第51話

 

 小次郎がオタクという情報を入手し、いくらか彼とも仲良くなった俺はそのまま家へと帰宅していた。


 いやぁ、あいつ意外とオタクだったな。下手したら俺よりも詳しいかもしれない。

 帰り道、彼と話していたのは懐かしいとあるゲームの話だ。ちょうど、アニメがやっているのだが、もとはエロゲーの作品。

 なんと彼は十八禁の作品をもっているらしい。


 けしからんやつだ。俺は自分の押入れをみて、ダンボールを取り出す。

 ガムテープで口を閉じてあったソフトを取り出した。

 いやまあ、俺も持っているんだがな。

 なんと、この作品のいいところはメインヒロインの幼馴染が可愛いところだ。

 口調が

 というまあ、我ながらたいそう気持ち悪いことを考えていた俺は、他にもしまってあったさまざまな作品をみて、懐かしく思う。


 そんなことを考えていたときだった。

 部屋がノックされた。


 夏希!?

 あわてて俺は近くの布団を掴んで、ダンボールにかけた。それから扉を開ける。


「あの、少しいいですか?」

「あ、ああ」


 ひょこりと姿を見せた彼女に俺は困惑する。

 なぜか部屋に入ってきた彼女にますます俺は慌てる。

 ま、まずい……万が一見られでもしたら恥ずかしくて死ねる。

 見られるだけならまだいい。ゲームの中身ままで調べられ、だいたいが幼馴染がメインヒロインのゲームだと気づかれたら屋上から飛び降りるレベル。


「布団、どうしたんですか?」

「どうもしてない」

「……そうなんですか?」


 しまったぁぁぁ!

 彼女に強く言ってしまい、睨み返される。

 とはいは今の場面で他になんと答えればよかったのか。


 今の場面で諦めるしかない。


「佐々木くんと仲良かったんですね」

「まあ話す機会があってな。おまえも仲いいのか?」


 小次郎と付き合ってますとか言われたらどうしようか。

 小次郎のグループと夏希のグループはどちらもクラスのトップカーストに位置している、何かあると色々と話している。


「……私は別に」


 なにその反応!?

 付き合っているのを隠しての反応か!?

 それとも、意識はしているけど


 小次郎!!

 俺が内心で怒鳴っていると、


「では仲の良い友達、というだけなんですね?」

「あ、ああ」


 彼女は小さく息を吐いた。あ、あれため息? も、もしかして俺に小次郎との仲を取り持ってもらおうと思っていたのだろうか?

 や、やばい、マジで泣けてきた。


「すみませんでした。それでは」

「あ、ああ」


 そのときだった。彼女が部屋を立ち去ろうとしたとき、布団を踏みつけた。

 去ろうとして歩いたときだった。


「いた!?」


 布団に隠れていたダンボールに足をぶつけ、悲鳴をあげる。

 夏希がぶつけた足に手を伸ばそうと片足立ちになる。


 その瞬間、布団に足が滑ったのか、彼女は体勢を崩した。


「危ない!」


 急いで彼女を助けようと立ち上がる。俺は夏希の肩へと手を伸ばし、彼女の体を掴んだ。


「大丈夫か!?」

「え、え、は、はいぃぃ」


 夏希にしては珍しく情けない声をあげていた。


 ホッとしたのもつかの間だった。

 俺はじんわりと感じる彼女の熱。

 細くしなやかな肩。間近にあった顔はわずかに赤らんでいて、目の奥はきゅっと細くなっていた。

 呼吸をすると、彼女の胸がわずかに上下する。


 俺は今、夏希を抱きかかえていた。少し体を動かせば、唇が当たってしまうような距離で――。


 ……俺は滅茶苦茶ドキドキしていた。

 彼女にはもちろん……すぐ近くにあったダンボール箱にもだ。


 まずい。中身を見られたら自殺レベルだ。



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