第14話侵入者と乱入者 その2

彼の「掌握の糸」の領域に入った者はなすすべ無く一方的に制圧されるーー。

それほどの能力を秘める忍術を持ちながら、蜘蛛井の額には冷や汗がつつ、とつたっていた。

それはなぜか。

その理由は、至極簡単な物である。

蜘蛛井一は、すこぶる「運」が悪かった。

超広範囲の探査能力と、優れた銃の腕を持ちながら、しかしそれを帳消しにしてしまうほど、彼は運が悪かった。

鬼山に放った、3発の銃弾。

相手が攻撃のモーションに入った瞬間、つまり防御面ではまったく無防備になっている状態の時に撃ち放った銃弾でさえ、全てかわされている。

(今から移動……、すれば不意打ちで確実に1発は入れる事が出来る……。――っうのが普通の忍なんよねぇ……)

ため息をつきながら、蜘蛛井は考える。

彼の運の無さを1番に知っているのは、他でもない彼自身、蜘蛛井だ。

言ってしまえば、蜘蛛井は鬼山に放った銃弾が全て外れる事も予想していた。

(まぁあれは鬼山の攻撃を止めるためだったからあれで良いんだけど……)

(しかし殺しとなると話が別なのよねぇ……)

蜘蛛井は掌握の糸から伝えられる振動を受けながら、静かに移動を始めた。

(俺の「五老砲」の射程ギリギリを保ちつつ……)

彼の移動は地面を走ると言う事はしない。

張り巡らされた糸の上を跳ねる様に動き、音もなく移動する。

その姿は、まるで巣にかかった獲物ににじり寄る蜘蛛のようであった。



座頭是清については、そのほとんどの情報が不明である。

彼は彼を生んだ里の中ですら異端とされ、忌み嫌われていた存在であった。

何を考えているかわからない、虚ろな目。

全身に巻かれた包帯には、常に死臭と、赤黒い染みがこびりついていた。

彼が里内から嫌悪される理由――それはひとえに、殺しすぎると言うことにあるだろう。

彼の任務に関わった者は、全て死ぬ。

標的を守る者、その肉親、偶然その場に居合わせた一般人、そして同行していた仲間でさえ。

彼は狂った様に、殺して行くのだ。

その姿は、何かを追い求めているようにも見え、何かを棄てようとしている様にも見える。

しかし彼が何を求め、何を棄てようとしているのかは、誰にもわからない。

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