元也&彩枝編3

「おお、君が元也君か。よろしくね」「あらあら、やっぱり好青年って感じね~」


俺は彩枝の両親と対面していた。

無論、旅行の許可を取るためだ。

昨晩、彼女いない歴=年齢の俺が必死に選んだ失礼のない服装で彼女の家にお邪魔している状態である。

俺の隣に彩枝、向かい合うように彼女のお父さんとお母さんという感じでリビングに座らされた。


「えっと、初めまして。彩枝の彼氏(仮)の真継元也です。今日は娘さんと旅行の件の許可をいただきたく伺いました」


俺は極度の緊張でいつも出ないような丁寧口調で話してしまう。

そんな俺を見て彼女の両親は笑っていた。


「そんなに緊張しないでくれ。大丈夫だよ、君のことは娘から散々聞かされてるし、付き合ってないと思うこと自体が不思議だったからな。旅行の件もオッケーだよ」

「ありがとうございます.........」


本当に優しいお父さんだった。

お母さんも微笑みながら頷いている。


「やった!!!これで行けるね♪」

「そうだね」


俺達は顔を見合わせて喜んだ。


両親の許可をもらった俺達はその一週間後、京都に足を踏み入れていた。


「夏の京都はあっついね~」

「そうだね~」


彩枝は麦わら帽子に半袖の服と短いジーパン、サングラスにサンダルと非常に夏らしい恰好をしていた。

彼女が言う通り、京都駅を出た瞬間から汗が噴き出すような気温だ。

俺達はまず荷物を置くために早めにホテルに行く。

受付で荷物を預かってもらい、貴重品だけ持って街に繰り出した。


「すぐに稲荷大社行く?」

「ううん、稲荷大社は夜に行くの。そっちの方が絶対いいから」

「そうなの?」

「そうだよ、日中は反対側にある神社やお寺回りをしよう!!!」

「了解」


俺達は、まず銀閣寺に向かった。

自分達みたいな観光客がたくさんおり、人の多さにビックリする。


「写真撮ろうよ」


俺達は銀閣寺の前で写真を撮った。

彩枝はその写真を嬉しそうに見ている。

俺もそんな彼女を見て少し恥ずかしくなってしまった。


「次は下鴨神社だ!!!」

「おう!!!」


俺達はバスに乗って下鴨神社の近くで降りた。

近くには京都で有名な川が流れており、神社に行く前に立ち寄る。


「冷たっ!!!ここめっちゃ冷たいよ~」

「転ばないようにね~」


彼女は冷たい水の中に足を入れて楽しそうだった。

俺もつられて笑顔になる。


下鴨神社で水御籤をして一喜一憂した俺達は清水寺に向かった。

舞台は人でごった返しており、そこからもう少し進んだところで写真を撮る。

その写真を眺めていると遠くの方が曇り始めているのに気が付いた。


「雨降るって予報だったっけ?」

「わかんないけど、あそこ完全に雨降ってるよね」

「うん.........」


十数分後、清水寺の上空も曇りだしてくる。


「彩枝は傘持ってる?」

「降らないと思ってたから忘れちゃった........」

「マジかよ」


(俺も折りたたみ傘しか持ってないな........)


そんなことを考えていると雨粒が鼻に当たる。

そして、凄い勢いで雨が降ってきた。


「うわっ、マジか!?彩枝、これを使って」

「元也は?」

「俺はいいから」


俺は急いで折りたたみ傘を取り出して、彩枝に渡した。


「元也も入って」

「え?」

「早く!!!」


俺は腕をぐいっと引っ張られて、相合い傘をする。

彼女の体温が俺の腕に伝わってきた。


「仮にも恋人なんだから、これくらい良いでしょ?」


彼女は上目遣いで俺を見つめてくる。


「あ、うん.......」


スコールぶりに降る雨は俺達の小さな会話の余韻をかき消した。

彼女は無言で俺の肩に頭を寄せてくる。

俺はドキドキする心臓を彼女に聞かれないようにしながら固まっていた。


五分くらいたつと雨がやみ始めた。


「足元、濡れちゃったね........」

「いったんホテルに帰るか.........」


俺達はバスに乗ってホテルに帰った。

部屋に入るとシングルのベットが二つ用意されており、荷物も部屋の中に置いてあった。


「シャワーする?」

「う~ん、この後、稲荷大社行くから迷ってるよ」

「私は入るね」

「お、おう.........」


彼女が脱衣所のドアを開ける。


「元也なら、覗いても良いからね.........」

「の、覗かんわ!!!」

「へへっ、そう言うと思ったw」


彼女は小悪魔のように笑いながら脱衣所に入っていった。

俺は足を休めるために窓際にあった椅子に腰を下ろす。

五階なので京都の景色を一望することができた。

シャワーの音がする。

俺はあの中で彼女が裸になっていると思うとムスコを抑えなくてはならなかった。


(変なことは考えるな........)


