわからない。しゃべるボタンか、それとも周波数を変えるボタンなのか。でも、その直後にナナさんからの通信はなくなったから、大丈夫だったのだと思う。
――なにかが来たんだ。
僕はそう直感した。
イヤな予感がした。寝起きなのに妙に考えがハッキリする。
ナナさんは「伏せてて」と言ったけれど、僕は気になって仕方なかった。何が起きてるのか。あの殺し屋の女がきたのか。マヤを連れ去ったヤツがきたのか……? 耐えられなくなって、僕は寝袋から上半身を抜け出す。
そのときだった。
パン、パン、パパン。
と、乾いた破裂音が響いた。その音は早朝の山奥に吸い込まれて、消えていく。
もちろんそれは鳥除けの爆竹だとか、子供がかんしゃく玉で遊ぶ音でもなかった。
「……銃声だ」
パン、パパン、パパン、パン……。
なにかが弾けたような音。それが雪のなかに響いている。しかしその破裂音も、静まりかえった林の中に吸い込まれていくみたいだった。どこまでも響いていくことなく、すぐに消え去ってしまう。
僕はその音だけに耳を澄ませて、ぐっと身を屈めていた。空気は凍り付いたように冷たく、クルマのなかでさえ冷え切っている。寝袋から出した顔が痛い。頬が真っ赤になっているのが、見なくてもわかった。
銃声は続く。ポップコーンが弾けるみたいに、時折の休符を交えながら。
――ナナさん、大丈夫かな……?
僕がそう思って、ついに我慢しきれなくなったころだ。僕には、もう三〇分くらいこの銃撃戦が続いているように思えたけれど。でも、すべてはあっという間の出来事で、そして――
ガンッ! と、大きな音がクルマに響いた。銃声ではない。何かがぶつかった音だ。
僕は条件反射的に顔を背けた。でも、もうすべて手遅れだった。
再び音が響く。クルマが揺れて、それからガラスが割れたみたいな音がした。僕も初めて知ったけれど、クルマの窓が割れるときの音って、ただ一発「ガシャーン!」じゃなくて。そのあとにガシャガシャと砕けたガラスの落ちていく音もするようだ。
割れたガラス。それから、何かをあさる衣擦れの音もした。人の気配を感じる。でも、どう考えたってナナさんじゃない。
「早くしろ。あの女が戻ってくるかもしれない」
男だった。一人の男がブツブツとつぶやいている。
「わかってるさ」
ともう一人の男が答える。
「でも、さすがに死んでるだろ? おまえだって見ただろ、あの殺し屋の女。あいつに狙われて、生きてるはずがねえ。……っと、ドア開けるぞ」
カタン、とキーロックが外れる。運転席から、すべてのドアのロックが外れていく。そして後部座席のドアが勢いよく開け放たれた。
フルフラットになった後部座席では、もはや僕に隠れる場所はなかった。寝袋のなかで死んだフリをしようとも思ったけど、そんなの通じるはずがなかった。
「ガキが、手間かけさせやがって」
男が二人。僕は目を見開き、その姿を見た。もう逃げられないと思ったからだ。恐怖に正気をむしばまれて、僕にはただ呆然とその場にたたずむことしかできなくなっていた。
心臓の鼓動が早くなる。いままで経験したことがないくらいに。四つ打ちのクラブミュージックみたいに、尋常じゃないほどに。
男の手にはハンマーと、銃が握られていた。リボルバー拳銃が僕に銃口を突きつけている。逆らったら死ぬぞという無言のメッセージとともに。
「一緒に来てもらうぞ、ガキ。テメエの首には一〇〇万がかかってるんだ。いいな?」
そう言う男の手には、赤い液体がポツポツと着いていた。ベットリととまではいかないけれど、反転模様のように。それは明らかに血だった。誰の血なのか? 僕には最悪のビジョンが浮かんだ。
「はやくそこから出ろ。よけいなマネしたらブチ殺す。いいな?」
――もう、僕を守ってくれる人はいないのか……?
――ナナさんは、もういないのか……?
――あの銃声は、ナナさんを殺した銃声だったというのか?
恐怖に震える手で、僕は寝袋を這い出た。抵抗しようなんて考えはなかったし、それに僕には何もできないってわかっていた。
二人の男は、僕をクルマから連れ出すや、僕の両手を縛り付けた。結束バンドでキツく、かたく。手首に赤くみみず腫れができてしまいそうなほどに。
クルマから引きずり出された僕は、そこであの女と再会した。およそ半日ぶりぐらいに。
「おはよう。元気だったかしら、三上ナギサ君?」
藤ケイコ。
彼女の着衣はこのあいだと大きく変わっていた。首筋に巻かれたキツネの毛皮はそのままだったけれど。いま彼女は革のコートに黒のスーツという格好だった。ミリタリーなナナさんとは真逆な感じだった。そして相変わらず彼女からは、デパートの一階みたいな香水のにおいがしていた。
「あのとき大人しく私に従っていればよかったのに。まったくあのときのモッズコートの金髪があの女だったなんて、思いもしなかったわ。変装がうまいというか、私も見る目も落ちたものね」
言って、彼女はコートのポケットから何かを取り出した。
銃だった。拳銃だ。黒光りするハンドガン。彼女はその銃口で僕の顎のラインをなぞった。トリガーにかけられた指は、今にもそれを引ききってしまいそうだった。
「まあいいわ。これからじっくり聞き出してあげるから。お姉さんとたっぷり楽しみましょうね?」
銃口が顎をそれて、胸元を滑り落ちる。そしてその銃口はゆっくりと地面へ戻っていく。
だが、次の瞬間だった。
藤ケイコは、目にも止まらぬ早さで銃を構え直すと、それをあの男たちに向けたのだ。そして彼らが状況を掴み切れていない間に撃った。
一瞬の出来事だった。バン、バンと二発乾いた銃声が響いて。そして男たちの頭に銃弾は吸い込まれて、彼らはあっけなく倒れた。何の前触れもなく、突然に死んでいったのだ。
「さて。これで邪魔者も消えたし。二人きり楽しみましょう。ね、三上ナギサくん?」
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