第14話 私は思わず手を伸ばしてしまう
私はゆっくりと階段をおりていく。
気分は忍だ。音を立てたら殺される。そんな心境とともに階段を降りていく。
覗きと疑われないため、慎重に階段を下りた私は、それからすぐに洗面所へと向かう。
……あれ? まだシャワーの音がしない。私は慎重にそちらを見て、目を見開いた。
洗濯機あけてるゥ! おまけになぜか私の洗濯ネット見てるゥ!
あそこに入っているのは私の下着類なのである。
そこに気づいた私は、はっと少しだけ気分がよくなっていた。
……ま、まったく興味ないと思われていたけど、実はちょっとくらいは興味を持っていてくれた!?
本来であれば下着を勝手に見られて、憤慨するべきなのかもしれないけれど、私は仲が改善できるかもしれないとウキウキで近づく。
けど、表情には出さないよう、細心の注意を払って声をかけた。
「……何をしているのですか?」
私がそういうと、湊は驚いたようにこちらを見た。
そりゃあそうだろう。下着を見ているところを見られればそういう反応にはなるはず!
もしかしたら、私を意識してくれているのかもしれない!
ていうか、よく見たら上を脱いでるゥ! 意外と引き締まってるゥ!
色々な興奮でテンションが頂点へと達した、次の瞬間だったんだ。
「悪い、洗濯終わったみたいで……出そうとしていたんだ」
「……下着を?」
そこで、私ははっと気づいた。
そりゃあたまたま、洗濯機から取り出そうとして、まっさきに洗濯ネットを掴んでしまっただけかもしれない。
湊からすれば、どうでも良いものを見せつけられ、そしておまけに男性というだけで変な疑いをもたれるかもしれない。
そう考え、絶望していたのかもしれない。
私に一切の……ぐす……ま、まったく興味なくとも、男性が女性の下着を持っていたというだけで世間は厳しい目を向けるだろう。
そういう状況に、絶望していただけなのかもしれない。
私はなんと愚かだったのかしら。勝手に舞い上がって、彼との仲を深められるかもなんて思ってしまっていた。
「下着は、たまたま一番上にあってな……悪い。見るつもりはかけらもなかったんだ」
み、見るつもりは……かけらもなかった。
その言葉が私の心臓に深く突き刺さった。……というか、そもそも今日の下着は少し子どもっぽいもの。
下手したら、彼はまだこの程度のものを着ていたのか、とか考えているのかもしれない。
彼は意外とモテる……。だから、彼女の一人くらいいても……いても……ぐす、おかしくない。
彼女の下着と比較して、私をあざ笑った可能性だってなきにしもあらずなのだ。
そういって彼は、洗濯機から衣服を取り出しかごに入れていった。
それから彼は、浴室へと向かい、衣服を脱いで折りたたみ、脱衣所の入り口に置いた。
……まあ、私がいるし、浴室で着替えるしかないんだろう。
それからすぐにシャワーの音が響いた。
私は、すぐに洗濯物を持って二階へと戻ればよかったのに――彼の衣服に興味を惹かれずにいられなかった。
……だ、大好きな人の衣服が目の前にあるのだ。
私はついつい、視線を奪われてしまう。
私の中の天使がそれを拒否するように声をあげる。
だが、千の悪魔が一の天使を飲み込み、千一の悪魔へと化した。
気づけば私は彼の折りたたまれた服を掴んでいた。
驚いていたのは私もだった。
……け、けど仕方ない。ここまでしてしまった以上、私はもう後には引けない。
服を抱きしめると、彼の香りが鼻をくすぐった。
良い匂いだ。少なくとも私にとっては。
昔を思い出してしまう。
彼と手を繋ぎ、いつも色々な場所へ遊びに行ったこと。
幼稚園で、小学校で……それらすべての思い出が同時に思い返される。
私はぎゅっと服を改めて抱きしめ、それから服の中からお宝を発掘してしまった。
……そう、彼の下着である。
いやいや。いやいやいや……っ! 私は焦りながらも、目を離せないでいた。
浴室では今も彼が体を洗っている。なのに、この緊張感が私をより刺激する。
今はシャワーを浴びているんだ。大丈夫。大丈夫っ! 私はそんな能天気な気持ちとともに、彼の下着をじっと見つめていた。
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