第49話
ホームルームが終わり、放課後になると教室はとたんに騒がしくなった。
あちこちで放課後何をして帰るのか、あるいは明日に向けての気持ちを吐露している生徒たちであふれ、そんな彼ら彼女らを横目に、私は鞄に荷物をしまっていく。
明日の英語で使う予習をしなくちゃなーとか、課題のプリントも急いで負わせないといけない。
今日は家に帰ってから忙しそうだ。夕食はもう考えているので、その点だけは問題はなかった。
「夏希ー、途中まで帰ろー」
花と鈴が私の席へとやってきた。花は人懐こい笑みを浮かべ、鈴はいつもの微笑を口元にたずさえている。
「はい。そうですね」
鞄を持って席を立ちあがったときだった。
司会の隅で、佐々木くんが動いた。
……クラスの男子でも目立つタイプの人だ。
私もその目立つグループ、に所属しているらしくわりとそれなりに関わることが多い。
非常に人気の男子生徒なので、関わりかた次第では私のほうに火の粉が飛ぶことになりかねない。
変な噂がたち、知らぬところで敵ができてほしくない私としてはかなり苦手な男子の一人でもあった。
そんな彼がまっすぐに歩いて行ったのは……湊のところだった。
「なあ、今日帰り一緒に帰らないか?」
「……は?」
え? と驚いてしまう。
先ほど佐々木くんに声をかけていたクラスメートも同じような表情だった。
驚いているのは私だけではない。花も鈴も、あるいはクラスメートたちも佐々木くんの行動に注目していた。
湊がじろっとした目を佐々木くんに向けると、彼はあろうことか湊と肩を組んだのだ。
「そんなに睨むなってよっ! まあいいじゃないか。ほら、一緒に帰らないか?」
「……まあ、いいが」
いいんかい! 私は口には決して出さなかったが、驚いていた。
……彼らに一体どこで接点があったのだろうか?
湊はクラスでは一人でいることが多く、だいたいいつもクールにかっこよく読書をしているか、次の授業の準備をしている。
たまに花が解けなかった問題について教えてもらおうとかけよっているのを見るたび、私は激しい嫉妬に包まれていた。……同時に、素直に気持ちを吐き出せる彼女を羨ましくも思っていた。
とにかく、どうして佐々木くんと湊が仲良くなっているのか。
「……夏希、湊と佐々木って仲良かったんだっけ?」
花が去っていた二人の背中を見送るようにして、訊ねていた。
ひそひそ話はクラス中であふれていた。
「どうして佐々木くんが?」、「あの男と仲良くすれば、佐々木くんとも仲良くなれるの?」。そんな下心満載の声がいくつか聞こえてきた。
みんなそれだけ佐々木くんと仲良くしたいようだ。
「私が知る限りでは……そんなことはなかったと思いますが」
「私もだよっ。湊っていつもクラスで一人でいたし……」
「はい……中学の時からだいたいそうですよ」
「あっ、幼馴染アピールしたなっ」
花がぶすっと頬を膨らませ、肘でつついてくる。
「しー、しー……幼馴染であることはみんなに隠しているんですから」
「え? そうなの?」
「……はい」
私が少し沈んだ顔をすると、花は気になったようでこちらを見てくる。
「二人とも、ミッションよ」
と、鈴が声をはさんできた。
私たちがおどろいてそちらを見ると、珍しく興奮気味の鈴がいた。
「あの二人を追うわよ! どうして仲が良いのか探るのよ!」
「え、ストーカー……?」
私の素直な感想に、鈴はしかしくわっと目を見開いた。
「違うわ! 二人の間にた、ただ、ただならぬ関係があったら、知っておきたいじゃない!」
「ただならぬ……? え、なにそれ?」
花が首をかしげると、鈴は鼻息荒く花の肩をつかんだ。
「もしかしたら、二人が実は付き合っているのかもしれないのよ……っ」
何言っているのこの人!?
「えぇ!? そ、そういう恋愛も……あるとは思うけど――」
言いかけた花がはっとしたようにこちらを見た。
「な、夏希! すぐに追いかけて確認しようっ」
「花も疑っているんですか!?」
「だ、だって……その――とにかく歩きながら話すよ!」
二人に引っ張られるままに、廊下へと出た。
あわただしく出てきた私たちに廊下にいた生徒の視線が集まる。……男子生徒たちの視線がとくに集まる。
ほとんどは鈴が風除けになってくれる。だって、男子生徒の多くはたゆんたゆんに揺れる鈴の胸に見とれてくれるから。風除けというか、胸除け?
……私も多少見られるものだから、嫌な気分はある。
鈴はそういう視線をほとんど気にしない様子でずんずん歩いていく。
鼻息荒い彼女に、変なスイッチが入ったのは間違いない。
……鈴はおそらく腐女子なのではないか、と私は予想している。そこまで私はオタク文化に詳しくないが、そういう単語があるのは聞いたことがあった。
「花、それで先ほどの話は?」
花と並んで歩くと、花は「うん……」と言ってから、
「……私が告白したとき、湊、言っていたんだ。好きな人がいる……好きな人は、どうしたって手が届かない。けど、この気持ちがある限り、他の誰かとは……付き合えないって」
そ、それってつまり……異性ではなく同性……っ!?
「だ、だったらどうしよう……っ」
だ、だったらどうしよう……っ!
私と花は同時に同じように焦っていた。
……とにかく今は、鈴が言う通り状況を確認しないとだ。
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