2.漂着

 それからどれくらい経っただろうか。

 海面の揺れが収まり、雨も止んだ。もう風も吹いてないようだった。

 ひどく揺らされたもんだから、目が回ってるし、吐きそうだ。

「エッ、お、お前は、ウッ……だ、大丈夫そう……だ、な……ウゥゥッ」

「ああ、なんとかね……とりあえずしゃべるな、吐くぞ……」


 しばらく吐き気に耐えていると、イカダの動きが止まった。

 おそるおそる外を見る。

「見ろ、島だ!」

 思わず声を上げた。

「よし、降りよう」

 シンはハッキリとそう言った。

 上陸だ。


「にしても、ずいぶん汚ぇな……」

 足元には、大量の枝。流木。ポリタンク。バケツ。洗面器みたいなもの。ペットボトル。洗剤。空き缶。空きビン。ブルーシート。使い捨てライター。ドラム缶。その他いろいろ、ゴミだらけだ。

 足を置けるほどの地面も見えないので、ゴミを踏みながら歩く。砂浜のはずなのに、岩場を歩いてるみたいだ。

「仕方ないよ、観光地じゃないんだから」


 ゴミの浜を抜けてしばらく歩くと、目の前に森が広がっていた。

 シンが立ち止まって言った。

「さて、この辺に小屋でも建てようか」

「小屋……難しいんじゃないか?」

「大丈夫だよ、屋根と寝る場所があればいいんだから」

「どう作るんだ?」

「あのゴミの中に柱みたいな木があっただろ、それとブルーシートだ……。アレを縄で縛って留めればいける……と、思う」

 心配だ。

 でも他に浮かばないし、とりあえずそうするしかない。


 浜に戻って必要なものを拾う。

 おれはブルーシート、シンは流木と縄を持てるだけ持って、森の前の平らな場所に向かった。

 予定の場所に着くと、シンが叫んだ。

「床板を忘れてた!」

 持ってきたものはとりあえず放り捨てて、浜まで走る。

 床板に使えそうな板を探して、やっとのことでボロボロの板を3、4枚ずつ見つけた。

「こんなボロいので大丈夫か?」

「寝袋を置くだけだし、それで十分だろ」

「寝袋?」

「ああ、言い忘れてた。ブルーシートで寝袋も作るんだ」

「できるのか?」

「やるだけやってみるよ」

 やっぱり心配だ。

 でもまぁ、何もないよりマシだろう。

 それに、アイツは取材で離島に行ったこともある。多少は自然に慣れてるはずだ。


 さて、材料は集まった。

 まずは柱……いや骨組みのようなものを組み立てる。

 ずっと縄を扱っているから、手が痛い。

 上手く縄を結べず、何度もやり直した。

 作業を始めてどのくらい経っただろう。

 なんとかして、小屋とテントの中間みたいなものが出来た。

 骨組みにビニールを貼りつけたような、粗末なものだ。しかもところどころ歪んでいる。

 とにかく、2人分の寝床は確保した。

 上陸したときにはほぼ真上にあった太陽が、水平線に沈みかけている。

 おれたちの手は、すっかり血がにじんでマメだらけだ。


「しっかし、腹減ったな……」

 そんな言葉が口をついて出た。

 シンが

「……取りに行くか」

 とつぶやく。

「……え?」

「食料」

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