第8話銅駝宇随の天地無用 その2

投擲された10の百鬼夜行は、蜘蛛井の銃弾のそれとは違い、全て別々の軌跡を描き、死流山に向かう。

死流山の急所からは全く逸れた物もあったが、しかしそれが逆に、銅駝の百鬼夜行をかわしにくい物にしていた。

(……最高も何もない……、何時もどうり、ただ「人を殺すことの出来た」場所に今も刃を打ち込んだ……)

なのに、何故か。

この一撃……いや、十撃のどれか1つでも、死流山に命中する未来が、銅駝には全く見えなかった。

「……」

死流山の仮面とその銀の長髪の間から覗く両目が、銅駝の百鬼夜行をとらえる。

そして。

ギャリギャリギャギャギャィ!!!と、大量の金属の擦れる耳障りな音が、小屋の中に響き。

気付けば、投擲された百鬼夜行は地面に落ち、死流山は腕を組み、全く数秒前と同じ場所で。

足を止めた銅駝を見ていた。

(止めさせられた……)

銅駝の忍としての習慣、手の内を見せていない相手に不用意に突撃することはしない……。

不意打ちにしても、まずは投げから……。

それが、幸をそうしたのかもしれない。

あのまま突撃していれば、銅駝も地に落ちた百鬼夜行と同じ様に、胴体を横に両断され、地面に倒れていたかもしれない。

(あの一瞬……)

羅世蘭は銅駝が死流山に短刀を投げた瞬間、銅駝の豪胆さ、そして実行力に手を上げて称賛を贈りたいほどだった。

あの空間の中で、おそらく鬼山以外は、いかにこの小屋から脱出するかを考えていただろう。

しかし、銅駝は鬼山の攻撃、そして力量関係全てを使いこなし、見事に不意打ちをしてみせた。

だが……、それでも、その会心の攻撃が死流山に届くことは無かった。

死流山のとった行動はごく単純だった。

自分の横に立て掛けた大刀を抜き、そしてそれを横に薙ぐ事で全ての短刀を弾き返し、そして役目の終えた大刀を再び自分の横に置いた。

ただ、それだけ……。

ただそれだけの動作で、格の違いを突き付けられた。

(あまりにも速い……。あれだけの大きさの大刀、相当の重量があるはず……)

死流山はそれを、まるで木葉の如く振り回し、使いこなす。

「そしてまた……ここから退避する好機が……」

羅世蘭は小さく呟いた。

もちろんこれは、この小屋にいる者全てが気付いた事であるのだが……。

ずるり、と。

小屋が斜めにずれた。

見れば、小屋の四方、分厚い壁に一筋の切り込みが入っており、そこから小屋の上部分がずるりと崩れ始めていた。

「嘘……、いや、これぐらいは当然か……」

死流山の大刀は、死流山の身長の2倍以上はある代物だ。

この小さな空間では、思う存分触れたものではない。

その点も銅駝が死流山に見いだした勝筋の1つだったのだが……。

(こうも強引な力業でねじ伏せるか)

障害物など、関係ない。

目の前を邪魔するもの全てを食らいつくし、蹂躙し尽くす飢えた獣の様な大刀。

銅駝は噂で聞いていた死流山の得物の名の意味を、身をもって味わう事となった。

灰塵丸かいじんまる

その脅威を間近で見た銅駝は、自らの得物、「百鬼夜行」の真骨頂を出し惜しみしている場合では無いことを悟った。


これより数秒後、銅駝宇随対死流山王土――決着の時。



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