サイアクノムラサキ
第13話侵入者と乱入者
結局、1日目の夜、繰り広げられた戦闘は銅駝と死流山の物だけであった。
銅駝の死流山への不意打ちで始まった今回の戦いに、どこか巻き込まれるような形で梟選抜戦闘の開始となってしまった他の忍は、その動乱に便乗することよりも、各々自分のペースを取り戻し、万全の状態で敵との戦いに臨む事に決めたのだろう……、と言うのが、倒壊した小屋に残された佐久間の見解であった。
先の佐久間の話をはったりだと捉えた忍も何人かいるだろうが、この山々が監視されている事、そして彼等が飲み込んだ毒の効能については全て事実であった。
「しかしまぁ……、最初の山は越えたと言うところですかね……」
佐久間のしうる予想の中では、忍達が抵抗し、さらに悲惨な結末があの時点で訪れると言う可能性もあった。
梟選抜どころではない。それが始まる前に忍全員が、それどころか佐久間すら絶命する可能性もあった。
こうして忍全員が毒を飲み込み、バラバラに散っていった……。これだけで、佐久間の仕事はほとんど終わったと言ってもいい。
銅駝を叩き伏せた死流山も風に溶け込む様にして既に姿を消した。
(しかし……、これだけの手練れが同時に規則も無く戦う……。本当に、私達が望むような結末になるのか……)
佐久間の胸中には、ずっと言い様のない不安があった。
それが具体的に何なのかは、佐久間にもわからない。
この戦いが全て終わった時、少しでもその「もや」が晴れる事を、佐久間は祈った。
夜が開けた時、この暗闇の中、1度も戦闘の無かった事で最も利益を得たのは自分だと、蜘蛛井は断言することが出来た。
蜘蛛井は鬼山に発砲した後、死流山と銅駝の隙をつき、小屋から脱出した。
そしてそのまま南方向にあった山に移動、その全域に「糸」を張った。
それは蜘蛛の糸だ。この糸が張り巡らされた
蜘蛛井の実力であれば全ての山に糸を張り巡らす事も可能ではあったが、しかしそれでは糸の密度が十分に足りなくなると、蜘蛛井は考えた。
なぜなら、この山にいるのは町人でも、忍に関してはほとんど素人同然の侍ではない。
この日本でも有数の、プロフェッショナルの忍達だ。
浅く広くよりは、狭く深く。
それが、蜘蛛井のやり方だった。
今ならば、この南の山に入ってきたものなら鼠でも感知する事が出来るだろう。
糸の動き、緩み、触れたものの重さを感知し、まるで高性能レーダーの様にありとあらゆるものを探知する。
それが蜘蛛井の忍術、「掌握の糸」。
その張り巡らされた糸が、反応した。
南の山、蜘蛛井がこの山に入った場所とほとんど同じ、おそらく小屋から続く道を通って来たのだろう。
(この身長……、体型……、感触……)
「追死の是清……か。また厄介な……」
座頭是清。
全身に包帯を巻き付けた、半分死人の様な不気味な雰囲気をまとった忍だ。
足取りはゆっくりとしたもので、蜘蛛井の勝手な推測だがこの山に入ったのに明確な理由は無いのだろう。
うろうろと彷徨きながら、時々立ち止まって虫を見たりしている。
蜘蛛井の「掌握の糸」は人間に触れたことを気付かせないほどの超極細の糸だ。
もちろん、目には見えない。光もあまり反射しないので、肉眼でどこにあるのかを判別するのはほぼ不可能だ。
つまり、この糸を操る事が出来るのは蜘蛛井一のみーー。
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