第12話銅駝宇随の天地無用 その6
死流山は、振り下ろした灰塵丸を鞘に収め、天を仰いだ。
天井は崩れ、辺りには土煙が舞っている。
そんな瓦礫と土煙の最中に、その死体があった。
銅駝宇随の死体だ。
右肩から斜めに左腰までをバッサリと斬られ、おそらくもう意識は無いだろう。
彼の体を中心にして先程まで血の海が広がり続けていたが、今はそれも止まっている。
「…………」
結果だけ見れば、死流山の体には傷と言う傷は付いていない。
死流山の圧勝と言っていいだろう。
しかし、死流山も少しでも油断いれば、今床に倒れていたのは自分の方だったと断言出来る。
「……頭を、狙ったはずだったのだが……」
死流山は、自分が見た光景をにわかに信じる事が出来なかった。
銅駝の攻撃に合わせ、死流山が灰塵丸を振り下ろしたタイミングは完璧な物だったと自負している。それほどのものだった。
しかし、それを銅駝はかわした。
かわすことが出来るはずだった。刀を振り下ろした相手が死流山でなければ。
死流山の灰塵丸が銅駝の頭に叩き込まれるその刹那。
銅駝は何もない「空間」を蹴った。
死流山は銅駝の攻撃をかわしながら、可能な限り銅駝の足場となる物体を少なくなるように立ち回っていた。
それゆえ銅駝が死流山に突撃した瞬間、銅駝の周りには銅駝の回避に必要な足場となる物は無かった。
死流山は自分の攻撃が当たるのを確信した。
(……「無地流」……。極めれば、もはや物体だけではなく、「無」すら足場とするか……)
銅駝も一流の忍、数秒前とはいえ、銅駝の灰塵丸をかわすその速度は十分に死流山の一撃をかわしきれるものだった。
しかし死流山は、その想定外の事態にすら、即座に対応した。
もはや勢いを止めることの出来ない灰塵丸を、強引に力業で少し右側に軌道を変えた。
それが、決まり手となった。
「……油断は出来ない……か」
死流山にとって、久しぶりに味わう感覚だった。
死流山の相対した者は、それだけで戦意を喪失し、命乞いを始めるようになっていた。
ここにいる者は、そんな考えは脳の片隅にも入れていないだろう。
生き残る最善の選択肢がどういう事か、全員がわかっている。
「……行くか……」
日本一、日本最強の忍として、一撃の元に全てを叩き伏せる。
死流山は自分にいつの間にか付けられていた肩書きを、始めて意識した。
目の前が、真っ暗になった。
自分が死んだことを、直感した。
あぁ、すまない。
すまない。
あんな中途半端な所で。
投げ出すようになってしまって。
俺には、変えられなかった。
死の連載を。
忍の誇りが錆び付いていくのを。
どうかお前たちは、逃れてくれ。
外れてくれ。
この、負の連載から。
……本当に、すまない。
もうこの体では、涙も、頭を下げることも、出来ない。
「梟」選抜戦闘。第一戦。
死流山王土対銅駝宇随。
勝者ーー死流山王土。
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