第9話銅駝宇随の天地無用その3

「……っ」

銅駝は改めて、周囲を警戒する。

佐久間は動かない、推測だが、散らばった忍達の監視は仕事に入っていないのだろう。

蜘蛛井、羅世蘭、黄泉原はどちらかと言えば小屋からの退避を狙っている動きだ。小屋が完全に崩れれば、それに乗じてこの場から離れるだろう。

「……はは、そうかそうか……」

そう言うと、鬼山はくるりと銅駝達に背中を向け、笑いながら小屋から出ていく。

その背中は無防備そのものだったが、狙うものはいない。

「ふふ……、楽しみは、残して……、ふふ……、まずは……あの子供を……」

ゆらゆらとだらりと垂らした両腕を揺らしながら、不気味に呟くのは座頭だ。

彼(彼女?)も彼で考えがあるのか、不気味な気配をまとっている物の、銅駝達に手を出そうとはしない。

あまりにも、不自然――。

銅駝と死流山、その決戦の場が、この様な互いが互い、全員が命を狙いあう状況で、異様な程美しく、丁寧に用意された。

まるで、他の忍が観客の様に、銅駝と死流山の決着を見逃さまいとしている。

(ここでけりを付けろ……、と言うことか……)

何かのシナリオ通りに動かされている様な気もしたが、そのような懸念を振り切り。

銅駝の百鬼夜行が、影を落とす。

忍装束の下、そこにあるのは、まるで鎖かたびらの様にも見える、大量に取り付けられた短刀。

その数、百鬼と言えど、それをはるかに凌ぐ。

「しっ!!」

銅駝はその内の1つを死流山に再び投擲する。

真っ直ぐ、コントロールを重視したそれは、死流山の首に吸い込まれる様な軌道を描く。

しかし、あまりに正確。

死流山は首を少し動かす事でそれを紙一重で、しかし余裕を見せながらかわす。

かわされた短刀は空を切り、そのまま床に落ちていた短刀の1つにぶつかり、跳ね上がる。

そしてその跳ねた短刀に。

天井から落ちてきた短刀が弾かれ、くるくると回りながら死流山に向かう。

死流山はそれも体重を後ろに移動することで難なくかわす。

だがまだ……。

「終わりではない……」

小屋は既にかなり崩れ始めている。切り落とされた小屋の上部は既に原型をほとんどとどめていない。

完全に崩れ落ちれば確実に煙幕のような土煙がまう。それを利用して小屋から脱出しようという算段なのだが……。

羅世蘭は、銅駝と死流山の戦いから目を離せずにいた。

(やはり死流山は別格……。しかし、銅駝宇随もやはり化物……)

否、素人がこの光景を見れば、おそらく銅駝の動きに確実に目を奪われるだろう。

死流山の動きはは銅駝のフェイントを含んだ攻撃を必要最小限の体捌きでかわしている。

その動きは非常にゆったりとしたもので、言ってしまえば地味なものだった。

それに比べて銅駝の動きはーー。

まるで人知を越えた曲芸だ。

その忍術、「無地流」を最大限に扱い、ありとあらゆる物を「掴み」、壁、崩れ落ちる天井、そして短刀の柄をも足場として、三次元的移動を可能としている。

そしてその動きは、異常な程速い。

気を抜けば、羅世蘭の目に写るのは銅駝の残像であった。




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