コーヒーを口に流し込み、気分を落ち着かせる。


ドライヤーを済ませた彼女がドアを開けて出てきた。


「元也君は非常に理性的な方ですね~w」

「ニヤニヤしながら言うなよ........」

「顔赤くなってるぞ~。私で興奮していたのかい?」


俺はハッとして顔を隠す。


「そ、そんなことないぞ!!!」

「はっはっは、君は表情に出やすくて面白いね~w」

「そんなこと言ってる彩枝だって顔赤くなってるじゃん」

「なっ!?こ、これは風呂上がりだからだよ!!!」

「本当か~?」

「からかわないでよ........」


彩枝は確実に風呂だけのせいじゃないくらい恥ずかしそうだった。

俺もそんな彼女を見ていて、恥ずかしくなってきた。


「い、稲荷大社の方に向かおうか........」

「そうだね........」


俺達は電車で稲荷大社に向かう。

着いたころには日もすっかり暮れており、真っ暗になっていた。


「そういえば、夜に来たいって言った理由は何だったの?」

「え?ああ、それは単純に人が少ないからだよ」

「なるほどね」


俺達は千本鳥居の入り口まで来た。

夜用にライトアップされた鳥居がたくさん並ぶ姿は圧巻だった。

人も少なくなっており、ほぼ俺達だけみたいな状態だ。

お互いに鳥居の写真を撮りながら進んでいく。


「ここってめっちゃ階段あるんだね.........」


彩枝がずっと続く階段を上りながら息を切らしていた。


「ゆっくり行こうか」

「かたじけない」


俺はいつもよりも歩くスピードを落として彼女のペースに合わせながら鳥居のアーチとその下に敷かれた階段を上っていった。


「彩枝、ここからの景色凄いよ!!!」


俺はだいぶ登ったところで指を指す。


「はぁ、はぁ、どれ?」


彼女は膝に手を乗せながら俺の指差す方向を見た。


「すごっ!!!」


そこには京都の夜景が映っていた。

彼女は疲れも忘れて、テンションが上がりまくっている。

そんな彼女をスマホのカメラで夜景と共に撮った。


「ああ!!!隠し撮りしただろ!?」

「してません」

「絶対した!!!」


俺は彩枝に胸ぐらを掴まれて引き寄せられる。

そして、彼女が夜景をバックにツーショットを撮った。


「私だけじゃなくて、二人で一緒に写ろうよ」

「そうだね、すまん........」


彩枝がにこりと笑い、俺の手を引く。


「このまま、頂上まで登ろうぜ!!!」

「オッケー!!!」


俺達はアドレナリンを出しまくりながら、そのままの勢いで頂上まで登りきった。


「はぁ、はぁ、さすがに疲れたね........」


「うん、階段多すぎでしょ.......」


「神社っぽいところあるし、行ってみようか」


「そだね」


「賽銭のお金ある?貸そうか?」


「さすがにあるから大丈夫」


チャリン......


パンパン




「なに願ったの?」


「これって言っちゃダメでしょ?」


「私は君と本当に付き合いたいって願ったよ」


「え........」


「君は、なにを願ったの?」


彩枝は頬を赤らめながら俺を見つめた。

俺は彼女の体を引き寄せる。


「え、ちょ、んっ!?」


俺はこの瞬間だけ、目に見える景色がとてもスローモーションに思えた気がした。

彼女の呆気にとられたような表情は今でも印象深く覚えている。

でも、その後、なにを話したかは、たくさんの感情が入り混じっていたので思い出せなかった。



覚えているのは彼女と恋人繋ぎながら、鳥居をくぐって帰った帰り道の朧げな記憶だけ。




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Sweet Sanctuary 白ラムネ @siroramune

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