元也&彩枝編2
16時半ごろ、俺は鶴見駅に到着した。
この鶴見駅から鶴見線に乗り換えて最終駅にその駅はあるらしい。
改札を抜けると椅子に彼女が一人で座っていた。
彼女は落ち着いた色のパーカーにスカートというラフな格好をしている。
「あ、こんにちは........」
俺は声をかけながら相水さんに近づいた。
彼女はこちらに気がつくやいなや笑顔になる。
「お~、ちゃんと来てくれるか心配だったよ~」
「いやいや、ちゃんと来ますって」
彼女は安心したように俺の肩を叩いてくる。
「少し警戒してたから、すっぽかすと思ってたぜ」
いや、そんなお前の考えはお見通しだぜって顔されても.........。
まあ、一瞬そんなことも考えたけど、ここまで誘われたら行かないと失礼だなと思うじゃんか。
「すっぽかしませんって.........」
「もう~、敬語は止めてよ。同級生なんだからさ~」
「...........」
俺は異性と話す機会が少なかったので距離の詰め方がまだわからなかった。
そんな普通にタメでいいのだろうか.......。
でも、彼女も良いって言ってるし。
「わかったよ。電車が来るのってまだだよね」
「うん、20分後くらいだね」
「そっか。じゃあ、相水さんは座って待ってて」
「お?何だい?何をするのかな~?」
彼女はワクワクしながら俺の行動を待っていた。
「そんな変なことはしないから.........」
俺は自動販売機で温かいカフェオレを二つ買う。
彼女は座りながら俺の方を眺めていた。
「ほい、俺が来るよりも前に来てたから寒かったでしょ?あげるよ」
相水さんは缶を受け取って、少しポカンとしていた。
そして、色々と納得したようにカフェオレを首に当てる。
「ありがと、優しいんだね........」
いつもとは少し違った笑顔だった。
可愛い、そう言ってしまえば簡単に表現できるものだった気がする。
それと同時に俺の心にモヤをかけた。
なんだこれ.........。
「いやいや、当たり前の気遣いでしょ」
俺は戸惑う心を取り直すようにゆっくり座った。
かちっ。
カフェオレの蓋を開けて、一口飲む。
冬だからだろうか、ほろ苦い味が体に染み渡った。
白い息が彼女と同時に出る。
「少しだけ寒いね.........」
「そうだね.........」
その後はいつものテンションはどうしたのか、全くあっちからも会話が無い。
相水さんは何かを噛み締めているような、そんな表情をしていた。
俺も何か面白い話題も特に思いつかなかったので、向かいの大きな時計をじっと眺めているだけだった。
電車が到着すると二人で先頭車両に乗り込んだ。
「海芝浦駅って降りられない駅って知ってた?」
「え、そうなの!?」
俺は少しだけビックリする。
「でも、その分ね、今の時間帯はとっても良いものが見れるから」
「そうなんだ........」
俺は外の景色を見ながら電車に揺られていた。
そして、目的地に到着する。
「おお、凄いね........」
綺麗な夕日が海と橋をオレンジ色に照らしていた。
「でしょ~。私、ここ好きなんだ~」
俺は彼女と駅の隣の公園に行く。
そこにはベンチがあり、二人で夕日を眺めながら座った。
「前に来たことがあるの?」
「うん」
「友達とかと?」
「いいや、一人だよ。私こんな性格だし、真継君だってわかってるでしょ?」
相水さんの顔を見て素直に「うん」とは言えなかった。
彼女はむしろ言ってくれた方がいいと思っていたかもしれない。
でも、言うことが出来なかった。
「私さ、人と接するといつも変なテンションになっちゃって相手を引かせちゃうんだよね。だから、友達ができなかったの.........」
「そうなんだ.........」
「でもね、なぜか君は私の変なテンションでも離れていくことはなかった。さっき君がすっぽかすんじゃないかって疑ったのも、昔の経験があってのことなんだ........」
「昔の経験?」
聞き返した瞬間、彼女の顔が曇る。
俺は不味い空気を察した。
「あ、いや、なんだろ。言いたくなかった無理に言わなくていいよ」
「いや、いいの。言わせて。今なら言える気がする」
彼女は深呼吸した。
「私が高校生の頃、気になってる男の子がいてね。その子と一緒にここに来ようって約束してたの。でも、彼は来なかった。二時間以上待ってもね」
「まじか.........」
「まあ、誘い方も悪かったのかもね。私って変に行動力があるからどんどん相手の気持ちを考えずに進めてっちゃってさ........」
俺もそうなんだがな........。
「だから、その時に初めて『独りで』ここに来たの.........。今日もその戒めのために来たんだけど、ごめんね、変に付き合わせちゃって........」
「いやいや、俺も一人旅は趣味だし、この景色感動したよ。どんな理由があろうとも相水さんには感謝してるよ」
彼女は泣き出してしまう。
「ちょ、ちょ、ちょ........大丈夫!?」
「本当にありがとう..........」
彼女は泣きながら頭を下げる。
俺は彼女を泣き止ませることに必死だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなこんなで俺達の旅友関係はこんな感じで幕を開けたのだった。
それからというもの大学二年生の夏休み期間になった今でも俺と彼女はちょくちょく旅に出ている。
まあ、全部日帰りで行ける範囲でだ。
当然仲良くなり、下の名前でも呼び合うようになった。
今回も次の旅行計画のためにファミリーレストランに来ている。
彼女は色々なパンフレットを開きながら、こっちを見ていた。
「さあさあ、今回はビックで大きな旅をしたいですな~」
「いや、それどっちも同じ意味でしょ」
「はっはっは。元也君ならツッコミを入れてくれると思ってたよ」
「はいはい、今回はどうしよっか?」
俺もスマホでよさそうなところを探していた。
「ずっと前から行きたいなって思ってたところがあるんだがいいかな?」
彼女は目をキラキラさせながら俺に言ってくる。
「どこですか?」
「ここだよ」
俺はドリンクバーで入れてきたメロンソーダを飲みながら、彼女が指すパンフレットを見る。
見た瞬間、口に含んでいたものを吹き出しそうになった。
「んっ!!!ごくん。ちょ、マジっすか!?」
彩枝さんは伏見稲荷大社を指していたのだ。
「いやいや、待って待って。そこって京都でしょ!?日帰りじゃあ結構キツイよ」
「泊まりでいいじゃないか」
彼女は真顔で即答する。
と、泊まり!?
「今は夏休み、だから大丈夫」
「親御さんはオッケーなのかよ?」
「まあ、元也君のことは知ってるけど、正直心配されてるよ」
「そりゃそうでしょ、彼氏でもないんだし........」
「それだよ、それ」
「どれだよ、どれ」
彩枝さんがわかるだろ?って顔をしている。
いや、わからんよ。
彼女は少しムッとした後に恥ずかしそうな顔になる。
おいおい、今日も表情豊かだな。
「元也君、今回だけでいいからさ........」
「なに?」
「私の彼氏として、私の親に会ってくれない?」
は、はぁぁぁぁぁ!!??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます