第50話



「そういえば、幼馴染ってことどうして隠してるの」

「……まあ、まずわざわざいうような機会がなかったというのが第一の理由、ですかね」

「まあ、確かにそうだよね。私、だれだれと付き合ってますーとか、だれだれと仲良いんですーなんて聞かれない限り言わないよね」


 うんうんと納得したように花がうなずく。

 ……今言った理由は本当に些細なものだ。

 本当の理由はもう一つにある。


「それと、中学一年生のとき、幼馴染だってことがわかって、湊に凄い嫌な顔されちゃったんです」


 私は自嘲気味に笑った。

 ……幼馴染だとばれた理由がまたくだらないのだ。私が毎日必ず湊に挨拶をするから。

 それで友達に聞かれて、私は湊と関係があるんだぞ、ということを周りに知っていてほしくて、自分から言ってしまったのだ。


「嫌な顔? どうしてなのかな?」

「……直接聞いたことはありませんが、そのあと私と仲良くしたいっていう男子が湊に声をかけていたんですよ。それが、湊にはたぶんストレスになっちゃったと思うんです」


 私が最大に嫌われた原因はそこだろうと思う。

 ……まあ、その前から湊は私から距離をとっていたので、もっと色々なところで嫌われてしまったのだろうけど。


「……なるほどぉ」


 湊は私と幼馴染であることがばれて、本当に嫌な顔をしていたことがあった。


 湊は人とかなり距離を置くようになった。つまり、今彼があまり誰かと関わろうとしないのは、私が原因でもあった。

 とても申し訳なく思っているので、高校ではだれにも明かすつもりはなかった。……本当は花と鈴にも言うつもりはなかった。……ただ、私が耐えきれずになって告白してしまったが。……だから嫌われちゃうんだろう。

 

 二人は何やら話している。鈴は近くの電柱に体を隠し、じっと観察している。

 耳に手をあてているが、さすがにそれじゃ聞こえないでしょ。

 私と花は苦笑しながら、彼の背中を見ていた。


「……夏希って、どうして湊のこと、好きなの?」

「優しくて、自分をしっかり持っている人だからです」


 即答していた。……さすがに、もうちょっと考えてから言うべきだった。

 恥ずかしくなって視線を外すと、花はくすくすと笑う。


「は、花はどうなんですか……? 色々と優しくしてもらったとは言っていましたけど……」

「……夏希と似ているかも。ぶっきらぼうでいて、優しいし、色々助けてくれるし。宿題とか忘れたとき、聞くと教えてくれるし……」

「そう……なんですね」


 そう語る花が可愛く見えてしまい、どうしてこんな子の告白を断ったのかと思ってしまう。

 ……や、やっぱり湊は実は異性ではなく同性が好きなのだろうか?


「クラスでは人気者の佐々木くんと、クラスではどちらかといえば地味目な湊くん……っ! 家に帰ると、湊くんが佐々木くんに対して強気に――」

「湊が家に佐々木くんを連れ込んだことは、少なくとも二年生になってからは一度もありませんよ」


 というか、妄想を口にしないでほしい。

 鈴がハァハァと友達としてもちょっとひくレベルの呼吸をしている。


「な、なら佐々木くんの家ね!? 休日や放課後にこっそりと会っている……けど、佐々木くんが我慢しきれず、声をかけてしまった! そんなところね……っ」


 そういわれると……本当にそんな気がしないでもなかった。

 例えば、ショッピングモールで会った時のことなどもそうだ。

 どうして朝から出かけていたのだろう、とか実はあの後、佐々木くんの家に遊びに行っていたとか……。


 色々と考えてしまっていると、花がとんと私の肩をたたいてきた。


「……家に帰ってから、聞いておいてくれないかな?」

「……わかり、ました」


 あまり、質問をするのは得意ではないのだけど、やるしかない。

 私も気になるし。


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